ちょっとだけもやもや。
ハルさんが、ちょっとだけもやもや。
でも、すぐ復活。ハルさんですから(笑)
「あー、何か、泥棒を三人と、強盗を三人捕まえてくれたそうだな。助かる」
出立の挨拶をしに組合支部へ顔を出した私達を迎えたのは、そう言って苦笑いしたギルバートさんだ。
泥棒三人の中に賞金首がいたそうで、リュートの懐は、さらに……って、袋のまま、私に突っ込んだよ。
「捕まえたのはハルさんですから」
ニコニコ笑うリュートに、抵抗を諦めた私は、もふもふ収納に、賞金をそのまま収納する。
たぶん、賞金首だったのは、全裸で並んでいる二人の先客を気にしなかった、無駄に自信満々で、半殺しにされた三人目だと思うんだけど。
つまりは、倒したのは寝惚けたリュートなんだよね。
まぁ、リュートはそんな小さなこと、気にしないから良いけど。
「じゃあ、お手紙、お預かりしました〜」
「おぅ、エヴァンによろしくな」
イリスさんには、ギルバートさんからエヴァンへの手紙が渡されてる。
一応、イリスさんは、エヴァンの代理みたいなもんだし。
当然のやり取りだよね。
「リュートも、ハルも、あー、あと、ルーか。お前らも、手助け感謝する。――ハルには、腕の分も礼を言っておく」
豪快に私達を撫でてくれたギルバートさんは、台詞の後半だけを、私へ顔を寄せて小声で囁いた。
私は目を細めて笑顔を作り、頷いて返しておく。
「せっかくだ。軽く狩りにでも行ってみるか?」
うん、治さない方が良かったか?
ギルバートさんの、肉食系な笑顔を見ながら、私は話しかけられたマノンさんに、少しだけ申し訳なく……。
「はい、行きましょう」
ならなかったよ。
出来る秘書な見た目のマノンさんが、嬉々として追随だよ。
「どうやら、お二人はパーティーを組んでいたようですね」
(みたいだね)
「ギルバートさんとマノンさんは、公私共にパートナーだって、有名です〜」
顔を見合わせた私達に、イリスさんがゆるゆるとした笑顔で、更なる情報を教えてくれる。
「公私共にパートナー、ですか?」
(……つまりは、夫婦なんだね)
リアル美女と野獣か。
べ、別に、リア充め、とか思ってないし。
「うふふふ、お邪魔みたいですから、あたし達は行きましょうか〜」
うむ、イリスさんの笑顔が、ちょっと黒い。イリスさんも、リア充は爆発して欲しい派か?
「はい! お世話になりました!」
リュートは全く気にした風もなく、ニコニコと笑ってギルバートさんへ挨拶してる。
「それはこっちの台詞だ。また来いよ。次は、一緒にオーガでも狩りに行くか?」
「はい!」
ギルバートさんの誘いに、リュートはすかさず嬉しそうに返す。
そこには、空気を読んだとかはなく、本当に嬉しそうだ。
ギルバートさんは、強面なイケメン顔に、柔らかな笑みを浮かべると、少し強めにポンポンとリュートの頭を叩く。
「じゃあな。次会えるのを楽しみにしてる」
「はい。俺も楽しみにしてます」
(またね)
(……ぷぅぅ)
すみません。ルーは寝てます。
昨夜は大活躍だったからね。
「それでは、失礼します〜」
イリスさんが緩く締め、私達はトイカを出るため、町の出入口へ向かった。
町の外で待っていたのは、行きと同じ馬車で、御者のおじさんも同じ人だった。
「帰りもお願いします!」
(お願いします)
「お願いしますね〜」
(…………ぷ)
御者のおじさんに挨拶をして、私達は馬車へと乗り込む。
ルーはやる気がない訳ではなく、まだ眠っているだけだ。
寝る子は育つって言うし、たくさん寝なさい。
行きと同じように、私はイリスさんのクッションになろうとしたが、うふふ、と笑って止められる。
「じゃーん。買っちゃいました〜」
笑顔のイリスさんが見せてくれたのは、毛足の長いもふもふな白クッションだ。
……何でだろう、何か、微妙な気分だ。
「もふもふですね」
「ハルさんには負けますけどね〜」
白クッションはイリスさんのお尻に敷かれ、馬車はノクを目指して走り出す。
(そう言えば、クロウパーティーとか、イルムとか、会わなかったね)
「彼らも冒険者ですからね。次の依頼を受けたんじゃないですか?」
ちなみに、偽リュートをしていたイルムは、迷惑をかけた方々へ、きちんと謝って回ったそうだ。
こういう良いところは、リュートに似ていたみたいだね。
リュートの言葉に、ちょっとだけ寂しく思いながら同意し、イルムの事を思い出していた私は、何かが聞こえた気がして、馬車の窓へ視線を向ける。
(ねぇ、何か聞こえない?)
「確かに聞こえますね。どなたか、助けを求めてるんでしょうか」
私の言葉に頷いた後、リュートの行動は早かった。
何のためらいもなく、走行中の馬車のドアを開け放つ。
御者のおじさんも馬も、リュートに慣れたのか、普通に馬車は進んでいく。
「ハルさん、あそこです!」
リュートの肩にしがみついていた私は、リュートが指差した方向を見る。
指差しているのは、道の脇。森の中だ。
(……あれ? クロウパーティーだよね?)
「イルムもいますね」
顔を見合わせた私達は、もう一度、しっかりと森を確認する。
通り過ぎる風景の中、クロウパーティーとイルムの六人が、手を振っている。
わざわざ見送りに来てくれたらしい。
またな、とか、元気でな、とか聞こえる中、ひときわ大きな声で叫んでいるのはイルムだ。
「俺! クロウさんのパーティーに! 入れてもらいました! ご迷惑! おかけしました……っ」
最後の方は遠ざかってしまい、聞き辛くなってしまったが代わりに、イルムの明るい笑顔が、色々と私達に伝えてくれていた。
良い仲間と出会えて、良かったね、イルム。色々あるだろうけど、頑張れよ。
そんな気持ちを込めて、もふっと膨らんだ私は、ゆらゆらと体を揺らしておく。
「皆さん! お元気で!」
あと、リュートの全力な叫び声は、すぐ側で聞くと、かなりの凶器だ。耳的な部位は、私にはないけど。
ルーが一瞬だけ私のもふもふから顔を出し、何事も起きてないとわかると、ぷるぷるしてから、私のもふもふの中へ消えた。
それぐらい、大きな声だった。
イリスさんは、さすがというか動じず、何かの書類に目を通している。
幸いにも、御者のおじさんと馬達の方も平気だったようだ。
こちらをチラリと見て、微笑ましげな顔をするぐらいには余裕があるらしい。馬達にまでも。
冒険者組合が使う馬車だから、多少の事には動じないのかもしれない。
無邪気にブンブンと手を振るリュートを横目に、私はそんな事を考えていた。
帰り道、特に波乱はなく、暇になった私とルーは、馬車の屋根に張りついていた。
私とルーには、元々足的な部分はないので、走行している馬車の上でも安定感は抜群だ。
(ぷぅぷぅぷぅぷぅ?)
(ご機嫌だね、ルー)
ルーの謎の歌を聞きながら、私はもふもふな全身で、風を受けている。
何故、私がリュートと離れているかと言うと、暇が原因だ。
リュートとイチャイチャしてれば、時間なんてあっという間に過ぎるんだけど、私はつい自分を鑑定してしまった。
『鑑定結果
種族 ケダマモドキ(メス)
名前 ハル
レベル 20』
レベルが20になったなぁ、と思いながら、見慣れてしまってきた女神様鑑定を見ていく。
リュートは、暇をもて余した様子もなく、私の背中辺りに顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いでいる。
視線を下へと移していくと、読める箇所が増えていた。
『人化……じゃーん! ハルがついに人型になれるようになったわ! 服は買ってたから大丈夫だと思うけど、人化すると裸だから、気を付けてね。
維持するのに魔力を使うけど、ハルの魔力量なら、気にしなくても平気よ』
女神様、かなりの重大発表なのに、緩い。でも、テンションはかなり高い。
まぁ、待ちきれなくて予告してたぐらいだし?
予想はしていた特殊スキルだけど、本当に覚えてしまうと、戸惑いが強い。
いくらリュートでも、私が人間の姿になったりしたら、怖がったりとか、最悪嫌われたりするんじゃないか?
今さら、そんな不安を覚えてしまった。
で、思わず、ルーを連れて馬車の屋根に張りついて、考えを巡らせていた。
うん。冷静になったよ。
そんな訳は、まずないなと結論が出たけど、深刻な顔で出てきたから、戻りにくい。
リュートなら、私が丸坊主になろうが、人型になろうが、「ハルさんですから」の一言で流しちゃいそうだよね。
あと、人型になる必要が、今は特に感じられないんだよね、実際。
リュートをしっかりと抱き締めてあげたい、とは考えていたよね。
でも、巨大化すれば、もふもふっと抱き締めてあげられるから。
あ、けど、人化すれば、リュートやエヴァン以外とも話せるだろうから、リュートやルーの可愛さをみんなにきちんと伝えられるって事だ!
それに、料理も! こっちは大した腕前じゃないけど、愛情だけはたっぷり込めて!
駄々漏れないよう気を付けて、私は思い付いた人化の有用性に、心を弾ませる。
ドレスは一人じゃ無理そうだけど、普段着的な服なら一人でも着られるよね?
タイミングを見て、サプライズ決定だな。
(まま〜)
おっと、ルーが馬車から落ちかけて、助けを求めてる。
居眠りしちゃったのか?
私は、屋根の上を危なげ無く移動し、ルーをもふもふっと回収する。
(中に戻ろうか?)
(あい……)
びっくりしたのか、ちょっと元気がないルー。
私は久しぶりのカンガルーでルーを保護して、屋根をもふもふでノックする。
すぐに扉は開かれ、私は張りついて移動し、馬車の中へ戻る。
すかさず伸びてきた腕が、私を捕まえてぎゅうぎゅう抱き締めてくる。
大丈夫、ひょうたん型にはならなかった。
腕の持ち主であるリュートは、途中でハッとしたようだが、多少変形していても、ひょうたん型まではいってない私に、安堵の息を吐いている。
実は、ひょうたん型にはならないけど、人型になれるように……って、明らかに、このタイミングはないか。
「ハルさん、屋根の上、楽しかったですか?」
(景色は良かったよ。ノクも見えてきてたし)
言うタイミングを悩んでると、リュートが拗ねたような、と言うか、拗ねた顔で話しかけて来たので、気を逸らせそうな話題を選ぶ。
「本当ですか? やっと帰って来れましたね」
(うん、そうだね)
リュートにとって、ノクが帰る場所になったのは、感慨深い。
私にとっては、リュートのいる場所が、帰るべき場所なんだよね、今は。
という訳で。
(ノクよ、私は帰ってきた!!)
「はい、帰って来ました!」
「帰りは平和でしたね〜」
当たり前だけど、ウケなかった。
今月から、リアルが多忙になり、さらにマイペースとなりますが、週一ぐらいには、何かしら更新できるよう頑張ります。
感想、コメントありがとうございます。
やっぱり反応があると嬉しいですね。
返信も遅くなってしまうと思いますが、きちんとお返ししますので。




