23
また高級ホテルかと思いきや、なんと車は茉理のよく知っているファミリーレストランに止まった。
黒塗りの自家用車がまったくそぐわない店先で、運転手はまた後部座席の扉を開ける。
「お嬢様、恐れ入りますが先にお入りになって、お席をお取りくださいませ。帝様はあとからお見えになりますので」
舌を噛むんじゃないかと思うほど言葉の頭に『お』を連発させて、運転手は一礼した。
茉理は小さな声で、はいと返事をする。
(えーとつまり先に着いたから席取っといてってことだよね)
家族や友達と利用したことがあるが、先に店に入った方が適当に空いた席に座って待つのは、別にごく普通のことだ。
(いつもよくやる行動だってのに、なんだかああいう風に言われると変な感じ)
茉理は着慣れないワンピースと革靴に辟易しながら、店内に入る。
(この店だったら、こんな服で来なくても良かったのにな)
最初からそう言ってくれればいいのにと、彼女は頭の中で帝に文句を言った。
ぎくしゃくしながら窓辺の隅を選んで、茉理は座る。
夏休み最後の日だからか、いつもより人が多いようだ。
あちこちで学生風の若者たちが声をあげて楽しそうにしているのが目に入り、茉理は少しうらやましくなった。
(そういえば最近、友達とこういうところに来てなかったな)
ファミレスやバーガーショップなどは安価で、小学生でも手軽に集まれるちょっとした空間である。
クリスティ学園に入ってからは帝と帰宅するようになったため、放課後友達と遊んだり、こんな場所を利用する必要もなかった。
(一緒にこういう場所に来たり出来る友達がいるといいな)
友達を作るためにそろそろクラブにでも入ろうかと、ぼんやり考えていた矢先、店の雰囲気が少し変化する。
店内に入ってきた人物を見て、女子の集団が声をあげたのだ。
「うわっ、みて、あの人。かっこよくない?」
「タレントみたい。なんかそんな雰囲気しない?」
「するする、絶対一般人って感じじゃないよ」
女の子特有の甘ったるい声も、窓際の置物のように座っている茉理の耳には入ってこない。
彼女はぼーっと外を眺めて、あれこれ考えにふけっていた。
だから声をかけられたのにも、全然気付かなかったのだ。
「ごめん、待たせたね」
さっきから店内の注目を集めている少年が、にっこり微笑んで茉理の席に来る。
でも柔らかな声は、彼女を振り向かせはしなかった。
少年は困った顔で、肩をすくめると椅子を引いて彼女の向かい側に腰掛ける。
そして頬杖をついて、じーっと少女を見つめた。
しばらくそんな風に待つこと数分。
(……え?)
ようやく茉理は窓ガラスに自分だけではない、もう一人の影が映っていることに気付く。
ガタガタッと椅子を揺らし、彼女は驚いて声をあげた。
「み、帝先輩っ、いつのまにここへ……」
「着いたのは十五分ほど前かな。声をかけたけど君は気付いてくれなくてね」
優しい瞳と、柔らかな声。
茉理は、あまりのことに口も聞けなかった。
目の前の彼は、いつもの帝とは違いすぎたからだ。
まず服装。
いつもほとんど制服かワイシャツに黒いズボンといったフォーマル系の物を身に着けているのに、今日の帝はTシャツにジーパンにスニーカーという、とてもカジュアルな格好だった。
でもそれはそれで不思議な魅力をかもし出しており、まわりの視線を集めるのも納得がいく。
そして一番驚いたのは――。
(これってB君)
たっぷり数秒、茉理は口が聞けなかった。
まじまじと彼を見つめてしまう。
細い指を組み合わせ、少し照れたように笑う少年は、いつもの強引で王様のような態度を取る彼ではなく、繊細で優しそうな方だった。
帝の中に秘められたもう一つの人格。
幼い頃、心の奥に封印されてしまった彼の姿。
(どっ、どうしてB君が表に出てるの)
茉理は顔を曇らせる。
彼女は以前帝の二つの人格と出会っており、それぞれをAとBと呼んで区別していた。
いつも表に出ているのは、強気で威厳に満ちたAの人格。
BはAの人格に嫌悪され、心の奥に封印されていて、何か彼の感情を刺激するような事でもないと出てくることはない。
それが表に出ている、ということは、異常事態でもあったのだろうか。
不安そうな茉理の表情を読みとり、ふふっと帝は笑った。
「大丈夫。これはもう一人の僕が決めたことだから」
「え?」
「今夜、君に会うときは、もう一つの人格で行く。そう決めたのは、いつも君が接している彼なんだよ。僕自身も驚いてるけど、最近もう一人の僕はね、僕のことを受け入れようとしている感じがするんだ」
「もう一人の帝先輩がですか」
「そうだよ」
とても嬉しそうに微笑むと、帝はメニューに手を伸ばす。
「話の前に、おなかすいただろう? 注文を決めようよ」
「あ、そうですね」
茉理はうなずくと、違和感覚めやらぬままメニューを開いた。
「今日はね、君が決めてくれないかな。僕、こういう店に来るのは実は初めてで……」
恥ずかしそうに帝がつぶやく。
茉理の胸が、一瞬どきっと高鳴った。
こういう優しそうな仕草をみせる彼は、初めて見る。
あまりにもイメージが違うのだ。
(か……可愛いかも)
元々彼は綺麗な顔立ちをしている。
大人になりきっていない少年のナイーブな危うさ、そのかもし出す不思議な色気とでもいうべきものが全身から溢れていて、茉理の心をどきどきさせた。
普段見せない彼の行動や仕草に触れるたび、胸の奥が戸惑いで揺れてしまう。
別な意味で緊張しながら、茉理はメニューを開き、顔をわざと隠した。
「えーと、どうしようかな。み、帝先輩、嫌いな物とかありますか」
この際聞いてしまおう、と茉理は思い切って尋ねてみる。
帝は首をかしげた。
「そうだね。大抵の物は大丈夫だけど……あ、あれ。僕、アレは駄目だな」
「あれってなんですか」
「アボガド。あれだけはちょっと苦手だな」
美味しいと感じないんだ、と困ったように彼は答える。
「そうなんですか」
「うん。小さい頃から嫌いでね。でももう一人の僕はちゃんと食べるよ。自分に食べられない物なんてあってはならないって強がってね」
「はあ」
(ということは、普段のA君に同じ質問をしたら、返ってくる答えは違うってことか)
納得して、茉理はメニューに目を走らせた。
いつも高級な料理ばかりで、こういった店の食事は口に合わないんじゃないかと思うのだが、無難なコースを彼女は選ぶ。
「んーと、じゃあAコースでいいですか」
「ハンバーグステーキとフレッシュサラダのセットだね。いいよ」
顔をほころばせながら、帝はうなずいた。
茉理はやってきたウエイトレスに注文し、改めて目の前の彼を見る。
(本当にいつもと違うなあ)
身にまとう雰囲気も、仕草も、笑顔も。
声はいつもどおりのはずなのに、何故か言葉遣いのせいで違う声色に感じてしまう。
戸惑う茉理の視線に、帝はふっと瞳を伏せた。
「そうだね。突然僕が出てきて驚いただろう」
「はい」
「もう一人の僕はこう思ったんだよ。もしかしたら君は、いつもの自分よりも普段隠している人格の僕の方が話しやすいんじゃないかって」
「……」
茉理は真剣な言葉に、何も答えを返せなかった。
どちらがどうなのかなんて考えたこともなかったし、正直どちらかを選ぶなんてこと出来そうもない。
迷う彼女の目線に、帝は軽く笑う。
「そんな顔をしないで。君を困らせるつもりじゃなかったんだ」
「あ、いえ、その、突然で……すみません。どう言ったらいいかよくわかんなくて」
うろたえながら茉理は何とか声を出した。
帝は窓の外を見ながら、どこか遠い瞳をする。
「僕はね、ずっと思っていたんだ。僕は、もう一人の僕にとって――ううん、伊集院帝という人間にとって必要ない存在ではないかと」
「え?」
「消えた方がいい存在だと、消えるべきだとずっと心の奥深くで思い続けていた。だからほとんど存在を消して、表には出てこないようにしてたんだ。もう一人の僕の妨げにならないように」
「そんな」
「僕は人を傷つけるのが嫌だ。戦闘に有効な魔力なんて本当はあまり欲しくない。出来れば闘いなんてしたくない。みんなと仲良くしたいんだ。総帥とか一族の長とかそういうのじゃなくて、普通の友達みたいに気楽に笑って遊べるようになりたい」
帝の弱弱しい本音を、茉理は黙って受け止めた。
「でもそれは僕には許されない。わかっているよ、これは一族の宿命だ。投げ出すことは出来るけれど、そうすれば別の人が傷ついて悲しむことになる――今の僕のようにね」
「別な人ですか」
首をかしげる茉理に、帝は瞳をそらし、会話を止めた。
そのまま無言になってしまった彼の横顔を、じっと彼女は見詰める。
(これ以上は話せない。そんな感じだな)
何もかも事情をすべて打ち明けることが出来るなら、どんなに楽だろう。
でもそれは相手を巻き込んでしまうことにもなりかねない。
茉理は目の前の帝が、とても痛々しく見えた。
(わたしよりずっと孤独な人なんだ)
周囲には彼に服従し、傅く人間達しかいなくて――もしかしたら他の生徒会メンバー達も仲間というより、彼と同列ではいられない内の一人なのかもしれない。
対等に付き合っても良い存在がいないというのは、茉理には想像出来ない状態だった。
ふと寂しげな彼の顔に、あるイメージが重なる。
夢で見た小さな女の子。
あの子の表情と同じ顔を、まさしく今の帝はしていた。
(やっぱりあれは、帝先輩の過去なんだよね)
女の子の服装だったけど、間違いなくあれは彼だ。
そして対峙していた悪がき少年は――。
「あの、その、上手く言えないんですけど、あきらめちゃいけないと思います」
茉理はぽろっと口に出してしまう。
「え?」
沈黙を破っての発言に、帝は驚いて茉理を見る。
「あきらめちゃ駄目って……」
「えーとだから、みんなと仲良くするってことです。総帥だって別に偉そうにしてる必要はないんじゃないかと思います。もっとたくさん笑って、ふざけて、馬鹿なことしちゃってもいいんじゃないかな。ってもちろん限度はありますけど」
「……」
「少なくとも帝先輩とそんな風に仲良くしたいって思ってる人、わたしは知ってます。帝先輩はあきらめちゃってるけど、その人はまだあきらめてない。幼稚園のときからずっと――あれってすごいですよね。執念と根性だけは帝先輩よりあるんじゃないかな」
「そんな人がいるの? 僕に」
信じられない、そういった顔で帝は聞き返す。
「はい、いますよ。そりゃあ迷惑で馬鹿そうで、帝先輩と同じくらい俺様って連発して自信過剰で、あんまりお近づきになりたくない人ですけど」
茉理のさも嫌そうな顔に、帝はくすくす笑った。
「へえ。それは面白そうな人だね」
軽くそうつぶやかれ、茉理は顔を曇らせる。
(気付いてると思ってたけど……天の川先輩の気持ち、やっぱりよくわかってなかったのかな)
複雑な表情で、茉理はそれ以上何も言えなくなった。
タイミング良く料理が来て、二人の会話は中断する。
ナイフとフォークを使って、ハンバーグを器用に切り分けて口に運ぶ彼の動作は、お忍びで街にやってきた王子様のようだった。
茉理はどきどきしながら、自分も慣れない手つきでハンバーグを口に入れる。
「あの、大丈夫ですか。美味し……くはないですよね」
恐る恐る聞いてみると、優しい笑顔が返ってきた。
「そんなことはないよ。これはこれでいいと思う。食べやすいしね」
「そうですか」
ほっと安心する彼女に、帝は暖かなまなざしを向ける。
「実は、ここに来る前に高級ホテルのディナーをキャンセルしてきたんだ」
「ええっ、そうだったんですか」
「うん。君を誘う前にもう一人の僕は、ちゃんとホテルのレストランに予約を入れさせたんだ。でも僕が表に出るときに、彼にお願いして変更してもらったんだよ」
「変更なんて、どうして――」
「この方が君も話しやすいだろう。わかっていたんだ。君がいつももう一人の僕に合わせてくれていたことを。慣れない場所に慣れない服、嫌がりながらも君は一生懸命僕に付き合ってくれてた。心の中でそれを感じながら、僕はずっと思っていたんだ。かなわない願いだとわかっていたけれど、もし僕が君と一緒にいられるのなら、その時は君に合わせてあげたいってね」
柔らかな瞳に見つめられ、茉理は顔がほてるのを感じた。
食べる手は止まり、恥ずかしくなって俯いてしまう。
(ど、どうしよう。そんなこと言われたら……)
もじもじと手のひらで膝を押さえ、返す言葉すら失う。
そんな彼女の右手を、温かいものが包み込む。
(ええっ)
帝がテーブルの下から腕を伸ばして、茉理の手に触れたのだ。
ぎゅっと握られ、茉理は全身の血液が沸騰しそうになる。
(うわっ、うわっ、これって何? どういう展開?)
どう反応していいかわからない。
もう頭の中は真っ白だ。
パニックを起こしかけている少女に、カフェオレのように甘い声がささやく。
「僕は君が好きだよ、茉理」
突然の告白に、茉理の精神は吹っ飛んでしまった。
「言っておきたかったんだ。たぶんもう一人の僕は、ちゃんと伝えないと思うから。僕はね、ずっと君のことを待っていたんだ。僕が守るべき大切な人が、僕の前に現れるのを」
「え?」
茉理は意外な事を口にされ、少し心が現実に引き戻る。
「待っていたって、わたしをですか」
目を瞬かせ、不思議そうに問う彼女に、帝は微笑んだ。
「そうだよ。あの木の上で僕はずっと待っていた。いつか出会う運命の人を。どうしてかなんで聞かないで欲しい。でも物心ついたときから、何故かわかっていたんだ。僕は誰かを守るために生まれてきた。その誰かは僕の心から大切な人。命をかけてでも守りたいほど熱くなれる存在なんだ」
「はあ」
現とは思えない話に、茉理は一瞬呆けてしまう。
「その人を守りたいって気持ちは、僕の中で抑えられないほどだった。だからもう一人の僕にとって僕は不要なものだとわかっていても、完全に消えることが出来なかったんだ。どうしてもその人に会いたい。会って、彼女を幸せにしてあげたい。それが僕の唯一の望みだ」
「あの、でもですね、その人って……本当にわたしなんですか」
茉理は不信げに問うた。
「信じられません。だってわたし、魔力ないし取りえもないし、普通のどこにでもいるただの女の子ですよ。人違いなんじゃないですか」
「いいや、君だよ、茉理。僕にはすぐわかった。君があの桜の下に立って僕を見上げたとき、僕の全身に熱い思いが沸いてきたんだ。こんなことは初めてだったよ。嬉しい、なんてものじゃない。ぞくぞくして背筋が震えるようだった。やっと僕に会いに来てくれたんだって、心の奥から想いがあふれて止まらなくなったよ」
熱い視線、隠し切れない想い。
それが帝の中から溢れてきて、茉理の肌を感じさせる。
これほど強い感情を、彼女は今まで体感したことがなかった。
「君は言ったね。『わたしの大切な人がここにいる』と。僕は君が探しにきてくれたのだと思って、とても嬉しかった。でもまだその時、君は僕に気付いていないのを感じたから、わざと何も言わなかった。見つけてくれるのを待っていたんだ」
「そうだったんですか」
茉理は、あの時の出会いを思い返しながら小さな声でつぶやく。
(でもそれって誤解だよね。だってあの時のわたしの大切な人は、お兄ちゃんだったんだもの)
「早く見つけて欲しくてたまらなかった。生徒会室から名簿を持ち出して、君に渡したりもした。でももう一人の僕にとって、君は――」
ふうっと憂い顔で、帝は溜め息をついた。
「辛かったよ。普段表に出ている僕と、君との出会いは最悪だった。心の中に潜む僕の感情とは正反対に、表の僕は君を憎んだ。どんなに苦しかったかわからない。僕は何度も外へ出ようとした。君を苛める表の僕を止めたかった。でも表の僕の精神を支配する意志は強固でね、僕は心の奥で苦しむ君を見ていることしか出来なかった」
辛そうな表情。
茉理の胸は、ずきりと痛む。
(こんな顔、帝先輩にして欲しくないよ)
ただでさえ苦しんでいることの方が多いというのに。
「でも君は表の僕に負けなかったね。いつも強く、温かい心で表の僕に対抗してきた。表の僕がどんなに激しく怒りをぶつけても、君は更に強い心で立ち向かい、表の僕を驚かせるんだ。嬉しかったよ」
帝は嬉しそうに笑った。
「どんどんもう一人の僕の中に、君の存在が大きくなっていく。心の奥にいる僕と彼の想いが同じになるなんて、今までなかったことなんだ。少しずつ表にいる僕の心が、僕の方に近づいていく。今までこの僕の存在を否定し、関わろうとしなかったのに、表の僕は時折心の中にいる、もう一つの人格について考えるようになった。そしてついに今日は自分が引っ込んで、自らの意志で僕を表に出してきたんだよ」
「す……すごいですね」
茉理は今までの経緯を思い、素直にそう感じる。
(確かに大きな進歩だわ。これって)
今までの帝から考えたら、格段の変化。
ずっと嫌い続けていた自分自身を受け入れようとするなんて。
「だから間違いなく僕の大切な人は君なんだ。自信を持って。きっともうすぐ表の僕も君を認める。君は僕達にとって誰よりも大切な存在となるよ」
溶かされそうなほど熱い視線。
茉理はもう何も言えなくて、ただ俯くしかなかった。
おそらく人生で最初で最後、最大の大告白を聞いたのに、心の中であたふたするしかない。
困ったように目線を上げる少女を見て、帝は綺麗な笑顔を向ける。
「君って可愛いね、茉理」
「なっ」
「そうやって困ってる君も悪くないな。いつもの元気な君もいいけど」
「……」
茉理は更に顔を沸騰させ、身を縮めて俯いてしまう。
顔が上げられないとはこのことだ。
(ど、どうしよう。こんなの、こんなのってあり? 帝先輩にあんな視線でみつめられて、可愛いなんて……うううっ、ご飯が喉を通らないよーっ)
もう食事どころではない。
いつも緊張して食べた気がしないのだが、今日はそれ以上だ。
ナイフとフォークをそのままにして固まっている少女に、帝はくすくす笑って言葉をかける。
「さ、冷めてしまう前に食べよう」
「は……はいっ」
思いっきり返事をし、茉理は勢いよく残りの料理を片付け始める。
帝からはそれきりその手の話題は出なくて――茉理はなんとか最後まで食べて、店を出ることが出来た。
車じゃなくて電車に乗って、帝は彼女を送ってくれた。
「どうもありがとうございました」
家の前の通りで、茉理は深々と頭を下げる。
帝は少し寂しそうな目で彼女を見つめ、うなずいた。
「またきっと会いにいくよ、君に」
「あ、はい」
肩をすぼめて、茉理は返事をする。
帝はふっと視線をそらすと、低い声で言った。
「それから……もし今度その面白そうな彼に会ったら伝えてくれないか、君から」
「え?」
「もう僕に関わるなと」
茉理の背筋を寒いものが走る。
声も出せずに、彼女は帝を凝視した。
彼は目を伏せ、言葉を続ける。
「僕は彼を傷つけたくない。でも彼が僕に関わろうとするなら、僕はそれに対応するしかないんだ」
(彼って……天の川先輩のこと)
茉理ははっと気付いた。
(やっぱりわかってたんだ、帝先輩)
あの少年の気持ちが。
自分に向けてくる闘志の裏側に隠された本当の心。
「彼の僕を想ってくれる気持ちは嬉しい。だからこそこれ以上の争いはしたくない」
「……」
消え入りそうな声で、頼むね、とつぶやくと、帝は踵を返し、茉理の前を去っていった。
夏休み最後の夜は、複雑な心を抱きつつ過ぎていく。
(明日からは新学期)
学生かばんに筆記用具を確認して積めながら、茉理は思った。
きっとまた二学期もいろんな事があるのだろう。
でもどこか胸の奥で期待している自分がいた。
(きっと普通の中学に入学してたら起こらない、いろんな事に巻き込まれそう)
何より帝や生徒会メンバー達と出会って過ごした日々は、大変な事も多かったけど過ぎてみれば楽しかった。
明日からまたそんな日々の第二幕が、幕を開ける。
(どうか無事に二学期も過ごせますように)
茉理は心の中で祈りながら、新しい明日を迎えるために眠りにつく。
窓の外の夜空には、そんな彼女を見守るように小さな星達が淡い光を地上に放ち、静かに瞬いてた。
<終わり>
<魔法じかけのテーマパーク> 完結です。
ここまでお読み下さり、どうもありがとうございました。
(アクセス&ブクマ&高評価 本当に感謝です!!)
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいのですが。
このお話はここで終わりですが、彼らの物語はまだまだ続きます。
これからもお付き合いいただけますよう、お願いいたします。
ではまた次の巻でお会いいたしましょう。
ありがとうございました。
本編とは関係ありませんが、明日おまけのページを投稿予定です。お時間のある方はぜひお付き合いください。




