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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-18 黒白《コクハク》

「格好つけて主人公ズラ、か。――いいだろう」


 インキュバスは稔と紫姫が融合技を繰りだそうと向かってきているのを見たが、一切の恐怖心を抱いていなかった。愛する妻を守る夫としての強さが現れたと言っても良い。だが、当然ながら別の理由もあった。「自分が負けるはずなど無い」と調子に乗っていたのである。逆も然りと言えなくもないけれど、それはまた別の理由からだったので一概に同じとは言えない。


 しかし。強気と自信を足し算した時、導き出される答えは――『フラグ』である。


「――一二秒間の時間停止タイムストップ・トゥエルヴ――」


 紫姫は心内でそれを言った。バレたら大変であるのは確かだから、インキュバスが余裕を見せている今がチャンスだと決めに掛かる。魔法を読めなければ魔法を奪えないと、貴重な時間のわずかな希望の下で抵抗したのだ。「言い方なんでどうでもいい」という稔の主張が前々から有ったことも有り、紫姫は心内にて、一心不乱に錯乱しそうになる自分を捨てるようにしてまで内心で言い放っていた。


「なん――」


 稔はインキュバスの方向に強い視線を向ける。翻り、彼よりも読まれないことを渇望していた紫姫は目を強く瞑り、手を組んでいた。彼女から溢れんばかりの強い願いは、もはや神頼みと言ってもよかった。マドーロムの世界線の上で彼女の望みを解決できる人物は少ししか居ないためだ。けれども、紫姫は精霊として他人の力を借りてまで勝ちたいとは思わなかった。戦闘狂の際とは大違いである。


 そして紫姫は、インキュバスとリリスが一二秒間の時間停止魔法に引っ掛かったかどうかを確認するために小さく目を開いていく。普段は冷たそうな雰囲気を漂わせる紫髪の精霊だが、彼女はその時だけ自分の思いを強く全面に押し出していた。稔からすれば歓喜な話である。――が、時間は少ししか無い。連続使用が認められていない特別魔法である以上、迅速かつ強烈な一撃を食らわさなければ元も子もない。


「髪の毛こそ紫と黒だが、我と貴台は氷と闇――白と黒の魔法を用いる」

「それがなんだ?」

「貴台はラクトと相思相愛なのは分かった。けれど、我も諦めることは出来ぬ。だから――」


 紫姫は構えた一つの拳銃から銃弾を全て出しきった。それと同じく、明かれた目は徐々に渇望していた時と同じようになっていき、一方で頬は赤らみに染まっていく。刹那に割り込んだ『時間停止』の残り二秒、稔が紫色の剣を出してインキュバスとリリスを共に斬った寸秒のこと。彼女は重くした口から声を遂に発した。声は稔に聞こえるか聞こえないか程度の音量である。


「これから『黒』と『白』、つまりは『黒白コクハク』と名乗らないか?」

「『酷薄』って書いて漢字間違えたりしたら、怒るからな。……それだけは覚悟しておけよ」


 稔は遠回しのようでストレートな言い方をし、紫姫が考えた『黒白』という言葉を用いる事を認めた。彼氏と彼女という関係には遠く及ばないと検討を付けていたけれど、それでも紫姫は稔へ抱いてしまった好意を捨てきれずにはいられなかったのだ。稔は誹謗中傷以外なら言い方に関しては放任主義だから、気にすることもなかった。


 そんなこんなで進み、会話が終わった時のことだ。『一二秒間の時間停止』の効力が既に切れていた事を理解し、稔と紫姫は少しばかし恥ずかしい思いをしてしまった。だがラクトは、紫姫からのアプローチにとやかくいうことはなかった。それは『正妻の余裕』とも言えるだろう。信頼性が育んだ自然由来の心情だ。


 稔と紫姫はやりきった表情を見せている。その一方で、致命傷とまではいかずとも相当な魔力で魔法を使われてしまったインキュバスとリリスは、銃弾が命中した部分を中心に手を当てて患部を押さえていた。紫色の剣で与えられたダメージは『究極形態アルティメット』によるものではなかったから、二人とも自身の魔力で治癒が可能だったのだ。


「うっ……」


 治癒しようとする意思に背くことも出来なかったリリスとインキュバスは、正義を訴えた『黒白』に与えられた痛みを訴え続けていた。だが、紫姫は二人に同じ数の銃弾を撃ち放ったわけではない。奇数だったため、一発だけどちらかに入った数が多いのである。一二秒間という時間内で狙い撃ちしたから、命中していない可能性なんて五パーセント以下である。連続で半分くらいずつ撃ち込んだ時、構えてから持ち方を変えたのは最小限だけだったからだ。


「インキュバス、リリス。――爆発事件を起こした犯人はお前たちか?」

「いや、違うよ。私たちは犯人じゃない」

「そうだ! 僕たちは依頼で受けた仕事を熟しただけなんだ!」


 痛みを訴え続けるリリスとインキュバス。どうやら命中した数はインキュバスの方が多かったらしく、前者と較べて圧倒的に腹部の痛みの抑え方が尋常なものではなかったことが窺えた。だが今、そんな事を考えて「可哀想……」と銃撃の被害者となった夫婦を思う言葉を掛ける暇があるならば、他にするべきことがあるのは火を見るより明らか。そのため稔は、冷たく鋭い視線を送って白状するように求めた。


「はっ、反政府! 反政府運動の主犯格の人物に命令されただけだ! べ、別に僕らは悪くないんだ!」

「『妻を守る夫の姿』か。勇ましくて格好良い――なんて言うとでも?」


 稔は強めの口調でそう言った。あまり度が過ぎると脅しの可能性が浮上してくるため、あくまで冷淡な姿勢を見せていると認識される程度の冷たい言葉遣いに留めておく。稔はそれに続き、「飴と鞭」という言葉を思い出した。夫婦を躾けようという魂胆では有るまい。白状してくれたことへの礼の表明と更なる要求を求めるだけである。


「リリス、インキュバスの情報は正当か?」

「問題ないね」

「問題は無い」


 ラクトと紫姫から嘘ではないことが判明し、稔は飴と鞭を使用して反政府軍のリーダー格の人物を探すために動き出した。白状の後に要求を求めるのは至極大変だと分かっていたが故、稔は一言挟んでおいた。稔が初期段階で考えていた『礼の表明』がこれにあたる。


「リリス、インキュバス。情報の提供、ありがとう」

「僕たちは敗北したんだ。それに、君達がどんな事を共通認識として持っているのか理解出来たからいい」

「そうか。……じゃ、もう少し質問をさせてもらっていいか?」


 稔は自分の思うままに会話のペースを握れたような気がしたが、過信は禁物である。稔は長年――といっても一七年だけの人生だが、その中で色々と学んでいたのだ。「何かを強く信じすぎれば人格が崩壊しやすくなる」と分かっていたのである。宗教しかり、筆者の主張しかり、それらは稔の脳裏に強く焼き付いていた。


 その一方、稔は特に強い主張をしてこないインキュバスとリリスを見て、少しなら過信に近づいてもいいじゃないかと思ってしまう。でも、過去の経験は消えなかった。故に根強く残る考えも払拭できなかった。


「反政府軍のボスはどんな奴だ?」

「茶髪に帽子を被った女です」

「女……?」


 男尊女卑の光景を目の当たりにした稔は、その言葉を聞いてからというもの驚きを隠せなかった。だが、考えてみれば男装なんて女装するより簡単と言って良い。だから稔は、司令官が本来の性別とは違った性別として生きて居るのではないかと、そんなありそうな設定を構築していってしまった。悲しくも、それがゲーマーの脳である。


「そういや、男尊女卑で思い出した。――一体カースは何処へ連れて行った?」


 インキュバスへの質問は続く。彼はわんさか出てくる質問に嫌気が差したようだったが、稔は引かない。もちろん、そんなにしつこくされたら沸点の低いインキュバスが負けてしまうのは当然の話である。


「女子トイレに監禁してきた」

「犯罪だぞ?」

「残念だが、法治国家エルダレアは理想でしかない。結局、法に民は従っていないんだからな」

「犯罪じゃ無いのか……」


 稔は驚いたまま、インキュバスの話を引き続き聞くことにした。色々と面白い話も聞け、稔は平常心を貫いている。そんな中で、反政府軍の考えていた計画を稔は聞くことが出来た。


「政府に近い駅の密室を利用し、ロパンリを統治する予定だった」

「そうか。それは、要するにお前が忠誠を誓った上層部からの指示か何かか?」

「その通りだ。ただ、『上層部』という言い方だと、エルダレアを支配している現政府のように聞こえるから、言い方としては『反政府軍長官』あたりが良いと思うがな」

「一理ある」


 稔は頷き、インキュバスの話を聞いて彼の意見と同意見だと述べた。けれど、それで話がハッピーエンドで終わるはずが有るまい。カースを監禁した一件を耳にしてしまった稔の内心、彼に有った正義感が強く働いたのである。


「女子トイレはロパンリの駅か?」

「その通りだ。駅の三階、料理屋が並ぶ道の一角にあるトイレがそれだ」

「了解した。でも、インキュバスもリリスもそこから離れるな。欲しければ対価をやっても構わない。事態の終息を図りたいんだ。頼む」


 勝者による敗者への命令にするべきなのは分かっていた。けれど、強すぎる正義感によって押し潰されてしまう。そのため、稔は結果的に依頼するような姿勢でインキュバスとリリスに話していた。翻って二人側、彼も彼女も小さく笑みを浮かべる。内心を読まれることを分かっていたため、二人は読まれないように工夫を凝らしていた。


「いいだろう。それじゃ――対価を要求しようかな?」

「どれくらいだ?」

「おいおい。金銭で解決しようなんて一言も言っていないんだが?」

「は?」


 稔は思わず首を傾げてしまった。何を考えているのか、という詳細は検討もつかない。けれども、二人が自分たちに対して考えていることが素晴らしい考えだとは思えなかった。それは単純だ。話しを聞いた後、感じたことのないような震えが襲ってきたためである。声にこそ冷淡さがあったが、内心は別だったのだ。


「君の精霊か召使の一人を置いていけ」

「何をする気だ?」

「愉しいことをするだけだ。なに、変な事をするはずがないだろう」


 稔は二人の主張を呑む訳にはいかない気でいた。何しろ、自身の彼女の姉が監禁の被害にあったのである。なれば、それを実行した者達に憎悪や恐怖に近い感情を持つのは当然と言えよう。もっとも、後者に関しては敵対意識で消滅したも同然だったが。


「稔。いいよ、行ってきな」

「え?」

「心配すんな。ここに居るってリリスもインキュバスも言ってる」

「いやいや、インキュバスにはトラウマが――」


 自分から申し出たのは赤髪。即ちラクトだった。それに続き、稔は大切な彼女を失う羽目になる可能性が十二分にある事は火を見るより明らかだと刹那に理解する。けれどラクトは、その朱色あかいろの瞳を閉じて満面の笑みを浮かべた。


「『黒』と『白』で頑張りなよ」


 ラクトは主人で彼氏の男へと近づき、寸秒で左の耳元にメッセージをあてた。それは、手紙の宛てた意味と声を当てた意味の両方の意味を合わせた、彼女なりの思いを強く伝える手法である。


 勝者として押し切ることは出来た。けれど、後から言ったところで何かが変わるとは思えない。弱みを握られたと同義で仕方のない話だと思ったからだ。


「決まりだ。時間は一時間としてもらいたい。早ければ早いほど助かる」

「分かった。間に合うように全力を尽くす」

「その意思、僕の耳が聞き届けた」


 インキュバスはそう言い、それまで見せていた硬い表情を解く。一方で稔は紫姫を精霊魂石の外に出したままにすることとし、そのまま助手的な位置に就かせた。そして黒白を仕切る方が言い放つ。


「――テレポート、ロパンリ駅の三階へ――」


 最初の召使が居ない数分や数十分間になることは分かっていたから、必死に稔は抵抗を示した。だが抵抗は収まり、稔はほんの少しの時間で敵対意識を持った人物に信頼の意を表明した。その刹那、稔による魔法使用の宣言が行われた。

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