44:戻って3ヶ月目:前編
ミオ視点です。
長文になります。ご了承ください。
「解雇、ですか」
「小田島さんは気が利くし仕事もできるけど・・・・我が社の社風に合わないようだから」
そういう社長の隣で、経理部長である社長夫人は当然といった顔でうなずき、秘書である社長の息子(通称:バカ息子)がにやにや笑っていた。
“あんまり俺の誘いを断らないほうがいいと思うけどな~。試用期間中なんだからさ”
バカ息子に昨日言われたセリフが頭に浮かんだ。
入社してすぐに、なぜか私はバカ息子に終業後に誘われるようになった。でも、社内の人間にはいばりまくり、社外の偉い人にはヘラヘラと尻尾をふっているこの人が苦手で、ずっと断ってきた。
そして昨日、ヤツがにやにやしながら“あんまり俺の誘いを~”と言ったのである。なるほど、こういう目にあうってことか。自分のセクハラを棚に上げて・・・なんて卑劣なやつ。
この会社で女性が続かないって他の社員が言う理由分かった気がした。恐らく、これまでも似たようなことがあったに違いない・・・このバカ息子なら。
帰国してすぐ、就職が決まったときはラッキーと思ったんだけどなあ・・・・また、一から仕切りなおしだ。経済的に余裕があってよかった・・・・。
家に戻ってパソコンを開くとアニーからメールが来ていた。
アニーとは相変わらずメールでやり取りしていて、互いの近況を報告しあっているんだけど、今日のメールの内容に私はちょっと驚いてしまった。
『それでね、オディロン先生は今、王国でカールとノアを使ってちょっとした実験中なの。』
「なんの実験してるんだろう・・・オディロンさんやカールさんは分かるけど、なんでノアさん?」
思わず独り言をつぶやくと、玄関のインターホンがなった。来客の予定がないので応答ボタンを押さずにモニターをのぞくと、なんとバカ息子が立っていた。げげげっ、何の用だ。
「小田島さーん、あけてよー。いるのは分かってるんだからさあ。俺にちょっとつきあってくれれば解雇なんかすぐに取り消しになるしさあ」
何で家を知ってるのだろう。もしかして履歴書を見たとか・・・社長の息子だもんね、ありえる。
あきらめて帰るまで黙ってよう・・・そう思っていると、隣のアニーの部屋からドン!!とすごい音がしたあと、今度はドアを開ける音がした。
私の住んでるマンションは防音設備はけっこうしっかりしてるので、隣の部屋から音が聞こえることはものすごく珍しい。もしかして泥棒?!
「け、警察に電話しなきゃ・・・」と電話を取りに居間に戻ろうとしたとき、ドアの前が騒がしくなったことに気がついた。
「だ、誰だお前!!何するんだよ!!!」
バカ息子の焦った声が静かになったら、今度はノックの音。そして聞こえてきたのは・・・・。
「ミオ、いるのならドアを開けてくれないか?」
その声に私は驚くと同時に心からホッとしてドアを開けると、ノアさんとカールさんが立っていて、バカ息子の姿が消えていた。
「ノア、カールさん・・・どうして、ここに?・・・・さっきまでドアの前にもう一人いたはず・・・」
「ああ、もしかしてこれ?」
カールさんがひょいとつまんだものは・・・・ゲコゲコとさかんになくカエル。
「こいつの心を読んだら、ミオに対してずいぶん失礼なこと考えてたからね。こいつのせいで仕事を辞めさせられたんだろ?こういう卑劣なやつは、ちょっと懲らしめてやろうと思ってね。とりあえずカエルに変えてみた」
「と、とりあえずって・・・」
「私はいっそのこと存在を消してしまえと言ったんだがな。カールがやりすぎだというのだ。ミオも存在を消してもらったほうがいいと思わないか?」
いや、それはノアさんやりすぎだから!!
「ノア、そこまでしなくてもいいよ・・・あの、カールさん・・・・そのカエルはいつまでカエルなんでしょうか」
「童話みたいにカエルにキスをしてくれる人が現れるまでにしようかと思ったんだけど、こいつの場合、そういう人が現れる可能性がとっっっても低そうだからねえ。一生カエルというのも俺の夢見が悪いから、3日間にしておいてあげたよ。
ヘビに追われる幻想というおまけをつけて、ようやくノアも納得したんだ。こいつ、命拾いしたよねえ」
そういうとカールさんはカエルを見て笑う。命拾い・・・したのか?まあ存在消されるよりは・・・でも3日間もカエルって。
「ミオ、大丈夫だよ。さすがに道に放すことはしないさ。このへんに水のある場所ってあるかな」
「あ、はい。歩いて10分くらいに公園があります」
確かそこには小さい池がある。
「よし、じゃあとりあえずこのままその公園に行かないか?ミオ、出られるかい?」
「はい、ちょっと待っててもらえますか」
私はドアを閉めて、今起こった出来事を冷静に考えた・・・バカ息子がカエルになっちゃった・・・そして、目の前にはノアさんとカールさん。思わず自分の頬をつねってみると、痛い。夢じゃないんだ。
カエルを公園の池に放すと、カエルの本能(?)が優先したのか池に黙ってもぐっていった。
「3日後に人間の姿に戻るけど、周囲の人には訳のわからないことを言うヤツと見られる。まあ自業自得だね」
カールさんがとってもにこやかに言う。
「ここ魚がいるみたいなんですけど・・・」
「そこは自分で乗り切ってもらうに決まっているだろう」
ノアさんがあっさりと言う。
「で、でも、あの人が家に来たっていうのを知ってる人がいるかも。私、事情を聞かれたらどう答えたらいいのか」
「ミオ、大丈夫だよ。ノアを置いていくから」
「は?!」
ノアさんを置いていくってなんですか?思わずノアさんのほうを見ると、なんだかそれが当たり前って態度だし。
「まあ、とりあえず部屋に戻ってから理由を話すよ。それでいいかな?」
カールさんの言うとおり、夜の公園で話すことではない。私は黙って頷いた。




