エヴァン宅にて。
別名、エヴァンご褒美回。
久しぶりの出番なんで。
そろそろ、あれしちゃう予定ですが、初めて見るのは……秘密です。
他のも、ちまちま書いてますので、マイペースですが、よろしくお願いいたします。
「「乾杯!」」
(乾杯)
(ぷぅ)
四者四様の声が重なり、ささやかな慰労会の幕が開ける。
場所はエヴァン宅で、参加者は私達と家主のエヴァンだ。
この間、私とルーとエヴァンで囲んだテーブルに、今日はリュートが加わっている。
おかげで、並んでいる料理の量がとんでもない。
半分は、可哀想なリュートへの、皆さんからの貢ぎ物だけど。
飲み物は、私とエヴァンが葡萄酒で、リュートとルーはオレンジジュースだ。
行儀悪いけど、私とルーは、テーブルの空いたスペースに陣取り、飲み物や料理を堪能している。
ま、リュートやエヴァンは、そんな小さな事を気にする訳ないけど。
テーブルの上で一番大きな場所を占めているのは、焼いた甲冑アリのお腹部分だったりする。
「まさか、甲冑アリとこういう対面するとは思わなかったな」
葡萄酒を傾けながら苦笑しているエヴァンは、あまり甘味を好まないのか、甲冑アリのほとんどは、リュートとルーが食べ尽くしていた。
(甘いの嫌いだった?)
「いや、だが、甲冑アリを食べた事はなかったからな。少し驚いただけだ」
ふむ。つまりは、リュートとルーが美味しそうに食べてたから、遠慮してくれた、と。
(おかわりもあるよ?)
「……今日はいい」
空になったコップを吐き出し、体を傾げてエヴァンを覗き込むと、柔らかい苦笑と共に撫でられる。
「ハルさん、美味しいです!」
(ぷぅ)
エヴァンに撫でられていると、リュートとルーが元気良く宣言してくる。
うん、仲良しで可愛い。
しかし、リュートはガツガツ食べてても、下品に見えないね。多分、ボンボンより品があると思う。
ルーも、きちんとコップだけを吐き出してるし、偉いよねぇ。こんな事が出来るスライムは、いないぞぉ?
うふふ、と上機嫌に笑いながら、新たに注がれた葡萄酒を飲んでいると、エヴァンが呆れた顔をしている事に気付く。
「親バカかよ」
(いいでしょー、うちの子達、可愛いんだから)
自分でも、ちょっと酔ったかなぁ、とは思ったけど、久しぶりのノクとエヴァンに、浮かれているかもしれない。
ふわふわとしていると、私のもふもふなボディにのし掛かって来る重みが……。
ま、誰かなんて、悩むまでもないんだけど。
(リュート? どうかした?)
甘えたいのか?
よし、どんとこい。
「ハルしゃんは、おれのなんれしゅ……」
ん? 何か呂律が回ってない気が……? ぐでってなってるし。
違和感を感じ、慌てて横を向くと、そこには頬を上気させ、とろんとした眼差しで私を抱き締めるリュートがいた。
(エヴァン、まさか……)
リュートを支えながら、エヴァンへ視線をやると、リュートが飲んでしまったらしいコップを見せてくれた。
「間違えて、俺のを飲んだらしい」
(やっぱり……)
可愛い顔して、実はお酒強いとかはなかったみたいだね。
「ハルしゃんは、おれのこと、きらいなんれすか?」(ううん、大好きだよ)
エヴァンと見つめあっていたら、リュートがさらに可愛くなったので、しっかりと否定しておいた。
「おれも、らいしゅきれしゅ……」
あ、リュートが力尽きたみたいだね。
私の頭上から、くぅくぅと可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「寝たみたいだな」
(これは、外でお酒飲ませられないね)
リュートの可愛らしさじゃ、相手が男だろうが女だろうが、色々危険な気がする。
「ここまで弱いとはな」
(酒癖も可愛らしいなんて、最強だよね)
「……そう来たか」
どうしてだろう、エヴァンの目が生温い。
気にしたら負けな気がするので、私は体のサイズを変えて、リュートをもふっと収納する。
「相変わらず、どうなってるか謎だよな、ハルは」
(謎のある女は嫌?)
「いや、惚れた相手なら、謎だろうが、秘密だろうが関係ないな」
くそ、このイケメンが……。
ぶるぶる、と身震いしたら、いつの間にか乗っていたルーが、楽しそうにぷぅぷぅ鳴いてる。
(……ベッド借りるね)
「あぁ、こっちの部屋を使ってくれ」
私の反応を気にせず、エヴァンは巨大化した私を客間へと案内してくれる。
「……ハル、はまってないか?」
あはは。入口でちょっと引っ掛かったけど、何とかリュートをベッドへ移動させる事が出来て、一安心だ。
「これから、大人の時間だな」
(うふふ。そうだね)
だからと言って、急にピンクな展開になる訳はなく、私とエヴァンは、向かい合って葡萄酒を飲んでいた。
ルーはお腹いっぱいになったのか、エヴァンの膝上でぷるぷるしてるが、今にも眠ってしまいそうだ。
(ぱ……)
不穏な寝言を言いかけながら、ルーは沈没したらしい。
「寝たみたいだな」
エヴァンは、くく、と喉奥で笑うと、膝上を陣取るルーを指でつつく。
(ルーも、久しぶりにエヴァンに会えて嬉しくて、興奮してたみたいだからね)
「そうか……って、ルー『も』?」
(うん? あー、私も、久しぶりにエヴァンと会えて、嬉しかったから)
別にリュートと話すのに飽きた訳じゃないけど、エヴァンの軽快な突っ込みが欲しくなる事もあるんだよね。
「そ、そうか……」
ん? エヴァンも酔ったのか? 顔が赤いけど。
「ほら、とりあえず、ハルも飲め」
蕩けるような笑顔になったエヴァンが、上機嫌な様子で私へ酒を飲ませようとする。
(私を酔わせて、どうする気?)
ま、私がどれぐらい酔うかはわからないけど。
「ぶっ!」
私の渾身のギャグは、思いの外ウケたらしい。
(大丈夫?)
エヴァンが、ゴホゴホむせて、軽く呼吸困難になるくらいに。
さすがに心配になった私は、テーブルからエヴァンへ飛び移り、肩上からその顔を覗き込む。
「あ、あぁ、大丈夫だ」
ぐい、と口元を拭ったエヴァンは、がしがしと私を撫でてくれる。
うむ、苦しゅうない……じゃなくて、本当に大丈夫なんだろうか?
(エヴァン、本当に大丈夫?)
「あぁ、変なとこに入っただけだからな」
柔らかく笑うエヴァンの様子に、嘘や誤魔化しはなさそうだ。
(そっか。なら良かった)
深々と安堵の息を吐くと、なだめるように再度がしがし撫でが始まる。
(うむ。やっぱり、エヴァンの撫で方が、一番好き)
「そ、そ、そ、そうか」
エヴァンも、酔ってきてるのかもしれない。
テーブルから料理が消え、複数あった酒瓶も全て空になった頃――。
「よし、風呂へ行くか」
(はーい)
(おふろ〜)
見た目酔っ払いに見えないが、立派な酔っ払いな私とエヴァン、それと起きたルーを加え、お風呂タイムとなった。
一応、リュートにも声はかけたけど、まだふにゃふにゃ寝てた。とても可愛かったとだけ言っておく。
服を脱ぐ手間はエヴァンしかないので、私とルーは先にお風呂に浸からせてもらっている。
しばらくすると、ざっと体を洗ったエヴァンが、もふもふとぷるぷるの待つ浴槽へ入ってくる。
もふもふとぷるぷる。
私とルーのことだ。
酔ってないつもりだったけど、少し酔ってるのかもしれない。
(ふわふわする)
「おい、溺れるなよ?」
クラゲ気分で漂っていると、逞しい大胸筋で受け止められた。
濡れた髪を掻き上げたエヴァンは、二割増しでイケメンだと思う。
ボーッとしてると、ルーが私の上へ這い上がった。
たぶんだけど、エヴァンを見つめている。
(えば、ぱぱ?)
(……違います)
「何が違うんだ?」
ルーの言葉は、やっぱり私にしかわからないらしく、エヴァンは不思議そうに私へ問いかける。
(何でもないよ)
「そうか? のぼせそうなら言えよ?」
エヴァンは、あんまり酔ってないのか、私に気を遣う姿は、まだまだ余裕そうだ。
(そう言えば、服のお金、ありがと。おかげで、色々買えたよ)
エヴァンの顔を見てたら、奢ってもらった事を思い出したので、忘れないうちに感謝を伝えておく。
「気にするな。ハルは命の恩人だからな。しかし、女物の服なんて、何に使うんだ? リュートは美少年だが、女装でもさせるのか?」
(んー、似合わないこともないだろうけど、リュートは男前だからね)
しませんよ?
変な虫とかついたら困るし。
「確かに、ハルに甘える時以外、男前だよな、リュートは」
(……そこが可愛いから、甘えてもらえなくなったら、寂しいかも)
納得するエヴァンに対し、私は甘えなくなったリュートを想像してしまい、思わず呟く。
結構弱々しく聞こえてしまったのか、エヴァンに抱き上げられた。
「まだまだ先の話じゃないか? それに、ハルにはルーもいるだろ」
(そうだね、ルーは、ママって呼んでくれてるぐらいだし)
(ままは、まま)
ぷぅ、と不思議そうにしているルーをもふもふで抱き締め、エヴァンの慰めを受け入れてると、エヴァンの物言いたげな視線に気付く。
(なに? のぼせた?)
「いや、ハルはモンスターの言葉がわかるようになったのか?」
(ううん。ルー限定。ルーは、モンスターの言葉が何となくわかるみたいだけど)
「そうか。と言うか、ハルがママなんだな。――じゃあ……パパは、リュートだったりするの、か?」
何でエヴァンは、一世一代の告白みたいな顔で、おずおずと尋ねてくるんだろ。
(リュートは、リューって呼んでるから、兄弟気分なんじゃない?)
(ぷ。りゅー、ぱぱ、ちがう)
私達の会話が聞こえたのか、ルーはエヴァンの頭の上へ移動し、ゆらゆらと体を揺らして、アピールに余念がない。
(本人も、違うって断言してるよ)
私がさらに念押しすると、エヴァンは安堵を滲ませて、そうか、と力なく洩らす。
「外堀は埋まってないようで、安心した。
――ところで、どんな下着を買ったか、見せてくれないのか?」
酔ってないように見えて、エヴァンはかなり酔っていたようだ。
何処のセクハラ親父だ!?
イケメンの無駄遣いめ!
エヴァンセクハラ親父化疑惑(笑)
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