表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/114

春が来た?

ハルさん、お見合いおばさんと化す。

ちょっと、アダルティな会話があります。

ほんのちょっとです。

(エヴァンの大胸筋……)

 これはこれで安定感があっていいな、と思いながら、私はエヴァンの腕の中で寛いでいる。

「複雑な気分になるんだが?」

(気にしないで)

 私の中にいるルーも、大胸筋を堪能しているようだ。

(それより、リュートは?)

 私は話を逸らす事にした。

「あー、空気を読んだんだよ、俺は」

 ニヤリと意味ありげに笑うエヴァンに、私は体を傾げて奥の部屋に視線をやる。

(そう言えば、ナリキ男爵の代理人って、私見てないんだけど……)

「ナリキ男爵は、奥方がとんでもなく美人なんだよ」

(そうなんだ?)

 唐突な台詞に、どうした? と私が思っていると、奥の部屋からリュートが出て来る。

 一人ではなく、ナリキ男爵の代理人が一緒だった。

 ガタイの良い護衛を連れているのは、

(……美少女だ)

 思わずそう呟いてしまうぐらいの、美少女だ。

「だろ? カネノの妹だぜ、あれで。母親が違うとしても、似て無さすぎだよな」

 エヴァンの失礼な発言も気にせず、私は美少女に釘付けだ。

 緩やかに波打つ栗色の長い髪に、顔立ちは清楚で愛らしい。大きな濡れた目と華奢な体が、男性の庇護欲を誘うだろう。

 その美少女は、頬を染めてリュートの腕に触れていて、リュートも嫌そうではない。

 二人が並ぶと、まるで絵画のようだ。

(……確かに空気を読みたくなるね)

「だろ?」

 むむ。これは、リュートに春が来たのか?

 リュートがデートとかしてる間、私は何処にいようかな。

(エヴァン、モンスターの預かりって組合で出来るの?)

「あ? 一応可能だ。モンスター使いは、少ないがいるからな。リュートもそうだろ。それがどうした?」

 私は怪訝そうな顔をしたエヴァンの肩へよじ登ると、耳元へ甘えるように体を寄せる。

(……リュートが、デートとかの時、私とルーを預かってもらえるかなって)

 美少女と楽しそうに話しているリュートに聞こえないよう、私は小声で囁く。

 少し寂しいけど、リュートの幸せの邪魔はしたくないよね。

「あぁ、そういう事か。ハルとルーなら、俺の部屋で預かっても良いぜ」

 私の視線をたどり、エヴァンは納得した様子で頷くと、私の頭を撫でてくれる。

(そっか。エヴァン、組合長だもんね。執務室あるのか)

「そんな大したもんじゃないがな」

 くく、と笑いながら、エヴァンは私を撫で続けている。

 何か慰めてくれてる?

(うむ、苦しゅうない)

「何だ、その口調は」

 苦笑したエヴァンから、ガシガシと乱雑に撫でられる。

 嫌いじゃないんだよね、本当に。

 エヴァンのこういうところ。

 存分に慰められてやった。




 筋肉ってぬくいよね。

 何が言いたいかって?

 エヴァンの腕に抱かれてたら、眠くなったんだよ。

 逞しい腕は、温かいし、安定感抜群だし。

 うとうとしてきた私は、ぐりぐりと体を動かし、落ち着く場所を見つけて目を閉じる。

「ん? 眠いのか?」

(うん、ねる……)

「モンスターとして、その緊張感の無さは大丈夫なのか?」

(エヴァンの腕の中なら、あんしん……)

「そりゃ、どうも……」

 素っ気ないエヴァンの答えを聞きながら、私は安心感のある腕の中で、深い眠りに落ちていった。

 だから、私が眠った後、受付嬢三人からエヴァンが……。

「あら、珍しい」

「本当です〜。明日は雨ですかね〜」

「組合長、照れてる……」

 そんな風に弄られていたなんて知らなかった。




「ハルさん、起きてください」


 いーやー。ねーむーいー。


「ハルさん、エヴァンさんから、離れて……」


 いーやー。ぬくぬくから、離れたくないです!


「ハルさん……」

「おい、ハル。リュートが半泣きだぞ?」

(う?)

 熟睡していた私は、エヴァンの声を聞き、眠りの淵から引っ張り上げられた。

 微睡んでる時に何か聞こえた気もするけど、と思いながら目を開けると、目の前には半泣きというか、ほぼ泣く寸前なリュートの顔があった。

(リュート、エヴァンにいじめられたの?)

 報復しないと、と真っ黒く考えた私の後頭部を、軽い衝撃が襲う。犯人はエヴァンだ。

「寝惚けたお前が、俺から離れたくないって駄々こねたんだよ。そのせいだ」

(……私、そんな事言った?)

 そう言えば、言った気もしないでもないような?

「ハルさん……」

(何か、ごめんね?)

 謝りながら私は、エヴァンの腕から、慣れ親しんだリュートの腕へ戻る。

「リュートさん、それがハルですか?」

「はい、ハルさんです」

 ビックリした。

 美少女なお嬢様もいたんだね。

 リュート、ひかれちゃうから、私に頬擦りするの止めなさい!

「ふふ、仲良しなんですね」

 慌てる私に対し、美少女なお嬢様は、鈴を転がすような笑い声を洩らし、微笑ましげにリュートを見ている。

 お。これは好感触じゃないか?

「はい! 仲良しです! ハルさん、抱っこしてもらいますか?」

(リュート、そこは、抱っこしてみませんか? だよ)

 何故に私目線にしたんだろ。

「まぁ、良いんですか?」

 気にしないお嬢様は、いい子だと思う。

 うふふ、と微笑んで、リュートの腕から私を受け取り、私はお嬢様の腕の中だ。

 緊張してるのか、下から見上げるお嬢様の顔は、微妙に強張っている。

「ハルさんの触り心地は良いでしょう?」

「そ、そうですね。とても素晴らしいです」

 うんうん、可愛い子が微笑み合う姿は、癒しだよねぇ。

 思わずもふっと膨らむと、お嬢様からヒッという声が聞こえた。

 ん? 見上げても、お嬢様は可愛らしく笑ってるし、気のせいか。

「お返しします。ハルもリュートさんの方に帰りたそうですから」

(何も言ってないけど……)

 駄々漏れたかな?

 私は若干訝しみながらも、リュートの差し出した腕へと落ち着く。

 ――そうそう。私って、モンスターだから、耳が良いんだよね。

 突然、どうしたって話だけど、聞こえちゃったんだから、仕方無いよね。


『汚らわしいです』


 可愛らしい声が、そう吐き捨てたのが。

 したくないけど、恐る恐る鑑定してみる。

 リュートを頬を染めて見ている愛らしい姿を見て、聞き間違いだったと思いたくなるけど。

『鑑定結果

 名前 キャリー(女)

 ナリキ男爵の娘。母に似た美少女。それを鼻にかけている。

 汚いものや見目が悪いものが嫌いなので、父や兄も嫌い。

 かなりの面食い。

 外面は完璧で、気付かれた事はないみたいだけど、完全な腹黒ちゃんだからね?』

 腹黒ちゃんだったか……。ありがとうございます、女神様。

 でも、リュートは気に入ってるみたいだし、私が我慢すれば大丈夫だろ。

 外面が良いなら、素直でいい子なリュートに嫌われる心配はないよね。

 リュートの腕に抱かれながら、私は保護者気分でため息を吐いて、無言を貫く事にする。

 リュートが私へ話しかける度に、一瞬お嬢様が嫌そうな顔をするのが、少々気に食わない……って、私は小姑か。

 リュートがお嬢様を選んだなら、我慢するしかないよね。

 しかし、リュートも面食いだったのか?

 でも、私の事も可愛いって言うし、リュートの可愛いの基準は何処だ?

「ハルさん、キャリー様が帰るそうですから、お見送りしましょう」

 リュートが見てないところで、お嬢様が一瞬嫌そうな顔したよ。まだまだ甘いね、腹黒ちゃん?

 私は空気を読ませてもらおう。

(私はルーとここにいるよ)

 そう言ってリュートの腕から飛び降りた私は、面白そうに傍観していたエヴァンの体をよじ登る。

(後は若い子でってね)

 お見合いの定番な台詞を告げ、私はエヴァンの頭に陣取る。

「白アフロです〜」

「ハルさん、ぐっじょぶ……」

 イリスさんとウィナさんが大ウケだ。

 冒険者達は笑いたいのを堪えてるのか、皆さん肩がプルプルしている。

 リュートは捨てられた子犬みたいな顔をしていたが、お嬢様を見送りするため、私達へ背を向けて、とぼとぼと歩いていった。




「いいのかよ?」

 リュートを見送ったエヴァンが、主語のない問いかけをくれた。

(モンスターだって、空気は読めるからね)

「ったく、モンスターにしとくのは勿体無いイイ女だよ、ハルは」

(ふふ、ありがと)

 エヴァンの頭に陣取ったまま、ゆらゆらと体を揺らす。

 鍛え抜かれた肉体を持つエヴァンは、私が揺れたぐらいじゃ、ビクともしない。

(……ちなみに、リュートが外泊とかになったら、泊めてくれる?)

「いいぜ? 飲み明かすか?」

(良いね。そのまま、大人な夜を過ごしちゃったり?)

「……それもいいか」

 ボソリと呟いたエヴァンに頭から下ろされ、怪しい手つきで撫でられ……。




「寝かせないぜ? ――なんて、な」

 ニィと無駄に色気のある肉食獣な笑顔を浮かべ、唇を舐めるエヴァンに、私と、何人かいた女性冒険者がノックアウトされた。

(何か、妊娠しちゃいそう)

 思わずそう洩らすと、エヴァンがブッと吹き出し、腕の中にいた私を二度見してたので、今回は引き分けって事で。




 ちなみに、私の呟きが聞こえたのか、ダッシュで戻ってきたリュートは、かなり焦っていて。


「は、ハルさん、妊娠したんですか?」


(してません)


 後が怖いので、食い気味に否定しておいた。


キャリーは自分で書いてて嫌いです。

勝手に動いてくれてます。

リュートがキャリーに惚れてるかは、次回以降で。


感想、評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ