30:異世界滞在10日目-3
旅行者、公爵家を見学。の巻
「ミオ、母上とのお茶会は楽しかったか?」
「とっても!シャンテル様って、素敵な人だね」
「それならよかったが、母上はよくしゃべるから疲れただろう。ここには私とミオしかいないから正直に言っていい」
「確かにアニーとおしゃべりするのとは違う感覚だから緊張したけど、本当に楽しかったよ」
「そうか・・・」
するとノアさんがちょっとホッとしたような顔つきをした。やっぱりアニーの親友とはいえ庶民が公爵夫人にお茶に呼ばれるなんてありえないもん。心配してたんだな。
「ノア、心配してくれてたんだね。ありがとう」
「い、いや心配はしたがミオのことではなくて・・・ま、まずはこの部屋について説明する」
なぜかノアさんは何かを言いかけたもののあわてて話題を変えた。
クロンヴァール公爵家のお屋敷は王宮ほどの規模はさすがにないけど、どれだけ固定資産税を払っているのかゲスな疑問を持ってしまうのに充分な大きさだ。
ノアさんの案内で、その昔王様が宿泊した部屋や王宮ほどではないけれど立派な図書室、大広間を見学したあとに壁にかけられた一族の肖像画を見ながら説明を受けた。
「ノアって説明が上手だよね。観光シーズンは観光客の皆さんを出迎えたりするの?」
「私は表には出ない・・・顔無し公爵を見ると観光客が怯えるからな」
自嘲気味に話すノアさんの腕を思わずつかんでしまう。
「ミオ、どうした?」
「た、確かにノアは表情豊かとは言えないけど、でもノアが優しくていい人だって知っている人はたくさんいるよ。だから、ノアの外見だけ見て怯える人なんかほっておいていいんだよ!!」
「ミオ、そんなにつかまれたら袖がのびてしまいそうだな」
「あ。ご、ごめんなさい!!」
あわてて袖をつかんでいた手を離す。
私ったらノアさんがちょっと悲しそうに見えたからって何やってるの。
ノアさんは手を伸ばして私の顔に触れた。大きな温かい手・・・じゃなくてっ!!ノアさんにそのまままっすぐ見つめられて、私は恥ずかしくなってきた。
「どうした、顔が赤いが」
「そ、そりゃいきなり顔を触られたから驚くよっ」
私があわあわしているのがノアさんには面白いらしく、無表情だけどそのへんは伝わってくる。
「わかった。今度は前もって言えばいいってことだな」
そう言うとノアさんは手を離したけど・・・ノアさん、それは違うぞ!!こういうのは一般的には恋人同士がすることじゃないの?
「・・・前もって言われても驚くよ」
「なるほど。じゃあ、これは免疫があるから大丈夫だな?」
「へっ?!」
今度はすっぽりとノアさんの腕のなか。昨日はなんだか安心したけど、今はなんか違う。もがくけど、ノアさんにますますきつく抱きしめられるだけだ。なんか私だけが体力を消耗するのって不毛・・・周囲に人目がなさそうだし・・・・今だけだろうから・・・私が力を抜いたのがわかったらしく、ノアさんも少しだけ腕の力をゆるめた。
「さっき、私が・・・優しくていい人だって知っている人はたくさんいる、と言っただろう?」
「うん、言ったよ」
「その知っている人に、ミオは入っているのか?」
「当たり前だよ」
「よかった。ミオにそう思われているのは嬉しいことだな」
またノアさんの腕の力が強くなって、なんだか昨日よりノアさんの心臓の音が聞こえる。
何を話せばいいのか分からなくて黙っていると、ノアさんがぽつりとつぶやく。
「ミオは帰ってしまうのだな・・・・もし・・・」
「ノア?」
何かを言いかけたノアさんのほうを思わず見上げた。
「なんでもない・・・そろそろ王宮に送る」
「・・・うん、わかった」
ノアさんは私を部屋まで送ると立ち去るでもなく私をじっと見ている。
「・・・ノア?」
「すまない。ちょっと考え事をしていた。それではミオ、また明日な」
「うん、また明日の午後に部屋に行くよ」
「ああ、待ってる」
ノアさんはそういうと私に背中を向けて歩き出した。私はノアさんが言いかけたことはなんだったのだろうとぼんやりと考え始めた。




