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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-19 捜索

 ラクトが居ないという事が重くのし掛かっていた稔に対し、テレポートして早々に紫姫がこう言った。一応は二人きりだということも考慮して話し方を変更したが、だからといってラクトに対して悪口を言ったりする訳ではない。恋敵とは思っていたけれど、だからといって共に同じ主人の下に居る関係を壊したくなかったのだ。


「心配しないでくれ。ラクトだけじゃなく、我を含めて他にも居るんだ。貴台の命令に従う精霊や召使が」

「そうだけど、一日付きっきりで過ごしたようなもんだしな……」

「そんなことは知っている。だが、主人が落ち込んでたら場の統率が難しくなるのは当然じゃないか」

「誰にだって喜怒哀楽があるん――」


 紫姫に反論をしようとしたが、紫髪の彼女は首を左右に振って稔が続きを話すことを阻害した。かわりに彼女は自分の反論をぶつける。誰かの話の間に自分の意志を入れてくる手法は綺麗とは確かに言えないが、それだけ真剣に考えているのだと捉えることも出来る訳だ。だから稔は、紫姫が行った行動に苛立ちの一切を覚えない。むしろ彼は、黒白を構成するもう一人の言い分を詳しく聞きたい気持ちで居た。


「確かに『喜怒哀楽』は存在する。精霊も召使も罪源も、貴台が言った感情を必ず持っているからな。けど、その中で強い主張をする者は主張に消極的な勢よりも圧倒的に少ないんだ。我を含めてな。でも――」


 ラクトの話し方に近づけようと必死に紫姫は努力した。けれど、どうしても『我』という一人称や話し方が常体になってしまうとか、そういった慣れ――日頃から使っているような部分の改めは困難を極めてしまう。しかし、稔は心を読めないなりに紫姫の頑張りを評価して注視を向けていた。紫蝶の精霊は彼のそのような所見を内心を読む魔法を用いて捉え、話を続ける。


「それは主人に忠誠を誓っているからに過ぎないんだ。それを踏まえて逆の立場だったらどうだ。もちろん、これより先は貴台の優秀な脳を考慮すれば何か言わなくても分かるはずだが……」

「紫姫の言っている通り、大体の予想は付いているから安心してくれ」

「その方が助かる」


 稔はラクトに自分の内心を読まれることへ特にそれといった反論をしていなかったが、別にそれは特別扱いというわけではなかった。つまりは紫姫にも通じたのである。けれどそれは、言い換えれば『一方通行』だ。読まれるだけで読むことが出来ない。他人の心の中を覗ける事に重点を置いた時、対等な立ち位置とはいえないのである。


 しかし、だからこそ主人という特権が存在するのだ。召使達が魔力を用いて魔法を使用する事が出来るのは、基本的には主人と契約を結んでいるからに過ぎない。即ち、主人も召使も地位や能力を与えられているのである。もちろん、望まない地位や能力が存在するのも確かだ。でも、与えられた地位や能力を犠牲にしてまで何かを叶えようとするのは《ムダ》でしかない。


「(与えられた物を最大限に活かせってか)」


 紫姫が稔の脳が優れているものだと太鼓判を押していたが、最終的には誰にでも分かるような意味で主人へ精霊の意は伝わっていた。憂鬱によって場の統率が難しくなるのは、即ち主人が与えられた物を活かしきれていない証拠である。けれど、だからといって気持ちに嘘を付けというわけではない。


「『喜怒哀楽と共存しろ』。それが我からのメッセージだ」


 紫姫は格好つけて言った。テンションは違っていたが、倒置法を意識せずに前に名言らしきメッセージを持ってくる辺りがラクトに近いと言える。けれど、倒置法を使用して聞くに堪えないくどい言い回しにするより、はるかにマシなのは明々白々な事だ。


「俺の心の名言録に大切に保管しておくよ。ところで、紫姫。本題から逸らすのは真似なくていいぞ?」

「我は別に真似た訳じゃない。貴台がその方向へ話を持っていたのが悪いだけだ」


 稔は「本当か?」と紫姫に質問を続けた。だが、彼の質問を聞いた刹那に紫姫が全力で否定したので、黒白の間では「んじゃ、そういうことで」という言葉で折り合いを付ける。


「それでだ。一時間の猶予があるけど、俺は極力早く終わらせたい。それと、女子トイレに俺は入れない」

「女子トイレに入るのは我が担当するから安心していい。早く終わらせる方法といっても、我にはコピー能力は無い。となると、インキュバスの説明に隠れたヒントから答えを探るべきとしか思えないが――」

「インキュバスの説明――」


 寝不足気味なのは解消されていた。けれど、既に起きてから六時間は既に経過していた稔。食後という事も相まって眠気が襲ってきていた。強い眠気に屈していては司令官としての面子が立たない気がし、眠気を否定しようとする。だが稔は、大きく口を開いて大あくびをしてくれた。


「……勤勉さも重要だが、偶には怠けることも必要だぞ?」

「何を言ってるんだ。急ごうとしている奴が寝れると本気で思っているのか?」


 紫姫は稔から指摘を食らった。それから会話を続けようにも言葉が脳裏に浮かばず、結局は「済まなかった」という言葉しか出てこない。一方で稔は別に怒っている訳ではなく、水に流すくらいの軽い気持ちで受け取って欲しかった。けれど、既に起こってしまった意見の食い違いをチャラにするわけにも行かず、黒白の間では「紫姫からのメッセージ」という事で稔が譲歩する。


「まあ、なんだ。日頃から戦闘の間くらいでしか話していないんだし、気にするな」


 稔は紫姫に非がないことを明確にしておいた。それから二人はトイレが何処にあるのか捜索を始める。女子トイレを探すのが一番だったが、男子トイレの前に女子トイレの場所を示す看板がある可能性が否めなかったため、手掛かり的な意味で捜索対象に入れておいた。


「そういや、インキュバスは『料理店の並ぶ一角』とか言ってたよな?」

「そうだな。けど、料理屋さんは数多く存在している。一角といっても多くありそうだが――」


 在住者数二〇〇〇万エルフィリアとは違い、二億のエルダレアである。それこそ第三の都市となれば、活気が無い事を否定出来ないとしても料理店が多く並んでいるのは容易に想像がつく。その一角ともなれば、メインストリートと交わる交差点的な場所が脳裏に浮かぶが、それが複数以上あるだろうことも容易く想像出来る話だ。


 ――しかし、現実は違った。


「静かな空間だな、稔」

「戦時中だから、昼間から照明器具を使うこととか出来ないのかな?」


 マドーロム大陸を舞台に、悪たる枢軸と正義たる連合で国家間の争いが起こったということは、稔が異世界に転生してきてすぐに知った話だ。そんな戦争と一緒くたにするべきではないとも思えるが、一応は同じ『戦争』である。だが当然、内容で違うこともあった。「国家間の争いではない」ということである。


「そうではないと思う。照明器具は地下では普通に使用していたし、政府庁舎も同様だったじゃないか」

「じゃあ、『電気を使い過ぎている』とかで止められてるだけなのかな?」

「可能性は大いにある。そうなれば料理店には多大なる損害でしか無いだろうし、このストリートが閑散としている理由の説明に使えるからな」

「んじゃ取り敢えず、俺らの推察って事にしておくか」


 紫姫は無言ながらも首を上下に振り、稔の言っていることを肯定した。直後、稔はラクトの元へ戻るという話を終わらせるべく、紫姫の手首を掴むと早歩きで閑散とした料理店街を進んだ。感じた熱を体温だと稔は思っていたが、一方で紫姫はそう思ってはいなかった。


「(このまま、この状況が続いて欲しい……)」


 口からは溢れなかったが、内心でそう思っていた紫姫。それゆえ、若干ながら身体が熱を帯びていた。一方の稔は変なところで鈍感さを発揮する。そんなふうに主人に呆れ返るラクトの気持ちが多少理解出来たところで、紫姫が女子トイレを発見した。


「稔。女子トイレはここでいいな?」

「ここ以外トイレが無いとすれば、恐らくワーストが指していたトイレだろ」

「そんなのは分かっている。我が聞いたのは、責任を分散させるためだ」

「まあ、確かに主人だけに責任を押し付ける召使も居るしな。それは助かる」


 紫姫が何を考えて行ったのかを聞きながら頷く稔。対して紫姫は賞賛されているのだと思って、「だろう?」と自分の行動を更に高く評価して欲しそうな態度を見せる。ツンデレとチョロインは似て非なるものであるが、けれども強情さを張るところは共通点。故に稔は、現実世界で購入したギャルゲーの展開を脳内で再生した。


 けれど。そんなことがバレてしまっては、それこそ現場の統率が乱れる。稔はギャルゲーの展開を想起した自分を嘲笑しつつ、明らかに不自然な咳払いを一つ入れた。紫姫にバレてしまってはお終いであるから、出来る限り彼女の注意が向けられないように努力する。――が、無理だった。


「……何を考えている」

「悪いな。ほら、紫姫ってテンプレとは違うけど『ツンデレ』って感じだしさ」

「すまぬ。別に自白しろとは言っていないのだが?」


 稔は寸秒で目の前が真っ白になった。白以外ならどんな色にも変えられる、紙などで使われる真っ白な色ではない。それまで有った光景が消えていくような、モノクロで言えば黒色が白色に変わる感じである。


「テンパるのは構わないが、それで自分の弱みを見せるようでは話にならない。戦闘狂と時に化す我が言うのもなんだが、やはり感情のコントロールは重要だ」

「お前の名言はさっき聞いたからいい。そんなことより、早くカースを探せ」

「了解した、稔。……それはそうと、アニタはどうした?」


 稔は問われ、辺りを捜索し始めた。人間の限界まで視界を有効活用して見たものの、それでも紫姫が言った女性の姿は見受けられない。閑散とした料理店の並ぶストリート。居ないとなれば、三階に彼女の存在はないということである。稔はそのような結論を付け、紫姫に推考を述べた。


「アニタは一階に居ると思う」

「理解した。では、貴台にはここで待っていてもらいたい。もし入りたいのであれば、サタンに頼んでラクトの特別魔法を用いると良いだろう。もっとも、貴台がそのような人物だとは思わないが」

「それ、新手の脅しか何かか?」

「なぜその解釈に至る。別に我は、貴台が『コスチュームプレイ』なるものを行うべきではないと主張しているわけでは無いのだ。誤解認識はやめて欲しい」


 紫姫はそう言って去り際の台詞とした。一方、稔は紫姫が女子トイレの中へと入っていくのを確認した後に椅子を見つけ、そこに腰を掛ける。続けて稔は、今日という日が基本的に座ってばかりの一日になる可能性が浮上してきたことから、「ハァ」と大きな嘆息を吐いた。


「運動したい訳じゃないんだけど、なんかなあ……」


 思い返してみれば、朝起きた直後は腰に痛みを覚えていた自分の姿。なぜそうなったのか理由を赤髪から聞いた後、何処か越えてはならない一線を超えたような気がしたのも事実だった。そんな稔が運動をしたいというのである。だが、それは極自然な話だ。


「先輩。それ、『仕事に追われて息抜きが出来てないよー』って叫びですよ」

「やっぱりか。――で、なんで出てきたの?」

「先程、紫姫さんが私を呼んだじゃないですか」

「あれは新手の脅しに限りなく近い何かだ。俺を嘲弄する気なら魂石へ帰れ」

「酷い言いようですね。先輩、一体どれだけストレス溜まってるんですか?」


 サタンは一切の配慮も無しに稔へ質問した。回答した気持ちで一杯だったが、ドストレートな言い分に稔は口篭ってしまう。けれど彼は「もう少し配慮しろよ……」と半ば諦めの気持ちを持った後、呆れた意味で大きなため息をして回答をした。


「ストレスは今日の未明頃に発散しまくったはずなんだが、座ってばかりで仕事に追われたせいで相当溜まってるんだわ。今の状況をスマホに例えたら、『OS=心身』『アプリ=ストレス』として、アプリを入れすぎてOSが落ちた感じ」

「すみません。難しく言わないで下さい」

「お前が『How much』的な事を聞いたんだろ……」


 『ストレス』は数字で表すには難しく、言い換えれば『数えられない分量』の話。英語に訳せば「How much stress do you have?」あたりが妥当だと思い、稔は「How many」より「How much」だと認識を示した。けれど稔の目の前に立っている精霊は、そんな小難しい話を延々と引きずるような女ではない。


「すみません、先輩。戦闘には優れていても、私は学問に秀でていないもので」

「勉強なんて何歳から始めても遅くないし、気にするな。……それで、俺からすれば精霊魂石の中でゆっくり休んでいて欲しいんだが」

「分かりました。では、精霊魂石の中に戻らさせて頂きます」


 サタンは稔にそう言って精霊魂石の中へ戻った。それと同じ頃、紫姫が一人の女性と共に戻ってきた。だが、彼女の頭部には変な獣が乗っかっていた。色は薄い赤色だ。某うさぎの喫茶店の爺に似た体格で色が白じゃなくて薄い赤色、と言えば一部の人には話が早いだろう。


「ちょっと待て、紫姫。それは何だ?」

「『アカウサギ』と呼ばれる妖族フェアラルトらしい。経緯を簡単に説明すると、カースが抱きしめていた此奴が我の頭に飛び乗ってきたのだ」

「なるほどな。まあ、特に被害が無ければ飼育――保護して問題ないだろ」


 稔が紫姫に対してそう言うと、アカウサギはぴょんぴょんと紫色の髪の上で跳ねる。「心がぴょんぴょんするんじゃ~」とか言う訳では無かったが、稔は愛くるしいアカウサギの跳ぶ様に心を和ませていた。


「さてと。カース、監禁されて痛かっただろ?」

「いえ、別に監禁されていた訳では――」

「え?」


 稔は驚きのあまり目を大きく開いてしまった。カースは妹の彼氏が見せた驚きの表情を軽く笑う。だがツボったらしく、軽かった笑いが大きな笑いに変化していった。「何もそこまで笑わなくても……」と稔は言うが、それでも笑いは止まらなかった。もう、ここまで来ると怖いと言っても過言ではない。


「――すみません。なんだか、稔さんの驚いた顔が凄く面白くて」


 カースは大いに笑ったせいで瞳を潤わせていた。両方の目から涙を頬に伝らすと、彼女はそれを対応する手の人差し指で拭う。一度だけ鼻水を啜り、彼女はそれから事情の説明に移る。


「ワーストさんに言われたんです。『性処理をするか、こいつを飼育するか』って。政府庁舎にアカウサギが住み始めたので、対処をしようとしたそうです」

「お前に対処を押し付けようってことか?」

「そういうことです」


 稔の質問の答を述べると、カースは続けてこう言った。


「稔さんの指摘を受けて、私も収入があるかもわからない仕事を引き受けるべきではないと思って、対処をする方向で話に折り合いをつけたんです。それでアカウサギは私の所有物になったわけですが――居心地がいいほうがいいでしょう」

「ありがとな。大切に飼育する」


 稔は紫姫に代わってそう言った。けれども本題はアカウサギの飼育に関してではない。稔は話を切り替え、駅の出口へテレポートする旨を紫姫とカースに話した。


「それじゃ、戻るぞ」

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