2-71 混浴風呂-Ⅰ
対抗意識しか抱いていないイステルに対し、稔は右手を前に広げて出して言った。それは「魔力を使用して戦いに至るのは御免だ」という、彼の強い思いからだった。戦闘から入るのではなく、まずは話し合いから解決に入る。そんな強い意志の現れである。
けれど、流石は精霊だ。戦に敗れた七人の者達の意思を受け継ぐ者の中に、戦闘に対して後ろへ引く者は殆ど居ない。紫姫やサタン、ユースティティアなんて例外ということだ。もっとも、ピンチの状況に陥っていないから平然を保てるという話の可能性も否めないわけだが。
とはいえ、事が起きた訳だ。稔は事態の収束を図る。
「このような行為、私のマスターに諮るべき事案ですわ」
「待ってくれ。何を言っている? 今から九〇分程度、この浴場は混浴風呂という放送が――」
「そんなデタラメ、信じませんことよ。ふざけないでくださいまし」
矢を番えたイステルの表情は、もはや獣を仕留める狩人のようにしか見えない。稔は話し合いで解決しようと試みたが、性別で問題点が浮上した。イステルの体型は年頃の少女を匂わすゆえ、それは仕方がなかろう。
「(話が通用しねえ……ッ!)」
稔は俯きそうになる。けれど、それは相手に弱みを見せているようなものだ。精霊相手にそれは危険な行為と言ってもいいだろう。となれば、するべきことは「無闇に目線を下にしないこと」や「相手に背中を向けないこと」。俗に言う『自己防衛』が挙げられる。またそれに加え、「召使を頼る」という手もあった。
「(ラクトを頼る……のか?)」
稔はラクトの方に視線を向けることはしない。理由は単純たるもので、ただ単に危険な為というだけだ。そしてラクトを思っていた――頼れない主人だと自分のことを嘲った時を思い返し、背中を見せ続けようと思った。だから稔はラクトを頼りたくなかった。頼れるからこそ、頼りたくないのだ。
「(妙なところでプライドが上に来るとか、あいつってホントバカ)」
稔が心内で葛藤していることを考え、ラクトは主人を馬鹿にした。でもそれは、裏を返せば「心配」という意でもある。結局は似たもの同士。稔にしてもラクトにしても、多少の性格が違っているのに根本は同じなのだ。「相手よりも自分が犠牲になる」、「自分は相手を守る」――。そんな、似た考えを持つて。
「(羽目を外さない程度に、キャラクター演じますかね)」
ラクトは思い、大きく息を吐いた。そして、波動にして特別魔法をイステルに対して打ち込んだ。彼女の皮膚に付着した水の粒子は蒸発していく事を考慮し、また温かい湯であることも考慮し、凍らせることはないし眠らせることはない。残された手段、それは『麻痺』だ。
「なんです……の?」
矢を湯に浸からせ、イステルは片目を瞑って歯を食いしばった。必死に抵抗を見せるが、もはや彼女に対抗する術はない。麻痺状態を解除する方法なんて無いのだ。自身の支配下に召使に回復要員が存在するわけでもなく、ラクトが『麻痺』を使用して七秒後ぐらいには矢が消滅した。
「稔が言っていることは本当だよ。てか、ここに居る女性陣はそれを理解して入ってる」
「嘘ですわ!」
ラクトは自身のの能力でイステル以外の三名の心の中を読み解き、導き出した思いの一つ一つを確認した上で述べている。イステルが言い換えそうにしろ、彼女は作ろうと思えばイステル以外の女性陣の心の中を書類に記して印刷――もとい、作成できてしまう。
だが、そんなことをイステルが知るはずもなかった。無論、サタンやレヴィアタンのように『最凶』やら『最強』やらになったこともないような精霊だが、自身に満ちた精霊なのだ。主人も居ない状況の今、戦闘狂の血がある彼女に出来る事は、推論で暴れ狂うことだった。
けれど、それは無意味だ。それに根拠もなしに暴れ狂うなんて、ただの『キチガイ』である。そんなイステルに「麻痺状態なのに良くやるよ」とラクトは半ば感嘆の思いを心に抱いてしまった。とはいえ、彼女の行いを褒め称えたり尊敬している場合ではない。――と、そんな時。
「僕は稔くんの意見に賛同するよ、イステルさん」
「ラシェル、居たのか。それより、この時間帯に一人で来るとかリートはどうしたんだよ?」
「僕は『執事』ではなく、『秘書』だ。二四時間も、三六五日も、彼女の護衛を担当する職ではないよ」
「そういえばそうだったな。ごめん」
ラクトの意見すら信じなかったイステル。そんな彼女の暴論に居ても立っても居られなくなったラシェルが、稔の後方から応援の台詞を送った。会話が入って本題から逸れたが、彼女は稔の謝罪の後に続けて言う。
「イステルさん。このホテルには『大浴場』と『小浴場』が在るんだ。貴方が宿泊する部屋の一室が『小浴場』で、貴方が今入浴しているこの場所が『大浴場』という解釈でね」
「それがなんだと言うんですの?」
「混浴風呂になる時間があるからこそ、そうやってホテル側は配慮しているんだ。イステルさんが混浴風呂へ男性の入浴を認めないと言うのなら、今の時間帯を告げてホテルの従業員を論破してくるといい」
「いいですわ。この風呂は男子禁制ですもの」
ラクトもラシェルも、呆れて物が言えなくなって唖然としていた。一方のイステルは、自分がバカにされているなど思いもせず、むしろそれを自信に変えていた。「全員が自分に論破された」と、そう思ったのだ。論破されたのではなく、単に呆れているだけなのにも関わらず――。
でも。ラクトもラシェルも稔も、外見で笑ったと思われる振る舞いをイステルには見せなかった。ラクト以外は他人の心を読めないというのに、三人で謎の同盟をしていたのである。それは行動を似せたわけではない。「その方が面白い」「恥さらしで飯が美味い」と、そんなふうに思ったからだった。
「嘘を付いた者には、いずれ天罰が下りますの。ふふ、ふふふ――」
イステルは言って風呂場から去っていった。『麻痺』の魔法をラクトはイステルに使用したが、効力は既に薄れてしまっっている。だからこそ、彼女の暴論はテンポ良く進んでいたし、笑みも不吉な雰囲気を醸し出している。とはいえ、涙を呑むのが誰かなんて決まっているようなもの。去って抗議しに行こうが、意味の無い行為でしかない。
「呆れてしまったよ」
「イステルって頭大丈夫なのかな……」
イステルが風呂から出て脱衣所へ向かった後、ラシェルとラクトは深くため息をした。けれど、それ以上に会話が進むことは無い。それは、稔がラクトに話を――謝罪を持ちかけたためだ。「頼れない」という言葉をまた言われると思ったから、先に謝ろうとしたのである。けれど、ラクトは言う。
「頼れない主人ってのは、どんなことでも頭を下げてるから言われるんだぞ」
頼れる主人が謝罪をしないと言っているのではない。誰だって頭を下げる時は下げるし、軽く謝ることもある。でも、稔は「やりすぎ」なのだ。何でもかんでもではないけれど、小さい罪でも大きな罪に見立てる。今の一件だってその一つで、何か大変な事態になったわけではないのだ。
「――てか、そういうのは自分で改善しなきゃ治らないし。だから、嫌なこと忘れて湯に浸かろうよ」
ラクトは笑顔を振り撒いて元気を出してもらおうと頑張る。一方の稔も、そんな彼女の希望に応えた。ラクトは稔に何かするとか言っているけれど、彼女は「この場所でそれは無い」と明言している。稔はラクトの言葉を信じ、言った本人の後ろについて湯へと向かっていく。
湯に浸かってすぐ、ラクトはラシェルに弄られる羽目になった。帯のようなタオルで胸の露出をしないようにしたラクトだがが、それを「胸にきつく巻きつけて過ぎている」と考えて心配していた稔。そんな二人の意見の食い違いが生んだ弄りが、ラシェルから行われたのだ。
「なんでそんなに大きいものを持っているんだ! 格差は差別だ!」
「ひゃんっ」
辛そうな顔ではなく、楽しんでいる顔を浮かべるラクト。一方のラシェルは本気である。乳神とでも思ったのか、自身のバストアップを狙って痛くない程度に揉んでいたのだ。
「(ダメだ、こいつら……)」
稔は頭を抱え、そちらへ視線を送るのを避けることにした。乳繰り合う二人には興味を示さなかったのである。ラシェルの年齢は聞かされていないが、外見からして年齢は稔と近いかそれ以上だ。リートと幼少期を共に過ごしたことを踏まえれば、リートとラシェルは同年齢と考えられる。
「ん?」
そんな時だ。ラクトから少し離れた場所へと移動した時、稔は自身の股間部のすぐ近くに影を発見した。それは動いており、魚かと不安に思ってしまう。触手プレイなんて期待していないしされたくもない稔は、咄嗟にその場に立ち上がる。そして間もなく、影を作っていた正体が浮かび上がった。
「何、してんの?」
「どうした。我では不満か?」
「不満とかそういう問題じゃない。つか、浴衣も下着も何処へやったんだ?」
「魂石の中に脱ぎ捨ててきた」
「そうか。ところでお前、裸になるのはいいが――浴衣に着替えられるのか?」
稔の股間部に影を作ったのは紫姫だった。ラクトのようにタオルを作ることなんか出来ない紫姫は裸体を晒しているが、身体は湯の中にあるので無問題だ。ラクト並ではないにしろ、照明が紫姫の女性的な身体を表現するところには興奮を覚えそうになる。
「女性に魅力を感じた時、殿方は布類にテントを張ると耳にしたのだが――我には無いのだろうか?」
「お前、男を野獣だと勘違いしてないか?」
「や、野獣とはどういう事だ? まさか貴台、ケモノのような素質を持っているというの……か?」
紫姫は目を丸くした。それと同時に、自身に魅力がないのかと両手を胸に当てる。そしてチラリと見た方向に、ラシェルと世間話や対人関係の話で盛り上がっているラクトを見た。ラシェルが笑顔に話しているのを見て、紫姫は「あまり気にする必要もないのか」と思ったが、ラクトの横乳を見てそんなのは晴れた。
一方の稔は、紫姫には性的な知識が一切無いと感づいた。ラクトは積極的にアプローチして振り向かせようと頑張っているのを考えてみれば、確かに紫姫は奥手な感じである。「俺を好きでいる」ことは何となく感じていた稔。そのため、参考にする事も含めて聞いてみた。
「なあ、紫姫。お前、子供ってどうやって作ると思う?」
「貴台とはもう接吻を交わした仲だが、それ以上のキスをすれば作られると考える」
「……」
「ち、違ったか?」
稔はまたも頭を抱えてしまった。イステルに呆れた後にラクトとラシェルに呆れ、今度は紫姫に呆れたのだ。言われたことは熟してくれる紫姫だが、反面、知識はそう多くない。教えてもらわなかったら浴衣が着れなかったのもそれが原因なのだ。
「違うかどうかの前に、『それ以上のキス』って何を示しているんだ?」
「舌を絡めるような、濃厚な接吻――」
「ああ、違うわ」
「そっ、そうなのか?」
紫姫はまた驚いてしまった。長年信じてきたことを回答としたが故に、稔に本当の『子供の作り方』を教えてもらおうとする。対して「教えてもらえないか?」と真剣な眼差しを向けられてしまった稔は、咳払いして耳元で教えることにした。
「そっ、そんなことをするのかっ!」
教えてもらった直後、紫姫は顔を真っ赤にして声を上げた。それと同じく、声を上げたタオル未着用の精霊に向かってくる赤髪の少女。気配に気が付かなかった稔と紫姫は話を進めていくが、すぐ傍に来ていた。
「てか、なんでお前は自分で出てきたんだ?」
「貴台が脱いでいる間に魂石が光ったはずだが、気が付かなかったのか?」
「恐らく、俺がスピーカーを探していた時に光ったんだと思う」
「そうか。それは済まな――」
紫姫は言い切る前に言葉を断った。震えさせながら右手の人差し指を稔の背後に迫った女性に向ける。何の躊躇いも無しにやれば、「マナーがなってない」と言われかねない手段。だが、震えているからこそ許された。それは行儀が悪い行為なのではなく、怯えている行為だから。
「わ、我は魂石へ戻る! 子供の作り方を誤認識していた我を叩いて教えてくれたことをには感謝だっ!」
「問題発言すん――――なっ!」
振り返れば、そこにラクト。包丁を持って現れる程の恐ろしきヤンデレでないにしろ、紫姫が捨て台詞として吐いた言葉が意味深長だった事が影響し、駆けつけた時に浮かべた笑顔には怖さしか無い。
「叩いて教えてくれた、か。そういう趣味なの?」
「ラクト、落ち着け。俺は身体の関係を持った訳じゃない。巧みな言葉遣いで紫姫の誤解を解いただけだ」
「ふうん。……それで、稔の股間部に影が映ったことはどう説明するの?」
「――」
稔の背筋に衝動が走る。それは全身へと広がっていき、身体全体でラクトに対しての恐怖から震えが起こる。それまで湯から立ち上がっていた稔は即座に尻を付き、ラクトに弁解するチャンスを与えてもらおうと考えた。けれど、そんなチャンスが巡ってくるくらいに問屋が卸すはずがない。
「君たち二人の時間にしてもらいたいから、僕はこれで上がることにするよ」
先客だったラシェルは、とっくに身体も髪も顔も洗い終えていた。止められる理由なんて無く、彼女は台詞を吐き捨てるように言った後に湯から上がって扉の向こうへと消えていった。
「――邪魔者は消えた――」
低いトーンの声でラクトは言った。稔の全身の震えが最高潮に達する。主人の特権を使ってしまおうと思ったが、稔はラクトの怒りをしっかりと聞き入れることも重要だと思ってしないでおいた。
「――てか、そんなに怒ってないよ」
「……え?」
ラクトに最高の恐れを抱いた刹那、彼女が自身の口から発したのは冗談のような本気の言葉だった。
「また人の心を読んで理解して、その上で調子に乗ったのか?」
「そうそう、大正解」
ラクトはそう言うと大笑いした。腹を抱えて止まりそうのない笑みを浮かばせる。――と、その時。
「なにし――ひゃっ!」
「二度もしてくれた罰だ。弁解の余地が無いんだから、これくらいが妥当だよなッ!」
「やめ――」
ラクトの胸に巻きつけられていた帯のようなタオルの結び目を解き、稔はそれを湯に付けた。そして搾り、ラクトに対して「動くな」と主人命令を浴びせる。心の中を読み、何をされるのか理解したラクトは稔の震えが移ったかのように震えだす。
「考えてること、本当にするの?」
「俺を困らせたのは確かだが、紫姫をも困らせたんだ。見方によってはラシェルも被害者と言えるだろうし。まあ、最低人数は二人か。――けど、俺含めて二人を巻き込んだ罪は重いぞ?」
「他の償い方は――」
「無いッ!」
稔は言い、搾ったタオルを元の位置より上の場所に巻きつけていく。俗に言うトップバストの位置ぐらいにタオルの中央が当たる感じだ。最初は弱めに巻きつけていくが、最終的に強めに縛る事を計画していた稔。何をされるか知っている上でされるラクトの震えは、稔から見ても相当なものだった。
「痛っ――、あれ?」
だが、そんなタオルを強く縛った時だ。稔はすぐに緩くして縛った。この行為が肉体への暴行に当たると考えたからだ。その変わりとして、稔はラクトに『ペンを作れ』と要求した。これも主人命令である。
「落書きの刑を執行する」
ラクトから作ってもらったペンを使用して、稔は言ってからラクトの顔に落書きをしていった。稔はラクトに、目や口にインクが入らないように閉じてもらうことにして、取り敢えずは王道なところから責めることにする。
「最初はデコに『肉』とでも書いておこう」
手慣れた手つきでペンを走らせる稔。ラクトは自身へ下される罰だと思ったが故、油性のペンではなくて水性のペンを作っていた。とはいえど、稔は「作りなおせ」と命令しなかった。単純だ。控えた敵地への攻撃時、バカにされては困るからだ。
「次は――髭だな」
でこに大きく『肉』と書き終え、禿げればさながらキン肉マンのようなラクトを見て、真剣な話のように言った自分を稔は笑った。けれど時間はないから、筆を走らせることは止めない。
「最後に目か。ここはセンスが問われるな……」
稔はこれまでの落書きの時よりも更に真剣度を増させ、ラクトの瞑った目の上の方に曲線を走らせる。そして、その曲線と目を瞑って出来た線の間に豆のような瞳を書く。
「完成だ。目を細めて鏡で見てみろ」
稔は少し可哀想だと思いつつも、ラクトを連れて鏡が有る方向へと向かった。湯船から上がった先のシャワーや蛇口がある場所である。
ラクトが「鏡を見るまで目を開けたくない」と言ってきたため、稔はそんな彼女をエスコートした。顔に落書きをするような事になった元凶を作り出した張本人への対応とは思えないが、それが夜城稔という一人の青年なのである。
そして、遂に鏡と対面した時。ラクトは自分の顔を見た瞬間に失笑してしまった。腹を抱えてしまうほどだ。ただ、次の瞬間。笑いが無くなってしまう。
「あ――」
稔がラクトの胸を押さえつけるようにタオルを結んでいた方が、無問題のままに笑っていられたんだと思う稔。けれど、不幸なことに時間を逆戻りさせることは出来ない。
「――見た?」
「見たと言ったら?」
「許す」
「許すんかい!」
稔はツッコミを入れておいた。ラクトの寛容さは褒めたいくらいだが、それで人を騙すのである。どう考えても怒っているようにしか見えない雰囲気を漂わせて、戸惑う主人を笑う――。ラクトはまたも行った。
「顔に落書きされたのに、何をしているんだか……」
「そういう人だからね」
ラクトはクスっと笑みを浮かばせた。
「さてと。んじゃ、風呂に来て髪とか洗わない訳にも行かないし」
「――ん?」
稔のタオルを取ることはしなかったが、ラクトはついさっき取れてしまったタオルを手の中に戻した。手のひらの中央部は光を放ちながら、タオルは吸い込まれるようにして消えていく。それは今後、ラクトが服や物を作るときに材料として使用される。どのように分解されるかは謎として。
「――」
鏡に映るようにタオルを脱ぎ捨てるラクト。その姿は「痴女なのか」と疑問を持ってしまうくらいだ。ラクトに「止めろ」と言おうとするが、理性の崩壊を感じなくても本能的に「このままで」と思ってしまった稔。
「な、何をする気だ?」
「身体を洗ってあげるんだよ。要するにご奉仕」
「普通に洗うんだろ? そうと言ってくれ!」
「いくら二人きりだからって身体で洗うような変態じゃないっての、バーカ」
「本気か?」
「本気だよ! 嘘付きすぎたのはすいませんでしたっ! だから信じて!」
鏡から見えない位置で付けていたタオルを取ると、ラクトはその場で土下座した後に顔を上げ、「信じて」という旨を告げる。一方の稔は彼女を見て、『嘘をつく子供』という有名な寓話を思い出す。
けれど本気で交渉しに来ていることを考え、稔はため息を零してから言った。
「普通に洗うなら許す。ただ、背中だけでいい」
「局部以外でいいじゃん」
「お前がいいならそれでいいや。でも、タオルを脱がしたら説教するからな!」
二つ返事の後、ラクトは稔の身体を洗い始めた。




