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第22話 空の隨に

大変お待たせしてしまい申し訳ありません!前回更新からどれだけ経ったろう…

この世界に来てから、最も見慣れた風景の中に自分は立っている。それなのに、こんなに気持ちが落ち着かない。ここに立っている事は不自然でしかない。なぜなら…


「俺たちはリアーナの屋敷にいたはず…でも今は…」


「あなたの主人の屋敷ね。」


そう。リアーナの屋敷で若干の戦闘を行ったロッタと隼太は、一瞬のうちにパーシィからマーティ家の屋敷に移動させられているのだ。


「考えられる可能性は大まかに3つ…まずこの景色が偽物、つまり結界の中であること。それから私達の意識が操られていること。そして、本当にこの場所に瞬間移動させられたこと。」


「ええ。…でも確かめる方法は?それに、本当に移動させられていたなら、戻るのに相当時間がかかりますが…」


「それに関しては問題ないわ。私があなたを連れていけば、一瞬であの屋敷に戻る事なんて造作もないこと。私の魔法属性は雷。全ての魔法の中でも最速の系統よ?それに、彼女の能力を確かめるのもそう難しいことではありません。まずは元いた場所に戻ってみましょう。少し手を出して。」


「?...ええ、はい。」


ロッタに手を差し伸べられるままに、隼太は彼女の左手に自分の右手を乗せる。その瞬間、


「っ...!?」


全身に強烈な雷が走ったような感覚に襲われた。目の前が光に包まれ、その中に溶けていく感覚。ナニカが全身に、いや、全身がナニカの中を駆け抜けていく。そして、その感覚を知覚した時には、2人はリアーナの屋敷に戻っていた。


「一体何が...」


「ちゃんと戻れるなら、偽物の結界の可能性はありません。それに、ちゃんと目の前に能力者本人がいる。」


ロッタの視線の先を見ると、


「...驚いた。国家指定魔術師がこれほどまでの力の持ち主だとはね。」


「随分とナメられたものね。考えるに、貴女の...いや、正確には貴女の『精霊』の能力と、私の魔法とではだいぶ相性的な不公平がありそうですけれど?」


「いいや、そうでもないさ。試しにこの場でウチを捕まえてみなよ。あんたの魔法なら簡単だろう?」


「...後悔するわよ?」


ロッタはそう呟くと、左手をリアーナの方に向ける。しかし...


「?...魔法が使えないのか?」


隼太が困惑するのも無理はない。さっきまであれほど派手に炸裂していたロッタの魔法が今は嘘のように大人しい。


「どうしたんだい?早く捕まえてみなよ。」


「...なるほど。『魔封じの結界』とは、また厄介なものを使うのね。」


魔封じの結界?...そういえば、ハヤタもマーティン家の書室で結界に関する勉強をしていた際に見かけた事がある。魔封じの結界は、その名の通り「魔法を封じ込める結界」。仕掛け・発動にはかなりの時間を要する相当な高位術式だったはずだ。しかし、この短期間でリアーナはそれを成立させている。これは一体どういう仕掛けなのか。


「気づいたかい?位置的にも、外見的にもさっきと全く同じ部屋...だけどその性質は全く別。魔封じの結界なんて、まともに準備したんじゃ到底間に合わないさ。()()()()()()()()()()()なら話は別だけどね。」


仕掛けだけではなく、発動までにも時間のかかる結界を()()()()()()()していたとするならば、ロッタの頭に浮かぶ可能性は一つしかない。


「これで確定したわね。その精霊の能力は......『空間遷移』。」


「正解。まぁこれだけ派手にやったら分かるだろうね。」


「空間そのものを時間を挟まずにそのままそっくり転移させる能力。先ほど私たちをマーティン家の屋敷に飛ばしたのもその能力ね。」


「もちろん。さぁどうする?この場面じゃああんたのお得意の魔法は使えないだろう?」


そう言うと、リアーナの後ろに隠れ気味だった少女、ではなく、高位精霊ペイズが前に出てきた。先ほどの怯えた表情は少しだけ薄れているように見える。


「見た目はこんなだけどね、この子も一応精霊の端くれでさ。魔法無効のこの環境なら、ウチとこの子で生身のあんたとそこの少年くらい簡単にぶっ倒せる。...さぁ行くよペイズ!」


リアーナの声と同時に、ペイズが走りこんでくる。その速度は常人を遥かに凌駕しており、華奢な体から放たれる飛び上がっての顔への蹴りの鋭さは凄まじい。完璧な攻撃だ。間違いなくロッタの顔面を捉えていた。しかし...




「とっておきなんだ、これは...!ここってタイミングじゃないと出さない。そう決めてる...でも、今は『その時』だ!......グロース!」




刹那、ロッタに強烈な蹴りを放ったはずのペイズの足は、強固な木製の腕に命中していた。


「これは...精霊...?あなた...」


全身木製の2mを超す大きな体をした高位精霊。隼太も外に出すのは久しぶりだ。その突然の登場に、さすがのロッタも驚いている。


「こんな大事な事をここまで隠していた非礼をお許し下さい。これは人にあまり知られたくない能力なので...」


「...フフフ、あははは!面白いわ。ますますあなたが気に入りました。只者ではないと思っていたけれど、まさか精霊使いだなんて。」


「そりゃどうもありがたいお言葉で。...さぁ、どうするんですか?この状況じゃ、明らかにこっちに分がありますが?」


隼太がリアーナの方を睨みつけると、リアーナは静かに眉をひそめた。グロースの登場により、ロッタと隼太は戦力的にアドバンテージを得た。3対2の室内戦。この状況で、近距離戦闘に適した精霊であるグロースの存在は大きい。


「国家指定魔術師に、高位精霊使いが一人...いや正確には2人か。......うん。これなら問題ないかな。ウチも認めざるを得ないね。」


リアーナはため息交じりにそう呟くと、ペイズに目配せをする。すると、また部屋が一瞬のラグもなく入れ替わる。何度経験しても脳が状況を飲み込むまで多少の時間がかかる能力だ。


「っと...おい、今度は何の部屋だ!?」


「安心しなよ。ここは()()()応接間だ。あんた達は()()。」


「合格...?どういう事...」


「そのまんまの意味さ。あんた達は試験に合格したんだよ。...ウチの『ミレー渡航資格試験』にね。」










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