子離れ?
イチャイチャ成分が足りないので、エヴァンとイチャイチャさせときました。
目が覚めたら、人型になってるとか、鉄板かなって思ったけど、残念ながらそれはなかった。
手足があればリュートにお弁当作って、あげられるのに。腕前は大したことないけどね。
無い物ねだり(料理の腕前含め)をしても仕方ないので、私はおとなしくリュートの撫でてくれる手を受け入れてる。
寝付きも良いリュートは、寝起きも良い。最近、私は先に起きられた事は少ない。
私は欠伸をしながら、猫のように大きく体を伸ばし、リュートへ話しかけ……。
(今日はどうするの?)
「今日は昨日約束したので、キャリー様と買い物に行きます」
勢いあまって、ベッドから転がり落ちる。
まさか、もうデートの約束をしていたとは。
うちの子、予想外に肉食系でした、女神様!
「じゃあ、ハルさんのこと、よろしくお願いします」
デートなら私は留守番かな、とは思っていたけど、こんなにドライに置いていかれるとは……。
アンナさんの胸に抱かれてリュートを見送りながら、私は子離れ出来ない親の気分を味わっていた。
(……いってらっしゃい)
「いってきます!」
「青春してるわね」
迎えに来たお嬢様と、笑顔で去ったリュートを、うふふ、と笑って見送るアンナさんに、女神様の幻影が重なる。
女性は皆さん好きだよね、コイバナ。
しかも、可愛いげのある美少年冒険者と、美しく可憐なお嬢様だから、やっぱり絵になるし、冒険者達の視線は微笑ましげだ。
こら、腹黒ちゃん。
私を見て、こっそり嘲り笑いしないの!
「……あの子、見た目通りの性格じゃなさそうね」
ほーら、鋭いアンナさんにバレたじゃない。
(リュートなら、腹黒なとこも含めて愛でるんじゃない?)
通じないのはわかっていても、目を細めて語りかけてみる。
「ハルさんは、全て知ってて、見守ってるように見えるわね」
(実際、そのつもりだけど……)
リュートの恋愛に、口を出す気はない。明らかに相手が詐欺師とかなら何とかするけど。
お嬢様は腹黒ちゃんなだけで、リュートを傷つけたりはしないだろう。
私はおとなしく見守ろう。
アンナさんも仕事があるので、私はルーと一緒にカウンターに置かれたカゴに入れられ、留守番だ。
もふっもふっとリズミカルに膨らんだり縮んだりし、頭上にいるルーを喜ばせる。
あと、ちらちらと気にしてくる冒険者達も。
皆さん、私に触りたいようだ。
「あの、ハルに触っても良いか?」
「いつもはリュートと一緒だからな……」
「思い切り触れないのよね」
そうなのか。
皆さん、結構ガシガシ触ってきた気がしたんだけど。
あれでも遠慮してくれていたらしい。
「ハルさん、良いかしら?」
(どうぞ……って、わからないか)
何でエヴァンいないんだ? 不便じゃないか。
八つ当たりをしながら、アンナさんを見つめて、大きく頷いて見せる。
「良いみたいね。手荒にしないように」
あちこちから、ノリの良いいい子な返事が聞こえる。
私はそれを聞きながら、体から力を抜いて、カゴの中で、ぐでっと潰れる。
ルーも私を真似したのか、頭の上で潰れている気がする。
軟体な動物×二。
気合を入れて、お疲れな冒険者達の癒しになろうと思います。
(うぅ、さすがに疲れた……)
ぷるるるぅ。
ルーも疲れたらしい。カウンターの上で潰れているのが見える。溶け出したみたいになってるよ。
核は健在だから、大丈夫みたいだけど。
「ルーちゃん、水枕みたいだわ」
仕事の手が空いたアンナさんは、溶け出しそうなルーを指でつついている。
ぷるんぷるん、と表面に波紋が出来るのが、脇で見てても面白い。
こちらでも癒しになっているようで何よりだ。
(そう言えば、エヴァンはいないみたいだね)
私とルーをおさわりしていた冒険者達からの差し入れを、もぐもぐとしながら、私はエヴァンの仕事部屋の方をちらちらと見る。
察しの良いアンナさんなら、気付いてくれると思う。
「組合長に用事かしら? 残念ながら、今日は依頼で出てるわ」
ほら、気付いてくれた。
そっか、エヴァンいないんだ。
む。何か、思いの外、がっかりしてないか、私。
「ふふ、組合長がいなくて寂しいのね」
私のもふもふは、気分にも連動しているらしい。
ペタリとしてしまった私のもふもふを、アンナさんのしなやかな指先がいじっている。
べ、別に寂しくなんかないんだから!
うん、ごめんなさい。私にはツンデレキャラは似合わないよね。
エヴァンとは実年齢が近いから、会話してて楽だから、甘えが出たかな。
「私が甘やかしてあげるわ」
ため息を吐いていたら、アンナさんのけしからん胸にギュッと抱き締められる。
存分に甘やかされたいと思います!
「……アンナ、何を抱いてるんだ、それは」
む。聞き覚えのある声に、男の夢のようなベッドで寝ていた私の意識は、ゆっくりと浮上する。
(わーたーしー)
パチッと目を開け、声の主を見ると、驚いたのか、小さく、おわ、という間抜けな声が聞こえる。
「……毛布かと思ったぞ? ずいぶんヘタレてたな」
間抜けな声の主は、やっぱりというかエヴァンだった。
私が言い返す前に、アンナさんは私を、ニヤニヤとしているエヴァンへ差し出す。
「ハルさん、組合長いなくて寂しがってたのよ?」
「へぇ、ハルが、なぁ?」
ニヤニヤを、ニィッという捕食者を思わせる笑顔に変えたエヴァンは、私を受け取ると、怪しい手つきで撫で回す。
私は出来るだけセクシーな声を出して、エロい手つきのエヴァンへ対抗しようとする。
(いーやー、おかされるー)
ブッとエヴァンが吹き出し、ゴホゴホと咳き込んだ。
あはは。やり過ぎたとは思う。
エヴァンの咳がなかなか止まらないし。
「……ハル、冗談が過ぎるぞ?」
(それは、反省してる。けど、まさか、こんなもふもふ相手に興奮した?)
「ぶ……っ」
あ。ゴホゴホ再び。
アンナさんがお茶持ってきてくれた。
(エヴァン、耳が赤いけど?)
「……うる、さい」
図星? 違うか。
しかし、ノクには夜のお姉さん系なお店無いのか?
ダンジョンも近いし、血の気も多そうな冒険者達が来るんだし、ありそうだけど。
リュートには聞けないし、エヴァンに聞いておこう。
(ねぇ、エヴァン。ノクには、夜のお姉さん系なお店無いの?)
「……夜の?」
一瞬訝しげな顔をしたエヴァンだったが、私の聞きたい事を悟ったのか、二階の奥、執務室という名前だけはお堅い部屋へ連行される。
防音がしっかりしてそうな厚いドアが閉まると、エヴァンはルーをその辺に置いて、私と見つめ合う。
「で、夜のお姉さんってのは、娼婦って意味であってるか?」
(そうだけど。いないの?)
「いるぞ? 許可、無許可含めて、な。ちゃんとした店もある。いきなり、どうした? まさか、娼婦と遊びたいのか?」
(ちょっと心惹かれるけど、私じゃなくて、エヴァン。稼ぎもありそうなのに、行ってないの?)
「……好きでもない相手を抱く趣味はないんでな」
フンッと鼻で笑ったエヴァンは、悔しいけどイケメンだ。
(くそ、禿げろ)
「何でだよ!?」
キメキメで何かムカついたから?
「何か下が騒がしいな」
(うん、何か叫んでる?)
エヴァンとイチャイチャは、何かむず痒い事になるので、私はエヴァンの書類仕事の手伝いをしていたのだが、厚いドアの向こうから声が聞こえた気がして、顔を見合わせる。
「行ってみるぞ」
(うん。おいで、ルー)
私はルーを頭に乗せると、エヴァンが差し出した腕へと飛び込む。
そして、私達は執務室から出て、階段を下りていく。
「あ? リュートがいるぞ?」
(デートが終わったみたいだね)
階段の途中で足を止め、私達は手すりに寄りかかり、階下の様子を窺う。
正確には、エヴァンが、だけど。私はエヴァンの腕に抱かれてるし。
それはさておき、階下の騒ぎの中心は、リュートと腹黒ちゃんらしい。
「話の内容は聞こえないが、絡まれてるみたいだな。見覚えがないパーティーだが、あれは新人っぽいな」
(どうして?)
「札が全員見習いな上、装備も着なれてないからな」
そう言われて、私は見比べるためにリュートを見やる。
腹黒ちゃんを庇ってるリュートの装備は、汚くはないが、確かに使い込まれた雰囲気がある。
まぁ、今日は鎧とかはない私服(?)だけど。
高そうではないが、清潔感はあるし、リュートは見た目が良いので、格好良いの一言だ。
リュートに絡んでるパーティーは、装備には金はかかってそうだけど、何か薄汚い。あと、着られてる感がある。
メンバーは四人。
構成は、リュートが抜ける前のボンボン達と一緒で、内訳は男三女一だ。
(リュート、何で絡まれてるのかな?)
「さぁ。それより、リュートから喧嘩を売る事はないのに、どうしてあいつはいつも絡まれてるんだろうな?」
(わからない。とりあえず、止めて欲しいんだけど、組合長さん?)
「それもそうだな。――おい、騒がしいぞ!」
さすがエヴァン。
一喝して、場を鎮めてくれた。
状況がわからない新人パーティーが、エヴァンを睨み付けてくる。
格の違いは辛うじてわかるのか、ボンボンみたいに噛みついては来ないけど。
「ここの組合長をしているエヴァンだ。この騒ぎはなんだ?」
エヴァン、キメキメなところ悪いんだけど、私とルーを抱いてるから、何か間が抜けて見えてるみたいだけど?
「組合長、ハルさんとルーちゃん、預かるわ」
見兼ねたアンナさんが、私とルーを回収してくれる。
すみません、迫力にかける癒し系な見た目で。
リュートは、エヴァンが私を抱いていた事に気付くと、驚いたのか、目を見張ってる。
そっか。リュートは、エヴァンが夕方まで帰らないの知ってたんだろうな。
だから、驚いた顔してると……。
「何でエヴァンさんがいるんですか? 今日は、夕方まで帰らないって聞いて、俺、ハルさん預けたのに……」
ブツブツ呟くリュートに首はないので、体を傾げる。
いまいち、わからない。
何でエヴァンがいたら、私を預けたくないんだ?
私が疑問を口にする前に、腹黒ちゃんが怯えた表情でリュートの腕にすがりつく。
「リュートさん、私怖いです……」
守ってあげたくなるオーラ、全開だ。
それに伴い、リュートに絡んでいるパーティーのイライラ度が上がったように見える。
私はアンナさんの腕から、エヴァンへ話しかける。
(エヴァン、私何となくリュートが絡まれてる理由わかった)
「奇遇だな、俺もわかった」
視線を交わし合い、ため息を吐くと、エヴァンは事態を収拾すべく、睨み合うリュートと新人パーティーに近寄っていき……。
「組合長ならちょうど良かったです。僕達の勝負の立ち会いをしてください」
「あ?」
「あの美しい少女を賭けて、勝負をするんで」
ドヤ顔した新人パーティーのリーダーらしき少年に、キメキメで話しかけられた。
エヴァンは収拾するどころか、ガッツリ巻き込まれたようです。
えー、先に言っておきますが、キャリーはヒロインではないんで。
所詮、当て馬です。
リュートの愛は揺るがない。




