12.帰りの寄り道
幼年学校に入学してから二か月目、フレヤちゃんの誕生日が来た。
お誕生日にはお祝いでクラスの女の子に囲まれていたので気後れしてしまって教室では声をかけられなかったが、帰りにフレヤちゃんにお祝いを言った。
「フレヤちゃん、おたんじょうびおめでとう」
「ありがとう。ヘアピン、だいじにつかってる」
お礼を言われて嬉しい気持ちになっていると、ダンくんもフレヤちゃんに「おめでとう」と言っていた。
六年生に馬車に無理やり乗せられて連れ去られて以来、ソーニャ先生を含めて学校の先生たちにカミラ先生が話をしてくれて、お兄ちゃんはダンくんとフレヤちゃんにお願いをして、私が馬車に乗るまでは一緒にいるようになっていた。
申し訳ないような気もするがフレヤちゃんもダンくんも快く引き受けてくれた。
「おたんじょうびおいわいももらったし、イデオンくんはともだちだもの」
「としうえのおねえさまにつれてかれたんだろ。こわかっただろうなぁ」
二人とも私に同情してくれて、一緒にいてくれるので心強い。
それ以外でも私は上級生に声をかけられることが多かった。馬車に乗せられて連れ去られたことを警戒して、身構えてしまうが、上級生たちの目当てはお兄ちゃんとのお見合いとか、ルンダール家との繋がりとか、そういうことではなかった。
「ダンの家の用水路に植える草を、教えたんだって?」
「うちでも育てたいから、教えてもらえないか?」
「いいですけど……」
「お礼に学校での護衛でもなんでもやるから」
「うちももうちょっと薬草で稼ぎたいんだ」
幼年学校を卒業したら、魔術の才能があれば魔術学校に入学することができる。保育所の建設が先になってしまったが、魔術学校以外にも高等教育を受けられる学校をカミラ先生は作る案を出していた。
六年生たちにとっては、魔術学校に入れるかは入学金が支払えるか、魔術の才能が高くて奨学金を受け取れるかにかかっていて、これからの収入が将来のためになることは確かだった。
元々鱗草の栽培は用水路のある農家に広めて、もっとルンダール領の主な領民である農家を豊かにしようと考えていたから、そういう申し出は渡りに船だった。
おかげで幼年学校内でも、私が変な子に絡まれないように上級生が交代で見ていてくれたり、困っていないか声をかけてくれるので、学校生活も危険がなくなっていた。
問題は、ファンヌとヨアキムくんくらいで。
「にぃたま、ないてなぁい?」
「いでおにぃに、らいじょぶ?」
二回目の乱入になると、もう私は涙は出なかったけれど、ため息は思い切り出てしまった。誘拐のことがあってから、ダンくんとフレヤちゃんもいるし、上級生も気を付けてくれるので大丈夫だと言い聞かせても、二人は自分の目で確かめるまで信じず、幼年学校に来てしまったのだ。
すぐにカミラ先生に連絡がいって、迎えに来るまで一年生の教室で椅子に座って授業を聞いていたのも良くなかったのかもしれない。翌日からミカルくんとの幼年学校ごっこも、更なる盛り上がりを見せていた。
「ほいくしょを、はやくつくってほしい」
切実な私の願いを、お兄ちゃんは穏やかに聞いていた。
幼年学校の授業が終わって馬車が迎えに来ると、ダンくんとフレヤちゃんにお礼を言って、さよならと手を振って馬車に乗り込む。今日もお兄ちゃんは魔術学校が早く終わったので、馬車に乗っていた。
「どうして、まじゅつがっこうはようねんがっこうより、はやくおわることがおおいの?」
「魔術学校に通うために働いている子が、学校が終わった後で仕事に行けるようにだよ」
そのために魔術学校の授業時間は、午後は短いことが多いのだと教えてもらった。その代わり宿題は多いし、調べ物も多くて大変なのだが、お兄ちゃんと一緒に帰れておやつも一緒にできるのは純粋に嬉しかった。
「寄り道をしていこうか?」
「うん、いいよ」
御者さんにお兄ちゃんがお願いして寄り道をする。行く場所は分からなかったが、お兄ちゃんの行きたい場所ならばどこでも構わなかった。
馬車が停まったのは、建設途中の建物の近くだった。幼年学校から徒歩で行ける近さで、建物の前には広い前庭があって幼年学校のような造りをしている。前庭はまだ整備されていないようで、夏草が背も高く茂って風に揺れていた。
「ここは?」
「保育所の予定地だよ」
馬車から降りて、お兄ちゃんは私の手を引いて、建設工事をしているひとに挨拶をした。先に話が通っていたのか、中を案内してもらえた。
屋根と壁と床は出来上がっているが、内装がまだ完全ではない、広い教室。二階建ての校舎。校庭には柵が張り巡らされて、子どもたちの脱走を防ぐようになっている。雨の日に室内で運動できるようにホールもあった。
「魔術をかけて作っているので、時間がかかっておりますが、来年の春までには完璧に出来上がると思います」
結界の魔術をかけながらの作業ならば、ある程度時間がかかっても仕方がない。実際に建築が進んでいることを見ると、私は少し安心した。
「これで、ファンヌもヨアキムくんも、ようねんがっこうにこなくなるのかな」
「そうなるといいよね。幼年学校に入るまで、まだ二年もあるからね」
手を繋いで馬車に戻ってお兄ちゃんがもう一つ寄り道したのは、お菓子を売っているお店だった。
「幼年学校に通ってたときに、他の子がこのお店に寄ってるのが羨ましかったんだ」
「ちいさいおかしがいっぱい」
「くじがついてて、当たったらもう一個もらえたりするんだって」
小さな箱に入っているキャンディやグミ、小さなチョコレート、ガムなどは一つ一つはとても安くて幼年学校の子どものお小遣いでも買えそうだった。小さな籠を借りて、買いたいものを入れていく。
「ガムはダメだよ。ファンヌとヨアキムくんが飲み込んじゃうかもしれないからね」
「あ、そうか。こっちのぼうつきキャンディは?」
「それは良いと思う」
籠いっぱい買ったのに、値段は思わぬ安さで、私とお兄ちゃんはホクホクしながら馬車に戻った。お屋敷に帰ると、ファンヌとヨアキムくんが私たちが遅くなったので、リンゴちゃんに乗って「いくのー!」「にぃにー!」と脱走しようとしているのを、リーサさんに止められていた。
「遅くなってごめんね。心配かけた?」
「ふたりとも、さらわれたのかとおもったわ」
「僕といるときは平気……だといいけど、二人とも攫われるってこともあるよね。遅れるときは連絡するね」
「あい」
お兄ちゃんが説明すると、ファンヌもヨアキムくんも納得してくれた。
「おにいちゃんが、ほいくしょのけんせつげんばにつれていってくれたんだ。ひろいきょうしつで、ホールもあって、すごくりっぱだったよ」
「ほいくちょ!」
「わたくしも、いけるの?」
「らいねんのはるには、きっといけるよ」
早く幼年学校に入学したくてたまらないファンヌは、保育所に通った方が良いだろうし、ファンヌが行くならばヨアキムくんも行かないはずがない。保育所がどんなところだったか話した後には、私とお兄ちゃんはお菓子のお店で買ってきた袋の中身を、ファンヌとヨアキムくんに見せた。
小さなお菓子がいっぱい入った袋に、ファンヌとヨアキムくんの目が輝く。
「みんなでわけてたべよう。いいよね、おにいちゃん?」
「最初からそのつもりだよ」
おやつは厨房に断って、その日はお店で買ったお菓子を私とお兄ちゃんとファンヌとヨアキムくんで分けて食べた。
一つしか入っていないものは分けられないけれど、数粒入っているグミや、数個入っているキャンディはみんなで分けて食べる。
「あまぁい!」
「作ったお菓子と全然違うね。砂糖食べてるみたい」
「べたべたすゆの」
「ヨアキムくん、おててをあらいにいきましょう」
すごく甘くて、毎日食べていたら虫歯になりそうな味だったけれど、こういうのもたまになら楽しい。
「今日だけですからね」
「たまにはいいんじゃないですか?」
笑いながら見ているカミラ先生とビョルンさん。
「オリヴェルにはなかった子ども時代ですものね」
しみじみと呟くカミラ先生は、お兄ちゃんが幼年学校時代に他の子が買っていても、お菓子が買えなかった過去を思ってくれているのかもしれない。
寄り道たくさんで甘いお菓子をいっぱい食べて、食べきれなくて残した私たちは、お揃いのカップでお茶を飲んだ。口の中の甘さがお茶で緩和されるようで、その日のミルクティーにはお砂糖は入れなかった。
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