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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
柊穂乃果ルート 愛しの桜と幸せへの道 

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柊穂乃果ルート 第1話 お団子少女は、匂いフェチ

 花ノ宮家の騒動から一か月。季節は――七月へと移っていた。


 結局のところ、オレはあれ以来、香恋とは一度も会っていない。


 定期的な情報交換の事務的なメールのやり取りなどは行っているが、あの一件以降、あいつがオレの元に姿を現すこともなく。


 オレたちはお互いに協力者としての立ち位置を確立し、オレは、香恋の言う通りに花ノ宮女学院で『如月楓』として、偽りの女優を演じる道を選んでいた。


「あっついな……」


 深夜一時過ぎ。茹だるような熱帯夜に目を覚ましたオレは、ベッドから起き上がり、ベッド脇に置いてあったテーブルからエアコンのリモコンを手に取り、ピッと、部屋の冷房を付ける。


 そして、再び眠りに就こうと横になった、その時。


 テーブルの上にある充電中のスマホが、淡い光を放っていることに、オレは気が付いた。


「ん……? こんな時間に、着信だと……?」


 スマホに目を通すと、そこには、穂乃果からの不在着信の通知メッセージが。


 いったい何があったのだろうと、レインを立ち上げ、オレはそこにメッセージを打ち込んでいく。


『どうかなさいましたか? 穂乃果さん?』


 どうやら不在着信は、十二時頃に来ていたもののようだ。


 一時過ぎである今、メッセージを打ち込んだところで、彼女からの返事は望み薄だろう。


 だが―――――。


『お姉さま、夜分遅くにごめんなさい。起こしてしまいましたでしょうか……?』


 すぐに、返事が返ってきた。


 こんなことは、今までになかったことだ。


 穂乃果、陽菜、花子とはグループチャットで今まで何度も会話したことがあったが、穂乃果はいつも午後十一時くらいにはチャットから退出して眠りに就く、今時の女子高生にしては早寝型の生活サイクルをしていたはず。


 何か……あったのだろうか?

  

 オレは首を傾げつつ、レインにメッセージを打ち込んでいった。


『いいえ。暑くて丁度目を覚ましたら、不在着信の通知に気付いただけですよ。こんな夜中に穂乃果さんが起きているだなんて珍しいですね。何かあったのですか?』


 そうメッセージを送信してみたが、既読は付けども、返信は来ず。


 どうしたんだろうと3分ほど待っていると、返事の通知が来た。


『少し、お姉さまに相談したいことがあったのですが、今日はもう夜遅いですし、また後日にします。夜遅くに申し訳ございませんでした』


 いつもハキハキとしている彼女らしからぬ、歯切れの悪い言葉だ。


 これは、彼女に深刻な悩みの種ができたと見るべきだろうか。


「………電話、かけてみる……か?」


 いや、それは……流石に深入りしすぎだろうか。


 単に、友達関係の軽い悩み、ということもあるだろうからな。


 今無理に電話をして話を聞くよりも、後日、ゆっくりと場を落ち着かせて話を聞いた方が……良いこともあるだろう。


 オレはスマホの電源を落とし、ベッドに横になる。


 そして、瞼を閉じた。


「……」


「………」


「…………」


 瞼を閉じると、過去の光景が……オレに元気いっぱいの笑みを浮かべるお団子頭の少女の姿が、脳裏に浮かんでくる。


 彼女とは……出会ったときから色々なことがあったな。


 最初の出逢いは、痴漢から助けたことがきっかけだったんだっけな。


『ええと、君、名前は何て言うのかな?』


『ほぇ? あ、えっと、柊 穂乃果って言いますです! はい!』


 その後は、バスの中で自己紹介したんだ。


『如月 楓さま……見た目通り、すっごく綺麗な名前ですねっ! それに女優科……はわぁ~、とってもかっこいいですぅ~! あ、あのあの、楓さまのこと、お姉さまって呼んでもよろしいでしょうかぁ!?』


 オレが、恭一郎に再会して、心を病んでいた時、彼女は……心配して声を掛けてくれていたな。


『お馬鹿な私には、練習室に残った後、お姉さまの身に何があったかは分かりません!! でも、でもでも……私、お姉さまがそんな苦しそうなお顔をされているのは、その、とっても辛くて……で、ですから、穂乃果は、今朝のお礼をしたいんですよぉう!!』


 それで、家に無理やり連れてかれて、オレが号泣してしまったら……優しく頭を撫でてくれて。


『全然、大丈夫ですよ。私、これでも三人の妹弟のお姉ちゃんなんです。ですから、もっといっぱい私を頼ってください、お姉さま』


 つい、この前も、花ノ宮家の騒動でオレが顔を暗くさせていたら、励ましてくれていたな。


『辛いときは虚勢を張らずに、穂乃果の前でくらい弱みをみせてくださいよっ!! 以前、私の家で、見せてくださった時のように……!! また私を、頼ってくださいよぉう!! お姉さま!!』


 ……思い返せば、穂乃果には、いつも、弱った時に背中を支えて貰っている。


 男性恐怖症である穂乃果に、男であるオレが深い入りしてはいけないと、当初はなるべく距離を置こうと思っていたのだが……いつの間にか彼女は、オレの日常になくてはならない存在になってしまっていた。


 あの天真爛漫な笑顔がないと、オレの日常……いや、如月楓の日常は、日常とは呼べなくなるだろう。


「…………はぁ。多分、こんなにオレが他人を気にするような性格になったのは……間違いなく、あの子の影響なのだろうな」


 以前のオレだったら、他人に気を遣うことなど一切しなかっただろう。


 自分とルリカさえ無事であれば、それで良い。


 そんな自己中心的な考えを抱いていたというのに……いつの間にか、そこに穂乃果が入ってきている。


 ここまで人に懐を見せるだなんて、不思議なものだな。


 彼女はルリカに似てどこか妹っぽいから……オレは、妹みたいな子は放っておけない、根っからのお兄ちゃん体質、ということなのかな。


 再びスマホを手に取り、レインを開く。


 そして、柊穂乃果への通話ボタンを押し、耳へとスマホを当てた。


『………あっ、えっ、お、お、お姉さまっ!?』


 コール音が鳴る前に、彼女は通話に出てくれた。


 オレが電話を掛けてくると思って、ずっと、スマホの前に待機していたのだろうか。


 何か、可愛らしいな。


「穂乃果さん、こんばんわ」


『こ、こんばんわです、お姉さま……』


 電話越しに聴こえる彼女の声は、どこかくぐもった音のように聴こえた。


 時折、衣擦れの音などが聴こえてくる。


『び、びっくりしましたですよぉ~。まさか、お姉さまから電話がかかってくるなんて、思いもしませんでしたから……』


「すいません、驚かせてしまいましたね」


『い、いえ! 先にお電話を掛けたのは穂乃果の方ですから! お姉さまが謝られることはないですよぉう!!』


「クスッ。それで、相談したいことというのは、何でしょうか? 穂乃果さん?」


『うぅぅぅ……お姉さ、まぁ……』


「? ど、どうしたんですか? 穂乃果さん?」


『し、失礼なことなのは承知として言うんですが……今から、私のおうちに……来てくださいませんかぁ?』


「え?」


『私のおうちにきて、私と一緒に寝てください、お姉さまぁ』


「へ? い、一緒に……寝る!?」


 突然のその言葉に困惑していると、穂乃果は泣きそうな様子で、再び口を開く。


『十二時頃に、外で物音がするなって思って、窓の外を見たら……おうちの外に……知らない男の人がウロウロしてたんですよぉう……! 穂乃果、それから怖くて、寝れなくってぇ……!!』


「お、男の人……!? 不審者ってことですか!? け、警察には連絡したのですか!?」


『はいぃ。そのことをお母さんに伝えて、110番して……おまわりさんに、おうちの周辺を見てもらいましたぁ。でも、どこにも男の人はいないって、おまわりさんはそう言って……帰っちゃいました』


「そう……でしたか……」


 男性恐怖症の穂乃果からしたら、敷地内に突如、見知らぬ男性が現れたら……怖くて仕方がないのは当たり前のことだろう。


 彼女が、夜も眠れないくらいに動揺してしまうのは……その体質上、仕方がない。


『ひぅっ!? ま、また、外で何か物音しましたですよぉう!! お、お姉さま、怖いですぅぅ!!!!』


「………分かりました、穂乃果さん。今からそちらに向かわせていただきます」


『え……?』


「怖いでしょうから、通話はそのままにしておいてください。では、着替えてきますね。……あっ、スピーカーをオンにしておきますから、そのままお話をしていてもらって構いませんよ」


 そう言ってオレはスマホのスピーカーをオンにして、テーブルの上に置く。


 そしてジャージを脱いで、女装の準備を始める。


 この四か月で、オレは、ルリカがいなくても一人で化粧もできるようになったし、女性ものの下着や衣服も一人で身につけることができるようになっていた。


 流石にこの男と女の二重生活を繰り返して来たら、慣れるというもの。


 ………いや、女装に慣れること自体、おかしなことだとは思うんだけどな……うん。 


『………やっぱり、お姉さまはお優しいですね』


 パッド入りのブラジャーを身に着けていると、そんなことを通話越しに言われた。


 オレは微笑を溢しながら、ウィッグを頭に付け、彼女に言葉を返す。


「優しいのは、穂乃果さんの方ですよ。貴方が私に優しさを向けてくれたから、私は今こうして、貴方に優しさをお返ししているんです」


『そんなことはありません。お姉さまは、元からお優しい方です。電車の中で一人で怯えるしかなかった私を見つけ出して、痴漢から助けてくださった、あの時から……貴方様は、とっても勇敢で、お優しい方でした』


「穂乃果さん……」


『私、お姉さまのお声が、好きです。貴方の声をこうして聴いているだけで、心が落ち着いていくのが分かります。さっきまで心臓バクバクで怯えていたのが、お姉さまがおうちに来てくださると分かっただけで……嘘のように元気を取り戻しちゃったんですよ。本当、単純ですよね、私って』


 そう口にして一呼吸吐くと、穂乃果は再度、開口した。


『………本当に、貴方様は不思議な御方です、如月楓お姉さま……』


「私は、そんなに褒められるような人間ではありませんよ? 穂乃果さ――」


『………好きです』


「え…?」


『大好きです』


 そうウィスパーボイスで呟くと、彼女はえへへと、可愛らしく笑みを溢してきた。


 …………………おかしい。


 何で、今オレは、こんなにも……心臓の鼓動を高鳴らしてしまっているのだろうか。


 彼女は、ただ、オレを女性として……友人として、好きだと言ってくれているだけなのに。


「……」


 ――――勘違いをするな、柳沢楓馬。


 お前は、男性恐怖症であるいたいけな少女を騙している、悪辣な詐欺師だということを忘れるんじゃない。


 穂乃果の前では、男である自我を一切出そうとするな。


 常に、如月楓として、偽りの女性を演じきろ。


 それが、この優しくて暖かい人を騙している、オレの贖罪なのだから。


 お前は、けっしてこの人に、邪な想いを抱いてはいけない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「………冷静に考えると、邪な想いを抱いてはいけないのなら、普通……夜中に女性の家は来てはいけない、よなぁ……」


 以前、四月頃に来た、庭に桜の老木が聳え立つ、大きな日本家屋の屋敷――穂乃果の家へと辿り着く。


 流石に現在は夏ということもあり、前に見た時に咲いていた桜の木は、新緑へと生え変わっていた。


 オレは、その桜の大木を一瞥した後。そのまま、穂乃果の家をグルリと見回してみる。


 周辺を見渡してみるが……特に、人の影はない。


 手に持っていたスマホを耳に当て、通話中の穂乃果へとオレは口を開いた。


「今、穂乃果さんの家に着いたのですが……見たところ、人の気配はありませんね」


『そう、ですか……』


「さっき、ここに来る時に使ったタクシーの運転手さんにも聞いたのですが、穂乃果さんの家の周りは滅多に人は訪れないらしいですよ。個々の住宅との間も距離が開いていますし……何より、周囲に田園地帯が広がっているので、近隣の人しか出歩くことはないと聞きました」


 穂乃果の家と隣の家の距離はざっと二十メートルはある。


 近所の人が誤って柊家の敷地に入った……というケースも、これだけ住宅の間が開いていれば、あまりないといえるだろう。


 柊家を狙って入ってきた不審者……という線がやはり濃厚、か。


 こんなに大きい日本家屋の屋敷なのだから、泥棒という可能性も高い。


「お、お姉さまぁ……」


 ガラガラと玄関の扉が開かれ、外へと穂乃果が出てくる。


 そして穂乃果はこちらに駆け寄り、オレへと抱き着いて来ると、思いっきりその顔をオレの胸へと擦り付けた。


 うぐっ……パッドがずれないかが、とても怖いです。


「ぐすっ、ひっぐ、とっても怖かったですよぉう! 不審者が出て……夜、みんな寝ちゃって、穂乃果一人で……すっごくすっごく心細かったですぅ!」


 生憎と、今のオレも、女装した不審者ではあるのだがな……って、いや、今はそんなことは置いておいて。


 今は、彼女を安心させておくのが、最優先事項だろう。


「大丈夫ですよ、穂乃果さん。私が強いこと、知っていますでしょう? 不審者が現れても、痴漢男の時のようにケチョンケチョンにしてやりますから。ね? だから、泣かないでください」


「うぅぅ……お姉さまぁ……」


 さらに強く抱きしめてくる穂乃果。


 オレは、一瞬、彼女の身体に触れて良いのか逡巡した後に……その頭をそっと、優しく撫でた。


「お姉さまの身体……あったかいですぅ……」


「私、平均体温が高い方なんですよ。夏だから、逆に熱くないですかね?」


「全っ然。すぅ、はぁ……お姉さまの匂い、すっごく、安心できますぅ」


「え゛……に、匂い、ですか……」


 そういえば、この子、以前、オレの汗が染み込んだハンカチを、宝物だとか何とか言ってたよな……?


 も、もしかして、そういう癖をお持ちなのか? 穂乃果さんは?


 穂乃果のその発言に若干引いていた……その時。


 突如、背後からジャリッという、靴で土を踏む音が聴こえて来た。


「……?」


 後ろを振り向く。だが、そこに、人の気配は感じられない。


 ………この時、オレは何か、とてつもなく嫌な予感を身体で感じてしまっていた。


 この場に、穂乃果の元にオレが来たことで、何か、とりかえしのつかないことが起きてしまったような―――――そんな、漠然とした不安が、胸中を覆っていく。


「……お姉さま? どうかしましたか?」


 不安そうな顔で、オレの顔を覗き込んでくる穂乃果。


 彼女のことだ。オレの様子の変化など、すぐに見破ってしまったのだろうな。


「いいえ、なんでもありませんよ。さっ、家の中に入りましょうか、穂乃果さん」


「はいです!」


 今更、振り返るのはよそう。


 オレは、この優しい少女を独りにはしておけなかった。


 この場に来た理由など、ただ、それだけだ。


穂乃果ルート第一話を読んでくださって、ありがとうございました!


本当は、もう少し共通ルートを長くして、前から言っていたプールのお話を書こうと思っていたのですが……この花ノ宮家騒動の直後で日常シーンを書くとなると、少し冗長になるのかなと思い、当初の予定通り、穂乃果ルートを書くことにしました。


プールの件は、トゥルールートである、香恋ルートの前半にでも書けたら良いなと、そう思っております。


ここからは、楓馬と穂乃果の物語となりますが……お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

このルートは、楓馬と穂乃果と、父、恭一郎のことが書けたら良いなと、そう思っています。


続きは、明日、投稿する予定です。

よろしければ、モチベーション維持のために、評価、ブクマ、いいね、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 穂乃果ルートきた! まぁたパパラッチかな? 楓馬の時との絡みももっと見たーい!
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