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(どうして、なぜ、なぜこんな行き違いで、こうしたことになってしまったのだろう)

 今まであったことを思い出して、後悔した。あれもこれもと苦しくなる。

(右大臣家の娘と結婚をするなんて) 

 結婚相手に美香子は一番憤りを感じた。よりによって、美香子の養われている右大臣家の娘。一番あり得ない。なのに、現実。

(なんという怒り。なんという怖ろしいつながり)

 彼の激しい怒りと憎しみ。それほどの怒りと憎しみを、私はあの人に与えたのか。

(出会える日を楽しみにしていたのに)

 なのに、一瞬で気持ちが打ち砕かれた。

 もっと言いたいことがあったのに。会ったら、あれも言おう、これも言おうと思ってたのに。一番悲しい出来事になってしまった。

 受領が去ってから、美香子は簀子縁で呆然と庭を眺めた。

(源殿)

 もう一度、会いたかった。

(戻って来て)

 戻って来てくれたら、美香子は何でもする。誤解を解くため、何でも説明する。そして納得してもらう。

 何とかしなければ、と思うのに、今は何をしていいのか分からない。

「姫様、大丈夫ですか」

 しばらく声も出ず、愕然としていた所へ、松風が来て、立ち上がらせてくれた。

「やあ、驚いたでしょう」

 ばたばたと足音がして、先ぶれの女房が来て、頭中将が現れた。

 こんな時に頭中将。相手する気に到底なれないが、断るわけにもいかない。とりあえず、美香子は几帳の裏に引っ込んで、話を聞いた。

「妹の亜子が、受領を一目見た時から気に入ってしまって、身分違いだと諫めたのですが、どうしても、と聞かなくて。なら、父上が出仕するように位階を与えてやろうと、そういうことになりまして」

「それは、その、実力ある方なら、認めれられて当然ですわね」

 美香子は何を言って返していいのか分からず、とりあえず、何かしら言って、あとはごまかした。

「すぐに、結婚式ですが、なに、気にしないで構いません」

 何やら、違和感を感じた。ものすごく喜色満面だ。

「こちらは婿殿が忍びで来るのを、迎え入れるだけですから。三日の後に、祝言がありますが、それも身内でやることになっております。美香子殿はまだ、身内ではありませんので、こちらにおられれば、知らぬうちに過ぎてゆくでしょう。あ、いや、まだって言ってしまったな」

 頭中将のわざとらしい、照れた顔つきも、まだの言葉も耳に入らぬほど、美香子は動揺していた。

 本来ならお祝い事だが、耳に入るのも重く、むなしくなる。

「いやあ、妹が何を言っても聞かなくて、見目良い男で、優秀な男でして」

 嬉々としながら、美香子から目を反らす。そういうところが、やはり怪しい。

 もしや、この男が、裏から何かしたのでないか。そういう疑いが、ふと、美香子に生まれた。

「きっと他の高官公卿たちからも目をつけられたでしょうな。だから、貴族の中でも一番の我が右大臣家が名乗り出らねばと言う話になりまして、父も獲得に乗り出したのですよ。そうしたら、折よく向こうも承諾してくれまして」

 隠し切れない喜びを溢れさせ、どこかぎこちない。

(この人は信用してはならぬ人だ。すぐにでもここを出て行きたい)

 うわ調子で、美香子の疑問はさらに高まった。

(でも、何か仕掛けたとしても、結婚を受けたのは、受領の本人の意思だ。どうにもならない)

 そう思うと、もはや、何を言われても、頭中将の言葉は頭に入って来なかった。

「祝言が終われば、妹も落ち着きます。妹に先を越されたから、私もはやく世継ぎをと言われておりまして、次はそろそろ、私のことも、ね。進めて行きたいなあと」

「は・・・はあ、そうですか」

 それからは何を言っても魂の抜けた返事しか、美香子は返せなかった。

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