25:異世界滞在9日目-2
旅行者、うっかりときめく。の巻
「そういえば、つづり方は上達したようだな。先ほどの礼状の字もきれいなものだった」
「ほんと?ノアに褒めてもらえてうれしいよ」
「・・・・私はいいものはきちんと褒める」
ノアさんがそっぽを向いた。そのしぐさがなんだか子供っぽくて思わず笑ってしまう。
散歩するつもりで外に出たんだけど、ノアさんの提案で美術館に行くことにした。
「ミオは絵や彫刻を見たりするのは好きか?」
「うん。祖母が生きていた頃は2人で見に行ったりしていたし、今も面白そうなのがあれば行くよ」
「・・・今も誰かと行くのか?」
「ううん、一人で行ってる。美術や彫刻って話の合う人じゃないとどちらかが退屈になるし、見るペースが違うと気をつかうでしょ。祖母とは好みも見るペースも同じで見終わったあとに2人で甘いものを食べてどの作品がよかったかを話すのが楽しかったんだ」
祖母と最後に見たのは、倒れる半年前にやっていた現代美術展だった。
皮肉の効いた作品や想像するとかなりヘビーな状況を思わせる作品はかなり刺激的で、おばあちゃんは優雅なのもいいけどこういう刺激的なのも面白いねえと楽しんでいたっけ。
日本に帰ったら、たくさん報告できるように目いっぱい異世界を楽しむんだ。
「ミオ。私ではご祖母様の代わりにはなれないかもしれないが、今日は私につきあってくれるか?見終わったら・・・そうだな美術館にカフェがあるから、あそこで甘いものを食べよう」
「ノア、さっきマルチェビ食べたから大丈夫だよ?」
「美術館のカフェはなかなかのデザートを出すと評判だぞ」
美術館の職員さんは王宮の敷地内で働いているせいかノアさんを見慣れているらしく、植物園の職員みたいに怯えたような態度を取らない。
皆、「いらっしゃいませ公爵様」とにこやかにお辞儀をしていく
「クロンヴァール公爵家は美術品を寄贈している。それに考え事をするのによく訪れるから」
私の疑問を見透かしたようなノアさんの返答になんだか納得。
スポンサーで常連なわけですか。それは普通に応対するわけだ。
「現在、特別展示はとくにないのだが、常設だけでも国中から逸品が集まっているから見る価値はある」
「それは楽しみだよ」
ノアさんの手が私を案内するように背中に触れる。今までされたことがないしぐさに私はどきっとしてしまう。
「ミオ、どうした。顔が変だぞ」
・・・ときめき損だよ、まったくもう。
王国の美術品は、明るい色調で見た人が素直に「素敵だな」と思うような感じ。刺激的ではないけれど安らぎと楽しさを与えてくれる絵が多い気がする。
大きい赤い石が中央にはめられた王冠や宝石がちりばめられたステッキなどの宝飾品も展示されている。
「その王冠とステッキは戴冠式のときに次代の王が身につける。だから次にこれを身につけるのはアニーということだ。実は、この王冠には王位にふさわしくないものが王冠を身につけようとすると持ち上げることができなくなるという言い伝えがある」
「今まで持ち上げられなかった人っているの?」
「古い文書を見るとたまにいたらしい。もっとも信憑性はないが」
「・・・・アニーは大丈夫かな」
「言い伝えを真に受けるな。アニーはお節介焼きだがいい女王になる」
ノアさんは王冠のほかにも、展示されている絵や彫刻について逸話や作者についての知識を混ぜながら教えてくれる。
やたら専門家ぶってたり押し付けがましくないせいか、とても素直に耳に入ってくるから楽しい。
展示物を見終わったあとに案内してくれたのは、美術館内にあるカフェだった。まさか、本当に立ち寄るとは。
ノアさんはお茶とビスケットを頼み、私はチョコケーキとお茶のセットを注文した。するとノアさんがおやという顔をしてまじまじとこちらを見る。
「な、なんで人の顔みるの?」
「果物入りでなくていいのか?」
「う、うん。戻ったらマルチェビあるし」
「・・・ああ、そういうことか」
一瞬ノアさんの表情が不機嫌そうに見えたけど、やっぱり無表情だから分からない。といって機嫌悪いの?なんて聞けないよなあ・・・。
美術館を出てのんびり歩いて王宮内に入ってくると、ライナスさんが私たちを発見するとほっとしたように駆け寄ってきた。
「ノア様、ミオ様。戻ってこられたんですね。よかったです」
「どうかしたのか、ライナス。いつも冷静なお前がめずらしい」
「王女殿下のところにペルジェスの王太子殿下がいらっしゃってるのですが・・・その、王太子殿下がミオ様とお会いしたいとおっしゃっているのです」
「へっ?!なんで?」
「・・・あの腹黒、なに考えてる・・・」
ぎょっとする私の隣でノアさんがつぶやいた。




