表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/114

たぶん明日には名前忘れてる。

ハルさんの心情がサブタイトル。

うん、寛容なエヴァンじゃなきゃ、彼は死んでると思う。


「あー、話は見えないが、組合長として、私闘を認める訳にはいかない」

(おー。エヴァンが普通に組合長してる)

 ギロッと睨まれた。

 私もふざけてる場合じゃないよね。

 リュートが当事者なんだし。

「しかし、仲間もいないような弱い冒険者に、彼女を守れる訳がありません! 僕のような優れた仲間を持つ冒険者ならともかく……」

 エヴァン、転けそうにならないで。ため息吐かないで。何処か行こうとするな!

「あー、つまりは、お前は……」

「僕にはデブリという名があります」

 熱いのはわかったけど、自分より目上の言葉を遮っちゃいけないよ、デブリくん?

 しかし凡庸過ぎるんだよね、デブリくん。女神様の鑑定でも、普通で面白くないって出たし。

「デブリとか言ったか、お前らは全員新人で、見習い冒険者だろ? このリュートは……」

「冒険者になったばかりで、仲間には役立たずだと捨てられたんですよね? エメラさんから、話は聞いてます」

 おう? 嫌な名前が聞こえた。

「そんな冒険者に騙されている少女を、俺達は見過ごせません」

 ついにエヴァンが頭を抱えた。頑張って!

 これは素直じゃなくて、思い込みだよね。

 悪い冒険者から、美しい少女を救う、イケてる自分的な。

「……つまりは、リュートと勝負が出来れば良いんだろ? 冒険者なら冒険者らしく、依頼で勝負したらどうだ?」

 何か目が死んでるエヴァンが、どうでも良いと言わんばかりの口調で提案する。

「そんな、危ない事を……」

 私のために争わないで、的な顔をしたお嬢様が、リュートに抱きついて、弱々しく囁いてる。

「アンナ、適当な依頼はあるか?」

「うふふ、なら、これはどうかしら? 山々ナメクジの納品。数は自由。上限はなし」

「……ナリキ男爵か?」

「宿屋のおかみさんが代表で、食べ物関係の店主が連名になってるわ。ノクの町の名物を開発してるみたいよ?」

(……気に入ってたもんね、おかみさん)

「そうだな」

 エヴァンが何か遠い目をしながら、頷いてる。

「よし、日を改めて、リュートとそちらのパーティーで、この依頼をこなしてもらう。勝敗は、山々ナメクジの数で決める。それでいいか?」

 今まで見守っていたノリの良い冒険者達が、歓声を上げて囃し立てる。

 リュートは静かだけど、どうした?

「リュートもそれで良いな?」

 エヴァンに声をかけられると、リュートはハッとした表情で頷く。

「はい。俺の大切な存在を譲れる訳がないですから……」

 ベタ惚れだね、リュート。

 ノリの良い冒険者達が、ひゅーひゅーとまた囃し立ててる。

「っ、僕らだって負ける訳にはいかない。明日の十時に、ダンジョンの前に集合だ! 逃げるなよ?」

 言うだけ言って、デブリは去っていった。

(リュート、どうして彼らに絡まれたんだろ?)

「本人に聞けば早いだろ」

 エヴァンはひょいっとアンナさんから私を奪い、リュートの元へと歩いていく。

「おい、どうしてこんな騒ぎになった?」

「普通に買い物をしてたんですが、近くで俺達の会話が聞いていた彼らが、急に絡んできて……。無視してたんですが、冒険者組合までついてきたんです」

「怖かったです……」

 お嬢様が弱々しくリュートに続いて口を開く。

 演技じゃなくて、本当に怖かったのかもしれない。

 何か話通じてない集団だったし。

「リュートさん、負けないで……。信じてますから」

「はい。俺の大切な人を寄越せだなんて、許せる訳ないですから」

 静かに怒りを露わにするリュートは、微笑んでお嬢様を見つめている。

「今日は、私の家にお泊まりください。父も兄も、リュートさんを呼べと申していましたから」

「光栄です」

「では、早速向かって、夕飯をご一緒しましょう?」

 無邪気に笑う美少女は、腹黒ちゃんだと知っていても愛らしい。

 リュートは見惚れる気配は欠片もないけど。

「はい。でも、ちょっと待ってください。ハルさんを……」

 華奢に見えるが、グイグイと引っ張るお嬢様に、リュートは苦笑して私を連れて行こうとするが……。

「あ、あの、すみません! 実は、母がモンスターアレルギーで、ケダマモドキはちょっと……」

 必死に言葉を探し、お嬢様は名案とばかりに、申し訳なさそうな顔で私を見ている。

 見え見えの演技はともかく、ついにお嬢様は私の名前すら呼ばなくなったね。別にいいけど。

「そうなんですか? ハルさんが駄目なら、俺も……」

「それは駄目です! 父も兄も、リュートさんが来るのを楽しみにしてるんですから」

「ですが、ハルさんを置いていく訳には……」

「モンスターなんだから、一晩ぐらい外でも平気ですよ、きっと」

 私の耳には、何ならそのまま帰ってくるな、的な副音声が聞こえる気がする。

「……」

 あ。相手がか弱い女の子だから、リュートが怒るの堪えてる。

 うちの子は、本当にいい子で可愛い。

(リュート、行ってきなよ。私は組合で一晩お世話になるから。貴族との縁は、大事にして損はないと思うよ)

「ハルさん……」

 シュンとしたリュートを、本当は飛び付いてワシワシしてあげたいけど、お嬢様が嫌がるのは目に見えてるからね。

 私はエヴァンの腕に抱かれたまま、出来るだけ明るく声をかける。

(ね、たった一晩だよ。明日は、勝負なんだから、栄養つけて、ゆっくり休みなさい)

「わかりました。……ハルさんを一晩お願いします」

 そう言ったリュートの顔は、まさに不承不承だ。

 それでも、アンナさんへ向けて微笑むと、深々と頭を下げてから、お嬢様に引っ張られて去っていく。 朝の再現みたいだけど、リュートの表情は真逆で、後ろ髪を引かれまくってるようだった。

「よし、明日暇なパーティーはあるか?」

 唐突なエヴァンの声かけに、今現在組合にいる冒険者ほぼ全員が手を挙げる。

「報酬はほとんど出せないが、頼めるか?」

「もちろんだ! どうせ見に行こうと思ってたからな」

「あたしは、リュートを応援しに行くわよ!」

「公平にいけよ、公平に」

「くそ、俺達は外せない依頼があるんだよ! どうなったか教えてくれよ?」

 うん、何だかわかったよ。

 ノリが良いし、付き合いも良いね、相変わらずここの冒険者達は。

 つまりは、リュート達の勝負を監視というか、見守ってくれるんだろう。

(エヴァン、ありがと)

「あ? リュートのためじゃねぇよ。下手に遭難とかされたり、私闘に発展したら俺が困るんだよ」

 エヴァンを見上げてお礼を言ったら、ツンデレいただきました。デレてはないけど。

「じゃあ帰るぞ。あー、帰りに酒と食い物買って帰るか」

 もふもふを揺らして笑ってると、エヴァンに鷲掴まれ、肩へと乗せられ、何の前置きもなく、そう言われた。

「……約束しただろうが」

 私がきょとんとしていたら、忘れたのかよ、とエヴァンが拗ねたように洩らす。

(泊めてくれるんだ?)

「あぁ。飲み明かすって言っただろ」

 ガシガシと私を撫でたエヴァンは、アンナさんへ指示を出してから、冒険者達の挨拶を背に受けつつ、私を乗せたまま組合の外に出る。

「……リュートさんにバレたら、怒られそうね」

「いや、ハルに泣きつくんじゃないか?」

「俺は泣く方に銅貨一枚だ」

「なら、俺は怒る方に銅貨一枚!」

 去り際、小声で話すアンナさんと冒険者達。最終的には、賭けになってたけど。




(私は泣いて怒る方に一枚かな)

「誰がだ?」

 モンスターな私の耳だから聞き取れたらしく、エヴァンは私の独り言に首を傾げてる。

(何でもないよ)

「ならいいが……」

 まぁ、二人(?)っきりじゃないし、ルーもいるから大丈夫かな。

 デートするような相手が出来たし、そんなに妬かないよね、と思いながら、私達は好奇の眼差しを受けて買い物を続けたのだが……。




「組合長さん、あの子に、何かあったのかい?」

 はい、これで、この質問五回目です。

「……いや、事情があって預かっただけだ」

 答えるエヴァンの顔は笑顔だが、若干引きつっている。

 今回尋ねてきたのは、クズ野菜をくれたおばあさんだ。

 皆さん、リュートと一緒にいない私を見て、声をかけてくるのだ。

「お前ら、町に馴染みすぎだ」

 呆れたような物言いだが、私を小突くエヴァンの表情は柔らかい。

(リュートはいい子だから、当然でしょ?)

「いい子か。そうだな」

 くく、と笑ったエヴァンは、ルーの方も軽く小突く。ルーは、ぷるんぷるんと喜んでる。そこへ、

「リュートさんに何があったの?」

 六回目がやって来たよ。

 で、結局、エヴァンの家に辿り着くまで、十回ほど同じ質問を受ける事になった。




「何か無駄に疲れたな。とりあえず、その辺で寛いでろ」

 示されたのは、デンッと部屋の真ん中に置かれている、黒い革のソファだ。

(何か高そうだけど)

「貴族様のお下がりだからな、家具は」

 そう言って、私とルーをソファに置いたエヴァンは、奥へと姿を消す。

 人間だったら、手伝うよ、とか気を利かすとこだけど、私とルーじゃ出来る事は少ないからね。

 しかし、少し古ぼけてるけど、貴族の屋敷だっただけあって見渡した内装は豪華だ。

 黒い革のソファ。丸いローテーブル。壁際にはしっかりした木の棚。

 どれも、高そうに見える。うん、貴族っぽい。そして、エヴァンぽくない。

 それと、空の酒瓶が転がってるけど、掃除は行き届いてる。

 床とか、棚の上とか転がり回ってみたけど、ホコリは付かない。

 夢中になっていると、いつの間にかエヴァンが部屋の入口に立ち、呆れたような顔で私を見ている。

「……何してるんだ、お前は」

(お掃除?)

「通いの家政婦がいるから、そこまで汚れてないだろ」

 エヴァンは手にしていた皿をテーブルに置くと、苦笑しながら、棚の上にいた私を回収する。

(あの酒瓶は?)

「毎日来る訳じゃないからな。昨日飲んだ分だ」

 私の指摘に、エヴァンはポリポリと頬を掻く。

(片付けても良い?)

「片付けて……って、食うのか? 別に構わないが……」

 エヴァンの反応に、私はルーと一緒に床へと降り立ち、転がってる酒瓶へ近寄る。

(いただきます)

 ぷるぷる。

 ん。数本あった酒瓶は、あっという間に私とルーのおやつに変わり、床には何も無くなる。

「ほら、こっちがメインだ」

 部屋着なのか簡素なシャツとズボン姿のエヴァンは、私とルーを拾い上げ、テーブルの端に置いてくれる。

 テーブルには屋台で買った串焼きが盛られた皿と、チーズとかクラッカーが乗った皿。それと、果物が丸のままゴロゴロと入ったカゴ。

 大きな酒瓶(中身あり)と、陶器のコップが二つ並んでいる。

「さぁ、約束通り飲み明かすか」

 ニィと笑ったエヴァンの言葉を合図に、私達の酒盛りは始まりを告げた。




 あ、一応、ルーにはジュースを用意してもらいました。

 未成年だからね。


酒盛り開始しました。


アダルティにはならないと……。

とりあえず、リュートにバレたら……。


何か想像したら怖いです。

感想、ブクマありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ