第57話 防衛ライン
あれからあの玄冥と名乗る不審者を取り調べたそうですが、新たな情報はほとんど得られませんでした。ペラペラと吐いた情報のほとんどが、諜報部がすでに掴んでいた情報だったようです。まぁそれも敵対した人物からの裏付けが取れたと考えると、無駄ではなかったのかもしれません。
ちなみにあの男がわたくしを見つけられたのは、ハロウェル領の上空を通った時にハロウェル家に補足され、追跡されていたようです。やはりグローシアは目立ちますわね……。
機極術の他の使い手についての情報は、玄冥が下っ端すぎてあまり知らなかったそうです。本っ当~~~に役に立たない男です! 追加のチアリーダーについてはそのうち来るんじゃないでしょうか? きっと。
正直なところ、あんな男の相手している時間がなくなってまいりました。ウィングリー王国軍によるエクソシア領への本格的侵攻が始まろうとしています。わたくしたちはただ幸せに暮らしていただけですのに……!
手始めに先日のウェイクリング領に続きまして、腹いせに3つ程補給基地を爆破して差し上げましたところ、敵は固まって行動するようになってしまいました。
固まって行動しているといっても敵は一枚岩ではありません。なぜかと言いますとウィングリー王国軍は内部で貴族家ごとに別れてるんですわよね。戦国大名形式と言えばわかりやすいでしょうか?
ウィングリー王国は、封建的で貴族制な支配体制ですからね。敵の指揮系統が分かれていることは不幸中の幸いかもしれません。その分わたくしの夜勤も増えるのですけど……。
現在我が軍の兵数と言いますか、戦闘に堪えるMAの総数は限界まで振り絞って200機だそうです。現状動かない機体も合わせてもスキアがあと30機、ミューβが約80機。あとはエフカリストと父専用ミューαが1機だそうです。……ミューαの出番は多分ありませんわね。
なお敵は2000機だそうですわよ。……逃げる準備しておいた方がよろしいかもしませんわね!?
そして残念ながら我がエクソシア領はまったく防衛に向いていません。いえ、スポット側は防衛に向いてますのよ? 防壁やら砦やらなんやらがたくさんあるんですけど……。それ以外の場所は平地に村! 街! 農地! みたいな感じですから……。
愚痴を言っておりましてもしょうがありませんわよね。わたくしはまだ死にたくありませんし、可愛い女たちを遺して逝けませんから。今はできることをやるだけです。
つまり夜半に敵後方に回り込んでの夜襲と攪乱をし続けるしかありません。今までと同じですわね! オホホ!
エクソシア公爵家の現在の本拠地は、元私邸及び市街地ですから、そこから100キロメートルほど離れたエクソシア領とウィングリー王国領の境界線に近い山間に防衛ラインが敷かれました。
ハロウェル領との領境は山地ですし、ウィングリー首都方面から来る道も山と山に挟まれた盆地です。大軍が通るにはリスキーな地形と言えるでしょう。
まぁ東はスポットですし、ハロウェル領やウェイクリング領から迂回して来ることもできるのですけれども……。南のリュドヴィックですが、今のところは動きはありません。ウィングリー王国から援護要請があれば参戦してきてもおかしくありません。
そして敵は現在防衛ラインから10キロメートルほど離れた平地に陣を敷いています。混成部隊らしく集合に時間がかかっているようですわね。
後方へ回るついでに何度かその陣地を見ましたけれど、日に日にMAの数が増えていっております。
数日の間にまるで街でもできたかのように陣地が構築されていっておりまして、わたくしは前世でよくプレイした街作りシミュレーションゲームを思い出しましたわよ。
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「決戦! 決戦ですわよ! 柄にもなくワクワクしてきましたわ! それでわたくしは何をしたらいいんですか!? 大将首ですか? わかりました! 大将首を獲ってきますわね!!!」
「いや、しなくていいぞ」
最終決戦迫る昼下がり、翠蘭の発言にわたくしは耳を疑ってしまいました。大将首が必要ないですって……!?
「……じゃあ、演説! 演説をします! 独立記念日ですわよ!」
「しなくていいぞ」
「……ッッッ!?」
わたくし絶句です。翠蘭が何もしてないのに壊れてしまいましたわ!?!?!?
「敗北を認めるんじゃあありませんわよ、翠蘭! たかがミューβ2000機程度、グローシアで押し返して差し上げますわ!」
「はぁ……なぁ、ヴィアリス。考えてもみろ」
「何ですの!?」
「この前獲ってきたベヒーモスの素材を使って、大口径のエネルギーキャノンを作ったよな?」
「ああ、あのヘーメラーのエネルギー砲を参考にしたやつですわね?」
「お前が大量にベヒーモスの素材を獲ってきたせいで、そのエネルギー砲も大量にあるんだよ」
「……それで?」
「それをエフカリストとスキア50機に装着した」
「わたくし、なんだか続きを聞くのが怖くなってきましたわ……」
「一昨日にそいつらを防衛ラインに配置したんだが、本日早朝にヘイヴァース侯爵家の前衛部隊約300機が攻めてきた」
「よもや?」
「確認されただけで220機撃破だそうだ。そこにライフルも使えないお前が行って何をするんだ?」
「ぐぬぬっ……! あれ? ちょっとお待ちなさい。誰がエフカリストに乗ってますの?」




