あとがき
ふと浮かんだ短編『愛してると笑う君へ、僕は死ねと囁いた』から生まれた『そして僕等は夜に溶ける』は、テーマを「情」として書いた作品です。
イメージカラーはもちろん「灰色」。この色は陰気で、希望がもてないことのたとえとして用いられますが、調和の色でもあることをご存知でしょうか。穏やかで控えめな雰囲気で周囲に溶け込む。そのくせはっきりしない部分がある。ここで主人公を連想して頂けたなら、最低限の表現はできたように思えます。
相変わらず携帯(Web)小説らしさがない私の作品の中でも、今回はとっつきにくさが各段にあったことは否めませんが、これほど書いていて楽しいものはなかった気がします。なにからなにまで新鮮なものとなりました。
いつもであれば思いつきから書き始めまで、最低限物語として動いていけるだけの骨組みを作っていたのですが、今回手元に残っているメモにあるのは、主要人物であるタクトと透、桜子の箇条書きな生立ちと、依頼の案がいくつか。あとは入れたいと思ったセリフがニ、三個。それだけです。
他は登場した人たちの名前を、それこそ登場させた後にメモしているだけでした。ほとんど見ることがなかったので、あとがきを書くにあたってひさしぶりに見返してみて、司の本名がフルネームで考えてあってびっくりしました。
こう並べると見切り発車じゃないかと突っ込まれるかもしれません。しかしながらこの作品に関しては否定させてもらいたい。所々で小さな矛盾がありそうなので、その点は反省すべきものですが、この話はタクトと透、桜子がいて事務所の扉が開いた時点で十分だったと思うのです。
探偵がいて依頼人がいて、なのに依頼を解決することに重きをおいていないという、私のどこかズレた部分が前面に出ているのはもう苦笑するとして、タクトが透明であり不透明であれたのはそんな作り方だったからこそだと考えています。
でなければ、司も麗華も生まれてなかったかもしれません。というか、最初に挙げた三人以外の全員が気付けばそこにいたというか。肉食系カップルは当然のこと横山とあそこまで仲良しになったり、綾乃が裏で動いたのだって私が一番びっくりしました。
内容はとてもとても明るいものじゃなかったというのに、だから書いていて楽しかったのでしょうね。爽快感もスリルもないけれど、ああ、私はそういった冒険劇よりも人間を書くのが好きなんだなあ……。そう気付かせてもらいました。
エンディングについては、いくつか案を並べて悩もうとは思ったのですが、やっぱり長編として書こうと思った瞬間に浮んでいたもののままでいくことに決めました。
一見ハッピーに感じられるかもしれません。考えた案の中では最もそうでしょう。ですが、私はハッピーエンドだったかと聞かれればたぶん首を傾げます。皆さんはどうでしょうか?
印象的だった人物やセリフも是非とも窺ってみたいです。
最後になりますが、この作品と出会って目を通してくれたことに感謝しつつ後書きとさせて頂きます。
ありがとうございました。
2013.5.7 Nerine




