表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

 二人はしばし、考え、どうするのが良いか、考えた。

「その方は受領ですの?」

「分からない。違う気もするけど、もしも、受領なら、行かなければ、諦められてしまう」

 美香子の返事を聞いて、嬉しくなった松風は、朗らかに美香子に言った。

「姫様、やる気になってくれて、ありがとうございます。では、ちょいと出ていきますか?おそらく、姫様のお姿を見たいのでないかしら。ちょっと厚かましいお願いではあるけれど、少しぐらい、いうことを聞いてやればいいですわ。姫様もお気持ちはあると、その方にもお伝えできますし。ちょっと変な要求ですけれど、貴族の姫君がどこかの屋敷で落ち合うなどよくあることです。屋敷なら、その、お手がつくかもしれませんから、危ないですが、外なら、まあ会うだけで済むでしょう。会うだけで会うなら、別段、どなたでも構いませんでないですか。あいさつ程度でも済みますし、案外そっちのほうが、簡単で、やりやすいですわ。受領でなければ、丁寧に辞退すればいいだけですし」

「お手ってやあね。いくら何でも、恋の文を取り交わした間がらでもないのに」

「わかりませんよ、早急な殿方は、恋する姫を見たら、いきなりとか聞きますしね」

「いきなりとか止めて」

「まあ、とにかく、姫様、行きましょう」

「そうね、受領と違えば、断ればいいだけだしね。外なら断わりやすいわね、追いかけて来たら、家に逃げ帰ればいいだけだし」

 汚い、怖いと思われる家も、案外使い道もあるもので、意外と、この屋敷も要塞化して良いのでないだろうかとまで、美香子は思った。外で話し合いをするだけなど、よくある事。それがよく知らない相手としても、重要でなければ、挨拶して通り過ぎても良いことだ。

「そうと決まれば、ことは早いほうがいいですわ。あまり夜が更けてからだと、警備に捕まりますし、そこらへんを歩いて、いなかったらそれでいいし、義理は果たしたとも言えますわ」

「なら、行きましょうか」

「一つ問題がありますわ」

「何?」

「着ていくお着物がないってことです」

「それは、仕方ないわね」

「しかし、それでは・・・」

 松風は美香子の晴れの日ということで、身なりや着物のことなどを考えてくれた。

 いよいよ受領と会う。もしそうなら、その機会に、恋慕う娘としては綺麗に着飾っているものである。だが、美香子の家には美しい着物のひと揃えなどがあるわけがない。あっても、野良仕事をする麻の一そろいぐらいだった。だが、これが、一応、外への外出着としては使えて、歩きやすいし、必要とあって何枚か用意して残していた。松風の分まであった。

「姫様、ありましたわ」

「あら、まあ、これは何というか」

 一応外を歩く服装は、奇跡的に新品の着物で用意できた。外を歩く用の白いうすものをかけた市姫笠も、貧乏暮らしで滅多に使わないから綺麗に残っている。それも身につけると、美香子を見目良い感じに仕立てることが出来た。

「姫様、綺麗ですわ」

 さすがに高価な紅などは用意できなかったけれど、肌が陶器のように綺麗で、紅もささずとも見目良い容姿をした美香子だから、化粧せずとも十分美しかった。結果的に、美香子はぱりっとした美しい姫君に一時戻ることが出来た。貴族の美しい姫君として復帰したように思えて、松風は喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ