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元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第2章 花ノ宮家の悪鬼たち

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第83話 女装男、花ノ宮家のドロドロ劇場を見る。


 高級住宅街が立ち並ぶ、青葉区の外れ―――そこに、花ノ宮家本邸はあった。


 広大な敷地の周囲一帯は高い堀に囲まれており、鉄製の巨大な門が、こちらを威圧的に見下ろしている姿が見て取れる。


 この厳かな雰囲気……懐かしいな。この家に来るのは、実に、五年ぶりくらいだろうか。


 突如、花ノ宮家の世話になれと、恭一郎が一方的にオレたち兄妹を捨てた…五年前。


 幼いオレとルリカは、キャリーバックをひきずりながら、この門の前に立っていた。


 最初見た時、この巨大な屋敷が、魔王が住む城のように思えたものだ。


 いや……実際その予想は正しく、オレたち兄妹は彼ら花ノ宮家の人間から忌子と呼ばれ、酷い仕打ちをうけてきたわけだが。


「…………まったく。今更オレを呼びだしてどうするつもりなんだ、あの爺さんは……」


 そう言って門の前でため息を吐いていると、香恋が隣に立ち、声を掛けきた。


「もしかして、緊張しているのかしら?」


「そりゃ、緊張しないわけないだろ。この家の連中にとっては、オレは忌み嫌われている庶子。母さんが駆け落ちしてできた子供、謂わば、醜聞そのものというわけだ。はっきり言って、居心地の悪さが半端じゃねぇよ。今すぐ逃げ出したいくらいだ」

 

「まぁ……そうね。貴方のことを良く思っている人間は、この家にはいないでしょうね」


 そう言って香恋はふぅと短く息を吐き出すと、背後にある、オレたちが乗ってきた黒塗りの高級車に視線を向ける。


「……あの車の運転手は、私が手配した人間ではなかったわ。恐らく、樹兄さんの手の者ね」


「は? どういうことだ? お前の兄さん?」


「後ろを振り向かないで。私たちが怪しんでいることを、運転手に気取られるわ」


「お、おう。分かった」


 そう香恋に返事を返して、前を振り向いた直後。


 10メートルはありそうな巨大な門が、ゴゴゴと音を立てて上へと上がって行った。


 その光景をジッ見つめた後、香恋は、自分の背後にいる仏頂面のメイドの少女……玲奈へと、静かに口を開いた。


「玲奈。周囲の警戒をお願いしても良いかしら」


「畏まりました。お嬢様」


「柳沢くんは、あまり目立った行動はしないように。もう既に、貴方が私側の人間であることは、兄さん、いえ、他の血族たちにもバレていると見て良さそうだわ。……いえ、違うわね。愛莉叔母様が私の陣営に付いている時点で、叔母様の管轄である柳沢兄妹が私の手中にあるということは、皆、薄々は気が付いていることでしょう」


 そう言って顎に手を数秒程考え込む仕草を見せると、香恋はチラリとこちらに視線を向けてくる。


「貴方も知っての通り、花ノ宮家の人間は裏社会に通じている、ヤクザのような存在よ。後継者候補の人間が、他陣営の人間を厄介だと判断したら、誘拐や脅迫も辞さないわ。くれぐれも気を付けなさい、柳沢くん」


「………ますます、行きたくなくなってきたんだが……。何故、ただの男子高校生であるオレが、そんな仁義なき貴族たちの戦いの場に参加することになるんだよ……」


 そう口にして大きくため息を吐いていると、目の前の門が完全に上へと上がり、開かれた。


 そして香恋が先陣を切る形で、オレ、玲奈の順で、門の中へと入って行く。


 まるで魔王城を前にした勇者パーティーか何かのようだなとか考えながら、オレたちは一行は一列に並んで、屋敷の庭園へと足を踏み入れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「来たわね、香恋……ドブネズミ」


 屋敷の中に入り、執事の案内で豪奢な内装の廊下を歩いていると、ふいに背後から声を掛けられた。


 振り向くと、そこにいたのは深紅のドレスに身を包んだ叔母、花ノ宮愛莉だった。


 叔母さんはオレたちの前に立つと、フンと鼻を鳴らし、オレの顔を見つめてくる。


「お前のその姿は、相変わらずあの男に似た気配が漂っていて不愉快ねぇ。どうせなら、花ノ宮女学院の制服でも着てきなさいよ。私、あっちの姿の方が好みだわぁ。クスクスクス」


「……愛莉叔母さま、ここでその話は、遠慮してもらえないかしら……」


「安心なさい、香恋。そこにいる執事は私の手の者よ。貴方たちがこの廊下を歩いている間は、人払いも済ませてある。事前に盗聴器の類も無いことは確認済。ここでの会話が外部に漏れる可能性は、万に一つとしてないわ」


 そう言って叔母さんは香恋に不敵な笑みを見せた後、突如無表情になり、オレの目をジッと見つめてきた。


「な、何でしょうか? 叔母さん…?」


「………」


「あ、の……?」


「……随分と、変わったようね」


「え?」


「心を失った恐ろしい怪物に、人間らしさが戻りつつある。どうやら、生ぬるい女子高での生活で貴方は『人』になったようね。多くの人間を畏怖させていた『柳沢楓馬』から、多くの人間を魅了する『如月楓』へと、貴方は徐々に変化していっている。フフッ……実に、私好みの役者に育ってくれた。望み通りの展開だわぁ」


「ええと……それはいったい、どういう意味なのでしょうか?」


「言葉通りの意味よ。天才が凡人へと落ちた、ただそれだけのこと。……良いかしら、香恋。貴方は、この男を二度と、柳沢楓馬として舞台の上に立たせないようにしなさい。この男の胸の内に宿る怪物はけっして、世間に解き放ってはいけないものよ。必ずや、我が花ノ宮家の災厄となるわ」


「叔母さま……? 柳沢くんが、災厄になるとは……いったいどういう意味――――――」


「おや、香恋、ここにいたのか」


 その時。廊下の奥から、一人の男がこちらに向かって歩いて来た。


 その男は、藍色のスーツを着た、黒髪の男性……以前、花ノ宮女学院の職員室で見かけたことのある、香恋の兄、花ノ宮樹だった。


 樹は、優雅な所作でオレたち四人の前に立つと、腕を組み、ニコリと微笑みを向けてくる。


 その姿に、香恋は目を見開いて、驚きの声を上げた。


「お兄様……? 何故、ここに……?」


「チッ……」


 樹の姿を見て、愛莉叔母さんあからさまに大きく舌打ちを放つ。


 そして叔母さんは、オレと香恋を庇うようにして彼の前に立つと、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「何故、貴方がここにいるのかしらぁ? 人払いは済ませていたはずだけれどぉ?」


「何故って……叔母さん、ここは私の家なのだが? 本家の長男がどこを歩こうが、文句を言われるような筋合いはないと思うけれどね」


「相変わらず、腹の立つクソガキねぇ。まるでもう自分が当主だと言わんばりに、我が物顔でこの家を歩いちゃって……樹、あんた、何様なの?」


「ハハハッ! その憎まれ口! 叔母様がお変わりないようで何よりだ! ですが、そろそろ……ご結婚も視野に入れて考えた方がよろしいのではないのかな? お爺様が心配されていましたよ? 愛莉さんがなかなかご結婚されないと、よく、口癖のように――――」


 樹の話が終わる前に、愛莉叔母さんはパチンと指を鳴らした。


 その瞬間。背後に立っていた執事の男性が懐から銃を取り出し……それを、樹へと突きつけたのだった。


 その光景にオレと香恋は目をまん丸にして驚いていたが、樹は変わらずに柔和な笑みを浮かべていた。


「物騒ですよ、叔母さん。そんなものを、妹の前で見せないでいただきたい」


「土下座しなさい、樹。それで、先ほどの不敬はチャラにしてあげるわぁ」


「お断りしよう。これでも私は、次期花ノ宮家当主の身の上なのでね。そう簡単に頭は下げられない」


「撃つわよ?」


「どうぞ。ですが、その時は、貴方も終わりなのではないかな、叔母殿。闇討ちならいざ知らず、白昼堂々、しかも、お爺様がおられるこの本邸で銃を撃ち放つ。そして、本家の跡取り息子を殺したとあっては……貴方の未来はどこにもない。どこかの誰かに罪を擦り付けても、この家から追放されるのは免れないだろう」


「…………よく口の回る男ねぇ。ムカツクわぁ」


「それはお互い様さ、愛莉叔母さん」


 そう言って樹は微笑を浮かべると、そのままこちらへと近寄って来る。


 そして彼は、オレへと視線を向けてきた。


「君が、お爺様に今夜の晩餐会に呼ばれていた……柳沢楓馬くんかね? 初めまして。香恋の兄の、花ノ宮樹だ!」


「は、はじめまして……」


「この家の者は、君を良くは思わないだろうが……私は、君を快く歓迎しよう! 楓馬くんは、過去、役者として大成していたと聞いている! 私は、無能は大嫌いだが、才能のある人間は大好きだ! ぜひ、今晩の晩餐会は心行くまで楽しんでいってくれたまえ! 元天才子役、柳沢楓馬くん!」


 そう言ってハッハッハッハと高らかに笑い声を上げながら、樹は、廊下の奥へと歩いて行き、去って行った。


 その姿にポカンと口を開けていると、隣に立っていた香恋が大きくため息を吐いた。


「柳沢くんの存在を、お兄様に認知されたのは……仕方ないこととはいえ、なかなかに、厄介ね」


「厄介?」


「あの人は、洞察力が並みはずれて高いのよ。だから……万が一花ノ宮女学院でお兄様と如月楓が出会した場合、貴方の正体がバレてしまう危険があるといえるわ……」


「なるほどな……」


 花ノ宮樹、か。これからは用心していった方が良さそうだな。


「……先に会場に行ってるわ。貴方たちも、遅れないように来なさい」


 そう言って、愛莉叔母さんはオレたちを追い越し、廊下の奥へと進んで行った。


 何というか……もう既に胃もたれしそうなくらい、花ノ宮家の人間のドロドロとした部分を見せられたような気がするな……。


 後継者候補があと何人いるかは分からないが、こんな感じの相争っている派閥が、あといくつもあるんだろ?


 そう考えると、オレがこの家の正当な後継者じゃなくて良かったと、改めて感謝せざるを得ないな……。


 普通に忌子で良かったわ、オレ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《花ノ宮愛莉 視点》


「あの男、いつか必ず、殺してやるわ……!!」


 そう叫び、私は、真っすぐと廊下を歩いて行く。


 この花ノ宮愛莉を前にして、大抵の人間は、二通りの行動をする。


 それは、恐怖して媚びへつらうか、怯えて逃げ出すかの、どちらかだ。


 だが、稀に、私に対して牙を向いてくる人間がいる。


 それは……柳沢恭一郎と花ノ宮樹のような人間だ。あの男たちは、私に恐怖の色を一切見せはしない。


 むしろ、私に対して鋭い目を向けて、嬉々として戦いを挑んでくる始末だ。


 あのような不敬な輩たちは、この世に存在させてはいけない。


 私の敵となり得る存在は、即刻、潰さなければならない。


 何故なら、恭一郎が私の姉を奪って行ったように、また……私の大事なものを、ああいう連中が奪っていく可能性があるからだ。


 出る杭は打たなければならない。簒奪者は、予め殺しておかなければならない。


 私に恐怖を抱かせる対象は、この世から消さなければならない……!!


 でなければ、私は、安心して眠ることが……できないからだ。


『………あんたたちは、僕の敵じゃない』


「………ッ!!」


 その時。突然脳裏に、過去の出来事がフラッシュバックした。


 この屋敷に、柳沢楓馬が初めて来た時の出来事。


 親族たちによって杖で滅多打ちにされた後、腕を抑えながらも立ち上がる、柳沢楓馬。


 私は当初、尊敬していた姉の息子である彼を、手厚く保護しようと考えていた。


 柳沢恭一郎の血を引く人間を自分が保護するなど、死んでも嫌なことだが……それでも、死んだ姉、由紀姉さまが残した子供。


 親代わりになって、彼を育てて、自分の側近にしても良いかなと、そのくらいには考えていた。


 だが――――――。


『……あんた、そんなに杖で叩かれたのに……何故、一度も泣き声をあげないの?』


 全身切り傷だらけで、腹部からボタボタと大量の血を流している少年。


 だが、その少年……柳沢楓馬は、涙を流すどころか、その顔に怒りを露わにすることもない。


 ただ無表情、無感情で、周囲の花ノ宮家の人々を静かに見つめていた。


『………こんなこと、どうってことはないよ。何も感じない』


『は……?』


『………あんたたちは、僕の敵じゃない』


 柳沢楓馬が顔を上げ、私の顔を見つめる。


 その青い瞳を見た瞬間、私は、理解した。


 この少年は、何者も恐れてはいないのだと。


 大人たちに暴言を吐かれても、暴力を振るわれても、目の前の現象を何とも思っていない。


 彼の宝石のような青い瞳は、私を見ているようで、見ていなかった。


 こいつの目は、遥か頂きの果てだけをまっすぐと見据えている。


 道端に転がる石ころような存在の私など、そもそも花ノ宮家の人間など、認識してはいない。


 私を()としてすら、見ていなかった。


『な……何なの、あんた……っ!!』


 日々、様々なものに恐怖する私を嘲笑うかのように、恐怖の権化たる怪物は、目の前に立っていた。


 柳沢楓馬は、まごうことなき怪物だった。普通の人間の気配を、纏ってはいなかった。


「………」


 目を開ける。そしてそのまま、私は廊下を静かに歩いて行く。


 本物の怪物を、私は知っている。あの恐ろしい目を、私は知っている。

 

 だから――――――。


「――――――だから、柳沢恭一郎も、花ノ宮樹も、私にとっては敵じゃない。だけど、柳沢楓馬……お前だけは違う。お前が、再びあの悍ましい目つきを取り戻した、その時、私は……」


 下唇を噛み、廊下の奥を睨みつける。


 そして私は、晩餐会が行われる会場へと、足を進めて行った。

第83話を読んでくださって、ありがとうございました。

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