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29:異世界滞在10日目-2

旅行者とお茶会。の巻

「よく来てくれたわ、ミオ。さあ、こちらに座って」

 公爵夫人に誘導されて豪華な一人用ソファに座る。

「は、はい」

「・・・母上」

「ふふ、楽にしてちょうだいな。ミオが果物の入ったケーキが好きだというので、いろいろ用意したのよ。食べてちょうだいね。お茶もいろいろな種類の茶葉を用意したの。だからいろいろ試してみてもらえると嬉しいわ」

 部屋にはお茶とケーキが用意されていて、確かにどれも美味しそうだけど・・・。

「あ、ありがとうございます。クロンヴァール公爵夫人」

「ミオったら。以前に衣装合わせで会ったときにシャンテルかお義母様と呼んで、と言ったじゃないの」

「え。えっと、そ、そうでしたね」

「母上、浮かれすぎです」

「・・・・あらノア。まだいたの」

「いましたよ。ミオがびっくりしています」


 ノアさんが憮然と思われる表情で間に入ってくれなかったら、私は公爵夫人・・・シャンテル様のテンションにあてられっぱなしだったかもしれない。

「ノア、あなたはアルと仕事の打合せがあるから戻ってきたんでしょ?女同士の話を邪魔するつもり?」

「ミオのことは別です」

 ノアさんの言葉に私はびっくりして、シャンテル様はまあ!と言ってなぜか瞳が輝きだした。ノアさんはその様子をみて不思議がっていたようだが、しばらくして自分の発言内容のせいだと分かったらしい。

「・・・母上。ミオはアニー殿下の親友です。私は殿下からミオの面倒をみるようにと命令されています」

 シャンテル様はがっかりした様子でノアさんを見てため息をつき、私は、なぜかノアさんの発言にちょっと傷ついた。私はいったいどんな言葉を聞きたかったのかな。

 ノアさんは「そろそろ行かなくては・・・母上、くれぐれもミオに余計なことを言わないでくださいね」とシャンテル様に言うと、渋々(だと思われる)といった様子で部屋を出て行った。

「ねえミオ。余計なことって何かしら、ねえ?」

「さ、さあ・・・」

 さすがだ、シャンテル様。ノアさんの言葉を華麗にスルーして、私に自らお茶を入れてくれた。



 シャンテル様と2人きりでお茶なんてどうしようかと思っていたけど、思ったよりリラックスしてお茶とお菓子をいただいてしまった。

 シャンテル様は話し上手の聞き上手で、元王女殿下だった気品もあるのに茶目っ気もあって素敵な人だ。ノアさんの小さい頃の話から流れで、近しい身内は全員亡くなっていることを話したときは「ミオはよく頑張ったのね」と私をぎゅっと抱きしめた。

 なぜかその後「でも、辛いときはわたくしを母だと思って何でも言っていいのよ。そうね、どうせなら娘にならない?」と言い出し、ちょっと困ったけど。

「そ、それはちょっと」

「まあ、ノアのこと嫌い?」

「き、嫌いではありません。なにかとお世話になってるし」

 なんといっても、お金を持ってない私のスポンサーだ。

「それならよかった。そうだ、屋敷の中を案内しましょうか。我が家は観光シーズンになると一部を公開しているのよ。ミオには未公開部分も案内するわね」

「え?お屋敷は改装中ではないのですか?」

 私は招待状をもらったときに思った疑問をぶつけてみる。するとシャンテル様は一瞬驚いた顔をしたものの、にっこり笑って瞳をきらりとさせた。

 そのとき、ドアが開いてノアさんが入ってきた。すごいタイミング。それを見たシャンテル様の顔・・・なんかアニーがオシノビをするといった表情によく似ている。

「ミオ、そろそろ王宮に戻る・・・・母上、なんですか?」

「ノア。ちょうどいいところに戻ってきたわ。ミオに我が家を案内してあげなさい」

「はい?」

「改装が終わったところでよかったわね、ノア」

 シャンテル様がにっこり笑った。


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