第11話:個人情報保護法
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[冒険者ギルド スライムコア買取中]
コントのような会話をいくつか繰り返している間に、いつの間にか俺達の少し後ろには10人ほどの人だかりが出来ていた。
後で知る事になるが、この人達は古参冒険者であり、レミさんと先輩の掛け合いや、慣れない訪問者との絡みを肴に飲むのが近頃のトレンドなのだとか。
「えっと、1個辺りの値段が……だから~、だけど最近の上昇傾向を考えると……」
どうやら需要と供給にあった査定をしてくれているらしい。
原油先物価格、金の取引価格など、FXで生計を立てていた身としては興味が湧いてしょうがない。
速く買い取ってもらいたいのだが、つい口を挟んでしまう。
「売る人が少ないと、買取も高めになるんですか?」
「もちろんよ~、ギルドは基本的に買取った額でそのまま商人へ流すんだけど、あまり安いとすぐに在庫が無くなっちゃうので、こちら側で調整してるんですよ。それに高く買わないと直接商人に売る人が増えて、モンスターの討伐状況を把握できなくなっちゃうのよ」
なるほど、討伐状況の把握か……確かアンシェも言っていたな。
「でも、買った値段より相場が下がってしまうと、損しちゃうのでは?」
「そうなのよねぇ~、たまにそんな事もあるけど、そこは上手い事やってるのよ」
こちらの質問に答えながらも、そろばんに似た道具を使って器用に計算している。
直ぐに計算が終わり、その道具をこちらに見せる。
「1個辺り680ペサになりまして~、今回の買取額は1万と880ペサです」
「は、はい」
そう、ここの通貨単位は[ペサ]だった。
計算機の見方はサッパリ分からないが、1万越え……なかなか良いのでは?
アンシェに教えてもらった感じだと、1ペサが丁度1円ぐらいの感覚だった。
目の前には、銀貨5枚と銅貨8枚、鉄貨8枚が並んでいる。
銀貨や銅貨など種類は教えてもらっていたが、実物は初めて見る為、興味深く顔を近づけ見ていると――
「どうかしたかな~? 結構高めだと思いますよ?」
「あっ、大丈夫です」
後ろからも「結構値段あがってるな」とか「俺もスライム狩ろうかな」などと聞こえてくる。
高めにも関わらず、不満に思っていると勘違いされたみたいだ。
「ではこちらに認証お願いね~」
そう言ってカウンターの隅にあった、認証機械を俺達の目の前に移動させる。
「えっと……」
困ってパトさんの方を向くが、彼女も、もちろん首を振る。
ですよね……。
レミさんも何故か不安そうな顔をしている。
と、そこで、後ろに居た褐色のスキンヘッドが、パトさんの隣で口を開く。
「嬢ちゃん、そう首を振るなって、十分な値段だぞ?」
「えっと……そうじゃないの……」
レミさんの不安な顔も、褐色のスキンヘッドも不思議そうな顔に変わる。
「そしたら、嬢ちゃんは何が不満なんでえ?」
「えっと、不満というか、ただ認証の仕方が分からないというか……」
「え? どういうことだよ」
そう答えながらパトさんの方から俺を向くが、俺も頷くしかなかった。
「そりゃおめえ、そいつの上に指輪かざすだけだろうがよ?」
「俺達、その指輪が無いんだ……」
『えええええええっ!!』
先輩も含む全員が驚いている。
やはりそうなってしまうのか……。
「その様子じゃ……家に忘れてきたって訳でもなさそうだな……」
やはり、ある程度は状況を話すしかないか……。
その後、転移は伏せたが、魔法の所為なのか、二人とも記憶は無く、殆どの事がよく分かっていない事を話した。
古参冒険者含め、レミさんも先輩も興味深々といった感じで、いくつかの質問に答えると、その度に新鮮なリアクションが起こった。
冒険者からは「それは災難だったな」「分からない事があれば教えてやる」等、暖かい言葉を頂いた。
結局買取はというと、認証を行わず、後で認証する旨の書類にサインしてお金を受け取った。
(文字が読めなかったので、軽く説明を受けたまま流れでサイン)
指輪の登録は行ったのだが、指輪が完成するまでに2日かかるらしく、後での認証となったのだ。
「ありがとうございました!」
立ち上がり周りを見ると、みな笑顔で頷いたり、親指を立てたりしてくれている。
とても暖かい雰囲気で嬉しいが、個人情報の保護とか一切なく、笑ってしまう。
カウンターを離れようとした時に、ふと脳裏によぎった。
「あ、レミさん、魔法ってここで覚える事って出来るんですか?」
「えっ? ――そっか~」
レミさんは少しビックリしたあと、納得した。
後ろから「おー、ほんと何も知らない」「俺にもそんな時期が……ありました」なんて声が聞こえる。
「えっ?」
俺が戸惑っていると、レミさんが続ける。
「覚える事が出来るか分からないけど、講師の方を呼ぶことは出来るよ~。ただ、少し高いのと、指輪が出来てからになるかな~」
雰囲気的に、誰でも魔法が使えるわけではなさそうだ。
「おい兄ちゃん、名は?」
先ほどのスキンヘッドが突然、名前を聞いてきた。
人の名前を聞くときは、自分から名乗れと言うが、俺はそんな細かい事は気にしない。
「タクトだ。相方の名前はパトリシアだ」
「ほう……ワシの名前はランボルだ。このギルドの顔役みたいなもんだ」
俺の身長を、軽く超えている為、少し見上げながら握手をする。
「ところでタクト、お前は杖持ちか?」
「いや、杖は持ってない」
「……あーそうだった、聞いたワシが悪かった……」
そう言うと、「おい」と他の冒険者に声を掛ける。
その冒険者はランボルに向かって、一本の杖を投げ渡した。
「ワシが今から、お前をこの杖で攻撃する」
『えっ?』
「あー、心配するな。俺は杖持ちじゃねーし、この杖なら怪我する事は無い」
「お、おう」
杖持って、杖持ちじゃない?
まったく意味が分からんが……怪我しないならいいか……。
「もしかすると、魔法が覚えられるかもしれんぞ」
そう言うと、ひと呼吸置き、ランボルは口を開いた。
「でえええぇやああああ!」
すると、突然俺達の真下から真上に突風が吹き荒れる。
扇風機の強風程度だが、何もない地面から天井に向かって風が発生している。
『おおおおおおおおお!』
「すっげー!!」
「すごいすごい!」
「せ、せやろ」
冒険者の皆も大盛り上がり。
中には少し恥ずかしそうにしている人もいる。
なんとなく、皆の視線の先を追うと……。
パトさんの個人情報が、駄々洩れだった。
「パトさんパトさん、下、下」
「えっ?」
その日一番の、かん高い声に、野太い声が追従するのであった。
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