邪魔2
シピは不機嫌だった。
フランクはまだあのリルとかいう犬獣人の所にせっせと通っているらしい。
最初はあの人間が何とかしてくれると思っていた。だが、彼も積極的にフランクを招き入れている。どうやら友達になってしまったようだ。
別にフランクが人間の男の人と仲良くなるのは問題ない。
でも、それと、あの犬獣人と仲良くするのは別だ。
前に厳しく言ってやったのに、全くダメージを受けた様子もない。ミーアに引っ掻かれる覚悟でもっといじめてやるべきだろうか。
「あいつ……」
怒りを込めて呟く。
ミーアに文句を言ってやろうかと考える。それが一番楽で手っ取り早い方法だろう。でも、『うちの妹に何の文句があるの?』と怒る可能性もある。
それにミーアは最近将来の事で先生とよく喋っているのでなかなか捕まらない。よく分からないが上の学校に行く事を考えているらしい。それなら行きますと言って終わりではないだろうか。この地域の女子が進学する学校は基本的に一つだ。
もしかして、と考える。もしかしてミーアはフランクと同じ学校に行こうと考えているのではないだろうか。だから先生と揉めているのだろうか。
だったらミーアも要注意だ。上の学校でまで一緒なんて許さない。
やっぱり文句を言ってやりたい。
ブツブツ言いながら小道を行く。
それでよそ見をしていたのだろう。シピは正面から何かにぶつかった。
「ちょっと、痛いじゃないの!」
よそ見をしていた自分が悪いのは分かっていたが、びっくりしたのでとっさにそんな言葉が出る。
そして目の前にいた人を見てついきょとんとする。彼は人間だった。
人間は珍しい。ミーアの家にいる人間の知り合いだろうか。でも、なんとなく違うような気もする。
「ごめんね、お嬢ちゃん」
人間の男はシピを安心させるように笑う。
「前くらい見なよね、おじさん」
それでもシピはまだ苛立っていた。なのできつい言葉をかける。男はまた謝ってきた。
「でも、お嬢ちゃんもよそ見してるように見えたけど」
考え事しながら歩くのはよくないよ、と叱られる。きっと彼もそうなのだろうに納得がいかない。
「だってムカつくことがあったんだもん」
つい言い訳をしてしまう。
「ムカつくことって?」
男には関係ないだろうにしつこく聞いてくる。
こんな意味の分からない人間のおっさんに話した所で物事が解決するわけではない。でも、多少ストレス発散にはなるかもしれない。
だからシピは話した。さすがにリルの名前は出さなかったが、猫獣人と犬獣人のハーフの子がシピの好きな男の子に付き纏っていて困ると言った。実際にはアタックしているのはフランクの方だが、そんな細かい事はこの男には分からないはずだ。
「へぇー。そんなに人気な男の子なんだ。どんな子なの?」
このおじさんは少年趣味なのだろうか。それとも好奇心だろうか。前者ならライバルが増えてしまうがきっとそんな事はない。間違いなく後者だ。
「彼はサビ柄で背が高くてとってもかっこいい子なの! 顔だけじゃなくて頭もいいの。スポーツもうまいし……すっごく素敵なの」
フランクの容姿を思い浮かべながらうっとりと説明する。
そして、やっぱりリルは邪魔だと再認識する。
「あーあ。なんかあってあの子が遠くに行けばいいのに」
つい愚痴ってしまう。そうなればフランクにアタックしやすくなるはずだ。もしかしたら、いつか両思いになるチャンスもあるかもしれない。それをあの犬が潰しているのだ。
あの犬がフランクに媚びている所を想像して嫌な気持ちになる。だからこそ愚痴もたっぷり出てくる。なので心の赴くままにリルの悪口を言いまくってやった。
そんな話をしていたらいつの間にか大きな道に出ていた。人通りも多くなった。シピの愚痴は聞かれていないだろうか不安になるが、犬獣人の話なので問題ないか、と思い直す。
これ以上この男といるのも良くない。怪しげな人間とずっと一緒にいたら変な噂を立てられてしまうかもしれない。
「ありがとうね」
なのに、男は小さな声でそう囁いてきた。何のお礼なのだろう。怪しい。誘惑されているのだろうか。でも断って刺激してもいいのかどうか分からない。だから曖昧に笑って返事をしておいた。あとは彼が適当に解釈をしてくれるだろう。
そう考え、シピは家に向かって歩き出した。




