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弟子(志望)

「は あ あ ああ?」


 下腹部から地獄のような声を吐き出す。ツラの悪さとその声の相乗で周囲がたじろぐ。

 依頼。一人で旅しているということはそれなりの実力を保証する。そんなこんなで魔物討伐を頼まれる。


「やだよ、めんどくせえ」


 酒場で旅の疲れを誤魔化すために酒を煽っていた人間に面倒事を押しつける人物にそう吐き捨てる。

 街道沿いの宿場町。討伐者を募ったのはその顔役の恰幅のいい中年女性だった。


「しかし、この先馬車が立ち往生してしまっていて…」


 なんでも街道の途中、魔物が道を塞ぎ立ち往生する馬車が多数あるらしい。


「馬車の護衛は?」そんな疑問をなんとなしに投げかけるもそれらに術士はいないらしく、術士協会所属の伝書士が酒場で飲んでいるということを知られてしまったらしい。

 この酒場で自分の身分をひけらかした覚えはないのだが、先日立ち寄った前の酒場で話を聞いてた人間がいたようだった。


(近隣の街の騎士団にでも頼めよ)


 たしか近くに術士兵を携えた街があった。そこに打診すればいいだけの話だ。派遣と、討伐にはそれなりの時間を要するかも知れないが。

 そんな内心を吐き出す前に、横から声が飛び出す。


「任せてくだい!!!!!!!」


 正義感たっぷりの、その声を上げたのは酒場とは場違いな少年だった。

 金髪碧眼、テンションさえ落とせばどこかの王子と見合う様な美少年。

 不釣り合いなショルダーアーマーに細身の剣を携えたその少年は名乗りを続ける。


「この、アム! 冒険者としてその魔物討伐を引き受けます!」


「? はあ… ????」


 依頼者の中年女性は呆気にとられた声を吐く。


「では! 報酬は成功時でいいので!!!!!!」


 彼女が勢い任せのその少年に気圧されたままたじろいでると。

 アムと名乗った彼は足早に酒場を飛び出していく。


「………」

「………」


 酒場が数瞬の沈黙に支配されるが、すぐさま中年女性がこちらに問いかける。


「で、依頼を受けてもらえませんか? 報酬は…」


「あの少年は?」


「…"少年"でしょう?」


 ま、そうだよな。

 ジト目になりながらため息をつく。未成年が詳細も曖昧な魔物に突撃していったのだ。自分がやや悪党寄りの思考を持っていると自覚しているが、それを見捨てるほど冷酷になりきれる程ではなかった。


 *


「やあああああ!」


 少年…アムは握った直刀を振り回し"それら"の対処に当たっていた。

 シャアアアアア…という声を響かせ襲いかかってるのは陸ダコという魔物だ。全高2m程。それが十数匹ほど。

 要は水に頼らない巨大ダコ。触手を振り回し動物を襲う。狙いは小動物から馬まで。そこまで強くはない魔物であり、初級の術でも十分対処は可能。

 だが、数で押され剣に頼っていたアムには少々荷が重かった。


「くそ、だが! ぼ、僕にはこの魔剣ダルフブレードがある!」


 聞く相手は魔物しかいないという状況でアムはその、携えた剣を掲げる。


「この魔剣は!刃こぼれしない! つまりお前達をいくらでも切りつけ続けられる!」


 まぁ。旅の途中、手入れも不要、鍛冶に頼らなくていい。それは便利かも知れないが。それをタコ相手に自慢してなんになるだろうか。そんなことを考えてるとその勢いに綻びが見え始める。


「はぁ、はぁ…」


 息を荒げる少年。複数のタコに囲まれじわじわと距離を詰められる。応戦し、触手をその自慢の剣で切断するも、そう何度も続かない。

 見た目はタコでしかないが、あれらは馬を絞め殺し、捕食する魔物だ。あのままじわりじわりと体力を奪い、弱らせていくというのが狩りの手法なのだろう。

 アムを名乗る少年は哀れタコに絞め殺され……


「めんどくせええなあ!」


 殺される前に助け船を出す。


火球ファイアボール!」


 発生と共に右手から放たれる火球に陸ダコの一匹が吹き飛ばされる。初級も初級、たった一言で成立する呪文魔術であったが、それらには十分通用した。


「はあああぁ…数だけの魔物じゃねえかこんなの…」


 適性。陸でうねうね動くだけのタコだ。俊敏でもなく、ただ体重なり数なりで圧迫してくるだけの魔物。

 剣闘や格闘を持ちいる冒険者には不得手かもしれないが、距離をとって戦える術士には十把一絡げ。詰められなければそう脅威ではなかった。


「面倒くせえから…さっさと逝け!」


 クェードはありったけの魔術をタコを殲滅するために放つ―――

 火球、光球、氷の矢。自分が持つ魔術のレパートリーを思い出すかのように幾度と放ちタコを攻撃していく。その様は今の今まで苦戦していた少年の瞳にどう映ったのだろうか…



 *


「で」


 ジト目。クェードの、元々人受けの悪い顔がさらに鋭くなる。


「…なんでついてくるわけ?」


「はい! 僕は感動しました! 魔術に!!!」


 はぁ。討伐の報酬を得るために街道沿いの宿場に戻る道中。後ろをついてくる勢いだけの彼に気圧される。

 そもそも普段気だるげにしている自分との温度差が激しい少年はその勢いのまま言葉を続ける。


「剣で…僕の適わない魔物を呪文の一言二言で罵…打倒していく姿! すごい! なので!」


「弟子にしてください!!!!!!!」

「やだよ面倒くせえ…」

術補足

 火球ファイアボール

 呪文魔術。火の弾を高速で放つ。初級の術だがその詠唱の簡易さから不意打ちにも使える。

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