かくして王都に鐘の鳴り
――同じころ違爵の家で
「お嬢様ァ。仕立て屋に来ていただくのはいつにしますか?そろそろ日付ぐらい決めませんと。」
久しぶりに帰った王都の邸宅でしばらくはゆっくり出来るだろうと背の高い椅子に座って足をぶらぶらさせて暇をつぶしていた令嬢に、侍女のマヘリアは呆れたように訪ねてきた。
「仕立て屋?なに?服でも作るの?ああそう言えばあなたの服が一着穴が開いてしまっていたわね。でも、まだ代わりはあるでしょう?」
不思議そうに首を傾げた令嬢に向かって侍女は分からず屋を前にして地団太を踏む子供のようにして切実に訴える。
「そうじゃなくって、お嬢様の服を作らないとじゃないですか。」
「……なぜ?」
それは全くの本心から出た短い疑問符だった。
そんな言葉を発した令嬢に対して侍女は侍女の身でありながらも化け物を見る様な目で怪訝に眉を顰めて思わず睨みつけてまでしてしまっていた。
「何故も何もないですよ。子爵様のおうちに誘われていたでしょう?」
「そんなこともあったわね。それが?」
「それがじゃなくて、お邪魔するときのための服が必要じゃないですか!?招待されることになったら。お嬢様の服、喪服しかないんですよ。」
「それで良いでしょう。私はいつもそれなんだから。」
「良いわけないですよ!折角、とのが……おほんおほん……友人としておきましょう。友達の家に行くのに喪服じゃ流石に失礼です。」
「別に良いと思うのだけれど……。」
まるで叱られた子供のように拗ねて令嬢はそっぽを向いてしまう。
そうしてぽつりと言う。
「喪中の女性だったら、友人宅にだって喪服でいくものでしょ。」
「ですけど~、それはそうですけど~。折角お誘いただいたんですよ?お相手のためにも服は用意した方が良いですって。」
「……。」
こうなると頑固な令嬢はうんともすんとも言わずに視線をそらしてしまう。
「もしかして、お誘いが本当に来ても断るつもりですか?やっぱり嫌だったりするんですか?」
「そんなことはないわ。」
「へえ。」
ちょっとだけ希望が見えて侍女はまるで出歯亀かのようににやにやとしてしまう。
そんな表情には全く気付いていないが令嬢も窓の外へと視線を向けながら少しだけ表情を緩める。
「本当にお誘いが来るならね。ちょっとだけ、ほんの少しだけだけど、お誘いが来るかどうか楽しみではあるのよ。」
令嬢が見つめる空はいつもの鬱蒼とした街の空とは違って、なぜだか妙に晴れ渡っていた。遠く雲が一筋と流れていき、どこかから飛んできた灰色の鳩が横切ってこちらを気にしたようにわずかに羽ばたき、それでもやはりすぐに天高くまで舞い上がっていくのが見えたのだった。
これで一章終了ですが
とりあえずこれで完結にしておきます




