第四話 美女とお弁当
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
大きなため息が出る。
神様! 僕はどうしてこんなめにあわなくてはならないんですか?
ジーザス! ジーザス! ジーザス!
僕は机に頭を突っ伏した。
「レンさーん。お昼ですよー! クヨクヨしてないで、一緒に食べましょう!」
僕の気持ちも露知らず、隣の席のミランスが能天気に話しかけてくる。
その様子を見て
『千葉!?』
とみんなが静かにギョッとし、男子たちは僕に殺意の目線を向ける。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ! やめてくれ!
天然だから分からないかもしれないけど、キミはモテるんだよ!
だからさ、あんまり大声で僕の名前を呼ばないでくれぇぇぇぇ!
「悪いけど、僕は一人で食べたいんだよ。他をあたって」
僕がクラスメイトに殺されないように断るとミランスは口をとがらせた。
「えぇーっ。レンさんのケチンボ! いいんですか? こぉーんなに美人と一緒にランチする機会、めったにありませんよー」
自分のこと美人って言うんだ。
でも美人なのが事実だから言い返せないのがとても悔しい。
「いいよ。別に美人とランチなんてどうでもいいから」
「うわー! そんな発言するからモテないんですよ」
「いいよ。生涯非リア確信してるし」
「かわいそうに。でも、だいじょ……あっ!」
僕はお弁当箱を持って全速力で屋上へ向かった。
生きているなかで多分一番速く足を動かしている気がする。
もしかしたら陸上部のエースよりも速いかもしれない(いや、ホントに)。
はぁ……。あの人とランチなんてたまったもんじゃないよ。
……まぁ、いいや。もう気にしないようにしよう。
「いただきまーす」
卵焼きを口に運ぶ。
甘く柔らかいのが口いっぱいに広がった。
食事は人の心を和ませてくれるね。うん。最高だ。イライラも少し薄れた気がするよ。
ちなみに僕、卵焼きは甘い派かな。
「わたしはしょっぱい卵焼きの方が好きでーす!」
僕の卵焼きを1個とってミランスはつぶやいた。
「そうなんだ。やっぱりキミとは気が合わないみたいだね。そして、勝手に人のおかずを奪わないでほしいな……って、えぇ!?」
ビックリした。
だって、ミランスがニコニコ僕の隣にいるんだもん!
……よく僕からあんなに拒絶されているのに折れずにいられるね。
さすが! 勇者はメンタルが鋼だなぁ。
と、褒めたいとこだけど。
「なんでここにいるの!?」
「なんでってヒドいですねぇ」
ぷくぅと膨れて見てこられてもねぇ。
僕だってストーカー被害というヒドいものにあっているんだけど。
「レンさんの匂いをたどって来たんです! 褒めてください!」
「褒めないよ。そして、キミはワンコなのかい?」
「前世はトイプードルって占い師に言われました!」
ジョークが通じない系の方らしい(そんな気はしていたけれど)。
「……はぁ。なんでもいいけどさ。」
僕はミランスをにらんだ。
相変わらずのポケーとした顔が目に映る。
そういう素朴なところが男子たちを虜にしてしまうのだろうな。
「僕はキミと一生関わりたくないんだ」
「ガァァァァン! そんなにストレートに言わなくったっていいじゃないですかぁ」
「だって、ちゃんと言わないと伝わらないって言うでしょ」
「それとこれは違います!」
そう言ってミランスはため息をついた。
さみしそうな瞳をしてる。
例えるなら飼っていた金魚の餌やりをサボって殺してしまったような感じ。
「……でも、わたしだってわかってますよ。レンさんにメーワクかけてることくらい」
「じゃぁ、どうして僕にこだわるのさ」
僕じゃぁなくったっていいはずだ。
というか、僕よりも勇者のお供に向いている人なんて星の数いるだろう。
なんで僕なの。
「だって、」
ミランスは静かに笑った。
「レンさんと行きたいんです」
少し申し訳なさそうに僕を見る。
「その理由を聞いているんだけ……」
「抽選で選ばれたからとか、国王の命令だからとか、そういう事ではないんです」
僕の話をさえぎってミランスは語った。
声の一言一言に言葉がつまっているような気がした。
ものすごく強い意志を感じる。
「純粋にわたしがレンさんと旅がしたいんです」
「……なんで?」
「レンさんを見て思ったんです。一緒に世界を救ったら楽しいだろうなって」
僕の何を見てそう思ったんだろう。
でも、そう言われて悪い気はしない。
いやいや! 騙されちゃいけないよ、連!
「あのさ、楽しいだけじゃダメなんだよ」
やっぱり世界平和がかかっているものだ。
気安くホイホイやっていいものじゃない。
僕なんかが責任をおえないよ。
「? どういうことですか?」
ミランスは不思議そうに首をかしげる。
「要するに僕じゃ荷が重いってこと」
「だいじょーぶです! わたしがいます!」
ドォーンと胸を張るミランス。今にもおっきなBGMが流れてきそうだ。
……う~ん。あんまり信用できないけどなぁ。
「うわぁ! レンさん今、心の中でわたしのこと侮辱しましたね? お見通しですよ!」
「いやだって、キミ、そう思われてもおかしくない言動をしてるでしょ?」
「例えばなんですか?」
言ってみろよ、と言わんばかりの勢いでつっかかってくる。
まったく、どの口が言ってるんだよ。
「とにかく! 僕は遠慮するよ」
「えぇー」
しょぼくれた彼女は半目で僕をにらみつけてくる。
そんな顔されてもねぇ。
「キャーーーー!」
「「!?」」
突然校舎から悲鳴。
ゾゾッ
身体中が冷えるような感覚。
指先が汗ばむ。
な、なに!?
「すごくイヤな予感がします」
「同感」
ミランスが不安そうに視線を巡らす。
僕だって同じだ。
なにが起こっているのか理解ができない。
「どうする? ……僕は、」
隣にいるはずのミランスに語りかけても返事がない。
ヘンだなと思って横を見ると、ミランスの姿が……………………見えない!?
え? え? え?
「……まさか!」
イヤな考えが頭によぎる。
あの人、ヘンなことに首を突っ込んでいるんじゃないよね???
そんなわけないよね! うん。さすがにねっ。うん。
……………。
………………………。
……………………………………………いや、あの人のことだ。充分ありえる。
僕は屋上を出た。
もう、ひたすら願った。
なにを願っているかって?
そりゃもちろん、
「夢だと言ってくれぇぇぇぇぇぇ!」
………と。
でも残念なことに夢じゃない。
僕の目の前では衝撃的なことが起こっていた。
「レンさん! 危ないですよ!」
ミランスが大きなネコと戦っていた。
こんにちは、風音です。
ミランスは相変わらずグイグイ来ています(笑)
連は相変わらずグイグイ去っていってます(笑)
現在進行形で平行移動中ですね。