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第9話:指輪物語

お開き下さりありがとうございます!


「「ウホッ! いい男!」」



二人の言動に違和を感じる拓人であったが、裸となった拓人は、自分自身も驚くほどマッチョになっていた。

正確には細マッチョが正しいだろう。体は筋肉質であり、腹筋も6つに割れている。


「ま、魔法?」


驚きの表情でパトさんが呟く。

俺が首を振ると、アンシェルの方を向くが、同じように首を振る。


「ちょっとどういう事なの?」


「いや、オレが説明したかったのは、そういう事じゃなくて……スティールだよ」


変な誤解を生まないようになのか、盗った上着をすぐに返すと再度座り話を続ける。


「この技は、相手の持ち物をランダムで奪う技だ」


[スティール]RPGではよくあるスキルだ。盗賊や暗殺者などが、主にレアアイテムを所持するモンスターからアイテムを奪うのに使用する。


「お前らの世界だと、魔法もスキルも無いって話だし、驚くのはしょうがない。見てもらった方が早いと思って使ったまでだ」


「なるほどな」


「ただ、よく考えてみてくれ。このスティール危険だとは思わないか?」


「――確かにな、集団で使われたら丸裸だし、一定距離まで近づくだけで使えるなら何時何時盗まれるかと、常に心配だな」


「おおぉ、良く分かってるじゃねぇか。それに簡単に盗めるって事は、それだけ盗みたくなる人も増えるという事だ」


確かに、これ絶対小学校とかでイジメ発生するスキルだわ……。

パトさんもソワソワしながらアンシェルを見つめる。


「そ・こ・で、この指輪だ」


腕を伸ばし、手の甲を机の中央にし指輪を見せてくれる。

宝石類は付いておらず、シンプルな銀色の指輪だ。


「この指輪はスティールを完全無効化してくれる!」


「「おおお!」」


此方の歓声を聞き、ニヤリとアンシェルが笑う。


「で、でもお高いんでしょう?」


パトさんが恐る恐る聞く。俺達は現時点で無一文なので、そう易々と手に入れる事は出来ない。

少し焦らすような間を空け、アンシェルが口を開く。


「何と! 無料(ただ)だ!」


「マジカ! いや、なんでだよ!」


「しかもこの指輪、ほんの僅かだが力や自然治癒力等、色々上がる。それに個人を特定する事ができ、身分証にもなる優れものだ。それが! ナント! 無料だ!」


「だからなんでだよ!」


興奮してちょっと強めに突っ込んでしまった。

まさか初回ログインボーナス的な? とふざけた事を考えていると――

「チッチッチ」と人差し指を左右に振ったアンシェルが続ける。


「興奮するのは分かるが、オレは驚いてスティールをしただろう? つまりだ、この指輪は着けてない人の方が、圧倒的に少ないって事だ。というか着けてない人を見た事が無い」


「つまり無料だから、みんなが装備していると?」


「その通りだ。冒険者ギルドでも申請が出来るはずだ」


なるほど、確かに全員が付けてれば、盗みを働くことも無くなる。無料なのも国の政策か何かで補助金でも出ているんだろう。

やばいな……今の俺達かなり無防備という事か。


「ア、アンシェルさん、指輪って左の薬指につけないとダメなんですか?」


パトさんは自分の指を気にし、少し抵抗があるようだ。確かに分からなくもない。


「いや、そんな事は無い。どの指でも良いというか、実は指輪である必要もなくて、親父は農作業の邪魔だからといって、足首にアンクレットとして付けている。ただ指輪は無料だが、他の形状にするには金がかかるがな」


なるほど、トムさん指輪してたっけと考えてたが、それなら合点がいく。

露出が高くなければ、着けてなくても誰も気が付かないな。


「良かったぁ……安心しました。アンシェルさん、ありがとうございます」


「おう、それと呼び捨てで構わない。あとアンシェって呼んでくれ、同年の奴らにはそう呼ばれている」


「ア、アンシェ……さん」


「お、おう、とりあえず[ル]だけでも取っておいてくれ」


「うむ、初対面で呼び捨てに出来る日本人は居ないよアンシェ」


「おま!」


「あははは」と笑うパトさん。場が少し和んだところで、その他にもいろいろ教えてもらう。

世界の事や、文明の事から、通貨価値、スキルや魔法の事も。




「時間もないし、かなり雑になったが、こんなところだ」


アンシェは自分の店もあるし、俺達もコアを換金した後に色々揃える時間が必要だからと、超スピードで説明してくれた。


「ほんと助かった。前の世界の金があげれたら、幾らでもやるんだが……あっ」


そう口にし眼鏡をクイッと押し上げようとするが、眼鏡は額の位置だ。


「アンシェ、これ使わなくなったんだが、色々教えてもらったお礼にでもならないかな?」


「ん? 眼鏡か。まぁ他に売っても良いって事なら貰っておくが」


「使用済みだし、二束三文にしかならないと思うけど、目が悪い人に回ればそれで良しだ」


「お、おう。――最後に一ついいか?」


眼鏡を受け取ると、少し声のトーンを低くしアンシェは真剣な顔をする。ゴクリと息を呑み俺達も表情が硬くなる。


「この世界に来た事をむやみやたらに喋るのはやめた方がいい」


「どうしてダメなの?」


パトさんが不思議そうにアンシェを見つめるが、彼は表情を変えず続ける。


「パトリシア達の世界では異世界人が多いのかもしれんが、こっちでは聞いた事が無い」


「大丈夫よ、こっちも聞いたこと無いもん」


「うん……パトさん、もし日本で人類と同じ様な見た目の宇宙人が紛れてるのが分かったら、どうなると思う?」


「あっ……」


パトさんの表情が曇る。


「そんな映画あったわね……確か何処かで監禁されて観察されたり、最悪は解剖されるとか……」


俺とアンシェがゆっくりと頷く。


「どうしよう! 拓人どうしよう!」


「パトさん落ち着いて。アンシェは危険なのを教えてくれるぐらいだから他に喋らないし、トムさんだって話さないさ」


不安そうな瞳の先に居るアンシェも頭を縦に振る。


「だから俺もパトさんも、宇宙人だと悟られないようにしないとな」


「うんうんうんうん」


真剣な表情で何度も頷くパトさん。

こういった彼女の裏表の無さが人を惹きつけるんだろうな。俺には真似しようとしても無理だ。


立ち上がりながらアンシェが「さてと」と声に出す。俺達も同様に立ち上がる。


「アンシェ、何から何までありがとな……本当助かった。この恩はいずれ改めて」


「おう、期待せずに待っておくさ」


握手をしながら感謝を伝え、雰囲気良く出口から出る。

えっと、ギルドどっちだっけ……。

太陽が眩しいぜみたいな雰囲気でごまかすが――


「……タクト、さっき説明しただろ?」


「あ、あっちがギルドだろ?」


「え、拓人こっちじゃないの?」


「パトリシアが正解だ」


「ぐぬぬ……」


ダメでした。そうなんだよな……地元から一番近い街ですら、駅地下で迷子になるぐらい方向音痴なんだよな……。

特別方向感覚が無い訳ではないと信じたいが、街に出るときは数少ない友人達と一緒だし、話してたら勝手に目的地に着いてるからなぁ。


「拓人いくよぉ」


パトさんはアンシェに一礼し、歩きだしてそう言うと、俺も手を上げ挨拶をし、彼女に続いた。





「ところで、良く分からなかったんだけど冒険者ギルドって何なの? 買取センター?」


「ん~、モンファンの集会場って言ったら分かる?」


「分かんない。でもモンファンは聞いたことがあるよ」


「うーむ、ちょっと待ってね」


一番分かりやすい例えが通じず、歩きながら考えるが、しっくりくる表現が思い浮かばない。

結果――


「俺の中のイメージだけど、ハロワとレストランと買取センターが合体したみたいな?」


「おー、なんか便利そうね! 仕事まで斡旋してくれるなんて……あ、うち一度やってみたい仕事があったんだ!」


「え?」


蒼い瞳を輝かせながら、日本ではお金あったしと続け――


「うち、刺身にタンポポ乗せる仕事したい!」


「あ、あるといいね! お、俺もやりたいぜ!」


「でしょ!」


何に惹かれたかは分からないが、ここで食用ウサギの件のように、光覆う闇となる事は避けたいので全力で肯定しておく。

そもそもタンポポじゃなくて、つま菊という菊の一種で、それだけをひたすら繰り返す仕事は無いって検証済みだったはずだが、そんな事を言っても誰も得をしない。


パトさんはルンルン気分で、今にもスキップしそうな雰囲気で歩いていく。


「拓人、あそこ見て、冒険者ギルドって書いてあるよ!」


「マジでか!」


少し見上げると、ひと際大きな建物の看板に[冒険者ギルド]と書いてある。


「あれ?……おかしいな」


「?」


「冒険者ギルドの看板だけ普通に読めない?」


「たしカニ♪」


両手のハサミを開閉する上機嫌な彼女の横で、歩きながら周りを見渡す。

看板の殆どが、ハングル語に近い意味不明な記号で書かれているが、冒険者ギルドだけはハッキリ書かれているのだ。しかも漢字付きである。


いや、屋台の値札やお品書きを見ると、[銅貨5δ]とか[バヴィξΘω]とか所々読める。

言葉みたいに、知ってる事がどんどん翻訳されていくのだろうか?

アンシェに頼んで、これなんて読むの?ツアー開催してもらえないかなぁ……。


「ここだね!」


「そうみたいだな……」


見上げると、3階建ての大きな木造の建物がそこにはあった。建物の外には、冒険者チームが数チーム居て、メンバー同士で話し合っているチームもあれば、チームのメンバー募集なのか手持ち看板を掲げているチームも居る。


「ねえ拓人! 西部劇によく出てくる半自動ドアみたいなのあるよ!」


「確かに。酒場の入り口みたいな感じだね……」


少し入りずらい雰囲気はするが、丁度出てきた人を見ても銃を持ってるわけでもないし、楽しそうにしている。危ない場所って訳でも無いだろう。


「まぁ、とりあえず入ってみるか」


「うん!」


こうして俺達は冒険者ギルドへ到着したのであった。


お読みいただきありがとうございます。

やっと冒険者ギルドに到着しました。


読みやすい小説になっているだろうか……。

先が気になる方が居るといいなぁ……。

ここまでで感想もしいただけたら、とても嬉しいです!

評価はこの先読んで面白いと思ったら是非おねがいします^^


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