色街にて
一人、いかがわしい店の散見される色街に佇むアム。アリシアに言いつけられた場所とさして遠くはないが、それでもばつが悪い。何より自分は成人していない。この国の法律がどうかわからないが王都だ。治安はいい方のはず。ここにいていい人間ではない。それにアリシアに金銭まで貰って遠出を承諾したのにも理由がある。彼女の話に疲弊し半ば放心状態でもあったが。
アムの目的地は術士街だ。協会があるということはそれなりに術士が暮らしており、彼らに向けての商売や、彼ら自身が自らの研究成果を売買している。魔術の触媒や魔道具を用立てるために寄り集まった方が都合がいいので自然と形成されるのが術士街。そして、研究をするという術士は昼夜問わずそれに没頭するので昼夜逆転した生活を送るものも多い。夜型の店や、深夜営業どころか繁盛店は24時間営業していることもある。常に活気があるというわけではないが、人は途切れない街。…色街もそれを狙って近隣に沸いてくるのかもしれない。
とにかく、目当ての術士街へ向かおうと踵を返して歩を進める。
しかしアムは知らなかった。王都は今、治安が悪化していることに。
アムの外見は、幼いが、それでも育ちが良く、美少年といってもよいだろう。金髪碧眼。剣を帯剣しているもののまともに扱える様にも見えず、馬子にも衣装というおもむきで、戦士という迫力は皆無だった。これは、アムが格好の割に清潔感を保った生活をして身なりも埃で汚れた様子がないのもあった。同行者のアリシアが自分の奉公人が汚いのは困ると埃払いの術をかけたせいだが。
金だけは用立てて歳不相応に遊びにきた少年とも見え、そんな彼を“食い物にしよう“と色街の住人たちが動き始める。「キミ」と風俗の呼び込みに捕まり、しつこく勧誘を受ける。いい子が揃ってるよだの、大きいよ、だの常套句であろう言葉を並べ立て自分を店内に押し入れようとしてくるが、それをかわす。興味がないというと完全に嘘になるが、状況がアムの理性を固くする。
師匠が命を張って襲撃者を誘い込んで対応を練ろうとしている。
アリシアは自分に小遣いを渡し、彼女の動機はともあれ興味があるし、今後のためになる術士街へ。
師の闘いの最中、彼の妻(自称)に貰った小遣いで風俗へ。
(最低通り越して最悪だ!)胸中で叫ぶ。しかし金を持ってそうな、というだけで相手が未成年だろうがお構いなくと勧誘攻勢はしつこかった。未成年相手にこの国の治安はどうなってるんだ、と悲鳴を上げながら呼び込み役の男の隙をつき、駆け抜ける。
「あっ!?」
しかし焦って走り出したため間の悪いことにガラの悪そうな男に勢いよくぶつかってしまう。
「あわわ」
アム渾身のタックルにも微動だにしなかった筋骨隆々のその男はしばらく沈黙してから物騒な笑顔を浮かべる。
「あらぁん、かわいい子ねえ」顔にも、体つきにも似合わぬ、高い猫撫で声。風俗勧誘の男を軽くしっしっと手を払って諦めさせると、さあ、うちの店にいらっしゃあいと理解不能な言葉と共に、アムはいかがわしい店に連れ込まれていくのだった。




