第6話 突然の旅立ち
目を覚ますと、白い天井が見えた。
「あれ?」
僕が体を起こして辺りを見ると、そこは病院のベッドの上。
母が泣きそうな顔で「幸一!」と俺の名前を呼ぶ。
父は俯いたままだった。
そうだ。僕、自宅で倒れたんだった。
もうすぐ春休みだっていうのに倒れるなんて、なかなかツイていない。
医者が病室に入ってきて、僕にこう尋ねる。
「気分はどうですか?」
「あ、今は特に……」
僕がそう答えると、医者は両親に声をかけた。
「少しお話、よろしいでしょうか」
「はい」
両親はそう言うと、医者と共に病室を出て行った。
なんだか嫌な予感がする。
「がん、だね。しかも、手術ができない場所に腫瘍があるんだ」
次の日、僕は医者からそう聞かされた。
「それって、死ぬってことですか?」
「幸一君、君は今、高校一年生だったね」
「はい。そうですけど」
僕はそこまで答えてハッとする。
「もしかして……。ユートピ・アシステム、受けられるんですか?」
「君がそれでいいのなら、それからご両親も承諾してくれるのなら、だけどね」
医者の言葉に、僕は「やりたいです!」とは言えなかった。
せっかく小説を書く楽しみに目覚めたのに……。
おまけに美琴とは別れているし、ユートピアに行くメリットがない。ないけれど、このまま死を待つのは怖いだけだ。
でも、ユートピアへ行ったら、家族とも電話越しでしか会えなくなるのか。
年に一度、数日間だけはこっちに帰れると聞いたけれど、それも自分の体じゃない。これじゃあまるで幽霊みたいだ。
僕、死ぬのか。幽霊になるのか。
そう考えてぐっと拳を握る。その時に初めて自分の体が震えていたことに気づく。
母の作るご飯も、都会でも田舎でもない中途半端な地元も、休日に昼間で眠って一日無駄にした! って反省することも、現実世界でのすべてが、今まで何気なくやっていたことがすべてが、それこそが幸福だったんだ。
ああ、そうか。
美琴もこんな気持ちだったんだ。
僕の前では笑っていたし、悲しそうな顔一つ見せなかったけれど、本当はこんなに辛かったんだ……。
僕は何一つ理解なんてしていなかった。自分が美琴のそばにいられないことを寂しいと言ってばかりだったんだ。
☆
放課後になるが早いか、僕は階段を一段飛ばしで駆け上がる。
三階の廊下の突き当りが音楽室だ。この学校には吹奏楽部もあると聞いた。
でも、今日は練習はお休みなのだろうか。廊下はものすごく静かだ。
僕は祈るような気持ちで音楽室のドアに手をかける。
「失礼しまーす」
そう言ってドアを開けると中には誰もいなかった。




