何処にも行かないで
ぴちゃぴちゃと、水溜まりの上を歩き回ります。そしてぐるりとその場で、でんぐりかえってみました。
『これで、大丈夫かな。』
確かに、身体中がしっとりと濡れました。すると急に身体が冷えて寒くなってきます。
# ブルブル、ブルブル
『ああ、駄目だ、いつもの癖で水を振るい散らしちゃうよ。何か良い方法はないかな。』
そして、また、色々とうろつき始めます。
それから、暫くしてでした。
“ん、なに?、冷たいよ。”
“ネズミさん、ネズミさん、気がついたかい?、水だよ、分かるかい?”
子兎は、濡れた布の上に乗って踏み付けています。どうやら、水溜まりに雑巾を引っ張って、濡らして持って来たようです。
「ああ、アンタだったんだ。これは水だね、少し気分が良くなった気がするよ。」
ハムスターは、横たわったまま、うっすらと目を開けました。
「いったい何が起こったんだろう?、こんな事は初めてだよ。」
「そうなんだ、ネズミさんにも分からないんだ。」
店内は、非常灯の明かりがあるだけです。もう、表の道路にも車も人も往来していないようで、ひっそりと静まり返っています。時折、隣の部屋から生き残っている動物の哀しい声がかすかに聞こえています。
「元気は出て来た?、また何か食べ物を探して来ようか?もっと良いものがないか行ってくるよ。」
そう言って、再びその場を離れようとしました。
「ま、待って、何処にも行かないでおくれ・・・もう、淋しいのは嫌なんだ。水をくれたお陰で少し元気になったよ。それよりどうだったかい?、人間の家の中は、良かったかい?、愉しかったかい?」
「それが、途中で止まっちゃたんだよね。」
「人間達とはあったんだよね?、人間の住んで居る世界はどうだったかい?」
「ああ、大きな物が溢れているよ。騒々しくて、あちこちで煙が出ていて、沢山の水が吹き出している所もあったよ。でも、君が言っていた程人間を見なかったよ。それから、キツネくらい大きいうるさい奴に遭って、追い掛けられそうになったよ。人間の世界って、何処まであるのか分からないよね、僕が住んでいた所とかわらないくらい大きそうだね。ネズミさんは、知っているんだろ?」
見るとハムスターは、また静かにうつむいたまま横たわっていました。
“ネズミさん、ネズミさん!”
それでも、まだうつむいたです。子兎は、再び濡れ雑巾の上に乗って、踏み締めます。すると、ハムスターは、またその冷たさに気が付きました。
“つめ・・たい・・アタイを起こすのは、誰だい?”
しかし返事をするこの声は、偽りなのです。いえ、本心のハムスターなのです。
“ネズミさん、ネズミさん、大丈夫?”




