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第5話 嘘と別れ

 コンテストの途中経過が出たのは、応募して二ヵ月後、つまり十二月のことだった。


 僕は既に二作目を完成させる直前まできていて、冬休みは小説執筆と美琴との電話だけで埋め尽くされていく。


 その日も夢中で書いている最中にネットで調べ物をしたついでに、何気なく出版社の公式サイトを覗いた。

 そしたら、途中経過が発表されていて、慌てて自分の作品タイトルとペンネームを探した。


「……マジかよ」


 そう呟き、目をごしごしとこすってから画面をもう一度確認する。


 一次通過者の一覧には、自作のタイトルとペンネームがあったのだ。惜しくも二次には届かなかったが、まさか一次通過ができるとは思っていなかったので驚いた。


 うれしくてうれしくて美琴に連絡をすると、彼女はすぐにスマホの画面に姿を現す。


『なんだかニコニコしてるね。なにか良いことでもあった?』


「うん。俺の応募した小説、一次通過してた!」


 そこまで言ってから、僕はこう付け加える。


「受賞はできなかったけど」


『えっ! 初めて書いた小説が一次通過するなんてすごいよ! やっぱり幸ちゃんは才能あるんだね』


 美琴はまるで自分のことのように喜んでくれて、それから続ける。


『おめでとう』


「ありがとう。美琴おかげだよ」


『私は……。何もしてないよ。それどころか……』


 美琴はそこまで言うと下を向いて、唇を噛む。


「どうした?」


『ごめんなさい! 私、嘘をつきました!』


「え?!」


『ユートピア・システムのキャンペーンのこと、あれは嘘、なの……』


「うそ? え? なんで?」


『そう言えば、幸ちゃんはキャンペーンに興味を持つだろうし、お金がかかるって知ったら、バイトとか始めて、今とは違う生活を送ってくれると思ったの』


「それで、僕が高校生らしい生活を送るって考えたから?」


 美琴は黙ってうなずいた。


『私と話すことだけが生き甲斐の人生なんかになってほしくなかったの。幸ちゃんはそっちでもっと沢山のことを学んでほしい』


 美琴は顔を上げて、優しく微笑んでさらに続ける。


『高校でもちゃんと友だちをつくって、勉強もちゃんとして、趣味も見つけて、社会人になって、しっかり働いて、いつか、すてきな人と結婚して』


「けっこん……。僕は、誰かと結婚する気なんてないよ!」


『ほーら。そういうこと言うんだからー。うれしいけど、うれしいけどね』


 美琴は躊躇してから、ゆっくりと唇を動かす。


『私はもう、死んでるんだよ』


「しんでない!」


『幸ちゃん、もう、私たち、さようならしよう。私とずっと連絡なんか取ってたら、幸ちゃんは普通の生活を送れないから』


「なんで?! 僕は、僕は、美琴と離れたくない! もう会えないから、こうして画面越しに話すことが楽しいんだよ!」


『今までありがとう。さようなら。幸せになってね』


 美琴が無理やり弾んだような声で言うと、それから画面は真っ暗になる。


 電話をかけ直しても、『おかけになった電話番号は現在、おつなぎできません』というガイダンスが流れるだけだった。


 彼女は僕のことを思って、別れを切り出したんだ。

 それが頭では分かっていても、何度も何度も美琴に電話をかけてしまう。


 失恋から立ち直れないまま丸三日が経過し、僕は今の気持ちをぶつけようと小説を書き始めた。

 小説を書いている時だけ、美琴のことを忘れることができる。


 どんどん小説を完成させていくのと同時に、いつの間にか季節も流れていく。


 窓の外に視線を向けてみると、しんしんと雪が降りだしていた。


「どおりで寒いと思った」


 そう呟き、暖房を入れる。

 そしてまた、パソコンに向かう。


 物語を書くことはとても楽しい。将来は作家になれたらいいなあ。ううん。絶対になってやる!


 そう誓った瞬間、突然、体に異変を感じた。

 頭を押さえて立ち上がろうとした途端。

 意識が遠のいていった。

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