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第10話:バニーガール?

お開き下さりありがとうございます。

カランカラン。


西部劇によく出てくる半自動ドアを押し開けると、頭上でドアチャイムの音がした。ドアが開くと連動して鳴る仕組みのようだ。

次にジュルリと隣から聞こえる。

そうなのだ。大き目のエントランスホールに入ってすぐに猛烈に良い匂いがする。右手側を見ると100は優に超える席に、冒険者だけではなく若者や御婦人達の姿もあり、食事中の楽しそうな声が聞こえてくる。レストランと伝えたのもあながち間違いじゃなかったようだ。


ゴクリと唾液を飲み込み、肉を焼いたような香ばしい匂いを我慢し、視線を正面に戻す。視線の先にはカウンターがあり、中に女性の職員らしき人が座っている。デパートの総合案内みたいな感じだ。

そこまで俺が確認すると、パトさんがフラフラっと歩き出す。


「あっ……あっ……」


砂漠で死にそうな時に、オアシスにたどり着いたみたいになっている。

この世界でも、もちろんお腹は空く。いつ村や町にたどり着くか分からない道のりを、何時間も歩きながらスライムとの戦闘を繰り返し、やっとたどり着いたトータス村。そして、やっと一息つける空間を見つけてこの匂いだ。空腹は一気に限界に達したようだった。

そういえばパトさんはロデオもしてたしな……。


「パトさん、パトさん、まずはコア買い取ってもらわないと!」


「うぁ? ――ハッ!」


彼女はふと我に返り頭を振った。

しかし、総合案内に向かい歩いてると徐々に顔がだらしなくなっていく。

まずは食事優先だな。夕刻まで少し時間があるのか、店内は割と空いている。


カウンターに辿り着くと、清楚な制服の女性が綺麗なお辞儀をした。犬耳(・・)だ。

人間が犬耳でコスプレしてるのかと思うぐらい、人間に近い獣人だ。大人びた雰囲気なのにとても可愛い。


「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう?」


「え、えっと、これを買い取ってほしいのですが」


ズボンからスライムコアを取り出し、カウンターに乗せる。


「買取やクエストの受注、メンバーの募集等、メインの冒険者ギルド業務はあちらに見える入口の中で行っております。あちらからお願いします」


「あ、ありがとうございます」


笑顔かつマニュアル通りのような対応を受け、恥ずかしくなりコアをポケットに戻し足早に離れようとするが、疑問を抱き向き直る。


「えっと……ココは?」


「ホテルになります」


俺が話す度に少し耳がピクっと動き、彼女がニコっと笑う。


「な、なるほど……ありがとうございました」


今度こそ足早に指示された方へ歩き出す。

うわぁ、あれだ。田舎から都会に出てきて、右も左も分かんない系男子って思われたな。


「拓人待ってぇー……」


ここに女子もいたか。

フラフラっと歩く度に揺れる薄い黄金(こがね)色の髪も、普段は美しく感じるが、今は霊的な雰囲気を纏っていて少し不気味だ。

にしてもホテルか、冒険者ギルドはいつの間に進化したんだ。

まぁ実際に見た事なんて無いけどね――



「ここか……」


「う、うわぁ……」


そこには禍々しい入口に[冒険者ギルド]と書いてある。暖簾(のれん)の奥は薄暗くなっている。

これは入りにくい。施設内のここだけが異空間のようで、例えるならレンタルショップの18禁コーナーといった感じだろうか……違うか。


「拓人、ここ18禁コーナーみたいで入りにくいね……」


「おっ、お、おう」


「何びくついてんのよ……うちが先に入ろうか?」


「いや、大丈夫だ……」


こういう時、頭の中を読まれたかと焦るのは俺だけだろうか。

流石に女性を先に入らせるわけにはいかない。何が流石になのか良く分からないが……。

恐る恐る暖簾(のれん)を潜ると――




バニーガールと目が合った。



「あ、いらっしゃいませ~」


「ど、どうも」


「えっ? どうなってるの?」


目が合ったバニーガールは、飲み物を運ぶ途中だったらしい。奥にいる客に渡している。

どうやら入口付近は酒場のようだ。奥のカウンターに制服の職員が座っているので、そちらがギルドの受付だろう。

遠目からもはっきりと分かる長い耳。職員もバニーガールだ。


「あなた達、はじめてかしら?」


入口で辺りを見渡していると、先ほどのバニーガールが声を掛けてくれた。


「はい、初めてで……これの買取をお願いしたいのですが……」


「そういう事なら、あちらへどうぞ~」


「あ、ありがとうございます」


指示された方は、やはり先ほど確認したカウンターのある場所だった。俺達はお礼を言って歩き出す。


それにしても中は禍々しい入口からは想像できないぐらい落ち着いた雰囲気だ。時間帯の所為なのか、人はそう多くはない。なんの変哲もない夕刻前の酒場(バー)といったところだろう。

ただ、全員が俺達を見て何か話している点を除けば……。


「目立っちゃってるよね……」


「うん、さっさと売って身なりを整えないとな……」


カウンターへ到着すると職員が話し出す。


「わぁ~……凄い恰好ね! あなた達、初めてかな? あー答えなくても分かる分かる。とりあえずそこに座ってね~」


慣れない雰囲気で察したのか、俺達の恰好を少し気にしているが、愛想よく対応してくれる。

ウェイトレスの子とは違い制服を着てる為、バニーガールと言うよりもウサ耳の獣人と言うべきか。

俺達は、指示された店内の雰囲気にマッチした濃い茶色の丸椅子に座る。


「えっと、色々聞いちゃいたい気持ちは抑えましてっと……ご用は手に持ってるコアの買取かな?」


俺の手に持つコアに一度視線をチラリと向ける。


「は、はい。いくつかありますが、此方で買い取ってもらえると聞きまして……」


ホテルの職員とは打って変わって、フレンドリーで親しみやすい。


「いいねぇ~、最近みんなダンジョン攻略に夢中でコアの買取少なくなっちゃっててね。あー、買取カウンター本当はあっち側なんだけど、コアだし面倒なのでここで買い取っちゃいましょう」


買取カウンターと話す方を見ると、違う職員が別途対応中のようだ。


「ありがとうございます。コア以外だとあちらで?」


「えっとねぇ~」


その後、本来の買取の流れを聞く。

通常の手順だとアイテム査定用の機材を使う。それはどんなアイテムでも鑑定できてしまうらしい。

ロストレガシー(・・・・・・・)なる技術で、なぜ鑑定できるか職員もよく分かってないのだとか。

とりあえずコアに使う必要はないようだ。


「お~出てくる出てくる……全部で16個ね!」


二人で頷く。

全てポケットから出し、カウンターに並んだコアを見ると、透明なビリヤードの玉が整列しているようでとても綺麗だ。


「なんか売るの勿体ないよね」


「うん。でも、また取りに行けばいいさ」


俺達が少し残念そうにそう言うと、1つずつコアの透明度を確認していた職員が慌てる。


「えっ、これあなた達が手に入れてきたんですか?」


「はい、そうですけど……」


「スライムを倒して?」


「はい……」


「マジか~! 私はてっきり誰かに……ハッ! 深く詮索したらダメなのよねっ」


聞くと、半年前のダンジョン発見以前は、少ない常連だけが通う酒場兼冒険者ギルドで、和気あいあいとした冒険者に寄り添ったギルドだったらしい。

しかし、ダンジョン発見後は冒険者が急増し、古参贔屓(こさんびいき)だのプライバシーの侵害だのと、新規加入者や遠方から来た冒険者からクレームが来たとのことだ。

その後、ギルドの本部から(しつけ)部隊なる連中が来て、説明会を開き冒険者対応方法が一新されたようだ。

その割にはフレンドリーさが大いに残ってる気がするが……。


「(ほら後ろで見てる人いるでしょ? 今も残ってる一部の躾部隊に監視されてるのよ)」


「な、なるほど……」


小声で話す職員はマークされているらしく、常に監視下に置かれているようだ。

後ろには、さきほどから腕を組んで鋭い眼光で此方を見つめるメガネのウサ耳獣人がいた。


「ギルドの職員さんはウサ耳の女性じゃないとダメなんですか?」


パトさんが唐突に質問する。確かに……よく見ると、この部屋の職員はバーのマスター以外ウサ耳の女性だった。

たぶん大企業や女子アナとかで、顔採用(・・・)ってよく叩かれてるやつと一緒か……。

村で見た限り、この世界の女性は綺麗な人が多いので、耳採用(・・・)なるものが有るかもしれない……。


「(あ~、あなた達も思っちゃいます? あんまり言ったらダメなんだけどね……)」


小声でそう言うと、自身の耳を撫でた後――




耳を取ったのだった。


『えええっ!』


俺とパトさんの声が綺麗に重なった。


「あはっ、あはははは!」


「――レミさん!」


「す、すみません先輩……」


笑う職員に怒る職員。場が静まり返ると躾部隊の先輩は元の位置に戻るが、眼光はさらに鋭くなっている。


「(でしょ? こうなるのよ)」


ウサ耳を元通りにし、話を続ける。


「ダンジョン発見に伴いホテルとレストランが増設されたんだけど、あっちは耳採用(・・・)してるわけ。こっちは今更職員の総入れ替えなんて出来ないし……ということで耳着けるしかなくなったわけよ」


耳採用……実際にあるようだ。確かにホテルの受付が犬耳で、レストランの店員が猫耳だった。

職員のレミさんは、そう言いながらも割と気に入ってるらしく、耳をなでながらニコニコしている。


「えっと、次に相場をしらべなくては!」


レミさんは、遊んでいないぞ! と先輩に聞こえるように声を大きくする。

しかし、相場を調べながら、此方に顔を近づけさらに続ける。


「(でもね、先輩は本当のウサ耳なのよ。それもあってか地獄耳な――)」


「レミさん! さらっと個人情報を漏らさない!」


「ハイ! スミマセン! ――(でしょ?)」


『あははは……』


二人で苦笑いをしつつ、レミさんはこの先もきっと、何を言われても変わらなくフレンドリーなんだろうと思うのであった。



この世界では、ファンタジー世界でよくある獣人差別はきっと無いのだろう。

獣耳(けもみみ)コスプレの好きな人も堂々と街を歩ける。

そういえば、昔オンラインゲームで皆でウサ耳着けたなぁ……懐かしいな……。


ふとパトさんを見ると、パトさんも同じようにして目が合う。

パトさんも耳つけたら可愛いかなぁ……。


そんなこんなで、買取は進んでいくのであった。




お読みいただきありがとうございます。


冒険者ギルドの雰囲気いかがでしょうか?

あれこれ考えていたら、複合施設になりました。

説明回なのか耳回なのか。


次回はついに魔法を!?


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