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 会いたいと思っていたら、他の女と結婚することになっていた、なんて。

 裏切ったと思われたままで、別れてしまった。

 大切な相手と思っていたのに、これでは一番、嫌な相手だ。

「姫様、大丈夫ですか?」

 松風が心配して、室に入って来た。

「大丈夫」

 とりあえず、美香子は返事をした。

 それから、今まであったことを美香子はいろいろ考えた。どうすれば、誤解を解けるだろう。どうやったら、信頼を取り戻すことが出来るか。

「そうだ」

 こんな時こそ、文だ。

 美香子は急いで、文机に向かって、文字を書いた。

 何か長い言い訳分と和歌を書きつづろうとして、違うと、ぐちゃぐちゃに筆で文字を消した。

(こういう時は、単刀直入が良い)

 あなたが好きでした。

 そう書いた。

 米の代金だの、足りない衣服が何着いるだのの言葉ばかりで、裏に言わずに秘めていたことを、今こそ言おうと思った。

(あの人に届くと良いけど・・・)

 言わないのも当世のならいとはいえ、まさか、こんな後悔を最大に高めて言う羽目になるとは思わなかった。

「松風、まだ屋敷内にいると思うわ、あの人にこの文を届けて」

「はい」

 松風は事態を重く見て、黙って命令に従ってくれた。

(何と言うことだろう。ささいな間違いが、このような重大な結果を招くなんて)



 子供の頃は、文は遠い常世の国まで届くものだと信じていた。

 母が誰かに文を書く姿を見て、遠い所にいる人とでもつながり合えるものだと思った。美香子も文をもらう人のところへ行くのよと母に言われて以来、文をくれる人の中には必ず運命の人がいるに違いないと思っている。

(今こそ、遠い果ての国まで届く文の力を信じよう)

 文は遠くのものと遠くのものをつなぐ。

 美香子は信じる。文の力を。遠くても、姿が見えなくても、遠くの人と確かに届くと。

 だからこそ、大切に思い過ぎたのかもしれない。

 大事に思えばこそ、勘違いもする。

 思えばあの時、文の差出人をよく確認せず、外へ出てしまった。

 ずっと文を取り交わしていたし、会いたいと思った。

 それで、受領と会うために、橋まで行ったのだ。

 それで、今は右大臣家の養われる身にまでなってしまった。

(一瞬の取り違えだったのに)

 何の因縁か、一番大事に思うものに、運命を狂わされた。

 そういう簡単に運命を狂わせるのも、文なのかもしれない。

 それでも、美香子は信じる。信じたいと思う。大切な相手とのえにしを・・・ 

 遠い常世でも、遠いところからでも、運命を結べることを。

 すぐに松風は戻って来たけど、顔色はかんばしくなかった。

「一応、本人がまだ屋敷内にいて、渡せましたけれど、反発して、渡すだけはしました。ですが、見てくれるかどうか、分かりません」

「いい。それでいい。ありがとう」

「とりあえず、姫様は受領に会いに行ったとは、伝えておきました」

「そう」

 それは有難い口添えだ。

 信じたら、ここに来る。なら、まだ信じてない。手紙も見てない。口添えも信じてないのだ。

「どうしますか?」

 美香子は待つことにした。誤解が解けるのを、信じることにした。本当に美香子を思う大切な人なら、美香子の言うことを分かってくれるはずなのだ。

「あの人を信じるわ、私」

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