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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-17 精鋭と夫婦の対抗

 稔の自信に疑問を抱くラクト。無理もない、何しろ具体な案が示されていないのである。自分に対して嘘を付くとは考え難かったし、内心を読めば二面性は少ないことが分かっていた。だから稔が二重人格であるという事は否定したかったのだが、けれども根拠としては正確さに欠けていると同義だ。


「一体、何をするの?」

「まあ見ていればいい。お前には、リリスとワーストとの会話を続けていて貰えればそれでいいんだからな」


 稔に湧いていた自信の根源を辿ろうとするラクト。しかしラクトは、稔の作戦の一手でもあることを読んでいる最中に把握した。故に口から出そうなくらいに上り詰めた言葉を下らせていき、元あった場所へ戻す。心理的な負担が増える可能性は考えなかったが、反面で大きくラクトは深呼吸していた。


「ラクトに代わって、イステル。弓対決でもして時間を稼いでもらえれば助かるんだが、司令官を頼みたい」

「しっ、司令官なんて無理ですわ!」

「驚くな。精霊として名誉なことだろ。俺とお前は教師と生徒なんだし、重役を担うのは光栄な話でもある」


 稔はそう言い残し、「んじゃ俺、ちょっと後退するわ――」と軽くイステルに責任を押し付けて後ろへ下がる。最低なクズ男だとイステルに評価される可能性は十二分にあったし、それこそラクトから何か言われるかもしれないことは百も承知だった。それでもやったのは、やはり作戦を成功させるためである。


「サタン。サタナキアかガリアさんに頼んでもらえないか? 無理なら無理と言ってもらえれば結構だ」

「すみません、先輩。重要な名詞ってどれですか……」

「名詞はキーワードだ。『魔法を封じる魔法』ってな」

「その言葉、今の先輩の台詞に一切出てきてませんよ。――まあいいです。責任を持って任務を遂行します」


 頼れる精霊という評価になったサタン。前々からもそう思っていた稔だが、自分の実力を有効に活用してこそ少数精鋭は成り立つものだと改めて痛感した。その一方で彼は、自分の話し方が伝わりづらいものだった件に関しては一切の反省の色を見せていなかった。となれば、呆れてしまうのも分からなくない話だ。けれどサタンは大人――というより精霊の対応を見せる。仲間の為を思い、行動したのだ。


「ここまで到達するのに二分ぐらいは見積もっておいたほうが良いのか――」


 稔は後方で小さく独り言を発した。もはや彼は、サタンがサタナキアから『魔法を封じるような魔法』の技を『複製レプリケイション』出来た前提で居たのだ。それは危険な思考と言っても然程問題は無い。けれどそういった期待の場合、フラグ回収となる場合は常に両極端である。


「先輩!」

「どうかしたか?」

「サタナキアさんから許可が下り、魔法を『複製』することが出来ました!」

「やったな。……じゃ、急いで駅前の空中へテレポートしてこい。テレポート先は近くであれば構わない」

「了解しました。では、向かいます」


 精霊魂石の優れた機能を使用していると、稔は「現実世界にもこれに似た物が欲しい」とか思い始めた。スマートフォンよりははるかに軽く、加えて聞こえてくる音声に嫌な気分は抱かない。画面という概念が無いのは原子レベルの移動を行っているために過ぎないが、それでも美女が出現するのは沈んだ気分を良い物にする、いわばトランポリンのような存在であった。


「移動の方は完了致しました。ところで先輩、戦闘が現に行われているところは――」

「前を見てくれ。そこが戦闘が行われている場所だ」


 サタンの手早い作業によって「魔法を封じる魔法」の入手は困ることも無しに進み、稔の考えた計画通りに進んでいた。リリスやインキュバスは魔法を使わなければ人の心なんて読めないのだと既に分かっていたから、稔は特に気にすること無くサタンを前線へと送る。一方でイステルはティアとタッグを組ませ、稔とラクトのサポートなどに当たってもらおうとした。


 けれど、そうも順調に話が進んでいれば小説の醍醐味というものは薄れるようなもの。そんな中、神様が試練という名の展開を与えてくれた。それも、稔とサタンによってラクトサイドに攻勢がもたらされるかと思った矢先だ。突如として稔の精霊魂石のサタンではない方の紫髪から連絡が入ったのである。


「アメジスト! 下界も大変なことになっておる。炎は収まったようなのだが、中にボックスがあった」

「嘘だろ? ――もしかしてだが、危険物か何かか?」

「恐らくその類だと思われる。化学的な消火剤などは使用しなかったが、それでも高く日が上がっていた光景から察するに、恐らく危険物――それも火の燃焼をサポートするような物体と考えられると思う」


 火の燃焼をサポートするものといえば、稔は期待で言うところ酸素が一番に脳の中に再生された。けれどリリスとワーストがタッグを組むように見せる前だとはいえ、流石に酸素をボックスの中に入れたりするだろうか。それこそ危険物がどのように有ったのかを聞かされていない為、判断のつけようがない。


「紫姫。危険物は火の中の何処に、どうやってあったんだ?」

「箱だ。形としてはイステルが化けていたものに似ているが、仮に化けているとしても先程の高温には耐えれまい。なれば、その可能性は視野に入れるべきものではないと判断するが」

「そうだな。俺も賛成だ」


 化けている可能性は否定できなかった。箱とみられる場所から移動した可能性がゼロではないためだ。しかし、そうなれば複雑な話が絡み合う構造に成るのは間違いの無い話である。化ける能力に移動する能力、二つの能力が総合的に評価されるからだ。一方でそう考えれば、犯人が誰なのか検討を立てることが出来無さそうではないが――少なくとも、稔サイドに該当人物は居ない。


「まあいい。お前以外の精霊と召使に魔法陣へ一旦戻るよう指示を出しておいてもらえないか? 紫姫」

「構わぬ。貴台の考えは容易に考えられるようなものであるし、我は従いたいと思う」


 その言葉の後。司令官となって言葉遣いまで変えたヘルに代わり、紫姫が自分たちの活動が終わったことを告げた。稔の考えは非常に単純なもので、紫姫はそれも付け加えて話しておく。それこそ『人海戦術』ではなく『少数精鋭』。舞台で意思疎通が図れているのは重要なことである。


「イステル。ティア。お前らも魔法陣の中に戻れ。後は五人で解決するからな」


 紫姫に心を読んでもらう手間を付け加えた。それだけではない。アニタも呼んで自分の前に帰還せよ、と命令――指示を下したのである。紫髪の少女は主人の決断にそれといった反発をすること無く、魂石越しに首を上下に優しく振って頷いていた。そしてそれを合図として、彼女はアニタの元へと瞬時に飛び立って向かう。


 テレポートが使えない訳でなかった紫姫だが、稔のような特別魔法の位置付けでないから使用は避けておいた。彼女は万人に使える飛行関連の魔法の方が、危険さも魔力を使う必要性も殆ど無いと思ったのだ。


「サタン。例の魔法は使ったか?」

「使用致しました。先輩の事を思い、今回は心の中で使用してみました。――功を奏したようですね」

「流石はサタンだ。有能な人材が居てくれるのは、俺からしてもとても助かる」


 リリスとワーストは「一体なにを考えているんだ?」と疑問を持つが、そこにあるのは稔の挑発的な余裕の表情。夫婦はそれが気になり、敵に対してドストレートな質問をぶつけた。


「何を……使った?」

「――『魔法不可の領域エリア・オブ・ノンマジック』です。一時的ながら、私の方で二方の魔法使用は制限させて頂きました。――申し訳ありませんが、事の発端は貴方達です。ご了承を願います」


 リリスもワーストも顔を硬直させていった。自分たちが置かれている状況を具体的に分かったためである。先に見えていた『勝利』の二文字は、まるでタイタニックのように沈みそうになっていたのだ。もっとも、マド―ロムの世界線で『タイタニック号』の沈没自己に関して大まかな内容を知っている者は少ないのは目に見えた話だが。


「魔法が……制限された?」

「そうです。『魔法不可の領域』を使用した時、一時間の間――攻撃も防御も魔力を用いる事はできません。科学的なものか物理的なものででしか不可能です」

「そんな……」


 リリスは驚愕して目を開き、そのまま膝を付いて降伏の宣言をし始めようとした。「もはや敵う相手ではない」と悟ったのである。罪の償いなら何だってする、と彼女は身体を売ることも視野に入れて降伏条件の提示を待つ姿勢を取ろうとした。だが――夫がそれを許さない。


「僕にも考えがある。――ふふふ、ふはは、はっはっはっ!」


 大きく笑って、怯える情けのない心を捨てようとするインキュバス。翻ってリリスも同様だった。「自分には夫に付いていくことくらいしか出来ないのではないか」と、店長という自分を職業面で拾ってくれた人物への感謝の気持ちの一切を忘れ、彼女はインキュバスの右肩に寄りかかる。


 それと同時、ついに夫婦は行動――攻撃を行い始めた。稔サイドが有利になった束の間のことだ。事態は一気に急転してしまう。発端はインキュバスの特別魔法からだ。彼は使用後に腹を抱える程大きな笑いを浮かばせた。


「君は魔法をコピーする能力を持っているようだけど――僕に敵うかな?」

「望むとこ――え?」


 サタンはいつもの様に、得意な魔法でインキュバスとリリスへの攻撃を行おうとした。もはや会談で解決するような事柄ではない。相手が戦を始めたのに自分は守ることすらしないなんて、そんなの人間としてどうかしている。他人任せもいいところだ。……だが、どうしても他人に任せざるを得ない状況だってある。


「僕の特別魔法。それは、『魔法を奪う魔法』だよ」

「魔法を……《奪う》……?」


 それはいわゆる『チートクラス』の技。そんな技の簡潔な説明を聞き、稔は詳細こそ不明ながらも大体の事に関しては理解を示した。一方のラクトは理解が追い付いていない様子を見せている。リリスの事を稔よりも知っているし、インキュバスもまた然りだったのにも関わらずだ。


 だが、当然な話でもあった。強姦された際にインキュバスが魔法を使用した事実なんて記憶に一切無い。加えてリリスと知り合ったのは風俗店であり、経理と従業員の立場でしかなかったのだ。


 だが、そんな過去の事を思い出したところで未来が変わるとは考えがたい。過去を反省しないことは美徳では有るまいが、謝罪の弁を述べ続けるのも美徳では無いのである。結局は『弱み』を強くするだけでしか無く、『うまみ』のように役に立つわけでも無いものを強くする必要は一切無い。


「弱み――」


 ラクトは色々と想起していたが、そんな中でインキュバスから魔法を奪われる可能性は否定出来ないものだという常識的な考えも持った。同時に「目の前にある物事から逃げたりはしない」との強い意志を固めるラクト。それと同じ頃、翻ってサタンは稔から精霊魂石へ戻るように指示を受けた。


「――紫姫、いでよ――」


 格好つけ、稔は紫姫を召喚した。『サモン』でも『カムオン』でも無く、詠唱などという厨二要素ありまくりの事をする訳でも無い。綴る必要は皆無、想起する必要も皆無。稔はそのような召喚法で紫姫を戦場へと繰り出す。理由は至極単純なものである。


 稔は紫姫を精霊魂石から呼び出した後、寸秒という時間もムダにしないように彼女を自分の方に注視させて自分の心を読ませた。インキュバスに作戦は伝わっていないらしく、同じく呼んだラクトがグッジョブサインを出していた。


「インキュバスとリリスが強いのは分かった。けど――」

「《最強》は――」


 ラクトは『彼女』という恵まれた立場だからと自分を前面に押し出してくることはなかった。紫姫と稔がデュエット技を繰り出すことを理解していたから、彼氏の邪魔をするべきではないと気遣ったのである。


 現在の紫姫は自分の届かない所――つまりは『覚醒状態アルティメット』にあった。これは稔の指示である。《最強》が――否、【正義】が敗北を期する訳にはいかないと、そういった魂胆だ。


「『第三の騎士の四重奏(タラータ・カルテット)』なんだよ――ッ!」


 稔が力強く発した後だ。氷の冷たさと闇の冷たさを交えた紫姫だからこそ出来る技と共に叫び声と絡め、初期メンバー同士での攻撃をリリスとインキュバスに与えに向かう。

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