フラグ? 知りません。
記念すべき? 100話ですが、今気付いたので、普通の話です。
相変わらず彼等はピンクな感じですが、まぁ問題ない程度だと……。
いやー、パパ譲りのルーの素晴らしい突っ込みにより、トラブル君達の事を思い出した私達は、まず一回村へ戻り、下卑A達の事を伝えてから、もう一度ゴブリンの巣を目指す事にした。
トラブル君達を先に救助とも思ったけど、檻に入ってるらしいから安全だろうし、いつ復活するかわからない下卑A達を優先させてもらったよ?
ある意味生命力強いし、大丈夫だろうとも思ったから。
で、村人と協力して、下卑A達をぐるぐる巻きにして捕獲後引き渡しして、ゴブリンの巣へ改めて向かう。
私はケダマモドキの姿に戻り、もふっとしながらリュートの肩で辺りを見回す。
「ハルさん、危ないですよ」
(大丈夫、落ちたりしないって)
そう言ったのにリュートは心配だったらしく、私をギュッと抱き締めて歩き出す。
「ハルさんの匂いがします……」
精神的ダメージがあるので、頬を染めて匂いを嗅ぐのは止めて欲しい。
(ままのにおい〜)
ルーも真似して嗅がないように。
結局、うるうるした目のリュートのおねだりを拒否れる訳もなく、リュートは私に顔を埋めながらゴブリンの巣への道を歩いている。
だいぶ心配させちゃったから仕方ないか。
開き直ってますが、何か?
リュートの運動神経なら転んだりもしないだろうし。
そんな事をうだうだ考えてたら、いつの間にか目的地の近くまで来ていたらしく、周囲の風景は剥き出しの土ばかりで洞窟そのものの風景に変わっていた。
ノクしか知らないけど、ダンジョンの方がきちんと整備されてるよね。あれ、誰がしてるんだろう。
リュートのハスハスを聞きながら、周囲を見渡していると、遠くから湿ったような音と、女性のすすり泣きのような声が……って、おい、マジですか?
(あんあん?)
(変な言葉覚えちゃ駄目だよ? ルー、巨大化して脅かして止めて来て)
(あい!)
ぐぅんと伸びて気合を入れたルーが、たゆんたゆんと洞窟内を跳ねていく。
ルーも耳がいいから、行く方向に迷いはない。
リュートは私をハスハスしてて気付いてないし、今のうちだよね。
しかし、何処までピンクな脳みそしてるんだろ?
消毒してやるぜ、的なエロゲみたいな流れ?
んー、でも、ある意味、愛はあると言えるのか?
「はい! ハルさん、愛してます!」
(あー、うん、ありがとう。私も愛してるよ)
バフバフと私へ何度も顔を埋めながら、勘違いしたリュートが熱烈な告白をくれる。
って、あれ、もしかして、キスされてるのか、これ。
私全身もふもふしてるから、わからなかったよ。
キス魔なんだね、リュートは。
「あれ、そう言えばルーは?」
(先に行って、檻開けてもらってるよ)
「ルーなら適任ですね」
ルーの不在に気付いたリュートは疑う事もなく、ニコニコと笑って、私を肩へと乗せ直してくれる。
(叫んで到着したって伝えて、安心させてあげたら?)
リュートの声が聞こえたら、服着てくれるだろうし。
「そうですね……トラク! 助けに来たぞ!」
ははは、遠くで悲鳴が聞こえてたのは、きっと気のせいだよねー?
「な、何なんだ、こいつは!」
たどり着いた先では、トラブル君が巨大化したルーを指差しながら、顔を真っ赤にして怒ってた。
よし、檻から出て、ズボンだけは履いてるな。
女性陣はきちんと服を着てるけど、何か、うん、事後感抜けてない。
孫娘ちゃんは……あ、疲れて寝てるのか、良かった。女神様鑑定でも異常なし。
「ハルさん、ルーを止めてください」
のんびりとしたリュートの声に、檻の隅で眠る孫娘ちゃんから視線を外した私は、リュートの示す方向を見る。
(ルー、ありがと。もういいよ)
(たべう?)
(お腹壊すから。こっちにおいで)
トラブル君をぷるぷる威嚇してたルーは、もにゅもにゅと縮みながら戻ってくると、リュートをよじ登って私の中へと消える。
「な、なんだよ、そのスライムは!」
「ルーだな。全員歩けそうか? ゴブリンはもういないから、村へ帰るぞ?」
うん、リュート。たぶん、トラブル君が聞きたかったのは、そうじゃないと思うよ? 面倒臭いから訂正しないけど。
「嘘つくな! スライムが巨大化するなんて、聞いた事ないぞ!」
「遺伝じゃないか? ルーの親も巨大化してたからな」
あ、そう言えば。て事は、ルーの産みの親は、進化したスライム?
『違うわよー。たぶん、ただの栄養過多で巨大化してたんじゃないかしら。あと、その残念な美少年君が言いたいのは、ルーが大きさを変えられる事よ』
ゆる女神様は相変わらずルー贔屓だよね。質問する前に、女神様無料通話アプリで連絡来たよ。
そっか、普段から大きいならともかく、ルーが目の前で大きくなって、さらに縮んだから余計驚いてた訳か。
捕食するのに、でろんって広がるけど、あれは巨大化じゃないしね。
「ハルさん、村長さんの孫娘さんをルーに頼んで、運んだりは出来ますか?」
うむうむと内心で納得してたら、リュートがそう問いかけてくる。
(大丈夫だと思うよ。……ルー、もう一回大きくなって、あの女の子乗せてあげられる?)
(まま、いっしょ?)
(うん、一緒。お願いして大丈夫?)
(あい!)
ちょっとだけ不服そうだったけど、私が一緒に乗る事で納得してくれたようだ。
「すみません、トラクは仲間の女の子の方にかかりきりですし、俺が背負ったらモンスターや獣に襲われた時に対処出来ないので……」
(らいじょぶ! るー、がんがう!)
(大丈夫だって)
早速気合を入れたルーが、たゆんと私の中から飛び出し、孫娘ちゃんを乗せられるぐらいに大きくなる。
(ルー、こんな感じに形変えてみて)
私がイメージを伝えると、ルーはもにゅもにゅ変形していき、頭頂部辺りに人が入れる程度の窪みのある巨大スライムへ変わる。
「じゃあ、帰りましょうか?」
(うん。ルー、お願いね)
(あい!)
リュートが担ぎ上げた孫娘ちゃんを、ルーはぷるぷるボディで受け止め、さっきの窪みにしっかりと固定する。
(間違えて食べちゃ駄目だよ?)
リュートの肩からルーの上へと移動しつつ、念のために冗談めかせて伝えると、少しだけ残念そうに頷かれた。
(……あとでご飯あげるから、我慢してね)
(るー、がまん。まま、ほめてくれう?)
(もちろん。ルーは世界一可愛くていい子なスライムだからね)
警戒しながら先を行くリュートについていきながら、私とルーはそんな会話をのんびりとしてる。
視界の端で、リュートが俺は? 俺は? って顔でチラ見して来てるけど、ひとまずスルーしておこう。
疲れてるのか、ボコられたダメージのせいか、爛れたピンクな展開のせいで疲れてるのか、どれかわからないが、最後尾のトラブル君達は無言でついてきている。
一応、私とルーが最後尾になろうと思ったんだけど、モンスターなんか信じられるか! って、トラブル君が最後尾になってくれた。
いい子なリュートは、トラブル君が孫娘ちゃんを抱えてる私とルーを気遣って、最後尾を任せられないと言い出したと思ってるぽいけど……。
たぶん、普通にモンスターなんかに背後を任せて襲われたら、なんて考えたんだろう。実際、ブツブツ言ってたし。
しかし、そう思うなら、孫娘ちゃんを乗せる時に口出ししろよ、って思うわ。
もにゅもにゅ移動するルーの上で孫娘ちゃんを見守りながら、私はジト目でトラブル君達を見つめている。
私の方こそ、トラブル君達に背後を任せるなんて怖いわ、正直。
油断したら刺されそうだし、敵襲あっても気付かなそうだし、ボロボロだからまともに戦えなさそうだし。
(まま、てききーたー)
巨大化すると、ルーの声はやっぱり間延びするようだ。可愛い。
(たーおーす?)
変なとこで感心してたら、反応が遅れてしまった。
(リュートに任せれば大丈夫。リュート、敵襲だよ!)
「はい! こちらからも視認しました!」
リュートの視線の方向を見ると、長い牙のイノシシが暴れ狂っていた。
「お、おい! 早く魔法だ!」
トラブル君も気付いて、やっと歩いているような女の子達へ怒鳴ってる。
そう言えば、トラブル君達が戦うの始めてみるかも。
ヘロヘロながら女の子達は魔法を撃つ。
石つぶてと小さな炎がイノシシ――鑑定したら、まんま牙イノシシだった――へ向かう。
(おー! おー……? お?)
「魔法防御が高いようだな!」
何かトラブル君が訳知り顔で偉そうに解説してるけど、魔法防御高いからって、石つぶてと炎、ポスッてなって消える?
「ブォー!」
あ、余計怒ってるね。
牙イノシシ、トラブル君達の方向へ向かうなぁ。
「上手いぞ、トラク!」
あはは、その隙を逃さず距離をつめたリュートが、剣を一閃させて牙イノシシの牙を切断する。
牙イノシシが、ただのイノシシになったね。
「お、お前も、やるな!」
お、さすがボンボンよりは強いってだけはあって、トラブル君は牙を無くした元・牙イノシシの突進を華麗にかわし……ただけかよ!
そこで斬れよ! 目でも抉れよ! 女の子達が危ないじゃないか!
あ、トラブル君、剣ないか。
(リュート、さっさと倒しちゃって)
「はい! 見ててください!」
キラキラとした笑顔で私へアピールする余裕すらあったリュートは、器用に方向転換してきた元・牙イノシシを闘牛士のように引き付けてかわして……?
あれ、元・牙イノシシがそのまま崩れ落ちたね。なんで?
(りゅー、さくーてーした)
リュートは刺したらしい。ルーが教えてくれた。
確かに言われてみれば、元・牙イノシシの首の裏辺りに剣が生えてた。
「な、なにを!?」
早業過ぎて、トラブル君達も驚きを隠せてない。
「毛皮に傷が少ない方がいいだろ?」
リュートは特に気負った様子もなく答え、剣を刺したままの息絶えた元・牙イノシシを魔法袋へ収納する。
そのまま予備の剣を取り出して装備したリュートは、何事も無かったように先頭へ戻る。
途中、チラチラと私を見てるのが、とても可愛いと思う。
(ありがと、リュート。かっこよかったよ? 怪我は無い?)
「はい! 大丈夫です!」
うん、ステータスにも異常なし。元気いっぱいだね、リュート。
おかしな奴を見るように見てくるトラブル君に気付く訳もなく、リュートが再び歩き出したので、私達も続いて進み出す。
トラブル君は、チッと舌打ちしてついてきてる。女の子達は、何かリュートを見る目が嫌かも。
(私のリュートなのに)
「はい! 俺はハルさんのもので、ハルさんは俺のハルさんです!」
おぅ。リュートの真っ直ぐな目が眩しすぎる。
リュートに彼女が出来たら、小姑にならないよう気を付けないと。
多少腹黒くても、可愛い性格の子がいいなぁ。
イリスさんとか、結構理想的なんだけど。
そんな事を考えてたら、リュートが捨てられた子犬みたいな目でチラ見してきてた。
「俺は、ハルさん以外……」
リュートが何か言いかけてたけど、
(まーまー、てーきー)
(リュート、また敵襲だよ!)
空気を読まない牙イノシシが突撃してきて、うやむやになった。
あと、今日の夕飯はイノシシバーベキューで、お祭り騒ぎになりそうだ。
読んでくださり、ありがとうございます。
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