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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-42 ADQと爆弾処理-Ⅸ

 ラクトの返しは軽かったため、稔は彼女の頬を左右の人差し指と親指で摘んだ。


「痛い……」

「真剣な表情じゃねえだろ、それ。――まあ、刻一刻を争うわけだ。地下へ早く向かうぞ」


 稔はそう言い、テレポートする気満々になった。けれど、そんな彼を止めたのがラクトだ。彼女は首を左右に振って彼の行動を否定すると、続けて稔に対してこう述べた。


「待って。地下へ行くのは賛成だけど、私達だって人数が……」

「――」


 稔は黙り込んだ。ヘル、スルト、サタン、レヴィア。主要なメンバーの殆どは、カロリーネの治療へと向かった。これも、爆弾同様に刻一刻を争うものである。けれど、彼女らは早急に病院へ運ぼうとは考えなかった。


 無理もない。エルフィリア王国では救急車が運用されてこそいるが、もちろんボン・クローネ市にも配備されているが、それを実際に運用したとして何が起こるだろうか。――間違いなく、混乱が起きる。ここはホテルであるし、金持ちが大勢居るのだ。世間の一般常識とかけ離れた者共が混乱すれば、ホテルの従業員には大きな負担が掛かるだろう。


「でも、階層が少なければ――」


 稔がラクトに対して言うと、紫姫が石から自分の意思で登場した。そして彼女は、稔を説得する。


「ああ、貴台の言うとおりだ。階層が少なければ人員は少々で済む。というよりか、このホテルの地下は二階までしか無い。それも、地下二階は駐車場だ。警備員が配備されているし、今日のような日に簡単に設置出来るとは考え難い」

「じゃあ、なんで……」

「一階は在庫置き場に近いんだ。それが何を示すか、貴台には分かるか?」


 紫姫からの問いに、稔は回答を導こうと考える。しかし、彼が言うまで待っていては話が一向に進まないと判断し、ラクトが割り込んで答えた。もちろん、心を読むことが出来る彼女に『不正解』の文字はない。


「ダンボールなどの既成品を梱包した物が大量にあること――」

「そうだ」


 ラクトの言ったことに紫姫が頷いて言うと、稔はついに何を示しているか察した。


「まさか!」

「ああ、そうだ」


 紫姫もまた、ラクトど同じく心を読めた。故に、稔が正解で有ることを考えたために肯定する。そして、稔に対して説得を続ける。聞き入った稔は、特にいうことも出来ずに黙りこむ。


「梱包した物を一つ一つ確認していく作業に、人員をどれだけ回せるか考えてみろ。三人だぞ? 傷んだカロリーネを治癒放棄でもしてみろ。ヘルが悲しむし、貴台には『人殺し』の汚名レッテルが付く」

「……」

「少数精鋭。言葉はいいが、それを作るのには時間が掛かる。我が『第三の騎士四重奏(タラータ・カルテット)』――否、『第三の騎士六重奏タラータ・セクスティット』にそれが出来るとでも言うのか?」


 紫姫はそう言い放ち、稔がこれまで召使に頼ってきた事を思い返させた。稔の行おうとしていることは、即ち『少数精鋭で爆弾処理をする』という作戦。そう解釈し、紫姫は実施前に彼に問うたのだ。規律や行動に乱れが生じれば、一瞬にして崩壊するのが少数精鋭という言葉の裏に隠された真実。故に、紫姫も慎重になった。


 けれど稔は、そんな紫姫とは対照的な態度を取った。


「ああ、出来る。紫姫は俺と、カロリーネ戦で共闘したじゃないか。それにラクトは、この少数精鋭を盛り上げてくれるし、活動時間を長くすることが出来る」

「……というと?」


 紫姫は稔の言っていることに疑問を抱き、そう聞いた。


「紫姫が『一二秒間だけ時間を止めることが出来る魔法』を持っているのは聞いている。もちろん、お前がそれを使っているところを俺は見ているし、実用的だと思う。だが、爆弾処理で有効なのは――」


 紫姫からの質問によって。アスモデウス戦では弓弦と織桜の『サポート役』とかに回ってきた稔が、多くの敵に対して会話で臨む態度に「強気で構えろ」と言われた稔が、「頼れない主人」と自分で言った稔が。ついに、「頼れる主人」として「強気で構える」為に、『指揮役』を買って出たのだ。


 そして、同時に最終評価が始まる。指揮役になった以上、しなければならないのは「作戦の計画」から「作戦の収束」まで。続けて言うそれは、即ち一番重要なところを稔が述べるわけだから、ラクトも紫姫も聞き逃すまいと口を閉じて聞く。


「『凍結アインフィーレン』。ラクトが使う、シアン属性でアイス系の魔法だ。大量に箱が有るなら、大量に消費すれば絶大な効果を得れる魔法を使用したほうが、俺的には得だと思うんだが」

「つまり――爆弾を氷で破壊する、ということか?」

「ああ。もちろん、木箱を取り外す作業は必要とか思うかもしれないが、倉庫にあるのは恐らくダンボールだ。ダンボールは元々『紙』で出来ているのだから、氷には弱いはずだ」


 稔は自分の作戦の優れた点を話した。その後に「こういった時にサタンが居れば威力が倍増するのに」と、半ば諦めながらも思う稔に対し、ラクトは作戦を肯定するようなことを言った。一方、否定も行う。


「稔の作戦は良く出来てると思うし、考えられてると思う。でも、過剰な魔力消費は出来ないよ」

「なんでだ?」

「決まってるじゃん。もう元気に動けるとはいえ、私は『究極状態アルティメット』を使ったんだ。全快までするなら時間が掛かると気づけ、馬鹿。……要は、肝心なところで魔力が尽きないようにってこと」

「なるほど……」


 ラクトの状態異常系の魔法群は、敵の先制攻撃で効果が薄れるか消し去られるかするようなものだ。でも種類が多様だから、非戦闘時には妨害されないので非常に役に立つ。だが、過度な使用は『魔力』の消費を加速させ、使用者の魔力を奪って疲弊させる一方だ。


 そんな、制限時間も刻一刻と迫り来る中。紫姫は平然とした表情を少し崩し、稔に対して提案した。それと共に、早く行動が出来るよう「『瞬時転移テレポート』の魔法使用をしろ」と要求する。


「貴台に提案だ。我の魔法の中には、戦闘用に特化された魔法が有る。『最終の判決ファイナル・ジャッジメント』の『闇と氷の駆動紫蝶(バタフライ・ドライヴ)』がそれにあたるな。だが、補助用に特化された魔法も有る」

「それは、『白色の銃弾(ホワイト・ブレット)』か?」

「貴台、察しがいいな。その通りだ。ダンボールを撃ち破る程度なら、我にも活躍の為所は有るだろ?」


 紫姫は喜んだ表情を浮かべる。ただ彼女は、同時にテレポートを行うように稔へ求めていたため、稔が「そうだな」とか言う隙を与えたりはしなかった。稔が彼女の意向を呑んだためだ。


 マスターで有ることは揺るがないが、少数精鋭を率いての追加ミッションは初めてだったから少し緊張した稔。でも、「やる時はやる」という精神を持って臨んだ。これまでのカロリーネ、アスモデウス、ペレ、爆弾魔の男――と、色々と戦いをしてきた彼が指揮を務める今、もはや戻る道は無い。


「掴まれ」


 時刻は一八時五四分、爆弾が爆発するまで残りは七分だ。テレポートをして時間を少なからず短縮するのは共通事項だが、そこから先は考えないで稔は言った。もう、時間が時間なので考えている余裕はない。誰がどの持ち場に就くかとか、そんなのは現地で考えればいいと思って行動を始める。



「――テレポート、このホテルの地下一階へ――」



 稔は言い、同時に執事やメイド達が休憩を取っていた部屋から人が消えた。寿司や味噌汁をはじめ、稔達が作った料理は残されたものもある。けれど、他人の物を手に取って口に運ぶ異常者はいなかった。非常時で有るまいし、さすがに同性でもそこはダメだと感じたのである。稔に関しては、同性ではなく異性だが。


 というか、そもそも餌付けに反応するような者は少数精鋭に居なかった。ラクトはアイスには目がないが、それは餌付けされるほどではない。加え、アイス以外には目を輝かせるほどではない。紫姫や稔に至っては普遍的な思考を持っての対処だったので、餌付けされないと確定づけていいだろう。




 テレポートした後。数秒経過しただけだったが、時計の長針が動いていた。でもそれは、地下一階に掛けられていた時計を見たからではない。端末に表示された時計がそうなっていた為だ。そもそも地下一階は倉庫であって時計が飾られているはずも無く、そうせざるを得なかった。


「ここは……」


 目に映る暗闇を前にして、稔は言葉を漏らした。


 もしここでバトルが起きようものなら、当事者たちは緊張を抱えながらの闘いになるだろう。もしそれが映像アニメ化されるのならば、月の光一つ入らない部屋を描くわけだから、アニメーター達がどれだけ嘆息を漏らし、目の前のディスプレイに毒突くのが目に浮かぶ。最悪、作画監督に冷罵する者も現れそうだ。


 稔はそんなことを考えていたが、表面上は至って真剣な表情をしていた。もっとも、心の中で自分が考え込んでいたからそうなったとも言えるが。


「なあ。貴台達、何かこの状態を打破する魔法は使用できな――」

「状態異常系の特別魔法を使えるのは、私しか居ないじゃないか! ここに居るのに目もくれないで、頼りもしないとは何事だ! 訴訟する! ――まあ、そんな状況じゃないけど」


 まるで独り言のようにラクトは言ったが、それは紫姫への怒りを込めた台詞だった。ツッコミであると同時に、抗議を示す台詞でも有ったのだ。もちろん精鋭部隊が崩壊しては大変なので、稔は抗議の言葉を伝え終わったラクトを拘束し、鎮まらせた。


「ラクト。状態異常なのかは分からないが、お前は――使えるか?」

「明かりを照らすのは、特別魔法じゃなくても存在するっての」

「そ、そうなの?」

「馬鹿だな」


 鎮まったラクトだが、やはり煽りの精神は忘れていないようだ。煽りというよりも嘲弄しているだけにも見えるが、根本に存在するのは揺るがない『煽り』の精神であろう。けれど稔は、その言葉で揺るいだりはしない。


「ラクト。そういう煽りは後にしてくれ。今は時間が無いんだ」

「はいはい。……んじゃ私も、ちょっと真面目な女子を演出しますかね」


 ラクトはそう言い、わずか三秒で手中に眼鏡を浮かばせた。その後すぐ、魔法の転用によって生み出されたそれを掛けると、下の縁を人差し指で上方向へと押した。稔に対して見せた『真面目な女子』の一面である。刹那、ラクトは目を瞑って言った。



「――輝照イルミネイト――」



 小さな声だったが、静けさに染まったその空間では容易に聞き取れた。同時に暗闇だったその場所は、ラクトの魔法で照らされることとなった。けれどそれは特別魔法ではない為、効果には制約があった。


「稔に言っておくけど、特別魔法じゃないから持続性は無いよ。五分だけ待ってやるから、その間に見つけなさいな。まあ、連続使用不可じゃないから気にする必要はないけど」

「そうか。……それはそうと、もう時間など無い。行動開始を宣言する」


 稔は格好つけて言うと、紫姫が一秒と満たないうちに銃弾を乱射し始める。ただそれは、序章にしか過ぎない。技が『紫蝶の五判決ベッシュ・バタフライジャッジ』の始めの一手であるため、用途的には間違っていないようにも見える。


「んじゃ俺も、ダンボールを破壊するか」


 稔は独り言としてそう言うと、即座に自らの特別魔法を使った。左右前後のありとあらゆる方向のダンボールを狙い、砲弾を撃つ。簡単にいえば『六方向砲弾アーティレリー・シックス』の特別魔法を使ったまでだ。液体すら弾く砲弾は、ダンボール程度簡単に破壊する。


「私は待機?」

「魔力消費したくないんだろ。過労しただろうし、少しくらいは休めっての」

「処理する制限時間はあと五分なのに、何が休めだ。ソファで寝ててもすぐに爆弾解除したくせに」

「お前が時間制限設けたからだろ! 四〇秒でどうしろってんだよ! そんな特異な技出来ないし!」


 もっともなことを言うラクトだが、稔は『集中している』という事で無視をした。彼の本心を覗いたラクトは深いため息をつくと、「この主人は――」とまた口に出そうとする。でも、自分の為を思って言ってくれている彼に感謝の気持ちも抱いていた。


「(こんなんじゃ、私が役立たずみたいじゃん……)」


 大切にされている事は理解した。でも、だからといって行動をせずに休んでいられるはずが無い。爆弾処理は危険を伴っているというのに、任せっきりで自分が休んでいていいのか――。そう思えば、半ば強制的に浮かび上がってくる。「役立たずにはならない行動をしろ」と。


 だが、そんな決意を固めた時だ。稔と紫姫によって破壊され尽くしたダンボールを目の前にして、指揮官である稔は衝撃の事実を口にした。導き出された結論を元に、彼は考察を述べた。残り一つの爆弾が爆発するまで残り三分となった、一八時五八分。真剣な表情で、稔は言う。


「爆弾は一階にあるはずだ。場所は分からないが、犯人の狙いがリートだとすれば――」


 地下二階の駐車場も爆弾設置場所として候補に挙がっていたが、紫姫の強い意見で否定された。警備員が居なければ閉鎖されるような空間に、二四時間開いているホテルに、犯人は駐車場へ侵入できるだろうか。加え、爆弾は金属で出来ている可能性が高い以上、茶色系の梱包材の中に入っている関連性が有る以上。バレないで通れるとは考え難い。


 そして、稔はこう続く。


「――場所は、パーティーが開かれるあの場所。俺らが設営した、あの場所だ」

「もし仮にそこに有ったとしたら、もう時間が……」

「ラクトが言ったんだろ、『強気で居ろ』って。言った本人が弱音を吐いてんじゃねえ、馬鹿」


 稔はラクトにそう告げると、ラクトに近づいて手を握った。紫姫には魂石の中に戻ってもらい、パーティー会場でまた出てくるように言おうとした。でも、体力を回復して欲しい思いが強くなり、会場での時限装置捜索と破壊は稔とラクトで受け持つことにした。


 紫姫が魂石に戻ると、稔は言葉を発さずにテレポートを行った。会場に乱入する形になるのは避けたかったが、事態が事態なので仕方ない。事情を説明すればリートも理解してくれると思い、後はどうでもいいと考えた。


 


 警備で何か言われることが無かったのは、会場に直接乱入してきたためだ。でも突如として入ってきた稔とラクトと面識がない輩は、驚いて声を上げる。それには警備員も反応しないわけがなく、扉を開けて入ろうとする。


 だが、そんな時にラクトは稔の行動のアシスタントとして行動を取った。手の届く位置に有った鍵を一時的に閉めたのである。そして稔は、会場で大きな声を発する。迷惑――と言われればそれまでだが、それは金持ちを思っての叫びだ。


「俺はテロリストではない! そして、落ち着いて聞いてくれ!」


 稔は、静まり返ったパーティー会場に大声を発した。時刻は一八時五九分だ。爆発が起こるまで二分しかない。ただ、緊迫した状況だという事実は変わらなかったから、金持ち達が対抗するように声を上げたために混乱を極めていく。


「聞いていられるか! 貴様みたいなテロリストも追い出せないとは、警備員は何をしているんだ!」

「そうよ! 私達を暗殺しに来たんだわ!」


 そうだそうだ、と相次いで稔へ飛んでくる罵詈雑言や非難、誹謗中傷の数々。しかし、リートがそれを止めた。このパーティーの主催者として、それが取るべき手段だと考えたためだ。


 そして唾を呑むと、稔は言い放った。


「――このパーティー会場に、爆弾が仕掛けられている可能性が有る」

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