第62話 寿司でも食いに行きますわ
結局彼らはあの世に旅立つことを選びませんでした。当然ですけど……。「誉れ」などを重視されるのでしたら、介錯して差し上げることも吝かではありませんでしたのに……。
両腕と頭がなくなった紫后のMA、名を「北玉」というらしいのですが、彼女はそれでボスを呼びに戻って行きました。
そしてもう1人のチアリーダーである中天は、なかなか渋いお顔のおじ様でした。歳は30代前半で、正直なところ中年を名乗るにはまだ少し早いように思われましたが。
彼の乗っていた機体……名前はなんでしたっけ? とにかく彼のMAは未夢のエネルギー砲の直撃を喰らい、大破してしまいました。大破というか溶けていました。よく生きていましたわよね……。
重装甲の砲撃支援機だったことが幸いしたのでしょう。運のいいやつですわね!
中年のおじ様は被弾の衝撃で脛の骨と手の指の骨が折れてしまったため、カラネアによって搬送されていきました。そして未夢も全開ゲロビの後遺症でダウンしてしまったので、一緒に搬送されていきました。
それにしても凄まじい威力でしたわね。あのくらいの威力があればスポットの奥に居るやべー魔獣も倒せるかもしれませんわ。わたくしが撃っても当たる気が致しませんが……。
搬送される際に久しぶりに姿を見みましたら、元々真っ黒だったエフカリストの機体にピンク色のパーツが増えていました。……別に構いませんけれど、ミシェルが次に見た時になんと言うやら……。
それからわたくしは事後処理を終わらせると、搬送された未夢に会いに行きました。そこではちょうど玄冥と中年のおじさんの感動の再会シーンが執り行われておりました。……いえ、本当はとても気まずい空気が流れていましたので、わたくしは見なかったことにして未夢の病室へと向かいました。
「未夢、もう大丈夫ですの?」
病室に入ると未夢はベッドの上に座ってりんごを食べていました。隣にはシャノンが居て、追加のりんごを剥いていました。
「ちょっと! わたくしの女に何させてるんですの!?」
「……いきなり何」
「友達のお見舞いですよ?」
わたくしのクレームを意に介さず二人は仲良くりんごをパクついています。……ぐぬぬっ! シャノンの隣に座り、わたくしもりんごをパクつきます。わたくし、酸っぱい系のりんごは苦手なんですわよねぇ……。
「わたくしは梨派ですわよ。それで大丈夫なんですの?」
「……もう大丈夫。けど、あれは消費魔力と威力のバランスがよくない。要改良」
「あの重装甲のMAが半分溶けてましたものねぇ……。よく生きてましたわよね、中のおじ様」
この時、未夢とシャノンと話してみてわかったのですが、シャノンは言わずもがな未夢もかなり魔力量が多いみたいですわね。わたくしほどではありませんが!!!
とにかくそんな未夢すら倒れるモノなど、一般人が使えば死人が出てしまってもおかしくありません。テストは大事ですわね。
「……ピンチを助けた。報酬が必要」
「ピンチかどうかはわかりませんけど、助けられたのは事実ですわ。何が欲しいんですの? 残念なことにわたくしはいまだお小遣い制ですから高価な物は無理ですわよ?」
「……私もお寿司が食べたい」
「それはいいですわね!」
その日は未夢は念のため安静にするということで、翌日になってからお財布担当の翠蘭も拉致して、わたくしはいつぞや二条綾子に紹介して頂いたお寿司屋さんに向かいました。
翠蘭、未夢の二人は皐月学園の制服を着ており、わたくしはチャイナドレスです。最近はチーパオって呼ぶんですの? シャノンは黒っぽいワンピースを着ております。ややシスターっぽいですわね。なぜ二人が制服かはわたくしにはわかりません。きっと未夢の趣味でしょう。
わたくしたちは完璧な変装をして、スポット防壁内の列車に何食わぬ顔で乗り込みました。もうウィングリーの貴族用客車には乗れませんから、一般席ですわ。はちゃめちゃに目立ってましたけど。何事もなく桜照皇国寮に到着できました。
お寿司屋さんの店内には他の客はおらず、わたくしたちが最初の客だったようです。並ぶのは苦手なので助かりますわね。
カウンターに4人並んで各々が注文していきます。
翠蘭は玉子から始まり、サーモン、ネギトロ、いくら。……やはり翠蘭の中身はまだ幼女な可能性が大ですわね。
未夢は鯛やえんがわなど渋めのネタを頼んだあと、日本酒まで頼んでいました。……こいつの中身はおっさんですわね?
シャノンはなぜかホタテから始まりツブ貝、赤貝、ハマグリと頼んでいきます。……なぜ貝なんですの!? というか寿司ネタにハマグリなんてありますの!? シャノンの中身は……わたくしにはわかりませんけど、貝を捕食するタイプの海洋生物かと思われます。きっとヒトデやタコでしょう。
そしてわたくしは白身から頼むなんてことは致しません。好きなものを好きなだけ食べるのです。生きているうちに食べられる食べ物の量なんて有限なんですから、食べたいものだけ頼めばいいのです! つまり、大トロ! 中トロ! ウニ、ウニ、ウニですわ!
「……公爵令嬢とは思えぬ頼み方。尊敬する」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「ヴィア、それ多分褒めてないよ……」
「やっぱりサーモンにはマヨだよな?」
幼女はサーモン周回に入ったようですわね。わたくしもブリ周回に入ることに致しましょう。
しばらく各々が食事を楽しんでおりましたところ、突然入り口の引き戸がガラリと開きました。




