第21話 私は世界の子
本当におまたせいたしました…!21話です!
「〜〜〜〜っ!やっと着いた〜!」
隼太は旅の疲れを吹き飛ばすように、大きく伸びをする。日をまたいで竜車で走り続ける旅を終えて、目の前には大きな港町が栄えている。ここが疲れを我慢してたどり着いた、ウェルド公国最大の港町、パーシィだ。
「いや〜しかしここも大きい街だな。文化も内陸とは大分違うみたいだ…」
周りを見渡すと、木造の南国風な建築物がよく見られる。日差しが強いせいか、薄着で日に焼けた人が多いようだ。軽快な音楽がそこら中で鳴り響き、酒や料理を囲んで楽しそうにパーティを行う人々が多く見られる。踊り、歌い、酔い、笑う。この街にはそんな明るく楽しい雰囲気が溢れている。
「パーシィに来るのは初めてだけど…すごい活気ね。」
レティシアも隼太と同じように周りをキョロキョロと目新しそうに眺めている。シクリーはやっと楽しそうな場所に来れたと思っているようで、さっきよりも明らかに機嫌が良い。
「おぉい、皆、とりあえず滞在する宿に向かうぞ。街を見て回るのはその後じゃな。」
アロイジウスの呼びかけに、一同「はーい」と揃って返事をして、再び車内に乗り込む。
「ねぇねぇ、お爺様、私達この後少し街を見て歩いてもいいかしら?」
「街を?」
「ええ。初めて来たところだし、あまりこういう所に来る事もないし、ちょっと見学してみたくて…駄目ですか?」
「う〜む…まぁいいじゃろう。ただしハヤタ君も同行する事。よいな?」
「えぇもちろん!ありがとうお爺様!」
外出の許可が出てレティシアは嬉しそうだ。彼女は確かに迂闊に行動できない立場ではあるが、こういう時くらいは楽しませてあげたいと隼太も思う。言われなくとも付いていくつもりだったが、アロイジウスの指示もあり、正式に行動を共にする事となった。
しばらくして、この数日間寝泊まりする宿に到着した。この時代のものとしては高く、テラスからは海が綺麗に見える。夕日をここから眺めるのはさぞ気持ちが良い事だろう。皆自分の荷物を降ろし、部屋でくつろぐ者、ベッドで眠る者、部屋の中を探検する者など、行動は様々だ。
「それではお爺様、私たちは街に出てきますね。」
「うむ。くれぐれも気をつけるようにな。ハヤタ君、レティシアを頼むぞ。」
「はい、命に代えても。」
ハヤタはアロイジウスに深く礼をすると、ワクワクした様子のレティシアの後を追いかける。
街に出ると、先ほどの賑やかな光景が広がっていた。宿の前は大きな通りになっているようで、たくさんの人や、荷物を載せた竜車、出店や行商人で溢れている。レティシアに連れられ、その人並みをかいくぐるように進んでゆく。途中で住んでいる街にはない食べ物や、聞いた事の無い音楽に立ち止まり、それらを味わう度にレティシアは感嘆の声を漏らしていた。
しばらく歩いたところで、海沿いの長い浜に出た。レティシアが少し疲れている様子なので、現代で言うカフェのような所で休む事にした。店内は混んでおり、なんとか空いていた一つの席に座った。
「はぁ、すごかったね。私たちが住んでいる街とは大違い。人の性格も食べ物も、建物や音楽まで。全部新鮮で面白いわ。」
「確かに。環境が違うとこんなに生活に違いができるのは面白いね。」
2人は暑さを紛らわすために冷たい飲み物を注文する。するとしばらくして、店の店員が姿を見せた。注文していた飲み物が届いたのかと思ったが、手には何も持っていない。
「すいませんお客さん、どうしても空席が出ないもんで、相席をお願いしたいんですが...」
確かにハヤタ達のテーブルには椅子が3つあり、一人なら相席しても大丈夫だろう。すぐにレティシアが許可すると、ドアから一人の若い女性が店内に入ってくる。その瞬間に店内がどよめき、皆その女性と友達のように挨拶を交わし始めた。
「なんだろう?あの人有名人なのかな?」
「そうかもしれないね。でもみんなやけに距離が近いな。まるで全員友達みたいだ。」
交友関係がとてつもなく広いのだろうか。その女性は入店からしばらく時間をかけて隼太たちのテーブルに到着した。
「いやぁ、相席をお願いしちゃってごめんね。でも思っていたより早く着けたのは幸いだったよ。」
明るい様子の彼女は、にこやかな顔で3つめの椅子に座った。
「どうも初めまして。私はの名前は........レイア。こっちはハヤタよ。」
訳あって本名が言えない立場のレティシアは、レイアという偽名を使って自己紹介した。些か無礼ではあるが、この店内にどんな人間が潜んでいるのか分からないため、名前を伏せるのは正しい判断だろう。こちらの自己紹介を受け、相席の女性はうんうんと頷いている。
「名前を教えてくれてありがとう。本来はこっちから名乗るべきだったね。」
彼女はそう言うと、なんともない様な声でこう名乗った。
「ウチの名前はリアーナ・ケイ。あんた達の好きなように呼んでくれ。」
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「―――リアーナ...ケイ?」
「そ。それがウチの名前。...ん?知ってた?」
「いや、知ってるも何も...」
忘れる訳がない。リアーナ・ケイ。彼女こそがこの街を治める領主であり、そして何よりも・・・
「―――今回の王選の候補者...!」
「あ~あれな~、ウチもよくわかんないんだけどね。まぁそれはあんまり考えないでよ。堅苦しいの嫌いなんだ。」
「え、あぁ...」
正直どうリアクションしていいのか分からない。それは隣に座っているレティシアも同じ事だ。幸い、リアーナは首都での会合に出席していないため、レティシアの顔に覚えがないようだ。
そうこうしているうちに、2人の頼んでいた飲み物が到着する。その際にもリアーナは店員と簡単な会話を交わしている。店員の方も敬語の類を話していないことも気になった。そのついでに彼女も飲み物を頼んでいた。
「リアーナ...さん?は随分平民と仲がいいんですね。貴族の方なのに。」
「だから堅いのはいいって。呼び捨てでいいよ。あれ、よく見たら2人ともこっちの人間じゃないね?道理でかしこまってると思った。」
そう言うとリアーナは隼太とレティシアの服を眺めて、
「...暑そうだね。」
「えぇまぁ。こっちは日差しも強いですし。」
「なら適当な店で服でも買うといいよ。レイアちゃんは色が白いから日傘も買わなきゃだね。」
「いえ...実は手持ちがそんなに無いので...」
実は隼太とレティシアが持ち合わせているお金はそんなに多い訳ではなく、二人分の服を揃えるには少し足りなさそうだ。確かに暑いが、我慢するしかないだろう。
「いやいや、気にしなくていいさ。...ほい、店の店主にこの書類を渡せば好きな物が選べるよ。」
リアーナが隼太とレティシアの前に一枚の紙を差し出した。
「...え?これは?」
「簡単な書類だよ。これを見せれば会計がウチ宛てになるんだ。だからあんたらに余計な出費は必要なし!」
「えぇ!?そんなの悪いですよ!」
「いいって、気にすんなよ。これも一つの出会いだし、この街はそういう所なんだ。困ってる奴がいたら自分の事として助けるし、楽しんでる奴がいたなら便乗して楽しむ。飯が食えなけりゃ奢るし、居場所がなけりゃ泊めてやる。だからこれもその一つだよ。」
リアーナの話に、店内の全員が相づちを打つ。なんだか貰わなくてはならない雰囲気に押され、お礼を言いつつ書類を受け取る。リアーナは嬉しそうだ。
「ありがとうございます。ではありがたく頂きます。」
「うんうん。親切ってのは回りモンでさ。だからあんたらもこの街で困ってる奴がいたら助けてやって欲しい。ウチからはそれだけ。」
リアーナはそう言うと、届いた飲み物を一気に飲み干し、
「今日はありがとな。ウチは適当に街をフラフラしてるから、見かけたらまた声かけてくれ。それと、夜になったらウチの家でパーティーをやるんだ。街のみんなも適当に出入りしてるから、あんたらも気が向いたら顔出してな。じゃ!」
リアーナはそう言い残し、サッと会計を済ませて店内から立ち去る。店内から一斉に別れの挨拶が告げられ、彼女はそれを片手を上げて適当に流すようにしていた。
「...驚いたな。会合に出席していなかったからどんな人間なのか知らなかったが...」
「うん。でもすごく豪快な人だね。私びっくりしちゃった。」
「まるで領主っぽくないというか...あんな人もいるんだな。さて、俺たちもそろそろ宿に帰ろうか。」
2人は席を立ち、そのまま店を出た。帰りの途中にレティシアが思い出したように、街にあった服屋に入ることにした。気候に合った服をいくつか選び、会計で例の書類を見せたところ、店主は快く会計を済ませてくれた。彼は「よくある事だから気にするな。」と笑顔で言ってくれたので、きっと普段からこういうことがよくあるのだろう。
「ただいま、おじい様。今帰りました。」
「おおレティシア、帰ったか...って、その服どうしたんじゃ?」
「あぁ、実は...」
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「何!?リアーナに会ったじゃと!?」
レティシアがリアーナと出会った事を報告すると、アロイジウスはひどく驚き、勢いよく立ち上がった。
「すみません、そんなつもりは無かったんですが、たまたま出会ってしまいまして...」
「いや……そうであれば仕方のないことじゃ。それで、正体はバレていないじゃろうな?」
「えぇ。あちらも気づいた素振りはありませんでしたし。」
「そうか...なら良かった。それならわしが付いていかなかったのは正解じゃな。リアーナとは一応面識もある。わしが居たならレティシアの正体もバレてしまっていたじゃろう。」
アロイジウスが心配するのは当然だ。レティシアは今回の王選候補者。その命を狙う者は多いだろう。故に今回の旅は正体を明かす事は極力避けるようにしたい。
「そういえば、リアーナが自らの家でパーティを行うとの事で招待を受けたのですが…」
「ほう…あの娘も変わらないのぅ。」
アロイジウスは髭をいじりながら眉間に皺を寄せて静かに呟いた。
「となると、昔からあのご様子で?」
「うむ。カムールハ家…リアーナの実家の雰囲気そのままじゃ。」
「カムールハ…?聞いたことのない名前ですね。何故彼女はそれを名乗らないのですか?」
「それはあの家の特殊な事情が深く絡んでおる…じゃが今それを話すのは少々問題があってな…まぁそれは良い。そのパーティにレティシアを連れて行くのは少々危ないじゃろうな。しかし少し様子を知りたい…」
「では自分が行ってきます。」
「うむ。すまんがちと頼む。こちらにはワシとエラも残るから心配せんでもよい。」
「分かりました。留守を頼みます。」
隼太はアロイジウスにレティシアの事をまかせ、リアーナが開いているというパーティに向かう事にした。
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一歩外に出ると、街は一層活気付いていた。音楽と食べ物で人々のテンションは昼よりもずっと高い。
しばらく歩き、人混みを抜けると、リアーナの屋敷が見えてきた。屋敷の庭からは大勢の人の声と明るい光が見える。
「よし…早速様子を見てみるか…」
隼太は気合を入れ、門を開け放している会場に入った。ざっと200人ほどの人間が中で呑み食いしながら音楽に合わせて踊ったり、談笑を楽しんでいる。
「すごいな…これが領主の庭だとは思えない…」
隼太が周りを見回しながら会場を歩いていると、
「やぁアンタ!昼ぶりだね!」
「うわっ!ビックリした!リアーナさん!」
背中から声をかけられ振り向くと、そこには笑みを浮かべたリアーナの姿があった。
「ふふふ、来てくれるなんて嬉しいよ。…そうだ、ちょっと付いておいで。」
「…?」
そう言われるがままに、会場の庭から屋敷の中へ連れて行かれる。入れられたのは応接室のような所で、机には簡単な菓子と飲み物が置かれている。
「そういえば、一緒にいたレイアちゃんって子は来てないのかい?」
「あ、えぇ。レイアは疲れたみたいで、今は宿で休んでいます。」
「そうかい、そりゃあ残念だ。まぁあの子とはまた会う事もあるだろうさ。なんだか縁を感じたね。………なぁ、ただの旅人じゃないだろう、アンタ達。」
そう呟くリアーナの目は、笑顔の奥に鋭い光を宿しているように見えた。一目にしてレティシアと隼太がただの旅人でない事を見抜いていた。恐ろしい直感だ。
「いえ、自分たちはただの旅人ですよ。」
「ふふ、嘘ついたって無駄さ。実はね、国家指定魔術師のロッタって人がとんでもないVIPを連れてミレーに向かうって情報がウチの耳に入ってきてるのさ。…ズバリ、アンタら、その関係者だろ?」
リアーナが奥に潜めていた眼光が、今度は鋭く隼太を刺した。凄い威圧感だ。普段の彼女からは想像もできないオーラ。これだけでわかる。彼女もかなりの実力者だ。
…それにしてもまずい。まさかここまで情報が漏れていたとは。ロッタだけならまだしも、連れがいる事を悟られているのがマズい。それに、ここまで情報を知られていると、下手に嘘で誤魔化しきるのも得策とは言えない。
「…仮にそうだとしたらどうするんですか?」
「悪いがミレーに行かせる事はできないね。あそこは特殊な街でね、そう簡単に案内するわけにはいかないのさ。それに、あそこへの航路を知ってる奴はウチと極僅かな身内だけ。止めずとも航行は不可能だろうが、国家指定魔術師が相手じゃ何されるか分からないからね。」
なんて事だ。まさか航路を知っている人間がそこまで限られているとは。これでは無事にこの街を突破できても、ミレーに行くことができないではないか。
隼太が悩み、考えていると、突然背後から凍るように冷たい声が耳に入ってきた。
明らかな殺意を含めて。
「………あら、案内なんて必要ないじゃあありませんか。だって、魂の抜けた貴方の身体に直接聞けばいいのですから。」
「ロッタ…!」
全く気づかなかった。どうやったのかは分からないが
いつのまにか部屋の中に入り込んでいる。
「こんばんは、私の可愛い使用人さん。こんな女に浮気するだなんて、貴方も手癖が悪いのね。」
彼女は冗談のつもりのようだが、この緊張感では笑えない。
「………アンタ、どうやってここに入ってきた?部屋の前には護衛を付けてたんだが。」
「あれが護衛?フフフ、もう少し身の安全に気を付けなさいな、お嬢さん。」
リアーナを挑発するように、扇で顔の半分を隠したロッタが笑みを浮かべる。
「…アンタがその気ならウチもそれなりの対応をさせてもらうしかないね。アンタのその殺気、明らかに命を獲る気だろう?」
「まぁ、酷いことを仰るのね。私はただ貴女に優しく微笑んでいるだけなのに。」
「よく言うよ。こんなに禍々しい殺気、初めて見たね。これが国家指定魔術師?はっ、国家指定殺人鬼に改名した方がいいんじゃあないかい?」
「………笑えない。大人しく航路を吐けば命を獲るのはやめておいても良かったのに。」
刹那、ロッタからバチっと電気の弾ける音がしたかと思うと、リアーナの周りを物凄い光と音が取り囲んでいた。完璧な攻撃、人間の反応速度では全く捉えられない。高圧電流に包まれてリアーナは感電死…したかに見えた。だが、
「………あら」
ロッタが電撃を与えていたのは、リアーナではなく部屋の隅にあった像だ。だが、確かにロッタはリアーナがいた場所に攻撃を加えていた。いつのまにかリアーナが消え、像が現れたのだ。これは一体どういう事だ?
「…まぁ、それが貴女の精霊さん?」
「あぁ。可愛いだろ?」
いつの間にか、リアーナは像があった場所に移動している。そして、彼女の足に隠れるように、精霊の姿が見えた。
「えぇ、実に私好みの見た目だわ。小さな女の子。あなた、名前は?」
「………ペイズ 」
金髪の少女、いや幼女のような見た目の精霊が、静かに自らの名を答えた。
「そう。ペイズ ……74番ね。」
74番…?何の話だ?
「まったく、恐ろしい攻撃だね。多分アンタが本気を出したらウチじゃ全く敵わない。」
「分かってもらえたならミレーへの航路を教えて頂けるかしら?それよりも死んだ後の貴方の脳に電気を流して無理矢理記憶を語らせる方が楽かもしれないけれど。」
「恐ろしいこというねぇ。いいや、まともにやったんじゃ勝てないのは分かった。だから…」
なにかを企むようなリアーナの言葉を遮るように、再びロッタが攻撃を加える。だが…
「!?」
「まぁ。これは驚いたわ。まさかここまでの『能力』だとは思わなかった。」
何が起きている?完全に理解不能だ。目の前の景色が見えていても、それを頭が受け入れられないでいる。
隼太とロッタは今、マーティン家の庭に立っている。




