↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
136/474

2-43 ADQと爆弾処理-Ⅹ

 稔が言ったと同じくして、会場全体がざわめいた。ただ、稔を非難したりした輩は簡単に信じたりするはずがない。それは金持ちとしてのプライド、財閥としてのプライド。そんなものが重なりあった結果だ。


 しかし、このパーティー会場には織桜が居る。ラシェルも居る。彼女らは、稔が爆弾処理を行っている事実を早くから知っていた者達だ。稔一人では金持ち達と対抗できない今、できる事は一つしかない。


「――王女陛下。あの者の言っていることは、全て事実に基いていることです。加え、あの者は『瞬時転移テレポート』なる特別魔法を使用可能です。陛下、それを使用して即刻退避しましょう」


 時間は迫る。二分を切って、もう一分二〇秒しか残り時間は無い。王国の未来のため、王女や財閥のトップには生きていて欲しい。そういう願いを力にして、織桜は言い放った。


「了解しました。――稔さん、王女より命令を課します。この会場からの退避を先導してください」


 リートはそんな織桜の思いを感じ取った。稔の顔に浮かぶ真剣な表情に、財閥のプライドで命を無くす訳にはいかない。だからこそ、そんな行動を取る者達を無視した発言をした。そんな発言がテレビ局のカメラに撮られようが、今は緊急事態。リートは自らに「国を動かす者なのだから」と言い聞かせ、その力を示した。


「ドアを開けろ、ラクト。そして、警備員を麻痺させるんだ。凍らせてもいい」

「でも、死んじゃ――」

「まあ、リートの指示だと言えば通してくれると思うが――」

「なら、その方向で行こうよ……」


 ラクトは悲しげな声でそう言ったが、主人から受けた依頼を断ることはしなかった。それに加え、心を読めるという優位点を活かして稔が出口から遠いところに居る人達をテレポートで運ぶ事を知ったので、ラクトの行動もそれを意識したものに変わる。


 ただ、もう時間はない。鍵を外し、ラクトは扉を開けてすぐに居た警備員に向かって言った。


「このパーティー会場の全ての出入口を開放してください。早く!」

「お、お前はテロリストでは無く――」

「そんなことを疑っている暇は無いんです! 早くしてください、早く!」


 ラクトは警備員に強く訴え、パーティー会場のドア全てを開放することを求めた。流石に一つだけじゃ捌き切れないと思ったからだ。ただラクトは、他に有ると知っていなかった。緊迫した状況の中、パーティー会場の大きさからして有るとしか思えなかった為に口から出ただけだ。


「(稔も、頼む……)」


 ラクトは、内心で吐き捨て叫ぶように言った。自らの主人が重要な役を買って出た今、それが仇となって返ってきたら溜まったものではない。だからこそラクトは、そうならないように祈る。


 一方の稔は、リートの指示でテレポートを使用しての退避誘導を行っていく。まずは国の象徴たるリートを運ぼうとしたが、稔は「しなくていい」と彼女に言われた。跳ね除けて避難させれば良かったのだが、稔にはそんなこと出来なかった。その理由は単純で、彼女の顔はとても真剣な表情だった為だ。


 とはいえ。避難をしないのであれば、自分の手伝いを買って出て欲しいわけだから、稔はテレポートをしながら聞く。時間は一秒も掛からないため、聞こえてくる単語を繋ぎ合わせれば意味が分かる。もっとも、稔も聞き取りやすいように言ったのだが。


「リート王女殿下は、魔法で何か出来ますか?」

「爆弾の光は私がなんとか出来ると思いますが、それでも吸収できる量は限られてきます」

「そうなのか……」


 稔は刻一刻と迫る制限時間を考える度、歯を食いしばって勢い良く鼻息を放出する。けれどリートも、そんな稔の考え込む姿を見て見捨てることが出来る者ではない。


「特別魔法では無いですが……」


 リートは小さく言い、自らの右手を照明に翳す。その刹那、内心で召使を呼んだ。


「キマイラ、稔さんの手伝いをしてください。貴方なら出来るでしょう、民を安全な場所へ運ぶことが」


 リートは笑みを見せ、キマイラの頭を撫でた。ふさふさとした毛を纏うキマイラだが、そいつには羽が生えている。彼女が「民を運べ」と命令したのが、それを使っての行動であることは間違いない。またそれと同じくして、彼女は右手を前に押し出して言い放った。



「――召使サーヴァント召喚カムオン――!」



 それは、リートと会った頃に見た獣――否、パンダに限りなく近い動物だった。もちろん、大きさ的にはそれほどではないのだが。そんな観察を行っていた稔だったが、そのパンダに限りなく近い動物が最初に稔が見た時と異なる形態へと変化したのを確認した。


「(スルト同様に、擬人化した……?)」


 そのパンダは、一瞬にして人型のフォルムへと変化した。パンダの時に身体が白かったからなのか、彼女の肌は色白だ。しかし、目には眼帯を付けている。加えて、指なしの手袋を装着していた。それらは、どちらとも黒色である。


「何の用でしょう?」

「キマイラにパーティー参加者を乗せてきます。なので、そのお手伝いをあの男性と――」

「ああ、あの方ですか」


 女体化しているらしく、特徴を見ようとすれば外見で見えなくもない。ただ、やはり召使は召使らしい。人間とは異なり、一瞬にして翼を生やしたのである。どうやら、このパンダを擬人化したショタ声の女性は、ありとあらゆるものに変化できる魔法が使えるらしい。


「稔さん、ですね。宜しくお願いします。またお会いしましたか。――と、そんなことはどうでもいいですね。はいはい、やりますよ」


 稔との会話を一方的に無視するような話し方で話を進めると、その女は綺麗な黒色の翼を使って会場を飛ぶ。だが、稔はその姿を見て思った。まるでGゴキブリだと。でも稔の優しさやマナー的なものが作用して、稔はそれを女に伝えなかった。でも、思うことはあった。


「(てか、名乗ってねえじゃん!)」


 ただ、気にしていては話が進むわけない。そのため、ショタ声女の話題は一時的に気にしないことにした。でも、彼女がキマイラが待機しているところへと富豪達を連れて行って騎乗させていくわけだから、目に留まらないはずがない。意識しないように心かける稔だが、どうしても名前が聞きたくなっていく。




 でも。気にしなければ、時はすぐに過ぎていく。僅か二分という時間しか無いわけだから、時間が過ぎていくのが遅いなんて事はない。経過する時間は同じなのだ。むしろ、急いで行動を取っていたから速いようにも感じるくらいである。


「稔さん! キマイラに乗せ終わりました!」

「乗せ終わったというより、騎乗上限ってことじゃないのか? ……まあいい。お前も早く出ろ」


 稔は、富豪達をテレポートさせて彼らの避難を終わらせる直前だったので、集中力が下がると思って神経を尖らせていた。故に、少々ばかしピリピリしていた。怒っていたわけではないのだが、ピリピリしていた。


「分かりました。ただ、リート様の命――あれ?」

「リートは俺が最後に運ぶ。だから、早く魔法陣の中へ戻れ」


 稔はそう指示を出すと、俊足の速さとかは無しにリートのもとへと辿り着いた。そして、騎乗した富豪達乗ったキマイラがパーティー会場から出るのを把握する。と同時、リートの手を握ってテレポートしようとした。けれど、リートに対して聞いておくことが有ると思い、稔は聞いた。


「リート。お前、爆弾の光を吸収できるんだよな?」

「はい」

「だったら、俺が張る透徹鏡壁(バリア)の外でそれを使ってくれ」

「分かりました。ただ、稔さんの命は――」

「俺の命なら大丈夫だ。一国の王に頼まれて総理に就任する事になった奴が、簡単に死んでたまるか」


 稔は笑みを浮かべると、リートの回答を求めないでテレポートをした。内心で言ったので、使用まで気付かれることは無い。そしてテレポートした後、稔は安全な場所だと言われた会場の外にリートを残し、ラクトが開けていたドアを完全に閉め終わったのを確認して、会場の中へ戻る前に言った。



「――跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド――」



 会場の中にはラクトが居る。だが、彼女の元へ稔はすぐに到達出来た。もちろん、テレポートしたのだ。というより、壁の中に入ろうとした時は破るか転移するかの二択しか無い。けれど、時間短縮は何もかもテレポートのおかげである。


「――現在時刻は?」

「一九時……四分……? え?」


 ドアを閉め終わったラクトが、稔の元へと駆け寄った刹那。稔は彼女に時刻を聞いた。静まり返り、透明な跳ね返しの壁に包まれたその会場。歩く時に抜き足差し足をしていては早急解除なんて不可能であるが、やはり最後の一つ(ラスト)だからか、緊張も大きい。


 けれど、一九時〇一分に爆破しないのは疑問だった。確かに明確な根拠無しで爆弾の在処を決めつけた以上、この場所に無いのではないかと思ってしまう。大騒ぎしただけで終わるんじゃないかとか、そんなふうに思い始めるのは普通かもしれない。


 でも。やり始めたら始末するまで、そう稔は強い意思を固めた。そんな時だ。


「ちょっ、紫姫――」


 稔の制止を振り切り、紫姫が石から飛び出して会場内の爆弾を捜索しだした。時限装置の破壊程度、自らでも可能であると考えた為の行動だった。稔は彼女を戦力として温存しておきたかったが、話を聞かないと思ったので止めなかった。他、彼女のやる気を犠牲にするのもどうかと思ったこともある。


「ラクト。爆弾って、テーブルの下に有るんだろうか?」

「テーブルの下は有り得そうだけど――」


 ラクトは言い、すぐ近くのテーブルの下を覗いてみた。会場全体を見回しても茶色いものはほぼ無く、ダンボールに近い色の存在も窺えない。だからこそのテーブルの下なのだが、木箱が無い上、茶色い物一つ無かった。


「デマなのか……」


 まだテーブルの下を全て見たわけではなかったが、稔の考えはその方面へ傾いていく。もちろん、そうなれば謝罪が必要だ。お金に関してはラクトがどうにかしてくれるだろうし、カロリーネの上に立つ悪のボスを倒した報酬として貰えるかもしれない。でもやはり、自分で解決したい気持ちが無くはない。


 稔の脳内にメイドらの顔が浮かぶ。それは、金で解決しようとしたラクトと同時に浮かんだ。だからこそ自分での解決を望む稔。一方でラクトは、頼られて嫌な気分はしない。故に、もっと頼って欲しかった。頼りないからこそ、頼って欲しかったのだ。




 デマだという解釈が本当だと成りつつあった、会場を隈無く捜索し始めて二分程度が経過した時。紫姫が一つの箱を見つけた。色はダンボールの色ではなく、ピンク色をしている。けれど紫姫は、それが怪しいと思って覗いた。ただ、中には何も入っていなかった。


「なっ――」


 紫姫が何も入っていない箱に釣られたと思った、その時だ。ピンク色をした箱が一瞬にして消えた。音声メッセージなどは無かったが、消え方はこれまでの六つの爆弾と等しい。


「これが、最後だったのか……?」


 紫姫がそう言い、消えた箱を持っていた手を下ろした。そして、その場で作業終了の喜びを感じれると思ったのだが――その矢先のことだ。終わった喜びに浸れないことを紫姫が即座に察する事態が発生した。


「嘘だ……」


 消えたと思った箱。しかし、そこには一人の少女が現れた。手に白色のバンダナを付け、碧色のロングヘアーの髪の毛をし、瞳を赤く染めた上でのマスク。そして極めつけにと言わんばかりの、背中に背負った巨大銃。体格的には人並みであろうが、その者の破壊力は大変だと言える。


「久しぶりですわね、バタフライさん」

「イステル、貴様……」


 紫姫は拳銃を構えようと考えた。しかし、至近距離での攻撃で勝つのはイステルだ。彼女は一度目を瞑って隙を作ったかと思うと、刹那、右手に弓を構えて矢を番う。そして、不吉な予感を匂わせる笑みを浮かばせると、イステルは言い放った。


「さあ、精霊戦争ばんさんかいを……始めましょう!」


 それと同じくして、矢を放つ。当然、紫姫は避けようとする。――が。


「残念――」


 完全に主導権をイステルに握られてしまった。なんと、糸を用いた魔法を使われたのである。即ち、それは拘束を意味し、紫姫は身動きが取れなくなった。『紫蝶の五判決ベッシュ・バタフライジャッジ』の最後の魔法を使おうとするも、それをしても無駄だと分かったので行動を取る気力を失う。


 だが。


「えっ――」

「そう簡単に、渡すかよ……」


 敵の陣営に渡すなんて言語道断だと、テレポートして稔が駆けつけた。右手に持つは紫色の光を発した剣だ。特別魔法でこれを用いることはそう無いが、この剣が刺さった時の威力は並大抵の剣よりも大きい。


「精霊と主人の愛、ですか。これはなかなか、素晴らしい物を見せてくださいますわ。でも――」

「稔、紫姫、危なっ――」


 構えていた弓矢を稔と紫姫に向けるイステル。弱いと言われる武器である弓矢だが、彼女の弓矢は弱いものではないことをラクトは内心を読んで知り、叫んだ。しかし、声が届いても行動は起こらない。


「逃げてええええ!」


 叫ぶラクト。同時、稔と紫姫はようやく動き出す。だがその密室空間で、誰かが叫んだからといって変わることはない。イステルが稔や紫姫を狙ったのは確かだが、彼女の矢が向けられたのはその方向ではないのだ。狙われたのは二つ、精霊と主人ともう一つだ。そのもう一つは――。


「消火……器……?」


 それは即座に噴射された。普通の矢なら硬い金属の容器の中にある薬剤まで到達することはなく、金属によって跳ね返される。けれど、イステルのそれは違った。なんと、金属を溶かす性質を持っていたのだ。当然、溶かされた金属からは薬剤が溢れ出してくる。


「やっべ……」


 室内に薬剤が充満してくるが、咳ごんだりはしないのは無毒であるからだ。かといって、多量に吸い込むのは禁物である。そんなことを、稔は消火器に書かれている取扱説明のところを思い出して確認した。


「(マスクはそのためか……)」


 稔がイステルの外見を再び確認する。彼女は余裕そうな表情をしていた。やはり、マスクの存在は大きいようだ。かといって、今からマスクを入手するにはラクトに頼らなければならない。でも、派手に動く以上は息も大量に吸ったり吐いたりするわけだから、マスクが有ると戦闘に支障が出るのは間違いない。


「バタフライさん? コンディションは最悪ですけど、如何でして?」

「貴様、なんてこと……」

「残りの消火器三つ、全て破壊させて頂いてよろしくて?」

「――」

「無回答はその方向で良いという風に受け止めますわよ?」


 イステルが煽るように紫姫へ色々と聞いていく。一方で紫姫は、そんなイステルに歯向かいたい気持ちで一杯だった。しかし、彼女には共闘する仲間がいる。紫姫はそんな仲間のことを考え、紫姫はイステルに頭を下げて言った。


「やめて……ください……」

「無理ですわ。貴方の話など、聞きませんわ!」


 笑みを浮かべるイステル。そして彼女は消火器を壊し壊して、また壊す。噴射された薬剤は多くのところに飛び散り、テーブルがピンク色に染まり始めたところもあった。雑巾で拭いても消えない濃さだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。