26:異世界滞在9日目-3
旅行者と王太子。の巻
「やあミオ、相変わらず可愛いね」
初めて見たときと同じように優雅にお茶を飲んでいるエルネスト王太子殿下。
「は、はあ・・・」
まさか王太子殿下に庶民から何で会いたいと言ったのか聞くわけにもいかず、私は戸惑うばかり。
ちらりと隣にいるノアさんを見れば、無表情だけどちょっと怒ってる・・・かな?うう~ん、困ってるのかも。やっぱり分からん。
「アニーにちょっと用事があってね。でもまずはミオに弟の不始末を謝罪をさせてほしくてね」
「え・・・そんな、気にしないでください」
私がそう言うと、王太子殿下は席を立って私の近くにくると微笑んで私の手をとった。な、なんなのっ?!
そして私の顔がびっくりしているのを面白そうに見て口を開いた。
「そうはいっても、やはりペルジェスの第2王子が友好国の王女の親しい友人・・・知らなかったとはいえ、密偵と間違えて捕らえるなどしてはいけないことだからね。こんなに華奢なのに、ユーグは何を間違えたんだか。ねえ?」
華奢・・・弟に続いて兄も言うか。
「あの・・・手・・・」
「ふふっ、可愛らしい手なのでつい取ってしまったよ。もうしばらくこのままでいても?」
「はっ?!」
「エルネスト、ミオが驚いているから手を離していただける?」
「エルネスト王太子殿下。申し訳ないがミオはこちらの習慣を知らないので、適切な距離をとったほうがよろしいかと」
アニーとノアさんから言われた王太子殿下が残念そうに手を離す。
「それは悪かったね。さてミオ。私からの詫びの印を受け取ってもらいたいんだ」
王太子殿下は控えていた部下と思われる人に目配せすると、なにやらブルーのリボンがついた白いかごを持ってこさせた。私でも片手で持てそうな大きさ。
「私からの詫びだ。マルチェビだとユーグと被ってしまうからね。気に入ってくれると嬉しいな」
それはグリーンでぐるっと囲んだ薄い紫やピンク、ブルーのガーベラの花のアレンジメント。なんか、すごくかわいい。思わず笑顔になってしまう。
「その笑顔は気に入ってもらえたようだね?」
「は、はいっ。とってもかわいいです!!ありがとうございます」
「よかった。私が勝手にミオをイメージして選んだものだから余計に嬉しいよ」
「「「はっ?!」」」
今度はアニー、ノアさん、私がほぼ同時に声を上げた。ただ、驚いた理由が全く違うものだった。
「私をイメージ、ですか?」
「「エルネスト(王太子殿下)が自分で選んだ(のですか?)?」」
「そうだよ。人に選ばせては私の気持ちが通じないだろう?それに長持ちするように加工してあるからね。花を見るたびに私を思い出してほしいな」
そういうと、花を持っていない私の手を取った。
「ミオ、我が国ペルジェスでは女性に謝罪をするときは相手の手を取って・・・こうするのが普通なんだ」
へ?と思ったときはすでに遅く、王太子殿下は私の手の甲にキスをした。
「え・・・・」
王太子殿下は、呆然と固まる私を面白そうに見て「大丈夫?」と抱きしめた。
「なるほど。ミオは確かに華奢だ。私の腕の中にすっぽりとうまってしまうのだな」
「え・・・ええっ!?あ、あの・・・」
ここは離してくださいと言いたい。でも、この人王太子・・・逆らったりして打ち首とか牢屋行きになったら・・・それは嫌なんですが!!
「・・・エルネスト。あなたは何をしに我が国へ来たの?私の親友をからかうためかしら?」
「エルネスト王太子殿下。少々ふざけすぎではありませんか?」
普段は聞いたことのないひんやりとした口調のアニーとノアさんの声が響く。すると、王太子殿下の腕がゆるんだので、私はあわてて後ろに下がる。
すかさずノアさんが私をかばうように、前に立つ。
王太子殿下が両手をあげて、苦笑いをした。
「悪かった。ミオの様子があまりに初々しくて、ついからかってしまった」
「ふざけすぎよ、エルネスト。話は別室でしましょう。クロンヴァール公爵、ミオを彼女の部屋まで送ってあげて」
「かしこまりました、殿下」
アニーの命令に、ノアさんは頭を下げると私に小さい声で「ミオ、部屋に戻ろう」と言い私の肩をそっと抱いた。




