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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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8.プレゼント選び

 ダンくんがミカルくんを連れて遊びに来たので、おやつを一緒に食べることになった。私とお兄ちゃんは青い薔薇のカップ、ファンヌとヨアキムくんはウサギの描かれたカップ、カミラ先生とビョルンさんはイチゴの描かれたカップでお茶を飲む。

 これから頻繁にダンくんとミカルくんが遊びに来るのならば、ダンくんとミカルくんのカップがあってもいいのではないだろうか。


「おにいちゃん、ダンくんのおたんじょうびおいわい、ミカルくんとおそろいのカップだったらどうかな?」

「保育所ができてミカルくんが来なくなっても、家で使ってもらえばいいから、いいんじゃないかな」


 ひそひそとお兄ちゃんと話していると、食べ終わったファンヌとヨアキムくんとミカルくんが、遊び用の小さな低い椅子を用意して並べて、幼年学校ごっこを始めた。

 それをげっそりとしてダンくんが見ている。


「あれに、おれ、つきあわされてたんだぜ……」

「うわぁ……」

「しかも、おれがせいとやくで、ミカルがせんせい」


 兄というものはかくも大変なものである。

 同情してしまって言葉も出ない私に、ダンくんは深くため息を吐いた。


「ここにつれてこれるようになって、ほんとうにたすかったよ」

「ファンヌもヨアキムくんもよろこんでるみたいだし、ミカルくんもたのしそうだよね」


 誰が先生役をやるか順番を決めて、ファンヌがヨアキムくんとミカルくんを引っ張って遊んでいる。ファンヌの方が一つ年上だし、女の子でお喋りが上手だから、ヨアキムくんとミカルくんは大人しく従っているようだった。


「おまえのいもうと、つよいな」

「うん、つよいの……」


 訓練なしに肉体強化の魔術は使えるし、自分の判断でお屋敷を抜け出して幼年学校に来てしまうような気の強さがファンヌにはある。思えば1歳のときから、雑草を抜こうと頑張ったり、冬の寒さに手が痛くて泣きながら水やりをしたり、ファンヌは本当に根性がある。

 大抵のことでは泣かないが、ファンヌとヨアキムくんが幼年学校に来たときと、お兄ちゃんの前では甘えて泣いてしまう私とは、ファンヌは大違いだった。


「意外と、ファンヌが次の当主になるかもしれないよ?」

「え? おんなが……って、カミラさまもおんなか」

「ありえる」


 驚くダンくんと、真顔になってしまう私に、お兄ちゃんはくすくすと笑っていた。ミカルくんのことはファンヌとヨアキムくんとリーサさんに任せていていいので、その間ダンくんは私の机を借りて勉強をしていた。


「いえでべんきょうするひまがないし、がっこうでやったのすぐわすれちゃうから、べんきょうしたかったんだよ」

「そのたんご、まちがってるよ」

「うわっ……やっぱり、イデオンはちいさいのに、かしこいな」


 全く勉強ができるような家庭環境ではなかったダンくんは、勉強が遅れているようで、文字を書くのもやっとだった。復習にもなるからとお兄ちゃんに言われて、私は付きっきりでダンくんに勉強を教えた。

 算数では手を使って、指を折って数えて足し算や引き算をしているのに、ちょっと驚いてしまう。


「かぞえないでわかるほうが、おかしいんだよ」

「そうなの?」


 数字を見ただけで答えが分かるのは、一年生にしては珍しいようだ。

 勉強が終わると、お兄ちゃんとダンくんと庭を歩いた。池の鱗草や、裏庭の薬草畑を見せると、ダンくんは興味津々だった。


「うちのやくそうばたけよりも、りっぱだな。ひろさはちがうけど」

「ダンくんのいえのやくそうばたけは、もっとひろいの?」

「そりゃ、ひろくないとたくさんやくそうがとれないだろう」


 農家なのだから専用の農地を持っている。それも借金のかたに取り上げられそうになっていたが、カミラ先生が借金を肩代わりしてくれたので、なんとかなったようだった。

 池の透ける青色に揺れる鱗草を覗き込んで、ダンくんは羨ましそうにしていた。


「うちでもそだてられたらなぁ」

「農地があるなら用水路が引かれてるよね? 用水路で育てられるよ」

「ほんとうに?」


 育て方を教えてもらって、鱗草の種を分けてもらったダンくんは、嬉しそうにしていた。口頭では覚えられないので、鱗草の育て方をお兄ちゃんが紙に書いて、ダンくんの両親宛てに種と一緒にダンくんに持たせる。

 勉強もできて、種と育て方を書いた紙ももらって、ダンくんはミカルくんの手を引いて家に帰って行った。保育所が建設されるまでの約一年間は、ダンくんとミカルくんは頻繁にうちに通って来るのだろう。

 見送っていると、お兄ちゃんがカミラ先生のところに行ってから、庭に戻って来た。


「イデオン、カップを買いに行って良いって言われたよ」

「おにいちゃん、ついてきてくれるの?」

「もちろん。イデオンを一人で行かせられないよ」


 夕食までに戻るように言われて、馬車に乗り込んで以前カップを買いに行った雑貨を売っているお店に行く。カップの並んだ棚を見て、私はダンくんとミカルくんを思い浮かべていた。

 ダンくんもミカルくんも赤毛だから赤い色が似合う気がするのだが、ダンくんは赤は「おんなっぽい」とか言って嫌がりそうな気もする。

 悩んでいると、お兄ちゃんが私の脇に手を差し込んで、抱き上げてくれた。


「だっこ?」

「棚が見にくいのかなと思って」

「あぁ、ありがとう」


 確かに私の身長では棚の高さに届かなくて見にくかった。急に抱き上げられたので驚いてしまったけれど、お兄ちゃんの抱っこは安定していて、落ちることもないし、高い棚も良く見える。


「あかににあういろって、なんだろ」

「二人の目の色は黄色っぽくなかったっけ?」

「きいろ……」


 じっと見つめていると棚の大人用のサイズのカップにレモンの絵が描いてあって、同じデザインの子ども用の小さなカップにリンゴの絵が描かれているものがあった。

 水彩画のような淡いリンゴの赤と、レモンの黄色。


「これと、これ、どうかな?」

「白い地に淡い絵が綺麗だね」

「これにする」


 お兄ちゃんに降ろしてもらって店のひとを呼んで、二つのカップを包んでもらった。お金を払おうと小銭入れを出すと、お兄ちゃんに止められる。


「叔母上から、前のマンドラゴラ品評会の賞金を預かって来てるよ。それなら、イデオンも自由に使えるでしょ」

「そっか。それじゃあ、おにいちゃん、よろしくおねがいします」


 お兄ちゃんに支払ってもらって店を出ようとしたところで、私は包みボタンのヘアピンが置いてある棚に目をやった。緑の葉っぱとそこに乗っているテントウムシが可愛い。


「これ、フレヤちゃんに」

「これもお願いします」


 ヘアピンも包んでもらって、帰りの馬車の中でお兄ちゃんがにこにこしながら聞いてきた。


「イデオンは、フレヤちゃんって女の子が好きなの?」

「え?」


 そんなこと全く考えたことがなかった。

 以前にヨーセフくんがファンヌを気にしていたときに、私もファンヌにヨーセフくんをどう思っているか聞いたことがあるが、あのときの答えは「普通」だった。

 あの後、ファンヌにはヨアキムくんという大好きな男の子ができたわけだけれど、私は恋愛とかまだまだ遠いものだと思っていて、全く意識していなかった。

 誕生日にプレゼントをするのも、ダンくんにするのと同じで、フレヤちゃんが特別なわけではない。


「すきって、よくわからない」

「フレヤちゃんのことが好きか分からないの?」

「そうじゃなくて、フレヤちゃんはダンくんとおなじ、ただのともだちだよ。とくべつにすきとか、まだ、わたしにははやいんだとおもってた」


 考えてみればファンヌはヨアキムくんが特別に好きで、結婚するとまで宣言しているのだから、私はむしろ恋愛感情というものに目覚めるのが遅いのかもしれない。


「でも、とくべつにだいすきなのは、おにいちゃんしかいないからなぁ」


 呟くと、お兄ちゃんは目を細めて私を膝に抱き上げてくれた。


「いつまでそんな可愛いことを言ってくれるのかな?」


 いつまでも変わらない。

 そう思うのだけれど、恋とは私にも訪れるのだろうか。

 まだ6歳だった私には、恋愛とか早すぎて、全然考えることができなかった。

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