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ep.59 トキ、スデニ満チテ

季節は巡り、ついに卒業式を迎えた満。


お世話になった先輩や、

大好きな先輩へ

涙ながらに門出を見送る。


そんな時、ふと「彼」の声がきこえて……

「あ、私ファンクラブの子にもお別れ言わなきゃ。じゃあまたあとでね、みっちゃん」


手を振る彼女を見送るように、僕も手を振り続ける。

あっという間に見えなくなった彼女を惜しむ暇もなく、僕は走り出していた。


空はただ青く、雲ひとつ無い快晴。

眩しい太陽の光が窓からさしていて、場所によっては眩しくてつい目を細めてしまうくらい。

行くところ、行くところ、三年生へお別れの言葉をかける一、二年生の姿がある。

そんな人達に目もくれることなく、見えもしない、聞こえもしない存在を探していた。


「会わなきゃ……ミミルに……」


卒業の悲しみさえ惜しむ暇を与えてくれない、彼はいじわるだと思う。

なぜ僕がこんなにも探しているのか、言うまでもなくあの声が聞こえたからだ。

契約終了。

それはつまり、僕とミミルの終わりを示す言葉だ。

だけど言葉で片付けるには簡単すぎて、それだけで済ますには重すぎて抱えられなくてー……


「まさか、本当にあれでお別れ……とか言わないよね?」


最近、やけにミミルのことを思い出す。

合唱コンクールの時も、春夜先輩の悩みを聞いた時も。

きっとそれは、力を貸さないと言ったせいだろう。

リアム先輩達と出逢えたのも、話すきっかけが出来たのもすべてミミルのおかげだというのに。


思えば、いつも彼に振り回されてばかりだったな、なんて考えてしまう。

出会った時から彼はめちゃくちゃで、彼のきまぐれのせいで大変なことがたくさんあった。

けれど、いつもまっすぐ道を示してくれた。

不安だらけの僕に、自信や勇気をくれて……

ミミルは僕にとって、まるでー……


「………ミミル……どこ……?」


ずっと走っていたせいか、息があがってしまう。

足を止め、息を整えていたそんな時だった。

室内に、青い、小さな光があるのをみつけたのは。

その光に、見覚えがあった。

まるで導かれてるようだ。


そんな光をたどるように、ゆっくり中へ入ってゆく。

青く発光していたのは一冊の赤色の分厚い本で、題名は書いていなかった。

この現象……間違いない。だって、これはー……


「ミミル………いるの?」


誰に言うわけでもない。

僕は誰もいない図書室の中で一人、その本を手に取りー


『あーあ、ばれちゃった。やっぱお前はあなどれないね、満』


急に声がする。

懐かしくもあり、探していた彼の声だ。

だけどどんなに辺りを見渡しても、彼の姿が見えなくて……


『目を閉じて』


不安できょろきょろしていた中、また彼の声がする。

僕は言われた通り、その場で目を閉じた。


『そのまま、ゆっくり開けろ』


目を開けた途端視界に飛び込んできたのは、真っ白でなにも無い世界だった。

あったもの全てがなかったもののように消えていて、何もない中、僕だけが宙に浮いている感覚でー


「えぇぇぇぇ!? なにこれぇ!!?」


『相変わらず反応だけは一丁前だな』


ぱっと顔を上げると、そこにはミミルがいた。

久々に見た彼の姿にブワっと、懐かしさが込み上げてくる。


「ミミル! やっと見つけた! これ何!? 一体どういうこと!?」


『ここは俺が作り出した仮想世界。本当は作る気なかったんだけど、お前があまりにもうるさいからさ』


「だってミミル、さっき今日限りで、お前との契約を終了させてもらうって言ったでしょう? それってどういう……」


『言葉通りの意味だよ、赤羽満。今日限りでお前とはお別れだ』


言葉の重み以上に、ずしりと大きくのしかかってるそれは、僕の覚悟していたものと全く同じだった。

いつかは来ると思っていた。

とはいえそんな話題が彼から出てきたことはなかったし、こんな前ふりなく急に言われると、どうしていいかわならなくて……


「なん……で……どうして急に……?」


『もともと俺を呼び出したのは、退学を免れたいという目的だったことを忘れてない?』


確かに、そうかもしれない。

ミミルを呼んだきっかけはまぎれもなく、強制恋愛法だ。

それもなくなり、彼女もできて、これでもかってほど幸せを味あわせてもらった。

それにはすごく感謝している。

でも……


「だからって何も言わずにお別れしようとしたの? ひどいよ! 僕、ミミルに言いたいこと、いっぱいあるんだよ? お礼だって、謝罪だって……それができないままお別れするのは、嫌だよ!! 急にいなくなるなんて、そんなのずるいよ……」


『お前がそんなんだから姿見せずにさよなら〜っていう風にしたかったのに……わがままな奴だな』


なんとでも言えばいい、そう思った。

僕は弱い。雲雀先輩を見送るのだって、泣かないように頑張って頑張って、結局泣いてしまった。

彼女とはまた会える。そう分かっていても寂しい。

逆に、ミミルにはもう二度と会えないかもしれない。

そのことが分かっているはずなのに、平然と姿を消そうとする彼が、僕には耐え難くてー……


『……お前だって、分かっているはずだ。以前から俺の姿が見えたり、見えなかったりしたことを』


彼に言われ、ちょうど冬休み明けのことを思い出す。

生徒会の時に力を使いすぎた、とかで休みたいとか言っていた時、だったかな。

あの時は疲れているのか、なんて思っていたけど……


『それ以前に、俺は生徒会の一件後もお前の前に現れたことがある。だがお前は、俺を認識しようともしなかった』


「そ、そんなことな……!」


『俺の姿が曖昧にみえる。それは、お前がフィオーリを必要としていない証拠だ』


信じたくなかった。実際僕は、ミミルがいなきゃ何もできなかったから。

実際に彼の姿を見えたり、見えなかったりしたことは紛れもない事実だけど……

知らなかった、僕は無意識にミミルがいなくても大丈夫なようになっていたってこと……?


『だから俺は、お前を試した。フィオーリが消えても、一人で物事を乗り越えていけるか』


「え、それってもしかして……」


『相良虹己に隠された過去の呪縛、藍沢恭弥も知らなかった彼女の悩み……すべて、俺が仕組んだ罠のようなものさ。それをお前は見事合格した……それは昔のお前じゃできない、今のお前だからこそできたことなんだよ』


まさか、そんなことがあるだろうか。

しばらく休む、その言葉がきっかけでミミルを頼っちゃいけないと一人で頑張らなきゃって思っていたのに。

でもあれが全部試験だったというのなら……合唱コンクールでの裏工作に納得がいく。


虹己君を伴奏者にすることで乗り越えられるかどうか。そして、恭弥君にさえいえなかった春夜先輩の悩みを聞いた僕が、どう行動するかー……

きっと彼女達の話をタイミングよく聞いたのも、彼の影響だろう。じゃなきゃ、あんなに偶然が重なったりしない。

じゃあ僕は自分でも気づかないうちに、ミミルの思惑にまんまとはまっていて……


『そういうわけだ、赤羽満。俺はもう行くよ』


(ツヅク・・・)

もう3月、と同時に

この作品も連載から1年経とうとしています。


次回が最終回、ということで

ついにその時がやってきましたが、

前回も今回も、ミミルとの出会いや、

やってきたことを思い出すような回になってます。

…え? 覚えてない? しょうがないなぁ。

ではep1から読み直してみましょう!笑


次回、10日はいよいよ最終回。

どうか、最後まで見届けてくれるとありがたいです!

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