2-64 レンタルコーナー
テレポートすれば魔力を消費する。だがラクトから貰った魔力が有ったからか、稔はいつもよりも軽く転移することが出来た。力を使ったような気も然程しないし、目で捉えなければテレポートしたのか疑問になるくらいだ。
「稔が好きそうなものもいっぱい有るね」
「一八禁コーナーを指さして言うな!」
アニメのブルーレイディスクが大量に置かれている方を指さすかと思えば、ラクトが指さしたのは一八禁コーナーだった。コンビニの成人向けコーナーへ入った友人のことを知っているからこその行動である。
「……入る?」
「行かねえよ。俺にそんな度胸は無い」
「そっか。まあいいけど。じゃあ、適当に映画作品でも借りていこうよ」
「良い提案だとは思うが、ラクトはそういう分野に疎くないのか?」
「失敬な」
ラクトの事を低く見た稔だったが、一応は異世界の住人である。住んでいた国は違えど大陸は同じであるから、現実世界に来たことなんて一度もない。言い換えるならば、『根っこからのマドーロム在住者』だ。そんな彼女が、この世界の娯楽を耳に挟んだ情報でしか得ていない稔に馬鹿にされる筋合いなど無い。
「それは失礼。でも疎くないのなら、何かおすすめの映画とかアニメとか――」
「そういうのは二列目のコーナー」
「了解した。……で、まだ俺らは入店していないわけだが?」
ラクトはアダルトコーナーの方を指さしたが、だからといって入店したわけではない。言わばホテル内のコンビニのようだが、そんじょそこらの街中にある戸建てのコンビニとは違い、ガラスで区切られていたりはしない。木製の壁で区切られてこそいるものの、それは下部だけ。上部は透明なシート一つも無い、窃盗犯に目をつけられそうな作りだ。
「テレポートした時って、その場所の前か中か分かれるよね。ご都合主義なのかな」
「メタなことを言うんじゃない。――ったく」
ラクトが笑顔で「ごめんごめん」と言うが、稔は「どうせまた言うのだろう」と嘆息を零す。もちろん分かりきっていることだから、ラクトも再発防止になんて努めたりはしない。主人がこうである以上、メタな話を止めたりはしないのである。
「ではでは、入店といきましょうか」
ラクトはそんなことを言い、嘆息を零した稔の背中を押した。書籍なども並列されているから、単に映像メディアだけをレンタルしている訳ではないようだが、ラクトの眼中はアダルトコーナーにしかない。酷い話であるが、押した稔の手を取って、そちらへ導こうとしてくれる。
「おいこ――」
注意と苛々を同時に表す稔だったが、ラクトはアダルトコーナーへと近づく時に察知してしまった。この場所に聞き覚えのある声で会話をする二人組が居ることを、だ。一体全体誰なのか分からなかったが、身バレするのを防ごうと一八禁のコーナーへ向かうのはやめる。
「稔。取り敢えず、ここは居るべきじゃない」
「なっ、なんでだよ?」
「嫌な予感がするんだよ。聞き覚えのある声がするんだ」
「でも、聞き覚えのある声って言ったって、リートや織桜はパーティーの真っ最中じゃ――」
ラクトが小さい声で話してきたことに、流石の稔も事態が重大だと察して声を細めた。ボン・クローネ駅の一件でもそうだったが、ラクトの先読み能力のようなものは凄い。心を読めるからだと分かっていても、それをそんな風に使うことが出来るのは感心できる。無論、彼女の言い分に賛同したい気持ちは山々だ。
「そうなんだけど……」
しかしだ。稔が冷静を保とうとしたせいで、ラクトの言っていることが嘘なのではないかと思ってきてしまった。彼女の言い分にも焦りが見え始める。正当性を主張しようとして理由を更に得ようとしているからか、額には汗が募っていくのが窺えた。
けれどそんな時だ。ラクトが閃いた。「名案を思いついた」と言わんばかり、豆電球を照らすような描写が漫画などで描かれるような大げさなリアクションをとり、見せる。
「私からの提案なんだけど……。アダルトコーナーに入っている顔見知りが居るってことは、それを写真で撮ってしまえば証拠を確保できるってこと。つまり、それを脅しに使ってしまえば――」
「悪い顔やで、ホンマ……」
返しに困ったわけでなかったが、少し方言を混ぜてみるかと思って出てきたのが似非関西弁だった。横浜だから対応するのは神戸か――とか出身地の話を脳内でしてみるが、すぐに止める。無駄に変な方向へ話を逸らすのは、ラクトが言っている『写真で証拠を撮る』為のシャッターチャンスが消えると同義だからだ。
「いいじゃん、別に。何が駄目なのさ?」
「いやいや。許可無しで撮った写真を脅迫に使うとか、それ犯罪じゃないか?」
「でも、織桜みたいな人以外で聞き覚えがある人は、カロリーネとかを除けば――」
ラクトが言い切る前に稔は察した。考えてみれば、ろくな人間は居ない。魔法を用いたバトルへ繋げなかったにしても、エルヴィーラはゴムを渡すという暴挙に出た張本人だ。それが一般の者がやることとは思えないのは、言わずもがな当然の結果である。
他の候補はイステル。一応はエイブの精霊らしいが、それでもまともとは考え難い。消火器に弓矢を当て、その金属をも溶かして中の粉をバラ撒いたのである。故に、彼女をろくな人間と語るのは百年早い。
「確かに復讐の一つだとするならば、脅迫したら可哀想と思えるような奴は居ないな」
「でも、一応は正義を掲げているしね。――てことで」
ラクトは『正義の名の下に実行せよ』という稔の思いを考え、顔を知られないように近づこうと考えた。稔に違う場所へ移動してもらおうかとも考えたが、取り敢えずは二列目でうろうろしてもらうのが無難だと彼に告げる。同時、彼女の特別魔法で新聞記者らしい服装に着替える。
「市民会館以来だな、その格好」
「今回はメガネ付きだよ」
「お前が真面目キャラを演出したところで、って思うんだけどな。――まあ、頑張れ」
ラクトを激励すると、稔は「問題だけは起こさないでくれよ」と祈った。せめて髪型を変えて欲しいとか思う稔だったが、やろうと思っても変えられるヘアースタイルは限られてくる。カツラを被ればヘアースタイルは瞬時に変えられるわけだが、ラクトはカツラを被るところに集中力を回したくなく、そんな手段は選ばなかった。
アダルトコーナーから出てくる聞き覚えのある声を発した者を、ラクトは写真で撮ろうと待機する。胸の谷間にネクタイを挟んでさり気ないエロさを演出する彼女だが、待機場所へ行く間にカメラを作り出して、それも谷間に挟んだ。絵巻を谷間に挟むのと同じスタイルである。
一方の稔は暇を持て余していた。本でも読もうと思ったが、視界に入った方の書籍は包装されている。目のやり場に困ってふと見た場所には、『立ち読み厳禁』と書かれた印刷物が貼り付けられていた。もっとも、書籍のレンタル料なんて高が知れているが。
「(ところで、ラクトはレジがある方で会計をすると睨んだようだが、本当に出てくるのか?)」
稔がふと見た貼り付けられた印刷物の方向は、見て左側の方向へ進めばアダルトコーナーに接続されている。レジ側含めて出入口二つは必ず暖簾を潜る必要があるから、こちらから出てくる可能性だって十二分にあるのだ。だから、稔はラクトが睨んだ方向とは逆の方向で待機しようかと企む。が、手段は『待機』とは違うものにした。
「(俺は敢えて、書籍を読むという方法でこちらから出てくるのを待つ――!)」
ある意味、ラクトの囮になるような作戦。ある意味、ラクトの行っていることを否定するような作戦。ラクトが何を思ってレジの方向へ駆けたかなんて知っていたから、稔は即座にその作戦を実行した。恥ずかしいところを見られて喜ぶのは重度の変態だけだから、と冷静な思考回路で臨む。
そんな刹那、稔が待機して僅か五秒での出来事だ。ラクトが待機していた方向から出て来ず、稔が立ち読み出来る本は無いかと読み漁ろうとしていた時だった。暖簾を潜った少女が二人居たのである。声は発していないが、稔はその外見ですぐに誰だかを理解してしまった。
「(――写真なんて要らないじゃないか。脳内にインプットすれば、それでいい――)」
そんな稔の内心の台詞の後、彼は出てきた少女二人の名前を言い放った。
「エルヴィーラとイステルじゃん。何してんの?」
稔は恐れなんて噛み砕いて、度胸のある自分を彼女らに見せつけた。それと同じくして、新聞記者と思わしき格好をした稔の召使が後方へと駆けてくる。音を立て無い様はどう考えても不審者であるが、同じく黒色のゴキブリがカサカサと動くよりは全然いい。
「これはこれは、稔じゃないか。こんなところで会うとは奇遇だのう」
「そうだな。――それはそうと、イステル。何故お前がエルヴィーラと一緒に居るんだ?」
稔はラクトの気配を感じ、写真を撮ろうとした彼女の手を握った。片手だけだと移してもう片方の手で撮影できるから、一応両手を拘束するように握る。加えて稔は、臨戦態勢に入らなければならない状況が来るかもしれないと考え、ラクトに新聞記者の格好を解くように命令した。
後方でラクトが着替えている中で、稔はイステルから事情を聞くために強気な態度を貫く。
「わ、私は――」
「イステル。お前、実際は相当なむっつりなのか?」
「ち、違いますわ! 私はそんなスケベェな女では御座いませんこと。し、信じてくださいまし!」
「そうは言ってもな」
稔は『写真』という決定的証拠を手に入れる事を拒むが、それは洗脳という手をイステルが使わなそうなことを見据えた上での行動だった。このような動揺を起こすということは、逃げ道が狭まっているも同然である。更に狭めようとするなら狭めるが、そんなに鬼畜な手段を使うべき沙汰では無かろう。
精霊戦争という言葉の下でイステルと戦闘をする必要が存在するからこそ、稔は彼女に対抗心を燃やしてもらおうとしたのだ。事実、対抗心を燃やすことで悪あがきをするくらいに追い詰められれば、それはそれで面白い。だが、そんな稔の夢の様な話は一瞬で消え去ってしまった。
「私からですまんのじゃが、イステルも私もクラウディアもそうじゃ。皆、エイブの支配下に在る」
「嘘だろ……?」
稔は首を小さく左右に振り、震えた表情を見せる。イステルとエルヴィーラが一緒に行動している時点で察しを付けるべきだった、と後悔したのだ。可愛い精霊と召使の両方を手に入れているのは稔も同じであるし、それを後悔したわけではない。単純に、エルヴィーラとクラウディアなど他四名、スポーツを通して仲間が増えたかと脳内の何処かに有ったからこそ、酷く後悔した。
酷く落ち込む稔のため、ラクトは話の続きを担当することにした。落ち込むときは落ち込んでもらうことにして、無理に主人公だからと話の中心に居なくてもいいという魂胆だ。
「つまり、そのうち戦うってことだね」
「そういうことじゃ。それと、バレーボールで名前を呼び合っていたじゃろう? あれは全て偽名じゃ」
「そうなの?」
「ああ、そうじゃ。エイブの愛人の名前を借りているだけに過ぎぬ」
ラクトは「愛人」という言葉を復唱すると、同時に殺意が湧いてくるのを感じた。召使や精霊へは向かっていない。話に上がってきた警察官の名前に対してだ。右手拳を強く握って震えさせ、いつ壁や床を破壊してもおかしくない。
「ま、まあいいや。取り敢えず話の続きをよろしく」
ラクトは稔が悲しんでいることを理解し、少し酸っぱい物を食べたような顔を見せつつも話を聞くことにした。苛々を何処かに向けようと頑張る彼女だが、向けることが出来ずに溜まって爆発しなかった結果がそれである。イステルも話す気は無いようで、気がつけばエルヴィーラとラクトの二人会話となっていた。
「『オリュンポス十二神』がなんじゃか、ラクトは知っておるか?」
「唐突に神話っていうのもどうかと思うけど、まあ知ってる」
「では、安心して話が続けられるな」
エルヴィーラは落ち着いたようで息を吐いた。溜め込んでいたストレスが全て消えたようだが、魂は消えていないらしい。話す場でため息のように息を吐いたのを反省するためにか、彼女は謦咳してから話を再開させた。もっとも、ラクトはそんなところに怒るような女ではないし干渉もしないから、何も言わないが。
「ゼウス、ヘラ、アテナ、アポロン、アフロディーテ、アレス、アルテミス、デメテル、ヘパイストス、ヘルメス、ポセイドン。一二番目にヘスティアかディオニューソスじゃ」
「(一気に厨二臭くなったな、おい)」
ラクトが内心でそんなツッコミを入れる。一方でエルヴィーラが長ったらしい話をしてくれた恩恵か、稔の悲しみは簡単に晴れてしまった。『厨二病』というレッテルをラクトに張られた否定でも使えると思ったのも一つあるが、やはり長い話を聞かされるのは耐え難いことだというわけだ。
「推論だが、エルヴィーラはその一二体の神様の一人ってか?」
「その通り。ちなみに私はアプロディーテじゃ。名前はエルヴィーラで良いが、そのことを忘れずにな」
エルヴィーラは笑みを浮かべて手を差し伸べた。一方で稔は、これから戦うというのにも関わらず余裕を見せているのは、彼女の考えた何らかの罠ではないかと思ってしまう。だから、差し伸べた手を握るのは止めておこうとの考えに至る。
「悪いな。何らかの罠のように見えるから、俺は握手をすることはしないでおく」
「社交辞令だとしても、か?」
「仕方がないな」
半ば諦めの心で稔はエルヴィーラの手を握った。差し伸べた手を握るのは社交辞令だと言っている彼女だが、顔に浮かぶ笑顔は怖い。イステルはそっぽを向いているから感情を把握するのは困難だが、そこはラクトの担当である。稔がとやかく言うエリアではない。
「クラウディアはアルテミス、テレーゼはデメテル、後は――」
「それ以上の解説は良い。話が長くなるのは戦闘中にしてくれ。レンタルコーナーに来た理由はそれなじゃない。別にお前が言わなくても、この赤髪の巨乳が俺に伝えてくれるからな」
「完全に使い魔と化して居るんじゃな」
「使い魔じゃねえ、召使だ」
稔が立ち直ったかと思うと、それは別人のようだったからラクトも少し困惑する。一方のエルヴィーラは、稔が強気で居るのを貫いていることや一度接した時の彼とは大きく違うことを考え、イステルを連れてレンタルコーナーを去ることにした。
「――西風優美の移動泡――」
魔法の使用を宣言し、エルヴィーラはイステルの手を繋いで去った。まるで稔の『瞬時転移』に似ているように見えるが、同系統の魔法と言って差し支えないのだから何ら問題ない。
「なんで写真撮らせなかったんだ!」
それはそうと、エルヴィーラとイステルが去った後。稔はラクトから怒号を浴びた。主人が納得してくれた作戦を遂行していた中での突如の作戦変更だったこともあり、ラクトの頬もいつも以上に膨らんでいるのが見て取れる。
「ごめん。可愛い女の子に目が行っちゃった」
「問題を避けるためって理由なら、別に隠す必要無いでしょ」
「そうかな? お前が怒ると怖いから俺は――」
「強気な態度でエルヴィーラに面と向かって話していたとは思えない台詞だな」
ラクトの言葉に、稔は「だろ?」と笑いながら言った。でも、ラクトは稔を褒めた訳ではない。いつものように笑いがないだけで、嘲っていたのである。
「褒めてないから」
「知ってる。――で、さっき俺が言ったとおりだ。お前、読んだんだろ?」
「エルヴィーラが言おうとしていたことを私が把握しただけだから、誤った認識で人の名前を覚えているかもしれないけど――って、それは無いか」
ラクトが勝手に自己完結しているため、稔は何か言うことはしなかった。そのため、ラクトが続けて言っているように聞こえる。
「エルヴィーラ、クラウディア、テレーゼが何に対応しているかは説明が終わったと思うんだけど、取り敢えずそこから先の説明を」
「だけど、名前知っていないじゃん」
「顔は分かるでしょ? ポジションは――忘れたか」
稔は頷く。確かに、聞いたことのほうが見たことよりも忘れやすい。だから、ラクトの言っていたことは当たっていた。メタなことを言えば、それこそバレーボール小説では無いというのに、それを細かく知る主人公が居るだろうか。
「まあ、一七四センチの女の子――ヴァンダちゃんは分かるよね?」
「絵面見たなら、そりゃ最高身長の奴なんだから一番分かり易いだろ」
「そうだね。――で、その子はヘラ。高身長の裏には、嫉妬深いという特徴」
「それって、お前が巨乳なのはトラウマが多いせいってのと同じじゃないの?」
稔が言うと、ラクトは「そうだよ」と答を述べた。でも、続けて彼女は言う。
「でもさ、漢字を覚える時だってそうじゃん」
「まあ……」
「結局。事実と違うことで人の特徴を覚えたとしても、それを口に出さなきゃいいんだよ。ノートが自分さえ読めれば良いように、人の特徴や名前を覚えるのだって自分が分かればいいんだ。例えバカにした内容でもね」
ラクトの言い分でいくと「人に教えることは二の次」という話になるし、裏と表を持つ事が重要だと言っているような気もしなくない。でも、言っていることは間違っているような感じもしなかった。
そして、稔がそんなことをまとめて言った。
「要は、覚え方は千差万別だということですな」
「簡単にいえばそうだね。言わなきゃ幾らでも方法は増えるさ」
「うん。――で、説明の続きを」
稔は半ば命令のようにラクトへと告げる。笑みが浮かんでいるが、それはエルヴィーラが浮かべていたような裏に何かがある笑みに近いほどに、怖い。
「残りの二人なんだけど、髪の毛で言っていいかな?」
「小説内に記述のないことを元に言うとは、なんと邪道な――」
「でも、スポットライトが当てられていないだけで本当は強いという可能性が」
ラクトは思ったことを口に出しただけであったが、稔は身体を震わせた。『オリュンポス十二神』は男柱六、女柱六(男女=七:五の場合もある)で構成させる。だから、残りは二つしか無い。
ラクトから与えられた恐怖のようなものに屈することはなく、稔は取り敢えず彼女の話に耳を傾けておくことにした。
「赤い髪の方がヘスティア。で、銀髪の方がアテナ。……理解した?」
「ああ。でも、アテナって黄色とか金色のイメージなんだけど」
「それはガチャにしても降臨にしても、ソーシャルゲームのやり過ぎだろ」
「人の脳内を漁って情報をかき集めるスタイルとは、これいかに」
「いやいや。誰ですかね、『此処から先は赤髪の巨乳に聞く』と言った人は?」
ラクトの問いに、稔は言い返す言葉が見当たらなかった。プライドを高く持つ場でもないからと思い、遠回しに言われていることを理解して謝罪した。
「大変申し訳ございませんでしたッ!」
「それでいい。――じゃ、適当にアニメのディスクレンタルして戻ろうか」
「変に萌えに拘る必要はないぞ?」
「けど、萌えでも感動できる作品もあるじゃん」
「そうだな」
稔はラクトの言い分に納得したものの、どんな作品を漁って――選んでくるのかが分からなかった訳で、選んだら自分にも見させて欲しいと彼女が手に取る作品のディスクへ視線を向ける。だが、それは変な意味で思われてしまった。
「視姦すんなカス」
「ドストレートに酷いこと言うのやめようぜ?」
せめて遠回しに言ってほしいとため息をつく稔。一方のラクトも狙って言っただけで、それは本心ではない。だから、「冗談冗談」と笑って過ごす。
「まあ、私は稔が何を思って見ていたかなんて分かるわけだし、気にすんな」
「気にすんなとか簡単に言ってるけど、ここはレンタルコーナーだぞ。普通に色んな人が来店するような場所で、なんでそんな事を堂々と言えるんだよ!」
ラクトの態度を非難する稔。その一方、ラクトは彼の言い分になど聞く耳を持たずに、自らが選んだディスクを見せた。稔が言ったことへの対応という意味では何ら変な行動では無いのだが、ぐうの音も出なくてモヤモヤが残る。
「私からおすすめしたい作品はこれね」
「時間は?」
「二時間四五分。部屋に戻って二三時半まで視聴、そこから三〇分をヘルのミュージックステージにすればいいと思ってね。感動出来る作品だし、エロ有り」
「最後で雰囲気ぶち壊しだぞ、おい」
「でも、そういうのをお望みなんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど――」
稔はため息混じりに言う。同時、「やっぱりこいつには敵わない」という思いが更に強くなるのを感じた。徹底的にやり込められたのが一回、言い返す根拠の無い事が二回も連続して続いたのだ。そうなって当然である。
「じゃあ、借りてこいよ。年齢制限は無いんだろ?」
「無いに決まってんじゃん。全年齢対象だからこっちに置いてあるんだぞ」
「違う。一五禁とか、そういう意味」
「ああ、無いよ」
稔は一五歳以下閲覧禁止のサイトとかを見ることは出来るけれど、エロ有りと言われてしまったから口から不意に出てきてしまった。でも、そんな主人をラクトは笑ったりしなかった。
「では、視姦野郎様。会計行ってきます」
「その呼び名はやめろ!」
ラクトの呼び方には苛立ちを隠し切れない稔だったが、ため息を付くしか出来ない。普通なら苛々しかねない台詞なのに、何故か罵倒されても嫌ではないのだ。そんなことも相まって、稔は「言うな」と強く言い切ることすら出来ない。
そしてラクトが戻ってきた後、稔は彼女の手を取り部屋へ戻った。




