言いつけ
ミーアは早朝のわりと涼しい風を堪能していた。
最近はいつもより早めに登校する事にしている。この学校を卒業した後の進学先を変えるかもしれないので、授業が始まる前に自習をしているのだ。
最初は成績のいい女子猫獣人が行く学校に行こうと思っていた。でも、もっと勉強したい事が出来たのだ。その学校ではそれは学べない。だから別の学校に行こうかと考えているのだ。
目指そうと少し考えているのはかなりレベルの高い学校だ。いろんな種類の獣人が通う学校。当然入学のために試験を受けなければいけない。
今年中に進路を決めてから、来年一年頑張って勉強してもいいと先生には言われている。ミーアの今の成績ならそれでも受かるだろう、と。でも、やっぱり心配なので朝に学校で集中して勉強をするのだ。
学校に行けば、先生に進路相談に乗ってもらえたり、いい本を貸してもらえたり、受験指導をしてもらえたりする。そうでなくても、誰もいない教室で集中して勉強が出来る。
そして、今日はそれだけではない大事な用がある。フランクに会って、家へ誘うのだ。
フランクはミーアとは別のレベルの高い学校を目指しているらしい。それでもミーアと同じ受験生だ。だからお互い忙しくしていてなかなか学校でも会えないのだ。
なので、ミーアは登校時を狙う事にした。
クレオパスからは何故か一昨日に『ここ数日は早朝登校をしないで欲しいし、寄り道をしないでまっすぐ登校して欲しい』と言われたが、昼間ではフランクが捕まらないのだからどうしようもない。それに勉強はしたい。
クレオパスの事を考えると頬が緩む。事実上、クレオパスはミーアを選んでくれたのだ。そして、これから二人でリルの悩みを解決するために頑張って動くのだ。『一緒に』動くのだ。
そう考えると顔が熱くなってくる。『うふふ』という声まで漏れてしまった。
フランクの家からは正門はちょっと遠い。なので裏門から登校している事をミーアは知っている。だから門の近くの小道で待ち伏せる事にした。
「あ、いたいた。フランクくん。ちょっといい?」
少し待っているとフランクが登校して来た。ミーアはすぐに呼び止める。
「ミーア、どうしたの?」
「ちょっと話があって。ほら、最近お互い忙しくて会えないじゃない?」
素直に答える。
「話って?」
「また遊びに来ない? 話したい事があるの」
「え!?」
「クレオパスさんが」
「ああ……」
露骨に焦って、露骨に安堵するのはやめて欲しい。かなり失礼だ。でも、逆の立場だったらミーアも同じ反応をしたかもしれない。
ならまあいいかと思う事にする。
「いつ?」
「明後日かしあさってくらいのいつもの時間かな? 今日や明日じゃ急でしょ?」
「明後日ならぼく空いてるよ」
「分かった。伝えておくから」
わりとすんなり話が進む。正直ありがたい。
「リ、リルちゃんもいるかな?」
「……いるけど」
こそこそと気になっているらしい事を囁いてくる。もう呆れるしかない。
まだフランクがリルを無意識にいじめた可能性というものがあるのだからあまり妹に近づかないで欲しいが、それは仕方がない。明後日、クレオパスが、リルの奇行の原因を尋ねてくれるだろう。
話がまとまったのでホッとする。あとは学校に行くだけだ。でもフランクと一緒に登校したりはしたくない。そんな事をしたらフランク目当ての女の子がうるさくなりそうだ。
だから裏道を回って正門に行くことにする。
「別に裏門から入ればいいのに……わざわざ正門に行かなくても」
フランクは呆れているが、嫉妬に狂った女子は何をするか分からないのだ。好きでもない男子の事で敵に回したくはない。
『とっても悲しいけど、この子の方がお似合いだから譲るわ。くすん』という子もいるらしいが、そんな子には小説の中でしか会った事がない。
だから誤解されない方がいいのだ。
というわけでミーアはさっさと小道に入った。
早く学校に行って勉強がしたい。そう思って急いでいると、いきなり腕を掴まれる。
「ニャ!?」
びっくりしてつい声を出してしまった。
顔を上げる。ミーアはいつの間にか、たくさんの人間の男達に囲まれてしまっていた。




