31:異世界滞在10日目-幕間
公爵夫人はかく語りき。の巻
ノアとミオが2人で応接間から出て行くのを見送ると、私は執事を呼ぶようにメイドに頼んだ。
執事のロデリックはノアについているライナスの父親で、彼らの一族は代々我が家に仕えてくれる大事な存在だ。
「奥様、お呼びでしょうか」
「ロデリック、いまミオを案内するようにとノアに命じたの。・・・・かねて打合せしたとおりに。わかってるわね?」
「かしこまりました。周囲に人を近づけないようにいたします」
ロデリックは頭を下げると、静かに部屋を出て行った。これから使用人たちにノアが案内するコースに立ち入らないように周知徹底させるだろう。2人きりになるお膳立てはばっちりだ。
「・・・まったく、世話が焼ける息子だわ」
私はふふっと笑ってしまう。
息子のノアは、無表情で無愛想なのと仕事大好き、ついでに不器用なのが加わって女性との付き合いはあるようなのだけれど、どうも長続きしないらしい。
大げさかもしれないけど公爵家初の一生独身の当主が誕生かしらね・・・などと思っているところに姪であるアニー殿下から耳よりの話を教えてもらった。
「叔母様、今度私の親友を我が国に招待することにしたんですの」
「アニー殿下の親友というと、異世界の方ね?確か、ミオさんというお名前よね」
以前に、殿下から見せてもらった「シャシン」で私の親友なのと教えてもらった顔を思い出す。殿下と同じ年齢とは思えない幼さの残った顔で、華奢な感じだった。
「ええ。実はミオは最近辛いことが続いていて落ち込んでいるみたいで、どうにか元気づけたくて・・・それで叔母様。私、いいこと思いついたんです」
殿下が目をくるりとさせて私を見た。
「まあ、何かしら」
「彼女を招待したものの、実は公務が忙しくて。でもミオに言うと、彼女って自立心旺盛だから“じゃあ一人で観光するよ”ってさっさと行動してしまうに決まっているの。
でも、それはとても心配だからノアに彼女のガイドをしてもらおうと思って。だめかしら」
私はそこで殿下の意図にぴんと来た。もしかして・・・
「殿下、わたくしの勘違いだったらお許しくださいね。もしかしてノアとミオさんをくっつけようとしてます?」
「ちょっときっかけをつくるだけよ。まあミオだったら最初はノアの無表情に驚くだろうけど、すぐ良さに気づくと思うし。お節介なのは重々承知しているけれど、ノアならガイドとして最適でしょう?」
「まあ確かにノアならぴったりですわね。わかりましたわ、わたくしも殿下に協力します。ただし、ノアを説得するのは殿下に任せますわよ?」
「そこは任せて。“王女殿下の命令”に“ノアお兄様”はめったに逆らわないから」
そう言うとアニー殿下はパチンとウインクをした。
王女殿下のお膳立てでノアと出会ったミオは、予想どおり最初は無表情ぶりに驚いていたようだけど今では打ち解けているらしい。偶然を装って(王妃様もアニー殿下に協力している)、衣装合わせのときにミオと対面したときや今回のお茶会で、改めて殿下の人を見る目に感心する。
たまに屋敷に戻ってくるライナスに探りをいれると、ノア様はミオ様と会うときは楽しそうな表情を浮かべています、と驚きつつも喜んでいたっけ。
屋敷見学を終えて、王宮に戻るからと挨拶にきたミオは心なしか顔が赤い。どうしたのかしらと隣にいるノアを見ると・・・あらまあ、ノアもかすかに赤いじゃないの。そして私に挨拶をするミオを見る目。
私の視線に気づくと、すぐにいつもの無表情に戻ったけど・・・・なかなかいい兆候のようだ。
でも、確かミオって14日間の滞在予定でこちらに来てるのよね。確か、もう今日で10日目・・・なんともスタートの遅いこと・・・・。




