表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
35/474

1-33 ボン・クローネ観光-Ⅷ

 稔とラクトが自動転送され、辿り着いた場所は元々居た場所だった。……のだが、変化が見られた。


「戦闘モードじゃなくなったな」

「だね。――で、なんで稔はそのTシャツを着ているんだ?」

「どういう――え」


 稔は何を言われているのか分からずに、Tシャツを見る。見てみればそこには、バックが黒色で『神』という文字が白色で書かれていた。――如何にも変人である。


「『神』って……」

「まあ、一応リートから権利は譲渡されたから『神』とは考えられるけどさ、それでもまだ国民への理解は得られていないだろうし、それこそ俺なんて王室に関わり深いわけでもないし――」


 権利を持っているものを神だとするならば、稔を神と言って間違いではない。もっとも、国民からの理解は稔が言うように無いのが現状だが。とはいえ、それくらいは教育だとかで変えていけばいい問題だ。


「だね。……でも、魔力の効力が二〇倍に上昇していたわけだし、それで『神』っていう称号が与えられたんじゃない?」

「そうなのかな? まあ、俺を馬鹿にするような称号じゃないだけマシだけど、デザインが酷いな……」

「ハハハ」


 ラクトは、稔がデザイン性の酷さを指摘すると笑った。何しろ、ラクトの着ている衣服に変化はないのだから。パーカーの色も変わっていないし、その下に着ている下着などの見えないところも大丈夫だ。


 稔もラクトも笑っていた路地裏は、薄暗くてあまり人影が見えなかったため、音はよく聞こえてきていた。街中の活気が、耳に届いていたのだ。故に、リートが街中に来ればその活気は更に凄いものになるはずなのだが――


「リートとかって、まだ到着していないんだな。……大体一時間経過したよな?」

「うん。経過した。――ってことは、道中で何かトラブったのかな?」

「知らん。……でも、それも考えられるか」


 悩む二人。とはいえ薄暗い場所で長考するということは、スラム街であれば危険が伴うわけであるため、稔はラクトに路地裏から出るように提案した。


「つか、流石に此処に居たら音が聞こえても対応できないだろうし、大通り行こうぜ」

「そうだね。訪問したりするときは、やっぱり大通りの方が通りやすかったりして、対応しやすいか」

「ああ。人でごったがえさない限り、特に気にすることもないしな」


 路地裏……と言っても、東か西のどちらかに抜ければすぐに大通りが有るような街である。そのとおりの呼び名を稔は知らなかったけれど、薄暗い場所は長く続いているわけではないことは分かっていた。


「さあ、稔。稔はここからどっちの明るい方向に行くつもりなんだ?」

「東でいいんじゃね。何となく」

「んじゃ、そっちの方向へテレポートだ」

「有効活用だな。くそ、俺の脳裏に浮かばなかった……」


 稔は、テレポートをすることを浮かべられなかったことを酷く後悔したが、それも現実である。何でもかんでも完璧な人間なんて居ない訳だし、そこまで酷く落ち込む必要なんて無い。



「テレポート……って、あの道の名前は?」

「城東通り。意味は『水波城の東の大通りだから』」

「そっか。じゃあ、あっちは『城西通り』なのか?」

「うん、正解。……まあ、テレポート使えば移動時間は変わらないからさ、自由にしてくれていいよ。――私は稔を見失うと悪いから、ちょっと手を繋がせてもらうけど」


 そう言って、ラクトは稔の右手を優しく掴んだ。……のだが、少し頑固に掴んでいた。


「えっと、なんで指を絡めているんですかね?」

「その方が離れづらいからだよ。……サービスなら、もっとするよ?」

「拒否する。サキュバスの娘が夜のサービスって、結構やばそうだから」

「信頼ゼロですか。ご主人様、召使を信頼するべきだと思うぞ?」


 ため息をつくラクト。けれど、指を絡ませて頑固に掴んでいた稔の手は離さない。

 一方で、稔は信頼についてラクトに話した。


「でも、俺はお前を結構信頼してるぞ。偽装の信頼じゃなくて、本当の信頼だ」

「……」

「バタフライ――紫姫が降臨して、俺の精霊となるための最終契約までの段階で、俺はお前を頼っただろ? 剣を奪いに行かなかったのはそういうことだ。お前なら分かってるって思ったからだ」

「稔ぅぅ……」

「ちょっ、泣くなよ! お前らしくないぞ……?」


 戦いが終わって。バタフライもヘルもスルトも、召喚陣や水晶の中で治癒中である。サモン系の召使や全ての精霊は、そうやって自分だけの世界を持つ事が許されているのだ。

 サモン系の召使にしても、水晶などの石から生まれた精霊にしても。魔法を使った後、確認すれば消費量は半端無い。でも、いつでも治癒が許されているので、無駄なく使うことが出来る。


 しかしカムオン系は違うのだ。人間が暮らしたりする時と同じように、何かをするには周囲に目を配らなくてはならないのだ。主人の命令を遵守するのは勿論のこと、社会の秩序を考えた上での行動をしなければならないのだ。

 もちろん、治癒だって同じだ。人間と同じように寝れば治癒できるのだが、それでも街中で寝るのは有り得ない。泣くことだって、基本的には出来ない。単に、一人部屋がないために。


「信頼してくれてるなんて聞いたら、凄く嬉しいっていうか……」

「お、おう……」

「優しくされたのが、今まで以上に嬉しいっていうか……」

「そ、そうか……」


 反応に困る稔だったが、あまりにも泣いてくれるラクトに、少し呆れたような感情もいだき始めていた。一方で稔は、ラクトにも精一杯の号泣をしてもらうことも考えた。死なない程度の号泣だ。


「今、絶対私の顔見るなよ……?」

「なんだよ、鶴の恩返しみたいなこと言って」

「召使の泣き顔なんて、価値無い――」


 稔に襲ってきたのは、小学生並みの感情だった。「泣いているこいつの顔を見てみたい」という、皮肉にも小学生並みの感情だった。価値がないだとか、そういう風に見られているものを見てみたくなるという、探究心や冒険心みたいな、そういうものが襲ってきていた。


 稔は、悲しいことにそんな小学生並みの感情に負けてしまった。「召使である朱夜の泣き顔を見たい」という気持ちが一層強くなってしまい、ついに行動に出てしまったのだ。


「ふぁっ――」


 女性や女の子、幼女から老婆まで含めて、稔は異性の顔を持ち上げたことなんて無かった。そういった行為を行えば、大体稔は嫌われるような人間であった。いくら、中学生の時に最盛期を迎えていたとはいえ、すぐにそれは終わってしまったわけだし、そんな経験はなかった。


 ラクトが涙を拭おうとするのだが、稔がそれを阻止した。拭おうとする両方の手を、稔は右手で押さえつけた。一方、稔の左手はラクトの額にあった。


「別に、価値がないわけじゃないじゃん……」


 目をギュッと瞑ったラクトだったが、価値がないと言われて眼球を見せる。頬を伝う涙は、稔の涙腺を緩ませようと攻めてきたが、稔はそれを笑顔で包み込んで抵抗する。


「改めて感じたけど、お前もやっぱり女の子なんだな。……身長差あるし」

「これでも高いほうだよ?」

「そうなんだ」

「身長一六四センチだし」


 一六四センチ、と聞いた時、稔は結構驚いた。何せ、中学生の頃の男の友人と身長が同じだったのだ。その男の友人が成長しているとしても、偶然なのか、同じだったことには驚いた。


「稔は何センチ?」

「一七五センチだった気がする」

「ほうほう」

「そのくらいの身長って、ムキムキって訳じゃないけどこれくらいでいいっしょって感じかな?」

「それ体重の話だろ。……でも流石に俺もこれ以上伸びると、部屋とかに入る時大変そうだから、いいんだけどね」

「そっか。でも、背の高い人って、結構羨ましがられるよ? ……ほら、高い場所に物とかが有る時、魔法を使わなくても取れるって羨ましいし」

「まあ、それは利点だけどな」


 体重が重くたってあまり利点はないが、軽かっ――いや、軽すぎたって結局は利点はないが。やはり、身長や体重、スリーサイズも含めて、大きすぎても小さすぎてもいけないというわけだ。格好良く、可愛く見せるためには、欠点よりも利点が多い方がいいだろう。


「ああ、そういえば」

「ん?」

「稔は知ってるかな? 将来、身長がどれくらい伸びるのかってやつ」

「求める公式、『{(父親の身長+母親の身長)+13}/2+2』だったっけ?」

「それは男の人のやつね。女の人のやつは、『+13』が『-13』に変わってる」

「悪い。俺、そこまで詳しくは覚えてなかった……」


 稔が頭に手を置いて自分を馬鹿にして笑った。ラクトも、その笑いに付いて行って笑う。


「まあでも、稔がそこまで高い身長な理由は、やっぱり遺伝なのかもね。羨ましいわ」

「羨んでもいいけど、俺より高い身長の女の子とは付き合えんぞ」

「やっぱり、男はプライドが高いものだもんね」

「……否定はしない」


 稔も否定はできなかった。何にせよ、それが事実なのだし仕方が無い。


「もしかして、そういうのがお前が男を嫌ってる理由でもあるのか?」

「うーん……。強気で頑固な人が嫌いなんだよね。あと、自己中心的な人。自分が何かを言えば女は皆従ってくれるみたいな、そういう発想の人」

「ああ……」

「『俺が言ったことには口出しするな』みたいな、そういうことをいう人って好きになれないっていうか」

「……インキュバスがそうだったのか?」


 稔が聞くと、ラクトは首を静かに上下に振った。だが振った幅は小さく、それも一度だけだった。


「インキュバスは私の大切な人達を犯して、そして私に口止めをしようとしたんだよね。あの時、隠そうとしてた時、インキュバスが言ったのが『口出しするな』って発言」

「そうだったのか」

「うん。『お前が世界を動かしているわけじゃねえだろ』って。そういう話」

「せやな」

「でも、稔は権力が有るから、国は動かせるわな。でも、悪用すんな」

「おうよ」


 ラクトの言っている悪用という言葉は、何を指しているのかをすぐに稔は察した。鈍感すぎるのが特徴である稔だったが、話の流れを読んでいたために、何をするなと言っているのかをすぐに察することが出来た。


「ところで、稔は私の巨乳に反応してくれたのかな?」

「お前泣いてたからな。反応する暇もなかった」

「そっか。――でも、今はどうなの?」

「是非とも、今すぐにやめていただきたい」

「泣き顔、誰かさんのせいで強制的に見せなきゃいけなくなったんだけどなぁ……?」

「俺は召使を見下すことはないからな。いいぜ、何か言いたければ聞いてやるよ」


 稔が言った刹那、ラクトが自身の身体を更に稔に密着させた。加えて、稔の脇の下を擽りだす。


「お前、一体何が目的――」

「稔の泣き顔を見るってことで痛み分けをするんだよ。――フフフ」

「……」


 ナイフ、銃、そういった武器は持っていないため、ラクトの脅威はそれほどでもない。けれど擽りというのは、非魔法の中では非常に強い攻撃力を持っているものである。そのため、稔もすぐに笑顔を浮かべる。


「ハハハ……」


 泣き顔になるためには更に擽りを強化しなければならないのだが、稔の笑顔を見たラクトは、擽りを止めた。泣き顔を見なくても、自分の心の中にあった『痛み分けをする』という気持ちが消えたのだ。


「は、はあ……。全く、なんてことを」

「これで痛み分けだからな。……さあ、テレポートだ」

「おう」


 そう言って、ようやくテレポートをすることになった稔とラクトだったが、急がねばならぬ自体が発生した。



『キャー、王女様ァァ!』

『王女様よ! 王女様がボン・クローネに来ているわ!』

『やはり可愛いわねぇ……」



 何故か、女性受けがいいリート。そんなリートが、大通りに居るのだ。


「おし、急ぐぞ」

「おう」

「……いや、待て。まずは離れろ」

「ケチだな」


 舌打ちをしたラクトだったが、主人の命令ということで従った。一方、稔はラクトと繋いだ右手を話すことはなく、すぐさまテレポートで大通りの方向へ、リートとスディーラが居る方向へと向かった。



「テレポート、城東通りへ!」



 その言葉の刹那、飛ばされた場所にはリートとスディーラの姿が有った。……無理もない。歩いているのだから。


「車は使わないのか。結構中央歩いてるけど、この後何処行くのか聞いていないし、どうしよう……?」

「いや、この後はボン・クローネの市役所を寄るみたいだね。先に回っているといいんじゃないかな?」

「理解した」


 話している内容は理解した稔だったが、流石に先回りして到着されない事には困ったので、テレポートするわけではなく、空を飛行することによって移動することを決断した。


「空を飛ぶのか」

「た、躊躇うってことはその、ヘリとかに飛ばされたりするのか?」

「それは無いと思うけどね。――まあ、他の民衆も空から見てるみたいだし……ほら」

「あ――」


 ラクトが指示した方向、要は空の方向を見上げた稔は驚いた。地上だけでなく、空からもリートのボン・クローネ訪問を見ている、歓迎している人達が居たのだ。エルフィート達が、空中からエルフィリアの国旗を振っていたのだ。


「……安心しろ。ヘリとかは、あまりエルフィリアじゃ使わないから」

「要するに、空からの写真は報道関係者が魔法を使って飛んで撮ってるのか?」

「正解だ。……軍機でない限り大丈夫だから、ほら、行くぞ」

「躊躇っていたのは何だったの?」

「まあまあ、小さなことは気にせずに」

「……ったく」


 ため息を付きながらも、稔はラクトと宣言した。飛行するために必要な行動なのだから、言わなければどうにもならない。



「――離陸オフライテ――!」



 この場所にいるエルフィート達が群衆となっており、迷惑になることは間違いなかった。けれどそんな行動など、群衆の目には止まらぬ行動だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ