地の文による決着
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本当のところ。
歓喜の目を浮かべているのが地の文で。
驚愕の意を現しているのが大宮だ。
「な、ぜだ、何故物語が終わらないっ? いや何故この状況が書き変わらないっ!?」
大宮が信じられない状況にぶち当たったのかのように、思わず悠哉にも聞こえるようにそう言ってしまう。
そう。
結局、物語は一時停止することが無かった。
つまりは大宮配下の地の文も干渉できず、何の変哲のない、大宮が追い詰められた物語を紡ぎ続けている。
「なん、なんだお前は」
大宮はそう地の文に問いかけた。
「僕は葛城悠哉。依頼に下がって、あなたと交渉に来た」
状況を把握していない悠哉のボケた解答など耳に入ってこない。
と、そこで大宮はやっと気付く。
「地の文が気絶したのに、描写が続いている……?」
ということに。
つまりは。
「今のこの物語の地の文は、お前ではなかった……? どうなっているんだっ!」
…………あなたっ!
やっ、と、さる わぐつを、とい、たのか、彼女のこ、えが、部 屋にひびい、た。
……あ、やべえ。これ前兆じゃね?
……ホントだ。おい、冷却スピードを上げろ、このままだとまたやるぞっ!
「今の地の文は、誰なんだっっ!」
……『TINOBUN2』じゃ。
……教授っ! だからそっちに行かないで下さいっ!
……いやじゃいやじゃ、わしの愛娘を紹介するんじゃーっ!
……おい手の空いてる奴は、氷をビニールにいれて持って来いっ! なんとしてでも戦いが終わってラブコメが始まるまでは持たせるんだっ!
「『TINOBUN2』、だと……? そういう事かっ!」
大宮はやっと気付いた。
地の文は、事前にこの物語の地の文としての権利を他人に預けておいて、言うなればこの物語の登場人物の一人としてここに立っているということを。
そのせいで、今までは無かった『地の文の行動が地の文で描写される』という事態が起き、結果的に大宮の地の文干渉が失敗に終わったということを。
「あぁぁぁあああああああ、こうなったら私が狙撃の時と同じように直々に干渉してくれるわぁぁぁぁああああああ!」
狂ったように叫ぶ大宮だが、しかし大宮は一人の登場人物を忘れていた。
「大宮宗太郎。とりあえず話が通じ無いようだから、とりあえず警察に捕まれ。それによってこの『組織』が壊滅した後で、話は聞いてやる」
今まで完全に意識の埒外だった悠哉の言葉に、大宮は少し慌てて。
「ちょ待っ」
「待たない」
律儀に答えた悠哉によって、意識を刈り取られた。
……よし終わったぞ撤収ーっ!
……あの地の文が全員に焼肉奢ってくれるって言うからな、あとでまとめて食いに行こうぜー?
……まとめてなんかいったらあいつの財布がすっからかんにならないか?
……知らん知らん。あいつが言い出したんだから。それよりももうすぐ来るぞ?
……何が?
……やめろー、わしの愛娘を連れていくんじゃないっ!
……ああ、なるほど。
……あの教授、頭おかしいんだが良いんだが分からないんだよな。『TINOBUN2』の実地動作試験って名目で申請したけど、でも教授娘って呼んでるし。
……さぁ……。
「あんた達いつまでたべってるつもりよー! 本編綺麗に終わってるのに、あんた達のせいでグダグダじゃないっ!」




