本戦六日目(1)
俺は選手控え所に向かっていた。選手はそこを経由し入場しなければならないからだ。
モノクルを掛けてガントレットを装着して、俺は控え所に入った。そこにはもうすでに何名かの選手がいた。俺が気にせずに歩いていこうとしたら一人が声をかけてきた。
「師匠、頑張って下さいね。私(影ながら)応援してますから」
「ん?久しぶりだな、彩夏。お前も大会に出てたのか?」
「はい、Dブロックで」
天城彩夏――――俺の弟子のひとりで『最終元素』の能力を持っている。
その効果は、相手の能力を一時的に使用不能にする。例えばジェルザの使う鉄を操る力に対して使えば、その能力を封じる事が出来る。
「それじゃあ、俺は行くとするさ。相手はあの『神威』だからな」
「神の力を有する人間。神人種に勝てるんですか?」
「勝てるか、じゃない。ただ勝つ。それ以外にないだろう」
「それもそうですね。それじゃ、いってらっしゃーい」
「はいよ。お前も頑張れよ」
俺が魔法陣の所までたどり着き、移動するともうそこには『神威』フェンデス・ベルクさんがいた。
『神威』をこの世で持つのはこの人ただ一人。神人の呼び名を持つこの人だけだ。
神人っていうのは神と同じ力を持つ人間の事だ。神を宿す人は神種と呼ばれ、人間は人種。まあ、普通だろう。
神の力はフェンリル所属の魔術師三十人から五十人程度の魔力を持っている。俺も同じぐらいの魔力を保有している。まあもう人外レベルだからねえ。ってそんな事はどうでもいい。
俺達がいるフィールドは――――湖畔だった。
「それにしてもこのフィールドは戦いにくい事で有名なんだよな」
なんせ地面が少ないからな。ほとんどの人は何とかやりくりしちゃいたけど。俺にとってはめんどくさい。だから!
俺は湖の方にジャンプした。そして俺の脚が触れた場所から順に凍っていった。よし、これで足場作り終了。さて戦闘を始めるとしよう。
「いつもの事だけど、君の術には驚かされるよ。湖畔全域を凍らせるって……」
「まあまあ、別にいじゃないですか。これで戦いやすくなるんですし」
「まあそりゃそうなんだけど。……もう考えないでおこう」
ベルクさんは『神威』を放ってきた。称号と技名が一緒なんだよね。
俺はその攻撃をかわし走り始めた。俺が駆け抜けた所から氷がどんどん割れ始めた。これでは作った意味が無いから、という事で足に冷気を纏わせて氷を補強しつつ、ガントレットに電撃を纏わせた。
「汝は雷神の雷!我が敵を討つ雷の槍となれ!『トール・ブラスト』!」
約五発分の槍状の雷がベルクさんに向かっていき、大爆発を起こした。
端的に言って俺の攻撃は防がれた。『神威』の力を前面に集約させて防ぎきったらしい。
「ちっ!防ぎきったか」
「当たり前だよ。この程度防ぎきれない訳が無いじゃない」
「そりゃそうなんだろうけど。でもそんなにケロッとされてると何か……ねえ?」
「ねえ?じゃないよ。それに、その力は雷神トールの物の筈。なんで君が持ってるの?」
「それは俺が雷神トールの魂を喰らったから。あいつの魂保持者が暴走した時にね」
俺がつけているガントレットの名前は、あの有名な雷鎚ミョルニルだ。魂の性質によって神器という物は変わる。あ、神器ってのは神話とかに出てくる神の武器の事ね。一応言っとく。
「神の魂を喰らった神狼、ね。これは厄介だね。しかも自分の力にしてるし。
――――汝聖の力を司りし一角獣よ、今我が下に来たりて我が力となれ!一角獣!」
空間を突き破り出てきたのは、一本の角を備えた白馬だった。聖獣・一角獣。その角はあらゆる病気に効くと言うが、清らかな乙女にしかその姿を見せないというので有名な聖獣だ。
まさか契約しているとは思わなかったが、別に構わない。向かってくるというなら叩き潰すだけだ。だけど結構厄介だな。ここはあいつを呼び出しとくか。
「汝一角獣と対をなす者なり。今我が袂に来たりて、その力を示せ!双角獣!」
「双角獣ですって!?意外だけど納得できない訳じゃないわ。
双角獣は魔獣。そして神喰狼は魔獣の頂点。龍皇すらもその力を恐れるという。魔獣としての眷属の繋がりという訳ね」
「ま、そういう事だ。だからこちらも全力で行かせてもらう。いけるな?」
『私を見くびらないで頂きたい。相手が一角獣ともなれば尚更』
「いい度胸と覚悟だ!さあ始めよう!
我と汝交わりし時、此処に更なる力を目覚めさせよう!我が力となれ、双角獣!」
――――憑依装着――――
―――――――城宮視点――――――――――――――――――――――
黒い光が辺りを照らし、その光が消え去った後そこに黒い鎧を纏っている人が立っていた。そして頭部には二本の角があった。
「あの、あれってやっぱり乾さんなんですか?」
「他にどんな奴がいるのよ。しかし憑依装着ね……。できたんだ、あいつ」
「そうだよね。いつもフェンリルの力と魔術以外じゃ戦わないから、わからないよね。こんな隠し玉を用意してるなんて」
二人とも目を細めながらそう仰っていた。あ、憑依装着っていうのは契約してる魔獣や聖獣を体に纏ってその力を振るう事。あ、相手も憑依装着した。
こちらは乾さんとは魔逆で一本の角に、真っ白な鎧だった。乾さんがいきなり不可視な何かを飛ばしていた。あれは……衝撃波、かな?ベルクさんは光を収束してそれに対抗していた。凄い爆風が辺りをまき散らしていた。
「あれって衝撃波だよね。二本の角で収束してるみたいだし。逆にベルクさんのあれは光、かな?」
「ユニコーンは純血の象徴でしょう?それならあれは光でしょ。慎也のあれは不可視の所を見ると衝撃波なんでしょうね。よくわからないけど」
乾さんが衝撃波を連射しつつ、すごいスピードで走っていった。ベルクさんは凌ぎきるので精一杯らしく、攻勢に転じる事が出来なかった。
そしてさっきの衝撃波を腕に纏わせながら、アッパーを放って空中に吹き飛ばした。そして自身もジャンプで空中に飛び上がり、地面にたたきつけた。
選手の戦闘不能が確認されたのか、そこで試合は終了となった。何をしたのかと訊いたら、最初のアッパーで脳震盪を起こさせて気絶させた後、観客に見せるために叩き落としたらしい。
といっても、衝撃波を先に地面に放ってから重力で体を浮かび上がらせたから、怪我はしてない筈だと言っていた。その時、俺はこの人の事が心底恐ろしいと思った。実力的に。