第2話 昔の顔
朝から配達物を楽しみにソワソワしていた中、ようやく鳴り響くインターホンの音。
それなのに、急いで扉を開けるとそこにいたのはニヤニヤ笑いの佐伯のブサイク面。
「何だよ、お前かよ」
「どうしたんだ珍しい。素直に開けるなんて」
「配達かと思ったんだよ。今日届くんだ」
「何買ったんだ?」
佐伯が、赤地に黄色のmの字が眩しいLサイズのポテトを五つ、勝手にあがり込んで机に広げている。その横から配達の追跡記録を見せてやる。
「おま! これッ! シュールストレミングじゃねぇか」
「船便だから凄く時間かかったんだよ」
「危険物扱いじゃないのか?」
「飛行機では輸送しないらしい」
「どうするんだ、これ」
「食べるんだよ」
「独りで?」
「一人で」
佐伯は呆れたように、何でそんな不人気のユーチューバーみたいな事を? とブツブツと呟いている。そっちだって山盛りポテトとか中学生みたいな事をしてるじゃないかと言い返すと、佐伯はツマミだからいいんだよと謎理論を展開して、キッチンから勝手に霧島を持ち出して炭酸割りを作っている。
「そもそもさ、そういう面白そうな事やるなら俺を呼べよ」
「ヤダよ……おい待て、まだ昼間だぞ。俺はともかくお前は仕事中じゃないのか?」
「今日は市内の郷土史に詳しい有識者に話を伺って、そのまま直帰って事になってるんだ」
「これからどっか行くなら益々ダメだろ」
「有識者はお前だ。だからここで飲んで帰れる」
「最低な言い訳だな」
「暇だろ? この間の件、ちょっと追跡調査したいから付き合ってくれ」
我が家と、隣の佐伯家の間に地図上では他の家がある件。こういうのは嫌なんだよな。
「アルバムの件みたいで、なんか不愉快なんだよ」
「アレがあるから、何か関係あるのかと思ってな。お前を有識者として扱う事にしたんだ」
「迷惑極まりない」
あれは、去年の事だった。
佐伯は小学生からの友人ではあった。隣の家に住む同い年なのだから、当然のように仲が良かったのだが、高校を卒業して進路が分かれてからはほとんど連絡を取らなくなっていた。そうすると、今までは登校時に毎日顔を合わせていたのに生活時間がズレた事で顔を見ることもなくなり、透が仕事を辞めた時には『久しぶりだな!』と笑いあう事になった。
隣に住んでいるというのに、近所のコンビニですれ違う事も、家の前で見かける事も無かったが、数年ぶりに会うと互いに顔が太った事を指摘し合い、安い缶チューハイを持ち寄って飲み始めた。
「だいぶ太ったんじゃないか?」
「五キロくらい増えたからな、顔の輪郭そんなに変わったかな。お前はもっとだろ」
「いや、俺は腹回りしか増えてないから」
「いや、そんな事ないって。だいぶぽっちゃりしたよ」
そういいながら、それなら確かめてみようと高校の卒業アルバムを開いたのがいけなかった。
三年D組 三浦透。そこに載っていた写真は痩せていたとか太ったとかいう言葉では表現できなかった。明らかに別人だった。
「これ、俺じゃないよな?」
「集合写真の方、お前いなくないか?」
「二列目の端っこにいたはず」
「これか。個別の写真と同じ顔がいるな。お前じゃないよな?」
昔の写真が自分じゃないように見えるというのはよくある事だが、癖っ毛の俺とは違って直毛の色黒の少年がそこにいた。
「鼻の高さも違うな。他の人と名前が入れ替わってるのか?」
「全員見てみたけど、いない」
「D組じゃなかったとか?」
「お前と同じクラスだっただろ」
佐伯の姿は昔のまま、そこにいた。担任の隣。理科実験部の部活風景の写真にも載っている。
「部活写真はどうだ」
「図書委員。いない。委員長の田中さんの隣で写真に写った記憶がある」
「委員長、一人で映ってるぞ」
酔いが醒めた。
確かめるのが怖かったが、中学校の卒業アルバムを開いてみた。
三浦透の欄に載っていたのは、あの色黒の男を少し幼くした姿だった。
住所は間違っていない。名前も。卒業文集の内容も俺のものだった。けれど、写真だけが別人。
「中学と高校、両方ともってのは奇妙だな」
「卒業式の日に、アルバム配られた時にみんなで見てるだろ。その時は気が付かなかった」
「いや、写真写りとか、目をつぶって無いかとかクラスみんなで騒いでたから。違ったらあの時に気が付いているだろ」
「じゃあ、配られた後で写真が入れ替わったっていうのかよ!」
何者かが家に忍び込んで写真に細工をした? そんな不気味な話を佐伯は否定して、もっと馬鹿馬鹿しい話を言い出した。
「お前が別人に代わってたり、とかしてな?」
だから、こいつが奇妙な話を持ってくるのは嫌なんだ。
お#けなんて居ないので安心してお読みください。




