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32:異世界滞在11日目-1

旅行者、からまれる。の巻

「そこのお前、何をしている」

 図書室から本を借りてきて、庭園のはじっこにあるベンチで読書をしていただけなのに・・・私は褐色の瞳に前髪を作っていない肩までのびた金髪の男性に絡まれていた。

「すいませんが、どちらさまでしょうか?」

「僕のことを知らない女性がまだここにいたとはね・・・驚きだよ」

 そういうことを言う人がほんとにいるほうが、私は驚きだよ。でも、着ている物はかなりお金がかかってそうだし、なんか偉そうにしてるのが当然みたいな態度だし・・・う、う~~ん。知らない私がいけないのか?

「まあいい。僕はビセンテ・ペルジェス、ペルジェスの第3王子だ」

「ペルジェスの第3王子殿下・・・・し、失礼しました」

 私があわてて頭を下げると、満足したようにふふんと笑う。この人がアニーの婿養子希望の「無才の三男」かあ・・・確かに王太子やユーグ殿下と、少し似てる・・・ような気がする。瞳の色が同じだ。でもなんか王太子やユーグ殿下にある威厳とか知性が感じられない。軽薄な感じ。私の世界でいうなら“チャラい”って言葉がぴったりだ。


「ところでお前の名は?」

「わ、私の名前はミオ・オダジマと申します」

「ミオ・オダジマ?じゃあユーグ兄上がマルチェビを送って、エルネスト兄上が自ら選んだ花を贈ったのはお前か・・・兄上たちは趣味が悪い」

 この人、無才かどうかは分からないけど一言多いタイプなのは間違いないな。でもこの国では普通なのかもしれない。

 その後、どうやら私の顔をのぞきこむことに飽きた第3王子は、どっかりと隣に座った。その前に「隣に座っても?」とか聞きなさいよ。ノアさんは必ず聞くのに。

「ところでお前がミオ・オダジマだってことは、アンナレーナの親友で間違いないな?」

「は、はい。そうなりますね」

「じゃあ、俺とアンナレーナの橋渡しをしろ」

「はい?!橋渡しなんてできませんっ」

 なんで親友が嫌ってる男と親友の橋渡しをしなくちゃいけないわけ?どういう思考回路してるんだ、この人は。あ・・・確か、断ってるのにしつこい脅威の粘り腰の持ち主だったっけ。

「お前、僕に口答えするのか。王族でもないくせに」

 思わず私が断ると、第3王子は信じられないという表情をした。

「わ、私は確かに王族ではありませんが、できないものは断ります」

「なんだと?お前、この僕の命令が聞けないというのか」

「お断りします」

ちょっとでも動揺したら絶対いけない。私は第3王子をキッと見据えた。


「・・・へえ?僕にそんな目をするんだ」

 すると第3王子の目がなんだか嫌な感じで私を見た。初めて背筋がぞっとする。でもここで弱くなったら絶対だめだ。

「王族じゃない下賤の人間のくせに・・・ふうん、じゃあお前でいいよ」

 そういうと、第3王子は私の腕をぐっとつかんできた。

「ち、ちょっと離してください!!何するんですか!!」

「何をするって?お前には僕の暇つぶしの相手をしてもらうよ。名誉なことだろう?」

 全然、名誉なことじゃなーいっ!! なんか王子の顔が近づいてきてるし、やだやだやだよーっ!!

 私は思わず目をつぶって顔をすくめた・・・・その瞬間、なぜか王子の「ひっ・・・」という怯えた声がしたかと思うと、つかまれていた腕が自由になる。

「・・・・ビセンテ、何をしている?ペルジェスの国名に泥をぬるつもりか」

 恐る恐る目を開けると、そこには第3王子の腕をひねりあげたユーグ殿下がいた。


「ユ、ユーグ兄上、どうしてここに」

 さっきまでの偉そうな態度はどこへ行ったのか、第3王子は消え入りそうな声を発した。

「王太子殿下がお前を野放しにすると思ったか?この国に帯同させたのは今までのふるまいを国王夫妻および王女殿下に詫びさせるためだ。そう言われたのを忘れたわけではあるまい?」

「ぼ・・・僕は何も詫びるようなことはしておりません」

「・・・まあいい。彼女に対するふるまいは王太子殿下に筒抜けだからな」

 ユーグさんは第3王子の腕を片手でつかんだまま、もう片方の手をあげると、どこからか男の人2人が現れた。

「お、お前たちは・・・・」

「ビセンテ殿下、王太子殿下がお待ちです。参りましょうか」

 第3王子は男の人たちをみると反抗するでもなく首をたれたまま連れて行かれた。

 後に残ったのは、ユーグさんと私だった。

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